第100話 対魔神死闘

 神々の作戦が開始されてから、半年が経った。向こうの時間で20日前後だろうか。このタイミングでエルスロームに穴が開いたと言う。何故?

 今のところ穴から悪魔は出てきていないと言う。逆にそれがおかしいのだ。出て来ないのなら穴を開ける必要がないからだ。

 穿った見方をすれば、誘い込もうとされているとも取れるのだが、今一つ説得力に欠ける。何が起きているのか、または何が起こるのか。

 相変わらず、エリセーヌは情報を寄越さない。

 そこにいるのに。

 そんな訳で自分の目で確認しに行く事にした。悪魔問題もそろそろお腹いっぱいなのだ。終わらせられるのであれば終わらせたい。

 城から、王都エルスの屋敷に【ゲート】で移動し、外に出た。街の外から火の手が上がっている。


 マサキは素早く大小を取り出し、腰に手挟むと、大門に向かって走った。嫌な予感しかしない。

 大門に着く前に装備の点検をした。全て最強装備だ。問題ない。

 そして、大門に辿り着くと、門は閉まっていたが、少しだけ開けてもらって街の外へ出た。

 そこには、4m位ありそうな人間の様な物が立っていた。

 手前には魔法師団の連中が倒れていた。まだ、立って戦っているのは・・・。我が教え子達だ。

「クレイブ。こいつがなんだか分かるか?」

「先生!神とか言ってました。」

「魔神だな。話が出来るのか?」

「いえ、この世界を我が物にするとか言ってて、いきなり攻撃してきたんですよ。」

「そうか、後は任せて、同僚を連れて街へ入ってろ。よく頑張ったな。」

「はい!先生!勝てますか?」

「いや・・・・・勝てぬ。だろうな。お前達が街へ逃げ込む時間位は作ってやる。全力で逃げろ!」

「はい!先生死なないで下さい!」

「(無理言うなぁ・・。)」


 マサキは、神を名乗ったと言う人間の様な物に向きあった。

 黒い肌に兜とフルプレートの様な鎧を着ている。なんて言うのだろう、ただそこにいるだけで、威圧感が半端ではない。クレイブ達はよく立って居られたと思う。

 マサキは、刀の鯉口を切り、一気に引き抜いて正眼に構えると、魔力を全力で開放した。魔力の奔流が渦を巻き、竜巻の様にマサキの周りをうねり上がって行く。同時に、刀に魔力を通し、まずは一合交わしてみようと、踏み出した。

 一気に懐に入ると、袈裟切り、右転左転と刀を振り切ってみたが、傷一つ付かない。魔神は腕を振り上げると、殆ど見えない速度で腕を振るった。

 辛うじて、刀で受ける事が出来たが、そのまま吹っ飛ばされ、街の外周壁に背中から叩きつけられた。

(いってぇ~。歯が立たないな、これは。どうしたものか。もう少し、方法を探ってみるか。)


 マサキは魔力弾を乱れ打ちにした。敵の体中に当てる事で、少しでも反応のあるところを探してみたのだ。だが、そこまで甘くない様だ。

 反応があるどころか、避けようと言う素振りも見えない。これは、全く効かないという事だな。直接魔法は効かないのなら、間接魔法でどうだろうかと、魔法で隕石を引っ張ってみた。人間の頭位のが落ちて来るはずだ。クレーターが出来て街に多少の被害が出ても仕方ないだろう。


 ボッコーンと言う盛大な音とともに、魔神の頭に直撃してそのままクレーターを作った。土煙で見えなかったが、クレーターの真ん中に開いた穴から魔神が立ち上がって出て来た。隕石が直撃しても平気とか、どんな無理ゲーだよ・・・。

(身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあるか・・・。)

『エリセーヌ。魔神が出た。エルスロームの王都だ。全く歯が立たん、後3分は持たせるから、なんとかしてくれ。』

『マサキさん逃げて下さい!』

 エリセーヌの悲鳴の様な声が聞こえたが、逃げられる訳がないのだ。

『エリセーヌ。俺の背中にエルスの街があるんだ。逃げる訳にはいかない。後は頼む。』

『マサキさん!』

 マサキは、大小両方を抜き、両刀に神力を通して二刀とした。神力と魔力、両方を全開放して、魔神に突っ込む。

 二刀流。言うのは簡単だが、二刀と言うのは非常に難しい。綺麗に型を作らないと自分の体を切ってしまうからだ。

 【加速アクセラレーション】【増幅ブースト】を自身に掛けて、残像が見えるほどの速度で切り込んだ。振り下ろされた魔神の右腕を左手の脇差で受け流しながら、懐に潜り込み、渾身の力を込めて大刀を振り切った。魔神の腹は切れた様だ。

 そして背中側に回り、脇差を背中に突き立てた。

 脇差が突き立ったところへ、【爆雷ライトニング】の魔法を残りの魔力を全て込めて発射した。

 天空から落ちて来る雷が爆撃の様に降り注ぎ、脇差を通して魔神の内側から焼き尽くす。魔神は体中から煙を出しながら、遂に倒れた。


 マサキは大きく息を吐いたが、神力を全力解放した事が良くなかった様だ。或は、3分経ってしまったのかもしれない。

 肉体の崩壊が始まってしまったのだ。

『エリセーヌ。魔神は倒した。が、俺の肉体も持たなかった様だ。崩壊が始まってしまった。約束、守れなくて済まないな。妻達に今までありがとうと伝えてくれ。指輪は、異空間に仕舞って措く。さらばだ。』

『マサキさん!マサキさん!』


 マサキはその場に胡坐を掻いて座ると、指輪を異空間に仕舞い、刀を立てて肩に当て寄り掛かって目を閉じた。

 思えば、向こうの世界では碌な事がなかった。自分も充分にロクデナシだったと思う。こちらの世界に来て、女達に恵まれた。それは、向こうでの不幸を取り返すかの様な幸せだった。ロクデナシなのは、変わらなかったと思うけど。

 だが、最後にその愛する妻達が暮らすこの世界を護れた事は誇って良いだろう。そして、満足だ。エリセーヌと一緒に暮らす事は適わなかったが、致し方ないと言うものだろう。小夜子がこっちに来るような事を言っていたが、先に死んでいたらまた失望させるのだろうか。男運のない女なのだなぁ。


 等と考えていたら、下半身から体の崩壊が進んできて、意識が途絶した。



 心地良い柔らかい風が頬を撫でる。辺りを見回すと、様々な色の花が咲き乱れ、凡そ人が暮らす場所とも思えない素敵な風景が広がっている。

 観光が目的で訪れた場所であれば、快適で心が安らぐ癒し空間であっただろう。

 あれ?このくだり覚えがあるような?

 振り向くと、ガリルの爺ちゃんが手を振っていた。卓袱台の前に座って。


「あれ?爺ちゃん。」

「ふぉっふぉ。マサキ君、ご苦労様だったのぅ。」

「なんで俺は神界に?消滅した筈では・・・?」

「魔神を始末してくれたんじゃ、そんなに簡単に消滅させられるものか。

それに、神々のあの馬鹿どもの所為で、しなくて良い苦労をさせてしまったの。

本来、この問題は異世界の神の愚行から始まった話で、全て神界で処理せねばならない問題だったのじゃ。それ故、マサキ君を関わらせる事は罷りならんと命令しておったのだが、結局始末しきれずマサキ君の手を煩わせ、絶対に勝てない筈の戦いを勝利で終えてくれたのじゃ、少しくらい役得があっても良かろう。本当に有難う。見事な始末の着け方じゃった。」

「そうですか、みんなは無事ですね?」

「誰一人死んではおらん。戦いの最後まで、マサキ君の教え子の・・・クレイブ君だったかのぅ。が見ていて、勝利を皆に報告しておったよ。」

「そうですか、疲れたなぁ。全然歯が立たない戦いだったんだけど、最後、全ての力を解放したらなんとかなりました。あれ以上は、なかったですね。」

「魔神とは言え、神だからの。それ故、マサキ君に神名を授ける。『正義の神、ジャスティー』じゃ。暫くは、半神半人で過ごすと良い。人界も神界を行き来自由だし、人として子もなせる。そして、エリセーヌを妻にする事も可能じゃ。天使達をみんな襲っても良いぞ。ご褒美じゃ。」

「俺みたいなロクデナシが神ですか。でもまあ、爺ちゃんの本当の孫になれたみたいで嬉しいですね。」

「そうか、そうか。」

「じゃ、人界に子作りと言う、お勤めをしに行ってきます。」

「うむ、やりたい様に、好きな様に、生きてくれれば良いからの。」

「はい!」


 マサキは再び、ガリル神に命をもらい妻達の元へと帰って行った。











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