第2話 風になったむすめ
プーカ島ではたくさんのふしぎが
島のものとうちとけ、夕食にまねかれておなかいっぱいになったあと、かれらが自然に語り出すのを
たとえばあるおばあさんはこんなふうに
「ざあざあびゅうびゅう楽しそうなことだよ。なに、風の話さ」
むかしからときどき、風の
ずいぶんむかし、この
朝いちばんに目をさますのがくいしんぼうの弟さ、お
学校へ行くときはおおさわぎさ。ちかくの子どもらが家の
学校ではいまでもおなじかね?
とにかくそのころは、「書きとり」「
姉は計算、妹は詩作が
その日、姉は父さんといっしょに
あんたのうちはむすめがいないと回らないねえと商人が言うと、父さんは姉の頭をじまんげになでながら、こいつにはずっと家にいてもらうから
みんな都会へわたるほうにあこがれたもんだよ。とくに、むすめっこたちはお屋敷で
姉は今年学校を
ほかの大家ぞくにくらべれば三人きょうだいというのはすくないけれど、そんでも小さな家はぎゅうぎゅうで、母さんはよく
だんろの上にかざられた母さんじまんのティーセットや、妹が詩作コンテストで
母さんは小さいけれど怒るとくまみたいなんだからね!
だんだんと雨風が強くなり、中からも外からも力をくわえられた家がキシキシ
そのせいもあって母さんはまだちょっとカッカしながら、妹に
妹がおとなしくうなずくと、母さんはいい話もきているんだよと、すこしきげんを
なんでも、コンテストの時に妹の詩をいたくほめてくれた都会のおじいさんが、ぜひにと言うらしいのさ。おじいさんは島の
せまいへやのせまいベッドにみんなでねころんで、その日は
びゅうびゅうがたがた家をゆらす風の
姉の中ではきょう一日のことがぐるぐるとめぐっていた。苦手な詩作の
頭の中にはなんにも出てこないんだからしょうがない。せんせいはなんて書いてほしいんだろうってそんなことばかり思うのさ。
それから商人と父さんの話。あぁずっとずっとこの家にいて、このまますごすのが正しいんだろう。なにもまちがっていない、いごこちがわるいわけでもないんだ。
じゃがいもを市場へはこぶ。
まどを
なんてこった、そう、体からたましいが
姉はあわてたが、そのまんま風にさらわれて家のそとへびゅうっ。まっくろな空、いなびかり、矢のような雨。
姉にはそのぜんぶが
はげしい
思うようにからだがうごく、高く低く飛んで
春をおわらせるこのあらしは、楽しくってどうにもたまらない雨と風と
ちぎれたはっぱや花びらが、
あぁどこまでも行ける。どこまでも行こう。
風に体がとけかけたとき、姉はふっと足もとをみた。
いつのまにか、自分の家の上へ戻ってきていたんだ。
今にも飛ばされてしまいそうな、ふるびた小さな家。その中でねむる父さん母さんきょうだいの顔を、見えないけれど思いうかべた。
おそるおそる目をあける。いつもの
姉はびっしょりあせをかいて
ぜんぶ
そんで朝、すっとんきょうな弟の声で家ぞくみんなが目をさました。
なぜかまどがあいていた。きのうのあらしがうそのような、おだやかな朝だ。
ぎゅうづめのはずのベッドにはなぜかよゆうがあって、そこにはいつもさいごまでねているはずの妹のすがたがなかった。
春のおわりのあらしは、呼びかけにこたえたものをつれていく。
姉はあらしの
妹も宙返りをしただろうか、飛び回ってそんで、家の上にもどってきただろうか。家ぞくの顔を思いうかべただろうか。
そんで、それでも、行ってしまおうと思ったんだろうか。
それから時がすぎても、やっぱり妹はかえってこなくて、弟は都会に出てそのままむこうで
わたしにはね、今でもあの子がどんなことを思って風と行っちまったのか、わからないんだよ。
あのとき行ってしまわなくてよかったとは思うよ。それでもね、ときどきはすこしうらやましい気がすることもあるんだ。
こんなあらしの夜には、つい思い出すのさ。
「長くなったねえ、お茶をもっとのむかい?」
そう言われたらお話はもうおしまいの
おばあさんになごりおしくわかれのあいさつをして、雨が強くならないうちに足早にかえることです。
あなたがほっとおちついてベッドの上で耳をすますころ、風は歌い、りゅうの子たちはおどるのでしょう。
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