第6話:正しさの死

ものすごく善を説く男のユーレイがいた。

この世界、必要霊界グレイブタウン(墓地町)をより良くとか

皆が不快な思いをしないように過ごすにはどう在るべきかとか

穢れなき無垢な論説だったが、地に足着いてない現実には即していない理想論だった。

そしてさらに自分がいかに生前、善行を重ねて来たかの利己的な、事実とは異なる虚偽の自慢も挟んで来る。

でも皆、心に未練を抱え、成仏できずに

”ここ”に来てしまった人(ユーレイ)ばかり。

誰もその善も自慢も受け入れようとはしません。

受け入れる心の余裕はありません。

そんな思考力もありません。

なにせ体は既に死んでいて脳は無いのですから。

まして受け入れる心なんていったいどこに…?

そして暴力は振るわないまでも

ユーレイの疲れを知らない体を活かして

ブチキレて叫びまくる男。

管理統轄者のウィッチ主任がすぐさま駆けつけて

落ち着いていつものぶっきらぼうな話し方とは違う敬語で適切に言う。

「ここは霊界です。

霊になってしまっては生前の積み重ねはもはや関係ありません。

すべてリセットされています。

善行を為したとか既にある徳とかも何の意味もなしません。

現世のルールがそのまま通用する世界システムでもありません。

そしてなぜ、死後ここに来てしまったのか

具体的に原因がわからないような場合は

大概はあなた自身の心の問題です。

なんせ成仏できないのは未練のせいですから。

でももう遅いです。この必要霊界に収容されてしまった以上、

基本的に成仏は叶いません。

それにたとえ人間界を成仏せぬまま漂っていたとしても

成仏できる可能性は低いでしょう。

とにかく、すべて諦めてください。

人生、諦めが肝心です。まぁ、もう死んでますけどね」

それでも想いや怒りのやり場が無く、ウィッチ主任に食ってかかる善のユーレイ男。

主任は白い短い棒の先端に黄色い星の付いた杖を取り出し男に向かって振るいます。

すると、その先端の星から光の糸がひゅるひゅると伸びてユーレイ男の体をぐるぐる巻きにして強制拘束してしまいます。

「ユーレイの体では体温などは無いでしょうが、頭を冷やしてください」

こういった場合、本来、普通なら本人の気持ちをよく聞いて

共感するなり打開策や妥協点を探るなりして上手くして解決を図るものだが、

ここは霊界。既に終わった者たちの場所なのだ。

ウィッチ主任の対応はこの必要霊界の秩序を保つ上で正しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る