廃墟の裏であいましょう。
天乃日和子
第1話あめとばつ
わたしの短い人生はばつしかなかった。
どうきゅうせいの子を見るたび最初は
はがゆくて、にくくて、うらやましくてでも
すぐにその気持ちすら無くなった。
からっぽになってしまったのだ、カラカラと。
ニセモノのパパはわたしが居るとみんながイヤな気持ちになると言っていた。
ママも「あんたのせいでママが怒られた!
許さないよこっちに来なさい…!」
いつもみたいにたたかれたり、ふまれたりならがまんができた。でも今日はいつもとちがった。
包丁が出てきた。
包丁は怖い、少し刃に触れるだけで血が出る
「ゆめ、許さないよあんたのせいでママは殴られたんだ。ゆめ…」
ママの顔は笑っていなかった。
ニセモノのパパはめんどくせえと言いながらギィギィと古い階段を軋ませながら2階にあがった。
「あんたを産んでママは嫌なことばかりよ」
「ママはみんなに大切にされてきた、ママはみんなに愛されてきた。あんたがッ居るせいで…!」
ママはだんだんと早口になり包丁を振り回すようになった、息が荒い
「ママやめて!やめて!」
必死に狭い散らかった家の中を逃げ、落ちていたコンビニ弁当の蓋を踏みキュッと結ばれたゴミ袋の上に倒れ込んだ。
ママは私の足を力強く掴み爪が刺さり痛かった。
「コロス!」と何度も叫んだ。
その瞬間
玄関のチャイムがピンポンピンポンと鳴り響いた。
「声だすんじゃないよ」
母は私に包丁を向けながら睨んだ。
恐らく1分は音は鳴り続けた。
「すみませーん、横山さんすみませーんちょっと良いですか中国電力です、横山さーん?」
外からの声を聞きママは急いでパーカーを羽織り
玄関に向かった。
「はーい!」
さっきと違った高い声だ。
今しかないと思い急いで汚い部屋からウサギのまるちゃんを掴むと台所の勝手口から飛び出した
逃げないとしんじゃう、しんじゃう、追いつかれたら私もしんでしまう私は必死に走った
見つからないばしょ、見つからないみつからない…
走るうちにお化け工場についた、いつもなら入り口に鎖が巻かれ鍵が閉まって入れなくなっているのに今日は鎖は取り払われ鍵も開いていた。
古くて大きくて沢山草が茂っていて怖かったけど
雨も降り出し焦りも生まれてきた。
早くしないと見つかるかも…
息が切れてくるしくて、もうここしか無いと思った。
自分の背丈程ある雑草をわけながら進み
5分程歩いてやっといつも雑草の奥に見えていた
ドンとかまえたコンクリートの不気味な建物にたどりついた。建物の周りをそろりと歩きながら休める場所を探していたが
ふと入り口の門があいていたことを思い出した。
(誰かいるのかな…もし、誰かいたらごめんなさいしよう)
コンクリートの建物の窓には鍵がかかり、みつけた入口にも鍵がかかっている。
休める場所はないかとうろうろすると建物の隅にあった車庫のような建物はシャッターが半分空いたままだった。
雨は強くなり身体も冷えてきた。
我慢できずフラフラと車庫のような場所に入りぺたりと座った、着ている洋服がびしょ濡れで重い。
裸足で逃げ出したから足の裏がじんじんとして
つめたくて足のゆびがくっとかたくなる。
雑草の中を歩いた時や逃げるときにどこかで切ったのか
足は沢山傷ができて血があちこちから出ていた。
傷の存在にきずいたら急にズキズキと傷み始めた
傷を洗おうにも埃臭い建物の中には蛇口も何も無いしそっと片方づつ車庫のような場所から足を出し雨で血を洗い流した。
最初は車庫のような場所の奥の方にいたけど
暗く怖いし、外は雑草や木で覆われその向こうには建物があるしきっと誰にも見つからないだろうと
かすかにでも明るい入り口に移動した。
「あんたは生きてるだけで罪なんだ」
「お前がゴミだから罰を与えてるんだよ」
「やーい、貧乏人!お前が居ると教室がくさいからばつをあたえまーす!」
私にばつをあたえた人たちの事や言葉があたまにうかんでは消えた。
ばつってなんだろう。
たくちゃんもばつを受けたから死んだのかな。
廃墟の裏であいましょう。 天乃日和子 @hiyokopanda
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