#10顔色信号事件

「私は何も見てないんです」


 買い物帰りのお母さんが事故現場に近づくと、ある女性の声を耳にした。


 そこは信号のない交差点で、数台のパトカーと何かにぶつかってフロントが凹んだ車が止まっている。


 車の前方には血溜まりができ、ここで何があったかを物語っていた。


 警官の一人と目があったので、お母さんは話しかけた。


「事故ですか?」


「はい。横断歩道を渡ろうとした女性がそこの車に轢かれました。

  女性は意識不明の重体でして、今運転手を特定しようと三人に話を聞いているところです。

 ただ運転手が誰か分からないのです」


 お母さんの事を知っている警官は彼女の助力を求めた。


「分かりました。三人の話しを聞かせてください」


「はい。じゃあまずは貴女から、すみませんがもう一度事故当時の事を話してください」


 警官に促されて、顔の赤い女性朱音アカネは泣きそうな声で話し始めた。


「私は後ろの席で眠っていたのですが、すごい音と衝撃で目が覚めました。前の二人が外に出たので、何事かと思いサイドブレーキを引いてから外に出たら、女の人が血を流して倒れて……」


 そこまで言ったところで泣き出してしまう。


 次は顔の青い落ち込んだ様子の青谷アオヤが証言する。


「朱音先輩は後部座席にいて、僕は助手席にいました。事故を起こした時、車を運転していたのは……黄戸先輩です」


 青谷に視線を向けられた黄色い顔の黄戸キドは何かに恐れた様子で口を開いた。


「う、運転していたのは青谷くんです。朱音さんは後部座席で寝ていて見ていませんでしたが、助手席の僕が言うんだから間違いありません」


 お母さんは飴を舐め自らの頬を指でトントンしながら三人の証言を聞いていた。


「これだけで誰が運転手か分かりますか? 私は男性二人のどちらかが嘘をついていると思うのですが」


 警官からの質問にお母さんは手を叩いて答える。


「謎は解けましたよ。本当の運転手は――」


 お母さんの推理は見事に当たり、運転手は逮捕された。


 問、運転手は誰でしょう?



 答

 え

 は

 こ

 の

 下

 に

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓



 答、運転手は朱音さんよ。彼女の顔が赤かったのは人を轢いてしまった事で感情が高ぶっていたからなの。

 それに本当に後部座席に座っていたのなら

『サイドブレーキを引いてから外に出た』

 なんて言わないわ。

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