【ハロウィンSS】悪魔と天使の狭間で②
それから純哉と愛梨の協力を得て、彼らには放課後に隣町まで天使の翼探しに向かってもらった。地元民である彼らの方が、コスプレグッズ的なものが売ってそうな店を知っていると判断したのだ。
愛梨を同行させたのは、変なちゃっちい翼を選ばせない為だ。愛梨のセンスなら、任せても良いだろう。コスプレ系の翼だからそれほど質は期待できないが、多少のちゃっちさなら、画像加工をして誤魔化せる。
凛には、その間にメイクを練習して欲しいと頼んだ。いつものメイクではなく、中性的な西欧人を彷彿とするような外国人風メイクだ。凛はもともと顔の作りが整っているので、きっと外国人風のメイクも似合う。俺の提案には驚いていたが、狙いを説明すると「なるほどね♪」と上機嫌で賛同してくれた。
俺はというと、ロケーション確保だ。玲華の写真はおそらくコスプレ用の撮影スタジオで撮られたものだった。都内はそういったコスプレイヤー向け撮影スタジオがたくさんあるが、生憎とこの田舎にはそういった場所はない。しかし、田舎には田舎にしかない武器がある。
俺は手あたり次第近くにあるカトリック系の教会を調べて、内装が良さげなところに片っ端から電話をかけていった。撮影の許可をもらえないかの確認である。都内であればレンタル料を要求されるが、田舎なら「すぐ終わるならいいですよ」と言ってくれる場合は結構多い。
そして狙いは違わず、一件OKをくれた教会があった。ステンドグラスがあって、良い感じの場所だ。ロケーションも確保した。
ちょうどそのタイミングで愛梨からLIMEが入った。『これ良い感じじゃない?』というメッセージと共に、天使の翼のコスプレ小道具の写真が送られてきたのだ。
それを見て、即決。値段も手ごろなのに、結構立派だ。不織布で作成られており、しかも3Dプリントなので翼がリアルなのだ。
(よし……駒は揃った)
玲華がお色気系で来るなら、凛はその逆だ。西欧の神話に出てくるような天使に模してしまえばいい。
それが俺の狙いだった。
◇◇◇
立会人として神父さんが見守る中、綺麗な教会での撮影が始まった。
天使に模した凛が現れた時は、息が詰まった。
あの夏に見た白いワンピースを着た凛が、天使の翼をつけて、教会の中に佇んでいる。その光景が、あまりに幻想的だった。
いつもと違って、今日の凛はアルビノ風のメイクとハーフメイクを混ぜていた。それによって、顔立ちが普段よりはっきりしていて、なおかつ幻想的なものとなっている。また、そのメイクは彼女のピンクベージュの髪をより際立たせていた。
また、顔や肌なども肌色というより白人の白い肌に近付けるようなファンデーションを塗っているようだ。これはアルビノ風メイクに近い。顔だけでなく見えるとこ全般を白くしている事もあって、その幻想さを際立たせていた。
見学に来ていた愛梨など「うぉ……」と感嘆の声を漏らしていたほどだ。それほどまでに、凛はどこか現実離れした姿になっていた。
そのまま、教会の色んな場所を使わせてもらって、写真を撮る。ファインダーから覗く世界はまるで異世界で、そこには教会で羽根を休める天使がいた。
カシャ、カシャ、とカメラのシャッター音だけが無音の教会に響いていた。
こうして写真を撮っていると、シャッターを押した瞬間に『これだ!』という一枚が撮れたのがわかる瞬間がある。それは奇跡の一瞬で、カメラはその奇跡の瞬間を切り取る事ができるのだ。
その一枚が、この日に撮れた。
それは、中央の祭壇で撮ったものだった。その瞬間だけ、夕日の角度が絶妙で、ステンドグラスを通して凛に降りかかっていたのだ。まるで、神がもたらした光が彼女に降り注いでいるようだった。
その一枚を撮った瞬間、それまでのすべてが無意味になる──それだけの破壊力のある写真が撮れたのが、わかった。隣で一眼レフのディスプレイを見ていた愛梨も息を飲んでいたほどだ。
「……凛」
俺は手招きして彼女を呼んでみせ、彼女にその一枚を見せた。
「え、うそ……これ、本当に私?」
凛が驚くのも無理はなかった。
ハーフ・アルビノ風のメイクの凛に、白いワンピースと白い翼、そして午後の夕日がステンドクラスを介して、彼女に降り注いでいた。
あまりに幻想的で、現実離れしたファンタジー世界を彷彿とさせる。
それを見た神父さんも「その写真はうちの教会で飾らせてもらえないかな?」などと割と本気で言っていたほど、その一枚はすさまじい力を放っていた。
この一枚が撮れた時点で、撮影は終わった。もうこれ以上のものは撮れない。そう確信したからだ。
◇◇◇
結論から言うと、ハロウィン当日に掲載された凛の天使様写真は、バズった。
絵画みたい、本物の天使みたい等と、またまた女性を中心にシェアされ、ウェブの話題をかっさらっていた。映画の公開が終わってからはインスタで細々と活動しているだけだった凛だが──と言っても、フォロワーは一万を超えているのだけれど──この日久々に注目を浴びたと言えよう。
これも俺の狙い通りだった。凛はもともと女性ファンが多いので、その女性が生理的に嫌がるもの──男に媚びるような、女を売りに出しているもの──を排除して、同性から評価が得られるような写真にしたのだ。即ち、幻想性や綺麗さを主軸として、不純さを感じさせないものだ。アルビノ風にしたところがこういったところで活きている。
芸能活動そのものをしていなくても、SNSで一発当てればそれだけで芸能活動そのものよりも拡散される事もある。SNSも使い方さえ上手くやれば、これだけで十分認知度を上げれてファン層を拡大できるのだな、と勉強になった。
もちろん、これは凛だけの力ではない。あのREIKAが『やるじゃん』と投稿にコメントした影響も大きいのだ。滅多に他人の投稿にコメントしないREIKAがコメントした、と話題になり、広がった。
ネットでは、玲華が先に悪魔のコスを上げたから凛がその対抗で天使にしたんじゃないか、などさまざまな憶測が交わされていたが、まああながち間違いではないよな、と思うのだった。
ちなみに、インスタでのいいねの数やコメントの数は、凛が玲華を上回る事となった。これで二人の勝敗がついたわけではないと思うが、フォロワー数では圧倒的に玲華より少ない凛が、投稿のみで玲華に勝ったというのはなかなかの大金星だったのではないか。ちなみに、この天使様投稿から凛のインスタのフォロワーも爆発的に増えたらしい。
当然、WEBでの拡散っぷりはリアルにも影響を及ぼすので、翌日凛の周りから人がいなくなる事はなかった。ただ、これはもう映画のキャストが発表された時以降からたびたびあった事だったので、今更驚く事ではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。