価値の重み②

 よくよく見れば、部屋の番号までは書かれていなかったが、一人暮らしの女性の部屋らしかった。

 それを裏付けるように、送られて来たクリヤマからのメッセージ。


「先日貸した服、出来れば返してくれ」


 思い返してみれば、クリヤマと飲んだカップ。クリヤマはバッグへ入れて出た気がする。

 悪寒が走る。が、例の土曜日まで明日に迫っていた。


「……怖くないのか、俺が」


 行きたいと言っていたお店はパンケーキ屋で、とても中年男一人で行くような場所ではなかった。わたしを誘ったのも頷ける。


 その帰りだった。公園で休もうと提案して来たクリヤマが、呟くように言ったのだ。


「何のことですか」


「解っているんだろう。今日は少し強張っている。俺があのマンションで、何をしたのか、聞かなくて良いのか」


「……何をしていても、わたしは、今も生きているから」


 わからない、といったようにクリヤマは首を傾げた。わたしは構わず続ける。


「だって、昨日すごく良いことがあったの。いつもは寄ってこない野良猫が撫でさせてくれたし、夜ご飯は好物のお寿司! あのとき死んでいたら、味わえなかった」


 しん、と人気のない小さな公園にクリヤマと向かい合う。


「生きていて良かった。ありがとう、クリヤマ」


「そうか」


 そっけない返事だったが、わたしはヒヨコの刷り込みのように、クリヤマを追った。



 そうして、数年後の今。わたしは裏社会に足を突っ込むかギリギリのラインに立っている。


  クリヤマを助けないくてはならない。それだけが行動力だった。

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