第96話 魔界偵察

 城に戻ったマサキは、アリスとクレアを正座させた。

「お前達、大罪系悪魔は天使に毛が生えた程度だって言ってたよな!?」


「言ったよ。マー君なんでそんなに怒ってるの?」


「どこがだ、馬鹿野郎。滅茶苦茶強かったぞ!俺が勝てたのは運が良かっただけだ。爪と刀のリーチの差分勝っただけだぞ!?」


「え??マーちゃんそれ本当?」


「えっと、マー君何と戦ったの?」


「スペルビア。傲慢の悪魔だ。」


「それって大罪系の中でも最強なんだけど・・・。それでもそんなに強いってちょっとおかしいよ。私、エリちゃんに報告してくる。ちょっと考えないといけない、私達勝てない。」

 クレアが神界に帰って行った。


「想定外って事か?」


「うん、ちょっと有り得ない。マーちゃん超本気で戦った?」


「神力を使う程度には本気だったよ。それに、全てに勝てる力を付けたから出て来たと言っていた。」


「マーちゃんごめんね。大罪系を討伐したのマーちゃんが初めてだから、少し情報が古かったかもしれない。」


「まあ、いいさ。次は少し考えないとな。」


 実際、あんなに強いのが2体とかで来られたら勝てないし、対策と作戦は立てておかないといけないよなぁ。

 しっかしスペルビア、武人だったなぁ。悪魔が正々堂々戦うとは思ってもみなかった。それも傲慢故なのかなぁ。



 それにしたって強すぎだろう、勝負の天秤は何方に傾いてもおかしくなかった。魔法も実力が拮抗していただけに使う意味がなかったしな。今日の戦いで良く分かった、1対1の戦いでは最後は技が物を言う。魔法では発動までに一瞬のタイムラグがあるからだ。


 気になるのは、『力を付けた』と言っていた事だ。ここへきて急激に強くなる何かが魔界であったという事なのか、スペルビアだけが強くなったから我慢出来なくなって出て来ただけなのか。


 何れにしても、下級悪魔をちょろちょろと嫌がらせの様に顕現させていた頃とは状況が違う様だ。


 神界から何らかの情報が入る迄は、何を考えても無意味だろう。


 温泉に浸かり、頭を切り替えようとしても、なかなか考える事が止められなかった。追い詰められているのは、此方ではないかと言う状況を楽観視する事が出来なかったからだ。


 地上にいる敵ならば、情報を探る事も出来る。だが、魔界を覗く事も出来ない為、次にいつ、何人で、何処へと言うのが全く分からないと言うのは、想像を絶する重圧プレッシャーとなってマサキの肩にし掛かっていた。


(これは命を賭さねば、何も護れそうにないな。エリセーヌとの約束は果たせそうにないが、そこは勘弁してもらおう。後継問題もあるし、遺言状だけは作っておくか・・・。まあ、当分はスコットに代行してもらうか。)


 マサキは湯の中で思わず呟いた。

「準備は万全を期して来たつもりが、案外脆かったな・・・。そこが、俺の詰めの甘さなのだろうな。」


 マサキは、風呂から上がると自室に籠り、遺言状いごんじょうしたためた。

 それが終わると、静かに1人転移魔法を行使した。


 この日から、マサキの姿がプロミスから忽然と消え、何処にいるのか誰にも分らず、城内は騒然となった。




 マサキは帝国の戦場だった場所に立っていた。

 スペルビアが自分で閉めていた穴を見分する為だったが、魔力の流れを検証していた。無属性の魔法を行使して、穴だった場所をなぞると、穴が開いた。


 恐る恐る中を覗いて見ると、暗くて分からないので、思い切って入って見る事にした。入った後、穴はしっかり塞いで措いた。

 中は、薄暗い程度でちゃんと景色は見えるが、草一本生えていない荒地だった。


 魔力感知を最大にしたまま、高速で走る。

 兎に角何かしらの反応があるまで走る事にした。


 暫く走った時、反応があった。これは大罪系と同じくらい大きな反応だ。そちらの方向に走ってみた。暫くすると巨大な城の様な建物が見えた。


(ここが魔界・・・なのか?何もないな、地上に出たがる訳はこれなのか?)





 地上では、マサキが姿を消してから1カ月が経って居た。

 シャルロットは、夫たるマサキの行方を心配しながら、次はどこを探そうかと思案中であった。マサキの様にお風呂でも入りながら考えようと、露天風呂に向かった。

 服を脱ぎ、風呂に向かうと見慣れた頭が浮いていた。


「え?」


「ん?」


「旦那様。どうしてお風呂にいらっしゃるんですか?」


「3日も入ってなかったからな。取り敢えず風呂だろう?」


「この1カ月、何処に行ってらしたんですか?」


「1カ月?俺は3日しか空けていない筈だが?」


 と言うか言わない内に、シャルロットが裸のまま、マサキに飛び込んだ。マサキは、顔をおっぱいに挟まれて嬉しいのだが、呼吸が出来ずシャルロットの尻をピタンピタン叩く。


「あら、ごめんなさい。」


 マサキは、そんなシャルロットにキスをして、そのまま致してしまい、何とか誤魔化せないかと思案した。


「じゃ、俺は先に上がるから。」

と、立ち上がると、シャルロットに手を掴まれて引き戻された。

(誤魔化せなかったかぁ・・・。)


 と思ったが、「もう1回」とシャルロットに要求され2回戦。なんか誤魔化せた様だ。


 しかし、妻がシャルロットだけではない事をすっかり失念していたマサキは、嫁ズとカズキ、スコットにこってりと絞られてしまった。


 何時攻めて来られるか分からない状態で待つ危険を考えた時、こちらから攻めるオプションを作っておきたかったと言うのが、マサキの考えだった。

 流石に1人で悪魔を殲滅しようとまでは考えていなかったが、いつでも転移出来る様に、敵の拠点を調べに行っていたのだ。


 その辺を説明していたのだが、そこで分かった事がある。マサキ的には3日しか魔界には行っていない。しかし、地上では1カ月が経っていた。

 魔界の時間の流れが地上の1/10。つまり、地上の時間は魔界の10倍速という事になる。


 こうなると安易に攻めても行けない。時間的に浦島太郎状態になる可能性がある事もりながら、完全に次元が違う事が確定したからだ。


 1度、エリセーヌに相談してみようと思うのだった。


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