#16バイオリンが鳴らない⁉︎事件

 僕が今いるのはクラシックコンサート会場にある部屋のひとつだ。


 コンサート終了後に起きた窃盗事件の通報を受けて来たのだ。


 目の前には一人の男性が座っている。


 テーブルには彼が盗んだと思われるバイオリンケースが置かれていた。


「えっと勝木カツキ瀬党セットさん。バイオリンが盗まれた部屋から貴方が出てきたところを目撃した人がいるんです」


「俺は何も知らない」


 駆けつけてからずっとこの繰り返しだ。


「これが盗まれたバイオリンだって証拠あんのかよ」


 困った事に盗まれたというはっきりとした証拠がないのが事実だった。


 被害者提琴テイキン素志也ソシヤさんは犯人を見た可能性が高い。


 しかし殴打されたせいで今も意識不明の為、話を聞く事ができない状態だった。


「証拠がないなら俺は帰らせてもらうぜ」


 立ち上がろうとする勝木瀬党を止めようとするも、これ以上は引き止められそうもなかった。


 そんな時背後の扉が開いた。入って来たのは……。


「コーくん。お取り込み中みたいね」


「か、母さん⁉︎ どうしたのその格好?」


 今日は滅多に見ないよそ行きのワンピース姿だ。


「友達と一緒にコンサート見に来たの。そしたら窃盗騒ぎがあったって聞いたから見に来たのよ」


 母さんは飴を舐めるとテーブルの上のバイオリンに近づいていく。


「これが盗まれたバイオリンかしら?」


「容疑者は認めてないんだ」


 僕は小声で伝えた。


「そう」


 母さんはケースを開いて中を見ると何を思ったか容疑者に対してこんな事を言った。


「あの、一曲弾いてもらってもいいですか?」


「それで無罪が証明されるのかよ」


「弾く事ができれば無罪が証明されるわ」


「ちょっと母さん。勝手に」


 僕が声をかけると母さんは声を出さずに『任せて』と口を動かした。


「分かった。勝木さん。弾いてもらってもいいですか?」


 勝木瀬党は立ち上がると、バイオリンを顎に当て弓を弦に当てるも……何の音も出なかった。


 勝木瀬党と僕が唖然とする中、母さんだけは笑顔で胸の前で手を叩く。


「やっぱり。コーくん。そのバイオリンは盗まれた物よ」


 問い、どうして盗まれたバイオリンだと分かったのでしょうか?


 お

 母

 さ

 ん

 の

 推

 理

 は

 こ

 ち

 ら

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓


 答え、バイオリンの弓の毛には松脂をつけないと音が鳴らないの。

 自分のバイオリンの状態を把握してないなんておかしくないかしら。


 それじゃあまた次の謎解きで会いましょうね。

 バイバ〜イ。

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