第2話 グリン・ゲイブルス―Iwon't forget―

マリラは昼食を済ますと、マシュウに尋ねました。

「今日の午後、馬車を使っていいでしょうね?」

マシュウは頷きます。そして、アンの方を愛おしそうに見やりました。

マリラは呆れた顔できっぱりと、言うのです。


「私はアンを連れてスペンサーの奥さんに、

 あの子を孤児院へ返す手続きのお願いをしてきますよ。

 兄さんのお茶の用意はしておきますからね」


マシュウは黙り込んだままです。

マリラは話し損をしたと思いました。


やがて出かける時間になると、

マシュウは馬車に栗毛の牝馬めすうまを付け、

マリラとアンが出ていくのを見送りに裏門へ出ました。


マリラは、馬にきつくひとむちくれたので、

雑で乱暴な扱いに慣れぬ牝馬は憤慨ふんがいし、

小径こみちをたいへん急いで駆け出しました。


マリラが少し気がかりで一度振り返ると、

マシュウが門によりかかり、寂しそうに

二人を見送っているのが目に移りました。


アンは途切れなくしゃべり、やめません。

マリラは、少し呆れて言いました。

「どうもあんたは余程喋りたいらしいから、

 いっそ、あんた自身の話をしたほうがいいよ」


「自分のことなんて…

 ちっとも話す値打ちがないんです」

アンは、熱心に言います。

「あんたの想像なんか聞き飽きたよ。

 ただありのままのことを言えばいいのさ。

 どこで生まれて、今いくつなの?」


アンは心が折れ、少しため息をついた。

「この三月で満十一になったのよ」と

語り始めます。


「生まれたところは、ノバスコシアの

 ボーリングブローグ。

 お父さんは、ウォルター・シャーリー、

 お母さんは、バーサ・シャーリーっていうの。

 ウォルターもバーサも、素敵な名前じゃない?

 二人ともボーリングブローグ中学校の先生だったの。

 でも、お母さんは結婚してから辞めたの。

 そして私が生まれたわ…

 私が生まれたとき、お母さんは私を

 美しいと思ったんですって。

 だから、わたし…うれしいのよ。

 でもお母さんは、わたしが生まれて

 三か月たったときに熱病にかかって…

 亡くなってしまったの!

 お父さんも四日後に亡くなったわ…


 そして私は、孤児になってしまったの。

 その頃でさえも、私を欲しがる人は

 だれもいなかったのよ…

 とうとうトマスのおばさまが、

 私を引き取って、牛乳で育ててくれたの。

 そして八歳になるまで一緒に暮らしたの。


 それからトマスさんが汽車から落ちて

 亡くなったから、トマスさんのお母さんが

 子供たちを引き取ろうと言ったのだけど…

 私を連れて行きたくなかったみたいなの。

 それで困ってたら、ハモンドのおばさん

 …あ、川上に住んでるの。

 引き取ろうって、言ったのよ。


 そして二年以上、一緒に暮らしたけれど…

 ハモンドさんが亡くなられたから、

 ホープタウンの孤児院に

 行かなくてはならなくなったの…

 仕方なく引き取ったの。

 それで、スペンサーのおばさまが

 来なさるまで、四ヶ月もあそこにいたの」


はぁ、とアンはため息をつきます。

辛いようなアンの表情を見たマリラは、

話し掛けました。


➡次週に続く…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Anne―もしも私が― チョココ(#金・土曜更新っ子) @Katsura-teacher

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ