#15忘れられた傘事件
早朝六時。ダンディな紳士
目的地は人里離れた別荘だ。
到着した伊太郎は玄関に濡れた傘を置いてから手袋をして、早朝の訪問者に憤る一人暮らしの父親に向けてピストルを発砲した。
死んだ父親の右手にピストルを握らせ、テーブルには用意しておいた遺書を置いて自殺を偽装し、自分がいた痕跡が残っていない事を確認する。
一時間後、外に出ると天気は一転して快晴。まるで祝福するような日差しに気分を良くし、殺人を侵したにも関わらず晴々とした気分で現場を後にした。
翌日。伊太郎は再び別荘へ向かっていた。彼の予測通り警察から通報があったからだ。
自分の父親が殺されたのだから息子に連絡が行くのは当たり前。逮捕されるわけではない。
伊太郎は父親の死が信じられない息子を演じながら警察車両が止まる別荘の中に入る。
死んだ父親の周りを囲む鑑識や制服警官に、スーツを着た私服警官と、まるで刑事ドラマで見たような光景の中異彩を放つ人物がいた。
「コーくん。この後雨が降るって言ってたから傘持ってきたわよ」
両手に傘を持った女性は私服警官の男性に右手の傘を手渡す。まるで息子を世話する母親のようだ。
「失礼。
傘を受け取った私服警官が頭を下げる。
「ほら母さん離れて……ご足労いただきありがとうございます。亡くなったのは猪為郎さんで間違いありませんか」
傘を持って来た母親は伊太郎に会釈すると、飴を口に含んで部屋を見渡しながら玄関の方へ歩き去った。
「はい。間違いありません。不治の病なのは知ってましたが、まさか自殺するなんて……」
「昨日の朝六時から七時頃、猪為郎さんは用意しておいたピストルで自殺したようです。遺書には自らの病を苦にして自ら命を絶った事が書いてありました」
「そんな……自殺する前に一言相談してくれればいいのに」
伊太郎は泣いた演技をしながら、心中で自分の犯罪の完璧さに笑いを堪えるのが大変だった。
水を指したのは後ろからの女性の声だった。
「コーくん。これは自殺じゃないわ。殺人事件よ」
振り向くと息子に傘を渡した母親が新たな傘を持っている。それは父を殺害した日に置き忘れていた伊太郎の傘だ。
「母さん。その傘は?」
「玄関の傘立てに置いてあったの。昨日来た人が起き忘れたんじゃないかしら。ね、伊太郎さん」
名前を呼ばれて心臓が飛び跳ねる。
「私は昨日ここに来ていません。それとも傘が私のだという証拠があるとでも」
「この傘が濡れているのが何よりの証拠です」
問い、母さんは何故殺人事件だと分かったのでしょうか?
お
母
さ
ん
の
推
理
が
こ
ち
ら
↓
↓
↓
↓
↓
答え、被害者が早朝の六時から七時の間に自殺したとしたのなら、濡れた傘が置いてあるのはおかしいわ。
だって雨が降っていたのは朝の六時から七時の間だけなんですから。
それじゃあまた次の謎解きで会いましょうね。バイバイ。
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