紳士?
「それなら、本当は何の為に、ここへ?」
「知りたいの? でも、それはボクの役じゃないよ!」
「やく?」
「――――ヘイケの役さ。頭の良い方が考えるのはトーゼンでしょ? ヘイケ、おしえてあげなよ! ボク忙しいんだから!」
ゲンジはわたしの頭上に視線を移した。
まさか。背筋が凍る。
心霊番組で背後を振り返る怖さが始めて理解出来た。
ゆっくりと、上半身を捻る。
おや、紳士かな? この世界ではまともな人という第一印象。スマートな皺ひとつないスーツに身を包んだ好青年が爽やかな笑みを浮かべていた。
長身で、細身。上から見下ろしているにも関わらず、嫌味がない。
「……ヘイケ?」
だが、待てど暮らせど視線が合わない。
ばっと勢いよく真下を向いたヘイケが、絞り出すような声を、けれどとてもイケボで小さく呟いた。
「や、やあ、葵ちゃん。こんばんは。良い、良い夜だね」
「……あ、はい。こんばんは」
「……怪我はない?」
「はぁ、お陰様で」
「それは、良かった。ところで僕はクリヤマについての情報を握っているんだ。どうかな、僕の、あの、家まで、来ませんか?」
ヘイケの表情は全く見えず、見えるのはつむじ。
どういう考えがあって誘われているのか不明。しばし考えようと無言でいると、どうとったのか、わたしの顔も見えていないヘイケは焦りだす。
「あ、な、何もしないよ! 本当だよ! 近頃は危険がたくさんだし、ほ、ほら、クナミハリィも怖かっただろう? 休んでほしくて。僕の家なら誰も来ないから」
「……キョーシーは、どうする気?」
「あ、彼?」長い清潔な手だけが動き、キョーシーを的確に指し示す「どうでも良いよ。放り投げて逃がしても、葵ちゃんが望むなら連れて行っても良い」
……おかしい人ばっかりだ。
「……キョーシーも一緒が良い」
わたしの発言にヘイケから一瞬歯軋りが聞こえたが、何事もないイケボが降ってくる。
「それでは、行こうか」
ぱっとその綺麗な顔を上げたヘイケは、やはりわたしと目線は交わさないまま、歩き出した。
「ゲンジ、そこの血塗れ、僕の家へ連れて来い」有無を言わさないビシッとした指示。それに抜けたような返事を返すゲンジ。
そして、わたしの方へ少し首をもたげると「彼は動けるまで時間がかかるから、葵ちゃんは僕と先に行こう」と柔らかく微笑む。
「……はい」
振り向けば、痛みからか解放からか気絶しているらしいキョーシー。それに苦戦しつつ包帯を駆使するゲンジ。
これは、本物のヘイケとゲンジではないかと若干の恐怖が浮かび上がる。
ただ、やはりどこかおかしい人たちには違いがなかった。
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