第三章 俺は彼女を心から愛しているんだ 2
「スイーティオよ。今からとても大切な事を話すが、絶対に取り乱してはならんぞ。これは父との絶対絶対の超重要な約束だぞ?」
「分かりました。父上とのヤクソクですね。分かりました。分かりました。俺はとても冷静ですよ?」
そう言って笑顔を見せたスイーティオは、表情こそ笑顔だったが、目は全然笑っていなかった。
スイーティオに疑わし気な視線を向けながらも、レイスハイトはモニョモニョと話し始めた。
「実はな……。イグニシス公爵が、アールスからここにいるエルンストに引き継がれたのだ。あぁ~。エルンストは、お前も知っているとは思うがアールスの弟でな。カルテラル伯爵家に婿に出ていたんだが、今回のことで、伯爵家を次男に継がせることにして、自身が公爵家をつg―――」
「で?公爵家が誰が継ごうとそれはどうでもいいです。それよりも、レインは?レンはどうしたんです?カルテラル伯爵が継ぐということは、今まで公爵だったアールス元公爵はどうしたんです?」
「あああ~。それがな……。おい、お前の兄がしたことだぞ。お前から説明してくれ!!」
「えっ!陛下それはないでしょう!!嫌ですよ!!王子殿下のあの顔見たでしょう。怖すぎて嫌ですよ」
「え~。俺だって息子のあの顔怖すぎて言いたくないもん」
「もんじゃありませんよ。陛下の息子でしょうが!!」
ドンッ!!!
レイスハイトとエルンストのやり取りに、いい加減に切れそうになっていたスイーティオは、テーブルを強打した。
強烈な音に、びっくっ!!と身を竦めた二人はお互いを肘で突きつつも最終的にはエルンストが説明することとなった。
青ざめた表情でエルンストは言った。
「殿下……。大変申し上げにくいのですが……。兄は、私に公爵家の引き継ぎをした後に……。家族揃って出奔しました」
ミシミシミシ……ガタン!!
スイーティオの握った拳の圧に耐えきれなくなったテーブルは、大きな音を立ててひび割れた後に真っ二つになった。
「今、何と?」
完全に光を失った暗い瞳で、怯えるレイスハイトとエルンストを見据えて静かすぎる声音で尋ねた。
怯えた二人は、丸で小動物のように身を寄せ合いふるふると震えていたが、スイーティオはそれを許さなかった。
「それで、今。何と言ったのですか?」
怯えきった二人は、互いの手を握りあって身を寄せ合いながら声を揃えていった。
「「異世界に出奔しました」」
「イセカイニシュッポン?」
何故か片言で繰り返したスイーティオに二人はただ、縦に首を振って肯定した。
それを見たスイーティオは、最初は下を向き、続いて上を見上げて絶叫した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!異世界だと!!!絶対に連れ戻すからな!!レーーーーーーン!!!」
こうして、この日からスイーティオは、レインの痕跡探しと称して公務の傍らイグニシス公爵家に入り浸り、時にはセレンの日記にあったレインの可愛らしいエピソードにほっこりし、時にはレインの自室でエアレインと会話をしたり、時には魔法使いたちに命じて異世界に行った方法を探させるという日々を送った。
そして、残っていたと言うよりも隠されていた資料と、掻き集めた情報からレインの逃げた座標は絞り込めたが、圧倒的に魔力が足りなかった。
だからスイーティオは、国を巻き込むことに決めた。
現在、国では将来起きるエネルギー不足について解決策を模索していた。
そこで、スイーティオはあることをもっともらしく行って、国をその気にさせた。
現在開発中のエネルギーだが、グレイスが抜けた穴を埋めることは大変で行き詰まっている。それなら、知恵を持つ人間を呼び寄せればいい。例えば、異世界とか。
ちょうどよく、グレイスが使ったと思われる術式が解明できたから、それを使えばうまくそういう人間を呼び出せそうだ、と。
それを聞いた、開発に関わる魔法使いたちや技術者は乗り気になったが、レイスハイトは息子の真意に気が付き背筋が凍りついたのだった。
(えっ!まさか、レインを呼び戻すために……。うっ、うちの息子ならやりかねない……)
こうして、異世界から
しかし、召喚は何度も失敗した。
数十人もの力のある魔法使いたちが、術に及んでいるのにも関わらず失敗が続いた。
何度も失敗を繰り返すうちに、次で最後にしよういう話が上がり、スイーティオは焦りが募った。
しかし、運命はスイーティオに味方したのだ。
今までは、術を施行してもマナは動く気配はあったが、ただそれだけだった。
だが、このときは違った。
偶然だったのだ、向こう側でも何らかの儀式的な要素が働きスイーティオの世界と、レインが逃げた先の世界が繋がったのだ。
向こう側に、愛しい少女の姿が見えた。
スイーティオには、すぐに分かった。たとえ成長していようとも、見間違うはずなんて無かった。
さらに、スイーティオは歓喜した。
レインが、スイーティオが贈った仮面を未だに捨てずに持っていた暮れたことに。
嬉しさに、スイーティオは自然と笑みを浮かべた。
そして、誰にも聞こえないほどの小さな声で言ったのだ。
「もう離さない」
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