アフター⑤ Pretty Woman
※警告※
微妙に姉妹百合表現がございますので、苦手な方は回避を。
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「チェリーちゃんっ」
配信予定も無いある日、午前中に家事も終わらせたわたしはリビングで本を読んでいた。
例のヒトをダメにするビーズクッションに身を預け、ちゃぶ台にはスライスしたライムを浮かべたペリエ。
優雅なひと時……心はセレブ系であるわたしにぴったりの昼下りであった。
そんなわたしの静寂を切り裂くように姉さんが叫んだ。
姉さんは出かけてた筈なのにな。
有楽町にある洋食屋でランチをするのだと午前中からいなかったのに。
なので、
「なに? 何かあったの?」
「デートしよっ!」
なるほど、デートね。
うん、そういう時もあるよね。
わたし読書中なんだけど。
だから、
「姉さん、冷蔵庫にさっき作った梨のコンポートがあるよ。デザートに食べていいよ」
「あっ、うんっ! 食べる~!」
食べ物を与えて黙らせる、これだ。
残暑は厳しいけど今は一応秋。
昨日は姉さんも動画編集で部屋に籠りっきりで退屈だったわたしは、徒歩でのんびり青物横丁まで行き、適当にぶらぶらした後に、適当な喫茶店でお茶をして、その後久しぶりに(と言うか前世以来初?)パチンコ屋に入り、見たことも無い台に適当に座り、玉をジャブジャブ出して帰って来た。
と言うかわたしの前世より未来なのに、パチンコ屋は生き残ってるのが驚きだ!
その帰りにスーパーに寄ると、シーズンである梨が大安売りをしてた。
なんかこうエコバッグみたいのにぎっしり入ってて、それ丸ごとで千円。
わたしは梨のしゃりしゃり感と瑞々しさが大好きで、つい衝動買いしちゃった。
重たいからタクシーで帰って来たけど。
姉さんもご満悦で3個も食べてくれた。
けど果物の中でも特に足が速い(※傷みやすいの意)のが梨。
バッグの中にはまだ8つも残っている。
なので5つをコンポートに仕上げ、3個を梨ゼリーにしたんだね。
ワインとローズマリーをアクセントにしたコンポートは、一口サイズにカットして、梨ゼリーに混ぜ混ぜして大き目のガラスのバットに入れて冷蔵庫で冷やしてある。
季節の物を料理して頂く、わたしが前世で敬愛して止まなかった作家、池波正太郎先生の江戸文化への愛みたいな物で、旬を食らうってのはとても贅沢に感じる。
「はい、姉さん。お食べ」
「ん~~~っ! おいひぃ~~っ!!」
小鉢に山盛りにしたゼリーを姉さんの前に置いてやると、彼女はすぐさまスプーンを手にゼリーを口に運んだ。
そして目をギューっと瞑ると、頬に手をあて美味しさを全身で表した。
嗚呼、和む。このまま美味しい物を与え続けてまるまると太らせ、胸とウエストを同じサイズにしてやりたいほどに……。
「ハッ!? って違うよさくらちゃん、デートだよっ!」
「チッ……気づいたか」
「ふふん、私を食べ物でごまかせると思ったら大間違いだよ~?」
「おかわりいる?」
「いる~! って、違うのっ! デートするの!」
「はぁ……わかったけどさ、なんなの急に」
そして姉さんは勇ましく語り始めた。
曰く、有楽町で食事をした後、銀座を歩いてみた。
なるほど、いわゆる銀ブラだね。
姉さんに似合いそう。今日はシュッとした服だし。
七分丈の赤いスキニーにピンクのペディキュアが目立つグリーンのミュール。
ボーダーのハイネックに紺ブレ。
大き目の黒いキャスケットから覗くサイドに垂らした銀髪。
アクセントのふわっとゴージャスな金色のシュシュ。
お姉さまテイストな姉さん。
さぞ絵になった事だろう。
その銀ブラの最中に、若いカップルを見たという。
いや自分で言うのもアレだけど、わたしらも十分若いと思うんだけど。
姉さんは「昔なら行き遅れだよ。だからさくらちゃんに貰ってもらうしかないねっ」と力説するが、残念ながら現在の日本では同性婚は法律上認められていないし、なおかつ血のつながった姉妹ではなおさらアレなんだよ。
まあ、要はその初々しいカップルを見かけた姉さんは、それを羨ましいと思ったらしい。
それに安易に「んじゃ恋人でもつくんなよ」とは言わないけど。
言ったらこの世の終わりみたいな顔になるしね。
前に迂闊に言って雰囲気悪くなったからなあ……。
しかしデートか。
別に嫌だとは言わないけどさ。
けど考えてみると、北海道旅以降、姉さんの距離感は妙に近いし、どこか行くときも結構ついてくる。
その際に抵抗なく手を握ったりとかしてるし、これってもうデートみたいな物じゃないのかな?
前世の直人として考えてみる。
仕事がら、デートってのは割としていた。
例えば食い込んだ病院の院長なんかの娘さんとか。
付き合えとか婚約しろ的なアレではなく、娘と険悪になりがちな院長が、機嫌を取るためにデートをセッティングするのだ。
久しぶりに親子で食事をしようなんて約束を取り付け、急に患者が入った的な言い訳でエスケープ。
そこに事前に示し合わせていたわたしが、せっかくの予約だしお付き合いしますとか言って一緒に食事をする訳だ。
まあ営業のためにとにかく他人受けのいい見た目を心掛けていたから、娘たちは自分より少しだけ大人の小奇麗な男が自分のためにエスコートをしてくれる、それは自尊心を満たすらしい。
後は聞き上手を発動して、食事、その後どこかのバーなんかで時間を過ごし、幸せなキスもベッドも無く、きちんと送り届けて帰ってくる。
なんとなく高級ホストみたいだなとは思わなくもないけれど、それで仕事が円滑になるなら構わない。
何より、着飾った女性と、限られてはいても楽しい時間を過ごせるっていうのは、こっちにも損は無いのだし。
そういうのを考えると、別に恋愛未満であろうと、デートはデートだと思うのだ。
その基準に照らし合わせると、普段の姉さんとのお出かけは、大概それを満たしていると思われる。
こっちも別に嫌々ではないし、何より普段が子供っぽい彼女を引率している気分であり、謎の庇護欲が満たされわたしも楽しんでいたりする。
だからなおさら、何をいまさらという気分が否めない。うん。
すると姉さんが突然、悪魔の様な凄惨な笑みを浮かべた、あコレあかんやつだ。
「ふっふっふー。さくらちゃん、いやチェリーちゃん? 数回前の配信を覚えている~?」
「な、なんだっけ」
姉さんがヒマDモードに入った。
ニヤニヤしながらわたしを睨む。
なんなんだこの威圧感は。
わたしがチェリーになり切っている時は、絶対に逆らえない謎の迫力を感じるんだ……。
「げーむ」
「あっ……」
ゲーム……そう言えばあったな。
リスナーの誰かが「チェリーはゲームが苦手と言ってたけど、そんな素人でも出来るゲームがあって、ゲーム機を買わなくても、ネットのブラウザ上で出来るのがあるよ」と言う。
しかも無料だし、操作もマウスしか使わないシンプルやつだって。
それでヒマDと対決しようよみたいな。
そこで姉さんにサブPCを出してもらい、そのサイトを見てみた。
なるほど、森の中の野球場みたいなところで、世界的に有名なあのコミカルなクマがホームランダービーをするという内容。
ホームランダービーっていうのは、野球のオールスターゲームとかで、スター選手たちが10球で何回スタンドに入れられるかを競うエキシビジョンだね。
各チームの4番バッターが競うのだから盛り上がる。
前世でのわたしも野球は好きで、贔屓のチームの応援に、時間があれば広島まで遠征をしたものだ。
マエダ……また貴方に会いたいよ。あ、トモノリの方ね。ケンタの方じゃないよ。
まあそのゲームを姉さんとやった訳。
簡単だしね?
そしたらリスナーが、簡単だからこそグダる。
なら対決方式にしようと言い出した。
その時点でおかしいとは思ったんだよ……。
妙にリスナー達の連携が取れてるというか……。
まあ後になってネタバレされたけど、掲示板のチェリー専スレで、チェリーをはめようぜ! と結託していたらしい……。
何がってそのゲーム。
見た目のコミカルさに騙されるけど、難易度がとんでもなく高いんだ。
元々は世界中に世界一有名なテーマパークを展開しているあの会社が提供している訳だし、対象は子供だったのに。
ゲームの内容はクマがバッターで、8人いるピッチャーと対決する。
各ステージごとに何球のうち何本柵越えをするとクリアみたいな規定がある。
けどねえ……球が早かったり遅かったりだけじゃなく、突然内角をエグってきたり、大リーグボールみたいな謎の動きをしたり、あまつさえ消えたりするわけ。
頭おかしいんじゃない? 子供向けだよね?
そんなの器用な姉さんにかなう訳ないじゃん。
わたしはステージ3の豚に負けたさ。
なんなのコミカルな見た目の癖にエグい配球は……。
姉さんと言えばあっさりとステージ7のトラまで行き、そこでゲームオーバー。
負けず嫌いな所のある彼女は、その後数回チャレンジし、最終的にはプニキVSロビカスの熱いバトルを演じていた。
もう姉さんだけでいいんじゃないかな?
いつもの緩いキャラのまま、目だけは鷹の様な鋭さで。
わたしと言えば姉さんの後ろで不貞腐れてビール飲んでただけだもの。
問題は勝ち負けで言うとわたしが負けなんだけど、姉さんが「罰ゲームは私生活で使いたいなー?」とかいう訳。
それに対し、リスナー達も「どうぞどうぞ」的な。
要はその罰ゲームの権利をいま使うと姉さんは言うのだ。
「まあいいけどさ。わたし達ってデート的な日常を送ってない?」
「そ・れ・は、姉妹の許容範囲だよー?」
なんだこの迫力は?!
気が付くとわたしは、姉さんに壁に追いやられていた。
姉さんはちっちっちとアメリカ人みたいなリアクションをしながら不敵に笑う。
ねえ壁ドンのつもりかもだけど、如何せん小さいから子供が背伸びしているようにしか見えないよ?
「さくらちゃんには、男としてデートをしてもらいます!」
「はぁ……?」
「何その路傍の石を見る様な目は!」
「いや、そんな目にもなるでしょ。わたしは女として生きる為に必死なのに、中途半端に男のフリなんかしたら、台無しになるでしょう?! 口調とかおかしくなるよ!」
「だからこその罰ゲーム権なんだよ! 見たいーさくらちゃんのイケメン見たいー!」
「ええっ…………」
わたしは名伏し難い表情で固まる。
けど言い出したらきかないもんなあこのフリーダム姉。
わたしは頭を掻きながら、こういうしかなかった。
「わかったよ姉さん」ってね。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「お待たせ、ひまわり。待った?」
「………………」
「ひまわり?」
「……ひゃい」
「車に乗って?」
「う、うん…………」
約束の日、わたしは準備があるからと朝早くに部屋を出て、それを終わらせたのちに自宅マンションの前に車を横付けした。
午前11:00。エントランスの前にいてねと姉さんに伝え。
姉さんは淡い桃色で、足首近くまである、ふわっとフレアなロングワンピースに、かちっとした紺のジャケットを合わせ、首元は暖色のストールを巻き、髪はいつもの子供っぽさのあるツインテールではなく、ふわっとAラインにセットしてある。
全体的に硬めのガーリーな感じ。腰回りにはハイウエストな位置にベルトを巻いているから、背の小さい姉さんでも、きちんと身体のラインが強調されているから、着ぶくれして見えない。
姉さんも気合入ってるなあと感心しつつ、なぜか固まっている姉さんの手を取り、助手席へエスコート。
ドアを閉めた後も、無言のまま両ひざに手を置いた状態で、ちらちらこっちを見るも何も言わない。
緊張する間柄でもないだろうに。
「く、車、かっこいいねっ」
「そう? なら良かった。気に入って貰えて。姉さ、じゃなかったひまわりも可愛いよ、今日のコーデ」
「あひゃっ!? あ、ああありがとっ! さくらちゃんもカッコいいよっ!」
「う、うん、声おっきいね……とりあえず出すから」
「うひゃあんっ!? な、なにしてるの?!」
「なにってシートベルト締めないとダメでしょ。教習所でポカしたら見きわめ落ちるよ?」
「ふ、ふーん、し、締めるよっ!」
「いやもう締めたけど。じゃいこっか」
挙動不審すぎる。
シートベルトを締めてやった途端怯えた小動物みたいになってしまった。
まあいいか。
とりあえず車をマンションの上から白金方向に向かってぐるっと迂回するように山手通りまで。
そこから改めて第一京浜に合流して横浜方面へと向かう。
さて、デートをする事になったわたしたち。
とは言え、男性目線でデートをコーディネイトをしなさいという無茶ぶり。
確かにわたしはかつて男だった。
でもねえ色々ありすぎて、それは遠い昔の事に今は思えているんだよ。
女として生きる。それは割と大変で、普段の習慣にぎこちなさは未だにある。
だから過去に縋る余裕がない。
過去って所詮過去でしかないというか。
それ以上に前に進む事で精一杯。
そりゃそうだよ。
自分を生きるってのは、ある意味で一人の人間を常に演出し続ける事でもあるんだから。
人は他人がいないと生きられない。
仕事でも家族でも、友人でも。
どこかしらに他人に依存していて、そうなると他人からの自分を意識しなきゃいけない。
だからのほほーんと生きていても、それなりに考える事もやる事もたくさんあるのだ。
そこに過去の何かがあったとして、それに多くの時間を割くなんてできないでしょ。
いい意味でもわるい意味でも、日常に押し流されるというか。
なのでわたしにとって、確かに久慈直人は自分であっても、誤解を恐れずに言ってしまえば「自分の子供の頃はやんちゃしてたな~」くらいの遠い記憶って感覚なのさ。
それをほじくり返し、男性としてデートでエスコートをしろと。
姉さんよ、罰ゲームにしても大げさすぎやしませんか。
まあでも、さくらとなってしまった負い目も無きにしも非ず。
その罪滅ぼしじゃあないが、NEWさくらとしては、従来のさくら像にはなれない、その決別でもあり鎮魂歌を奏でる意味も込め、なら一度、思い出しながらにはなるが、本来の自分だったわたしを見せるのもアリかと、無理やり納得したのだ。
実際のデートだが、これはもう普段のわたしたちとなにが違うのと問えば、特に変わらないとなるだろう。
だってそうでしょ?
食事に行こうが買い物に行こうが、キャッキャしながら行くわけだし。
となるとわたしが男の様に振る舞うしか選択肢はない訳で。
考えていたらだんだんイライラしてきた。
なんでこんな事を悩まなければいいけないのか。
たかがブタに負けただけなのに。
しかもリスナーが姉さんに協力的だったのは、聞きたくなかったけど、チェリーヲチスレなる場所があり、とある身内によるリークでチェリーの私生活の一部が流れているそうな。
当然ヲチスレと専スレの住人はおおむね共通している。
まあ東京在住のリスナー住人による、わたしの目撃情報なんかも話題にのぼっているが。
要は時折掲示板に姉さんが匿名で降臨し、彼らに燃料を投下するのだ。
ステマの一環で、盛り上がっても炎上しても、結局はチェリーが頻繁に出る事で刷り込まれるという心理?
とは言え、姉さん本人は個人的に愉しんでいる様にしか見えないけどね……。
だからこのデート権を使い、わたしで遊ぶ気なのだ。こやつらは。
イライラしたわたしは悪くないと思う。
なので、そっちがそのつもりなら、こっちも本気を出すよ。
徹底的に男に徹して、ぐうの音も出ない程に返り討ちにしてやるんだ!
まあ、すっとぼけてはいたけれど、ボーイッシュどころか男装に近いコーデで統一したわたしに、姉さんは度肝を抜かれ赤面してるって訳。
ざまーみろ。
午前中に出かけていたのは、前世でも乗っていたアウディをレンタルしたのがひとつ。
利用したのは品川にある直営ディーラー。
レンタカーサービスもやってるからね。会員になれば使える。
借りたのはA8。前世で慣れ親しんだクーペに近いA6とは違い、こっちは大型セダン。
ピカピカのブラックなボディは、実際の大きさよりもシャープに見えて恰好いい。
後は銀座の某有名ブランドで購入した黒いパンツスーツ。
ボトムスはスリムで七分丈。
ジャケットは鋭角の襟が小さくシャープ。
フロントにボタンはなく、インナーを見せて着るタイプさ。
中はシンプルな白シャツで、足元は赤いエナメルのパンプス。
バッグはやはり某ブランドのアニマル柄の入ったレザーのトートにした。
スーツも繊維の細い光沢のあるやつだからカッコいい。
準備としてはこんな感じなんだけど、後は信号待ちのついでに、
「ひまわり。これをどうぞ」
「ん゛ん゛ん゛っ、あ、ありがとさくらちゃん……ど、どうして赤い薔薇なのかな? 一輪だし」
「ん? ああ、一輪の場合、花言葉は”あなたしかいません”って意味なんだって。わたし達にはお似合いでしょ?」
「ん゛ん゛っ、そ、そうだね」
「喉大丈夫?」
「だ、大丈夫さ……!」
銀座の花屋でリボンやお洒落な包装紙でデコレートされた薔薇を渡すと、姉さんの目が泳ぎ出した。
面白い。
いつもわたしをハメてるのだ、いい気味だよ。
キザに決めてるのは姉さんを追い込むため。
でもファーストネーム呼びは姉さんのリクエストだからね。
自業自得だよ。
なんでも、罰ゲームだから縛りが必要だとか。
なので姉さん呼びはダメ! と熱弁してた。
わたしたちは目的地である横浜に到着し、定番デートスポットを流していく。
中華街でランチをし、ワールドポーターズでショッピング。
最後はみなとみらいに行き、中を散策しながら寄り道を繰り返して夜を待ち、赤レンガ倉庫にある、ジャズを聴きながらフレンチ系の食事を楽しめるレストランでディナーを摂った。
そして満足げな姉さんの手を取って食後の散歩と洒落込む。
ついた先は国際客船ターミナル。
見晴らしのいい桟橋の柵に寄りかかり、2人で水面に写る夜景を眺めた。
「綺麗、だねえ……」
流石に一日デートをしたせいか、慣れたらしい姉さんが呟く
そりゃ綺麗さ。ここはそういう場所だもの。
「ねえさくらちゃん」
「んー?」
「車なのにお酒飲んでもいいの? 代行使うの?」
柵に頬杖をついたまま、顔だけをこちらに向ける姉さん。
まあお酒も飲まずにああいう店なんて選べないよね。
わたしはワインを少々と、食後にジン系のカクテルを数杯飲んでいる。
ふふん、姉さん。
デートがもう終わったと油断しているね?
甘い、甘いよ姉さん。
そこは抜かりないんだよ?
わたしはいきなり姉さんの肩を抱き寄せた。
「ひゃっ、さ、さくらちゃん、ば、罰ゲームは終わったよ……? か、顔が近いかなって……」
無視。
シリアスな表情のまま、姉さんの頤を指先でくいっと持ち上げる。
「ひまわり、横浜ベイの夜景が一望できる部屋、取ってるんだ」
「あっ、えっ、ちょ、さく……
「ほら逃げないでよ。こっちを見て。今夜、帰す気なんか最初からないから」
「うわぁ……うわあ!? さささくらちゃんっ!? だ、ダメだよぉ私、まだ心の準備ががが……」
ボフンと音がして顔を紅潮させた姉さんがポンコツと化した。
勝ったね。完全勝利。いわゆるパーフェクトゲームだね!
そうしてわたしは宣言通り、ホテルの部屋にエスコートし、一夜を共にしたのである。
とは言え、取った部屋はツインであり、同衾などしなかった。
姉さんは地団太を踏みながら、ムー! と口を尖らせていたけど。
悪いけどそれも含めての意趣返しなの。
はー、変な感覚だけど、慣れない事はするもんじゃあないね。
改めて自分は女なのだと思い知らされたよ。
とは言え、それも含めて自分なんだとも感じたのは事実ではあるにせよ。
ま、姉さんも楽しんでくれたようだし、大団円ってことでひとつ。
これで掲示板へのリークもできないだろうさ。
ふっふっふ……。
と、この時点でのわたしは勝ち誇っていた。
しかしわたしは忘れていた。
ヒマDモードの彼女は、職業意識が高いことを。
姉さん……ほんと、そういうとこだよ……。
ごく近い未来のわたしは、そんなセリフを吐いたのである。
誰が言ったか姉より優れた妹はいない。
つまりはそういう事であるという教訓を、わたしは改めて知ったのである。
姉さんのばーか
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