第三章 俺は彼女を心から愛しているんだ 1

 スイーティオ・エレメントゥム・アメジシストは、王家の次男として生を受けた。

 七人兄弟に生まれたが、兄弟仲は良いほうだとスイーティオは思っていた。

 一番下の弟には、少し避けられているきらいはあったが、それでも良好だと思っていた。

 

 7つ年下の婚約者との仲も良好だと信じていた。

 婚約者である、公爵令嬢のレインは心の優しい子で、照れ屋で可愛らしい少女だった。

 

 レインを初めてみたとき、スイーティオは雷に打たれたのかと錯覚するほどの衝撃があった。

 ただ、仮面の乙女と呼ばれる公爵令嬢に興味があっただけだった。

 セレンに用事があると言って、屋敷に押し掛けたことがあった。

 その時に、セレンの目を盗んで屋敷を一人で見て回ったのだ。

 そして、偶然庭の東屋でうたた寝をしているレインを見たのだ。

 レインは、ピンクブロンドのサラサラの髪を風になびかせながら、こくりこくりと船を漕いでいた。

 そして、小さな声で苦しそうに言ったのだ。

 

「私が醜いから、迷惑かけて。ごめんなさい」

 

 そして、瞑っていた目尻からキラキラとした涙を流したのだ。

 スイーティオは、その涙がとても神聖なものに見えた。

 だからもっと近くでよく見たいと思ったのだ。

 

 うたた寝をする少女に気が付かれないようにと、足音を消してゆっくりと近づいた。

 

 近くで見た少女は、スイーティオの目にはとても歪に見えた・・・・・のだ。肌は、土気色でガサガサとしていた。豚のような鼻にエラの張った顎、異様に分厚い唇。

 お世辞にも美しい容姿ではなかったが、スイーティオにはその少女が運命の人なのだとすぐに分かったのだ。

 これは、仮面で顔を隠したくなるはずだと思いながらも、その少女の容姿には不可解な歪みがあった様に感じた。

 しかし、スイーティオはこれは恋のなせる業なのかと考えた。


(好いた相手がキラキラして見えるという、これが恋愛脳というやつなのか?)


 少しだけ、斜め上な思考で少女を見つめていると、少女が目を覚ましそうになっていた。

 このまま見ていたいような気もしたが、寝ている間に寝顔をジロジロ見る男など嫌われるに決まっていると考え直したスイーティオは、気が付かれないようにその場を即座に離れた。

 

 そして、未だに決まっていなかった自分の婚約者に彼女を望んだんのだ。

 

 婚約者となった後は、ウザがられない程度を見極めながらせっせとレインに会うために通った。

 本当は、お忍びデートやピクニックなどもしてみたかったスイーティオだったが、レインが容姿を気にして屋敷から出たがらなかったため、それは叶わなかった。

 そんなある日、スイーティオはレインに贈り物をしたいと考えた。

 指輪を送るのは、時期尚早だと思ったが、腕輪や髪飾りも何か違うと感じた。

 そこで、いつもレインに身に着けてもらえるものは何かと考えて仮面が頭に浮かんだ。

 

 スイーティオは、直ぐに腕のいい職人に相談して、美しい仮面を用意した。

 その仮面には、魔除けの効果のある素材を使い、レインの身を災厄から守れるようにと呪いも込めた会心の出来の贈り物だと意気揚々と、出来上がったプレゼントを持ってレインに会いに行った。

 

 贈り物の仮面を見たレインは、喜んでいたようにスイーティオには見えた。

 仮面でレインの表情は見えなかったが、微かに指が震えたのを見て、震えるほど喜んでくれたのだと、スイーティオは自分に「俺、グッジョブ!!」と自画自賛したのだった。

 

 しかし、運命はそんなスイーティオに試練を与えたのだ。

 

 何を言ってもスイーティオの言葉を信じずにいつまでも自分に自信のないレインにスイーティオは、つい言ってしまったのだ。

 

 突き放すように、低く冷たい声音で「もういい」と。

 

 気まずく思い、数日ほど会いに行くことが出来なかった。

 そうしている間に、事態は悪化していたのだ。

 いざ会いに行くと、なんだかんだと理由をつけて門前払いをされてしまったのだ。

 最初は、王家の権力を振りかざしてでも会いたいと思ったが、そうすると嫌われてしまうことは確実だったため、それをぐっと堪えていた。

 そんな事が、半年ほど続いたある日だった。

 

 レイスハイトから、レインについて大事な話があると呼び出されたのだ。

 執務室に向かうと、そこにはレイスハイトとカルテラル伯爵の姿があった。

 執務室のソファーに座ったスイーティオにレイスハイトは、落ち着くように釘を差してから説明しだした。

 

「スイーティオよ。今からとても大切な事を話すが、絶対に取り乱してはならんぞ。これは父との絶対絶対の超重要な約束だぞ?」

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