第91話 完全勝利
今日は、商業ギルドの男性陣の面接をギルド内で行っていた。強欲爺どもがいなくなったので、やりたい放題なのだ。
男性陣の話を聞いてみると、通産省の役人の様な仕事もしていた様で、割と技術にも明るい様だ。そこで、知的財産管理協会と言う組織を作ろうとしている事を話してみた。
賛成意見が多かった。これまで色々画期的なアイデアは見て来たのだけど、広まらないから値段が高く、普及しなかったんだと。
そういう事なら、再度登録してもらってロイヤリティをもらって、技術公開するのは、良い事だと理解している様だ。
この世界は機械化が進んでいない為、家内制手工業に毛が生えた程度の生産力なので、工房で技術を独占しても商品が普及しないのだ。
そして、競争原理が働かないから、値段も高いままで安定してしまう。普及に必要な用件を全く満たしていないのだ。
男性陣は、俺の街には、エルフもドワーフもいるぞと言ったら、目の色を変えていた。絶対に行きますと力強い返事をもらった。
後は、ギルドの土地・建物の権利の所在や、地方ギルドの事務所の権利などを確認して、一括で世界中の商業ギルドの土地・建物を購入した。
俺の財力も大した物だと思うのだ。世界中のギルド資産を買っても、鼻糞程度の金額に思えてしまうのだ。
これから、魔道具が普及すれば、魔石の値段が上がるだろう。そうなれば、益々稼げてしまうのである。冒険者を出来るのであれば……だが。
そう、メイド喫茶も腰元カフェも稼げなくて良いのだ。俺が楽しめれば。とんだ暴君になってしまったものである。
その後、エレンと男性職員の1人デビットソン君を連れて、【
これをするのに、結構時間を使ってしまい、5日も掛かってしまった。その間は、商業ギルドの業務を引き継ぐ形で進めていてもらった。流通を止めてはいけないのだ。サラビスにも怒られてしまうからね。
そして、遂に新組織としての業務を開始する事になったのだが、1度全員をプロミスへ集める必要があるのだが、1支部ごとにする事にした。1日くらい窓口休みでも良いよね?とほぼ無理矢理なのだが。
各支部ナンバー1美女受付嬢は、全員プロミス本部に配属としたので、後はどうでも良いと言えば良い。だが、新組織として業務形態が変わるので、その説明は必要だった。
新組織名は、商業工業ギルド。略して商工ギルド……、安直だけど良いだろうと思うのだ。商業ギルドで良いじゃねーかとは思っていたんだが、物を生み出すのは商業ではないと思い直したのだ。
それと、知的財産管理協会、略して知財協会。こっちの方が纏まった気がする。
商工ギルドは、商会登記・商標登録・預貯金・貸付が主な仕事。あと娼婦管理もあるのだけど、まだ発足はしていないので、割愛。
知財協会の主な仕事は、特許申請授受・特許発効年数管理・ロイヤリティ設定・技術管理が主な仕事。
商工ギルドに持ち込まれた商品の技術が、違反をしていないかのチェックと、希望するものに技術情報の閲覧許可を与え、使用を希望する者に、使用許可を与えロイヤリティを徴収する。
ロイヤリティの額は、特許出願時に予め決めておき、契約時に締結とした。
そんな業務の説明をして、質疑応答をして終了した。商業ギルド出身者は、みんな頭が良い様だ。理解力があって助かる。
こんな事を1日1支部と行って、全支部を終了した時に、各国王家に赴き知的財産権の法律を施行してもらった。
そして、マサキ・タチバナの名前で一斉に特許の出願をしたのである。飛空船と魔導列車はしていないのだけどね。
魔導列車については、各国王と協議の上で何某かの情報は出すつもりなのだが、国営とするのが、最適だろうと思うのだ。王家の収入にもなるしね。
こうして、商業ギルドは消滅し、新たに商工ギルドと知財協会が立ち上がったのである。正に完全勝利であった。
そんな知らせを、サラビスとコンスタンに持って行ったのだが、コンスタンに言われてしまった。
「正に電光石火だったねぇ。もっと陰険な戦いがあるかと思っていたけど、相手にならなかったようだね。」
「まあ、時勢を読めていなかった時点で、商人としては、終わっていたって事だと思うよ。」
「だけど、これで王国の経済ももっと良くなるね。」
「それは、間違いない。商業ギルドは、足枷にしかなっていなかったからね。今思えば、商業ギルドがと言うより、総ギルド長がって事だったけどね。」
「大きな混乱なく治めてくれたのは、有難いよ。」
「商業ギルドをごっそり買い取ったからね。人員もそのままスカウトしちゃったしね。俺の方も人材不足にならずに済んだよ。」
「そろそろ建国しても良いんじゃない?」
「あーうん。足りない物が多すぎて無理だな。司法、立法、行政、全てにおいて人材が足りないし、法律が出来てからでなくては、移民も募集出来ないしな。学校とか行政府とか入れ物だけは出来ているんだけどね。」
「もう、そんなに出来ているの?」
「うん、迎賓館もあるぞ?遊びにくるか?露天風呂付天然温泉かけ流し。娯楽室もあるし。シェフがいないんで、食事は美味いが質素だけどな。」
サラビスとコンスタンが顔を見合わせた。
「これは、非公式に1度訪問したいですね。」
「そうだな。マサキの作った街がどの様な街かは見てみたい。」
「じゃあさ、折角だから家族連れで遊びに来たら良い。奥方にも好評だと思うぞ。特に風呂とトイレが。遊びにも困らんから王子もアンソニーは、楽しめると思うぞ。」
「そんな事を言われたら、行きたくて仕方なくなってしまう。」
「もうさ、優秀な若い奴を育てて、いつでも外へ出られるようにしとけば良いじゃないか。オフォード家のジョージみたいな奴とか。」
コンスタンが嬉しそうだ。
「マサキ君もそう思う?彼は僕も良いと思っているんだ。」
「弟はアホだったけど、彼には世話になったし、判断も的確で早い。俺は好きだな、ああ言った人材は。政務官の中では突出してんじゃない?」
「そうなんだよ。でもね、領地持ちじゃないからって所で、周りが煩いんだよ。」
「空いてるじゃないか、セベインとかサンドルとかアクシアンだって、まだ決まってないんだろ?。」
「そうなんだけどねぇ。そうなると、王都にいられなくなるでしょ。」
「ん?大丈夫だと思うぜ?オフォードは親父がまだ全然元気だから、領地は親父が上手くやるだろ?中々の人物と見たが……?」
サラビスは腕を組んで考える。
「親父とも話した事があるのか?」
「ああ、弟が俺に喧嘩を売ってきたんで、買っても良いのか?と聞きに行ったんだよ。その時に話をしたんだけど、息子が駄目だと放逐する程度には、身内にも自分にも厳しい人物と見た。」
「ほほう。あの男は確かにやり手であったな。隠居するまで辣腕を揮っていた記憶がある。ただ、あの頃は、王国内も安定していて領地をやれるような場所がなかったと記憶している。先代王の時代だったからな。」
「恐らくジョージは、親父の良い所を見て育ったんだろうさ。親父の方にでも1度打診してみたら?」
「うむ、ジョージには私が話をしてみるから、親父の方はマサキが聞いて来てくれんか?マサキの目で見た率直な感想が欲しい。」
「別に構わねーけど、俺なんかで良いのか?」
コンスタンが言う。
「だから良いんだ。マサキ君の言う事だからと、信用しないようであれば、そこまでの人物だと言う事さ。」
「ああ、なるほど。承知した。で、領地はどこ?」
サラビスは試す様に言う。
「マサキはどこが良いと思う?」
「俺ならサンドル一択だな。アクシアンは当分王家直轄の方が良いと思うし、セベインとアクシアンの両方を監視出来るサンドルが1番良いと思う。」
「流石だな。俺もそう思う。」
「んじゃ、サンドルで話してくるよ?」
「ああ、頼む。」
マサキは、執務室を出ると王城の外へと向かった。この城でもミニスカメイド服が浸透してきた様だ。みんな襲いたくなってしまう。
今はお遣い中だから我慢だけどな!
王城の外へ出たマサキは、オフォード伯爵家に向かうのだった。門まで辿り着いた時、前にいた門番の顔を見ると、どうぞと案内してくれた。
玄関からは、執事に交代して、再びスペンサーの所へと案内してくれた。執事が緊張気味だったので、今日は変な話じゃないから心配するなと言っておいた。
部屋のドアをノックして、招き入れてくれ、一礼して執事が退出した。
スペンサーが背筋を伸ばして、頭を下げた。
「あ、いや。今日は苦情とかそんなんじゃないんだ。少し、話をさせてもらっても良いか?」
「はい。どう言ったお話でしょう。」
「うん、スペンサーは体はまだ頑丈か?」
「ええ、問題御座いません。」
「ならば、領地運営をしてみないか?」
「と、言いますと?」
「ジョージをな、能力に合ったポストに就けるべきだと、俺は思うんだ。で、問題になってくるのが、領地持ちかどうか。馬鹿げているがそうなんだろう?」
「ええ、領地が有る無いで、大分周りの口が煩くなりますね。」
「それでだ。サンドルをオフォード伯爵家に任せてしまえば良いじゃないか、と言う話になったんだが、ジョージは王都に置いておきたい。ならばスペンサーに領地で辣腕を揮ってもらえば良いじゃないかと言う話になったんだ。」
「それは、マサキ様が王にお話しを?」
「まあね。サラビスが簡単に国を空けられんと言うからさ、若い人材を育てて、1日2日いなくても良い様な体制を作れと言ったんだ。その時にジョージの名前を出したんだ。コンスタンもジョージの事はデキル男だと評価しているんだが、領地持ちじゃないと煩いんだと、言うからさ。3つも領地が空いているだろうと。そんな話をしたんだよ。」
「ジョージに務まるでしょうか……。」
「大丈夫さ。若いうちは失敗すれば良い。スペンサーは身内にも自分にも厳しい人間だと俺は見ている。そういう人物は領地を治める時、民衆の事を1番に考えると思うんだ。そんなスペンサーの姿をジョージに見せてやるのも、勉強だと思うんだがな。ジョージは親父の背中をよく見て育ったのが、良く分かる男だからな。」
「そこまで評価して下さいますか。」
「正直、サラビスも人材不足には、頭を悩ませていると思うんだ。隠居した忠臣を引っ張り出すのに抵抗もあるのだろう。だから、俺に聞いて来てくれだってさ。」
「マサキ様にそこまで言われたら、立たねばならんでしょう。サラビス王にも最後の御奉公、務めさせて頂きますとお伝えください。」
「流石。じゃあ、ちょっと若返っておこうか。両手を出してくれ。」
マサキは、スペンサーの両手を掴むと、魔力を循環させ始めた。そして、頃合いを見て、【
マサキは鏡を出して、スペンサーを映してやった。
スペンサーは目を見開いて、鏡を凝視していた。
「力と気力が漲って来ただろ?」
「ええ、なんと言うか、先代王に仕えていた時の様な気力が湧いてきます。」
「これで、何処も彼処も現役だからな。新しく嫁さんもらっても大丈夫だぞ。」
「これは、頑張らねばなりませんね。マサキ様のお慈悲に感謝申し上げます。」
「いやいや、スペンサーの様な辣腕親父が必要なんだ。この国にはね。だから、力の限り頑張って欲しい。ジョージの為にもね。」
「承知致しました。では、王の下へ登城致しますので、ご同行願えますか?」
「ああ、構わないさ。」
マサキは、スペンサーと連れ立って、王城へと向かった。当主ではないので、馬車は遠慮するんだと。活力の湧いてくる体を、試してみたい気持ちもあるのかもしれないな。
王城の門に着き、門衛に手を挙げて通過すると、玄関を入り、王の執務室へと案内した。
執務室へ入ると、サラビスが驚いた顔をしていた。
「マサキ。あれをやったのか?」
「ああ、老骨に鞭打つのは可哀相だろ?辣腕親父は気力の充実している方が恰好良いからな。」
スペンサーは、サラビスに頭を下げた。
「王よ。このスペンサー、最後の御奉公のつもりで精一杯務めさせて頂きます。」
「うむ。先代王の頃、辣腕を揮って大暴れしていた事をよく覚えている。隠居した家臣を引っ張り出すのは心苦しいが、また、力を貸して欲しい。」
「承知致しまして御座います。」
マサキはニヤニヤしながら言う。
「親父。良かったじゃないか、文字通り即戦力が手に入ったんだぜ?」
「しかし、お前の人を見る目には呆れるわ。ジョージとも話をしてみたが、聞けば2、3言葉を交わした程度だと言うではないか。だが、的確な評価だった。」
「言葉なんぞに大した意味はないぞ。身のこなし、表情、目の動き。見るべきところは沢山あるんだよ。」
「適わんな。」
「大丈夫さ。そのうち分かるはずだ。じゃ、詳細はスペンサーと詰めてくれ。俺はまだやる事があるから。」
そう言って、マサキは執務室を後にした。
コンスタンはクックと笑いながら言う。
「マサキ君には適いませんね。娘に聞いたんですが、ああやって人材を見付けて来ては、丸投げするそうですよ。俺は働きたくないんだーと言ってね。でも、気が付くといつも1番忙しいのが彼なんですって。」
「あやつは、1度に幾つもの事を考えているからな。手が回らないのは当たり前なのだ。だが、止められんのだろうな。天才ゆえの苦労なのだろう。」
スペンサーは、驚きながらも言う。
「本当に面白い御仁ですな。あらゆる事を考えながら話をするのに、嘘がない。怖いですな。嘘や誤魔化しが効きませんから。」
「やはり、そう見ますか。それが解る貴方も傑物ですよ。」
と嬉しそうにコンスタンが言った。
「いえいえ、私等、あの御仁に比べたら……。」
サラビスは何言ってんだと言う。
「あやつと比べたらいかんのだ。基準をあそこに置くと、苦しくなるだけだからな。あれは本当の意味での天才だ。」
「確かに、そうですね。勉強させてもらうのは良いですが、あそこに立とうと思ってはいけませんね。」
「そうなのだ。スペンサー、ジョージにもスペンサーにも期待している。私もスペンサーの辣腕ぶりは知っている。そして、マサキがデキル男と言ったのだ。何も心配はしていない。頑張って欲しい。」
「はい。力を尽くさせて頂きます。」
マサキは、城に帰って石鹸を作らないとなぁと思っていた。シャンプーとかリンスとか欲しいよねぇ、こんだけ女がいたら。
石鹸は、マルセイユ石鹸で良いだろう。超高級石鹸だからな。問題になるのは、水酸化ナトリウムだけだな。消石灰と炭酸泉があればなんとかなるだろう。
シャンプーはリンスの要らない物を作れば良いだろう。確か、ハチミツとココナッツオイルで出来たはずだ。ココナッツがあれば、だが。
早速、材料を用意し始めるマサキであった。大量生産出来れば、絶対に売れるはずなのだ。
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