第95話 スペルビア

 湖の畔に赤龍が飛んで来た。

 彼が言うには、次元に裂け目が出来そうだから、各地を監視して来るとの事だ。

 俺はそんな空気感は感じないのだが、そういう所に特化した力があるのかな?出ないお化けを気にしても仕方ないので、赤龍から知らせがある迄は、普通に暮らすつもりだ。

 慌てても良い事なんて1つもないからね。


 まあ、普通に暮らすと言っても、最早やる事もないので、エッチしかしてない訳だが・・・。これで良いのか?

 駄目な国王の典型だよね。

 昼間から風呂場で女侍らせてさ、とっかえひっかえヤッちゃうなんて、どう見ても討伐対象だと思うのだが・・・。


 どこかに冒険に行こうとも思うのだが、冒険者ギルドでセリアを見るとムラムラ来てしまうのだ。

 もう猿ですね。


 そんな怠惰で爛れた生活をしていたのだが、魔界から穴が開いたとの知らせが、赤龍からもたらされたのは、赤龍が監視体制に入ってから3カ月目の事だった。


 場所は、帝国の帝都郊外約2kmの地点だそうだ。弥生と瀬奈を連れて飛空船で帝国に急行した。


 本気装備に大小を腰に手挟み、腰を振って落ち着けると、甲板から下を眺める。

 確かに穴が開いている、先に閉じたいところだけど、浄化でいけるだろうか。だが、それよりも魔界から穴が開けられる程の力を持つ者がいると考えなければならない。


 弥生と瀬奈は、船で待機させて飛び降りる事にした。


 1本~3本角がうようよいるな。これは2本までは任せられるが、3本からきついだろうなぁ。

 帝国兵が必死に抑え込んでいるが、崩されたら一気に街に入り込んでしまう。早めに片を付けないと大変な事になるな。


 帝国兵の前に着地すると、刀を居合抜きで一閃した。剣風を扇状に飛ばして下級悪魔の首を一気に20体程刎ねた。しかし、数が半端ではない、考えるのを止めて、刀に魔力を流し、踊る様にひたすら首を落として回る。


 下級悪魔を切り落として進み。中級上位まで出て来たところで、上級悪魔が出て来た。4本角だ。4本角が5体、背中に嫌な汗が流れる。

 大精霊達が出て来てくれた。

 1人1体を相手にしてくれたので、俺は1体に集中する事が出来た。だが、魔法に長けた悪魔の上位種だ、魔法の応酬が千日手になりかけた頃、一瞬の隙をついて懐に潜込み、一刀両断にした。


 首が転がって頭を潰し、大精霊達の支援に向かおうとした時、後ろから禍々しい強烈な気配が近付いてきた。


 振り向くと、5本角の巨大な悪魔が通って来た穴を自分で塞いでいた。5本角・・・。遂にか。

 大精霊達は精霊を呼び寄せて、集団で戦っているので大丈夫だと言う。俺は5本角に集中する事にした。


 静かに2人向かい合う。

「名前は?」


「我は、スペルビア。」


 5本角で名持ち・・・。しかも大罪系かよ。傲慢か。

「俺は、マサキ・タチバナ。お前を消滅させる男だ。覚える必要はない。」


「ふっ、我より傲慢ではないか。」


「なぜ、出て来た。魔界の田舎者はひっそりと暮らしていれば良かっただろうが。」


「何、簡単な事よ。我は、全てに打ち勝つ力を付けた。勝てると思えばこそ出て来たのだ。この世界を悪魔の楽園にする為にな、人間は全て奴隷よ。」


「所詮は、堕天使なのだろう?最初はだが。」


「よく知っているではないか。だが、天使の頃の力など、今の力からすれば赤子も同然。お前の魂はなかなか美味そうだ。じっくり殺してやる。」


 マサキは刀に魔力を流し、正眼に構えた。スペルビアを名乗る悪魔は、手の爪を伸ばし格闘の構えだ。

 それから、30分位だろうか、どちらも動けずにいた。お互いの力を計りかねていたのだ。

 呼吸を落ち着けて、ピタリと固まった構えはお互いに揺らぎもしない。正に達人同士の戦いであった。


 そこへ帝国兵の誰かがくしゃみをした。

 その一瞬にお互いが動き、生死の間仕切りで2合3合刀と爪で打ち合い。一旦間合いを開けた。

(アリスとクレアの野郎。どこが天使に毛が生えた程度だ。滅茶苦茶強いぞ、こいつ。)


 そして再び睨み合い。

 スペルビアも焦りを覚えていた。

(人間にこれ程強い奴がいるとは・・・。計算外だったわ。エルフを殺し尽くせば良いと思っていたが・・・。)


 ここで、マサキはエリセーヌの言葉を思い出す。

『マサキさん、神力は3分以上使ってはいけません。肉体がもたないからです。良いですか?絶対に3分迄ですよ?』


(まだ使えないな。均衡が崩れるまでは使えない。)


 アリスとクレアがいれば、まだやり様はあるのだが、他にも穴が開きそうな不穏な気配がある場所がある為に動けなかったのだ。


 マサキは正眼に構えた刀を左斜め下に地摺りに構え直し、瞼を半分閉じた。その時、今度は雨がポツっと落ちて来た。

 その雨が落ちた瞬間にお互いが生死の間合いを切った。


 スペルビアは、右斜め上から爪で切り裂く動作。マサキは左斜め下から、右斜め上に逆袈裟に切り上げた。


 マサキの左腕に爪痕が4本の線となっていた。スペルビアは左肩から腕が飛んでいた。

 ここで、マサキは躊躇なく魔力を抑えて、神力を刀に流し直した。


 振り向き様、右腕を振り下ろして来るスペルビアに対して、マサキは後の先を選んだ。振り下ろされる腕を見たマサキは、一気に左足を左前に踏み込み右から左へ刀を車輪に回した。


 手応え十分にスペルビアの胴を両断したマサキは、そのまま首に切り上げ、刎ねた。そして、頭に刀を刺し入れ神力を流し込んだ。


 スペルビアの頭は金色の粒子になって天に昇って行った。

 そこには、5本の角と大きな魔石が残されていた。



 マサキは神力を止めて、後ろを振り向き、兵士達に右手を挙げた。

 歓声が上がった。

 正に狂喜乱舞。


(みんな怖かったんだな、やっぱり。勇気あるなぁ。)

なんて事をマサキは思いながら、大精霊にキスをして中に戻ってもらった。


 悪魔達の死体は、全てを一カ所に集め、高温の炎で一気に燃やした。これで第一ラウンドが終了かな。


 疲れたマサキは船に戻り、風呂に入って弥生を抱きながら自分の城へと戻ったのである。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る