第82話 次なる敵は…

 翌朝、起きて外を確認したら、外で寝ている奴はいなかったが、真っ青な顔の奴は沢山いた。みんなよく起きられたな、大丈夫なのか?あれ。


 マサキは、朝の支度を済ませると、昨日、作り忘れていた転移魔法陣を、団地の横に小屋を建てて描き始めた。9番の魔法陣を描き終えて、早速、魔力を流して開通させた。ドワーフ達は、早速必要な物を取りに行った様だ。マサキは、小屋の横にちょっとした作業場を建てて、炉を作ってみた。イフリータに聞いてみたけど、鍛冶作業する位の温度なら大丈夫だと言うので、一度焼成して固めておいた。


 金床やハンマーは、自分で持ってくるだろうと、滑らかで水平な作業台だけ用意しておいた。あとは、彼らが工夫するだろう。ドワーフ団地も作った方が良いだろうか。と思ったら、日本人職人達が住む団地の空き部屋に、既に入った様だ。職人達には、偏見がないから良いのだよなぁ。ちょっと、小さいオッサン位にしか思っていないのだ。お前達より若いがな!


 少し可哀相だったので、魔法で職人達のアルコールを抜いてやった。職人達は、今日も飲めるぜーと言っていた。気持ちは解るが、嫁さんの顔色は窺っておけよと、老婆心ながら言って措いた。斯く言う俺も、何故か霧に睨まれているのだ。霧は嫁さんじゃないのだが……。解せぬ。


 城は、職人&ドワーフに任せちゃったので、マサキは、真空ポンプの製作に入った。一緒について来たアルシノとドワーフの女の子が、これは何だと言うので、絵を描いて説明した。水車でこれを回して、真空状態を作って、揚水するんだと。なんとなくは、理解出来た様だ。それを2つ作ったら、浄水場だ。あ、その前に堤防だな。


 ノーミードに手伝ってもらって、ちょっと大きい方の川に堤防を、国境の壁まで築いていった。堤防の一部にトンネルを作って、水の街の壁の下を通した所まで引き込む。街の壁はまだないけどな。


 引き込んだ水をポンプで揚水して1番目の層に入れる、ここからは、油水分離層の原理を使って、溜まった水の中間から、次の層へと移る様に、下向きのパイプをセットして、3層まで作って、最後の層は砂利、砂、活性炭で濾過して、最後の層へ。


 溜まった水を、風車を使ったポンプで、地上50mの高さまで、揚水してタンクに溜めておく。後は水道管が出来たらつないで、開通させれば、50m以上の高さがなければ、水道は機能するはずだ。理論上は。ボールバルブも作らないとなぁ。ウォーターハンマーが怖いから、空気が入らない様にしないとね。


 水道管は、ドワーフ達が色々考えて、なんとか物にしてくれた。これも街中に張り巡らせ、溝を埋めていった。ここからは、やっと道路の整備だ。


 ドワーフ達にボールバルブの構造を絵に描いて説明したら、あんた天才だな!と言うので、俺の世界じゃ普通だと言って措いた。簡単だからね、バルブの構造なんて。思い付かないってだけでね。


 ドワーフ達は、直ぐに形にしてくれるので、非常に有難い。バルブが出来上がったので、調子に乗って、給水塔を5基も作ってしまったのだ。常時3基稼働で、予備と予備の予備。どっかで聞いた様なアレだが、ライフラインなので、大事なのだ。だが、これが間違いだった。油断したと言わざるを得ない。


 これで、インフラは完成だ!と喜んでいたら、エルスの王城から、御呼出しが掛かってしまった。




 屋敷に王城から出頭命令が来ていると、皐月が教えてくれた。飛空船で食料を調達に行ってもらったのだ。何か嫌な予感しかしない。一応、【ゲート】で屋敷に戻り、セレスティーナとメイリーナに用件を聞いてみたが、分からないとの事だった。行きたくねぇなぁと言っていたら、何をしたの?と2人に聞かれてしまった。


「城を造っているんだよ。」


 セレスティーナが嬉しそうに言う。

「お城ですか?マサキ様、ついに貴族になる気になったのですか?」


「さすがセレス!とでも言うと思ったか?しっかし、極秘にやっていたんだが、何処から洩れたのか……。」


 メイリーナは言う。

「でも、それと決まった訳じゃないでしょ?結婚式の話かもよ。」


「うむ……。まあ、行かないと始まらないな。」


「私も一緒に行くわ。」

「じゃ、私も。」


「セレスもか……?」


「駄目ですか?」


「丁度いいから言って措くが、この話は、誰に聞かれようとも、どんなに懇願されようが、誰にも話してはいけない。分かるか?」


「はい。私は言いませんよ?」


「……セレス、今まで、どれだけ余分な事を口走って、俺を困らせてくれたか、理解していなかったりするのか?」


「あ、ごめんなさい。」


「良いか?今度は、ごめんなさいでは済まないんだ。この話が洩れたら、何があろうとも、セレスは傍に置かない。結婚もしない。解るか?」


「それだけ、重要だと言う事ですね?」


「メイ。解っていない気がするんだが、大丈夫だろうか。」


 メイリーナは、考え込んだ。

「ちょっと危ない気もするけど、避けては通れないでしょ?」


「まあ、そろそろ自覚を持ってもらおうか。」




 結局、セレスティーナとメイリーナを伴って、王城へ向かった。王の執務室へ向かうと、魔力感知を広げてみた。特に変なのはいなさそうだったので、執務室へと入って、ソファに座った。


「よう、親父ども元気してた~?」


 サラビスは額を押えていた。コンスタンは笑っていただけだった。

「マサキよ、国境に壁を作って、何をしているんだ?」


「何って、家作ってんだ。嫁が増えすぎて、住む所がなくなりそうなんだ。」


「また、増えたのか?」


「まあな。カステールの長女もだし、ドワーフの姫もだな。」


「ドワーフ!?」


「ああ。で、今日の呼び出しって何よ?」


 サラビスが頭痛そうに言った。

「あの壁の向こうに塔が見えると、話があった。」


「あん?それ、どこ情報?」


「商業ギルドだ。」


「あっちゃ~、1番、知られたくない奴らに知られたか……。で、何だって?」


「情報開示を要求されている感じだな。」


「放っておけば?国外の事なんか知らんと。」


「商業ギルドの頼みは無下には出来んのだ。流通が止まってしまう。」


「うーん。少し時間が足りないなぁ。そうしたら、こう言って措いてくれ。『マサキが、何らかの実験を行っているが、危険が伴う為、国外でやっていると聞いている。国外でやっている事に深く追及出来ないんだ』と。俺の名前は出しても構わないからさ。商業ギルドは、そのうち叩き潰すし。」


「マジか!?」


「不味いか?」


「不味いに決まってるだろ。折角軌道に乗った交易も、機能しなくなってしまう。」


「そこに俺の頭が回らないと思う?」


 コンスタンが言う。

「マサキ君。我々にくらいは、腹を割ってくれないか?正直、どうなってしまうのか、予想がついていないんだ。壁が出来た時は、どうせマサキ君の事だから心配はいらないと通達は出したんだけど、何も分からないと言うのは、怖いんだよ。」


「そうだなぁ。この世界の文化水準と言うか、技術水準と言うか、まあ両方だな。が、低いのは、何故だと思う?」


 コンスタンは、ふむ…と考える。

「そうだねぇ、教育水準なのかなぁ?」


「ああ、そう思っちゃうんだ。そうじゃない、商業ギルドの所為だよ。奴らは、利権に群がるクソ蠅なのさ。だから、誰かが、新しい何かを考え出したとしても、それを秘匿してしまう。だから、考えた奴らしか出来ないから、広まらないし、大量に生産も出来ないんだ。」


「マサキ君は、それをどうすれば良いと思っているの?」


「知的財産権と言う権利を作って、考え出した奴の利益を保護した上で、情報を開示する。これが正解だ。同じ技術を使いたい奴は、権利を持っている奴にロイヤリティと言う形で、金を払えば良い。研究者であったなら、金になるのなら開示してくれるさ、研究には金が掛かるからな。」


「なるほど。でも、商業ギルドは強大だよ?どうやって叩き潰そうと言うの?」


「あんなものは、強大でも何でもない。張り子の上に胡坐を掻いているだけさ。強大と言うのが、金を指しているのなら、それは大きな間違いだ。すぐに吐き出して終わる。商業ギルドに対抗する組織を作る。」


「それはね、過去にもやった人はいるんだけど、すぐに潰されたよ?」


「そんなのは、切り札が無かったからじゃないか?」


「あるのかい?そんな物が。」


「まあ、ちょっと間に合っていないのが、正直なところ。まだ、目を付けられたくなかったな。例えばだけど、エルスから、帝都まで、8時間とか10時間とかで、行けたらどうだ?」


「それは、便利だと思うけど。それと商業ギルドと何か?」


「もう少し、敏感にならないと、商業ギルドに良い様に使われてしまうぞ。行商人が帝都まで行くのに、半月は掛かる。早くてもね。物流が、半月掛かるものが、10時間で到着するとなれば……?」


「商いが増えるね。」


「それだけじゃないんだ。半月掛かるとしたら、諦めざるを得ない、生鮮食品が輸出入出来るんだ。そして、商機が増える。それをやろうとしているんだが、商業ギルドに噛ませる気はないんでな。まあ、商工協会とか何か作って、会員だけに使わせれば良い話。商業ギルド加盟者お断り、で解決だ。」


「あー、物流を牛耳ってしまうんだね?」


「そういう事。」


 サラビスは、ちょっと興奮気味だ。

「今回、見付かった塔って言うのは?」


「ああ、それは油断だったなぁ。今、街を造っているんだ。上下水道完備のな。それの給水塔だ。便利な街になるぞ、蛇口を捻れば水が出るんだから。」


「それは、魅力的な。井戸は大変だからなぁ。」


「いやいや、それだって、ポンプを付ければ楽だと思うぞ。実はもう作ってあるんだ。商業ギルドに知られたくないから、売ってはいないがな。街が完成したら、新組織を立ち上げて、一気に売り出す。それだけで、完勝だと思うけどね。トイレも良いのあるし。」


 メイリーナが言う。

「ああ、あのトイレは、良いわね。もう他でトイレに入りたくないもの。売り出さなかったのは、そういう事なのね。」


「そう、高い値段を付けて、儲けは、商業ギルドの耄碌爺の懐だからな。魔道具が高いのは、技術を公表しないから、数が少なくて希少になってしまうからなんだ。他が追随出来れば、流通量が増えるから値段も下がるし、競争になるから、より良い物が出来る。そういう市場の原理が働いていないのさ。」


「世界に革命が起こるね。」


「それを狙っている。人生はもっと刺激があって良い。」


「はっは、なるほどね。よく分かったよ、ギルドは適当に誤魔化しておくよ。」


「うん、頼むよ。」




 何とか、建国の話はしなくて済んだが、多分、気付いているだろうなぁ。街の話はしちゃったしな。まあ、あんなにデカい街だとは、思っていないだろうけど。そろそろ結婚式をしてしまいたいなぁ。屋敷に戻って、そんな事を考えていた。


「メイ、結婚式の話、どんどん進めておいてくれないか?さっさと、やってしまいたい。俺は、いつでも良いから。」


「分かったわ。1人で全部は無理だものね。」


「うん、もう増やしたくないしね。」


 セレスティーナを見ていたら、ムラムラしてきたので、1回戦して現場に戻る事にした。一応、セレスティーナのおっぱいをモミモミしながら、釘を刺しておいた。


「セレス、さっきの話を聞いていたと思うけど、商業ギルドに洩れるのだけは、不味いんだ。そこを理解しておいてくれ。」


「はい。承知しましたよ。」


 この軽さが心配ではあるものの、心配するより、先に進めるしかないので、現場に戻った。城と水道を任せちゃったので、マサキは、道路と側溝を一生懸命作っているのである。区画をしっかり、最初から整理しておけば、無用な争いは起きない様に出来るのだ。


 住民の受け入れは当分先だが、戸籍の作成、土地・建物の登記、商業登記は必要だし不可欠だ。そう言った準備も進めなければならない。今度は、実務面の人材を集めて、教育を始めなければならないか。


 スコットを早めに連れて来ないと、俺が死ぬなぁと思いながら、淡々と道路を作っていく。目抜き通りは、中央分離帯まで作ってしまったぜ。片側2車線に歩道付きの恰好良い道路が出来た。居住区しか手をつけていないんだけどね。農業区画に考えている所には、手を入れていないが、農業試験場にする建物のスペースは確保した。


 城の裏側に、露天風呂を沢山作って、覗けない様に目隠しの塀を作ったり、内風呂の建物を作って、ウォータースライダーを付けたり、肩こり用に打たせ湯を作ったりね、うちの姫達は、肩が凝ると思うのだ。おっぱいがデカいからな。


 後は、城の内庭にプールを作ったりして遊んでいたら、保養地っぽくなったので、後は、娯楽室を天守に作るだけだな。


 勘治に頼んでいた、エリセーヌとアリス、クレアの木像は、本物にしか見えない出来栄えだったので、そのまま最上階へ運んでしまった。これで、いつでも来られる事だろう。今、来ても困るけどね。


 それにしても、ドワーフ達は、覚えるのも作るのも仕事が早い。スピードは格段に上がったと思う。職人達とも上手く連携してくれている様だ。マサキは、城にエレベータを取り付けに行くのだった。ワイヤーで引っ張るとかではないのだ。飛空船の昇降システムと同じ、重力魔法と浮遊魔法の組み合わせでやってしまおうと言うのだ。扉は手動で締める、階数を指定すると、円盤が上昇下降するのだ。勿論、円盤上に操作盤をつけてある。


 何となく、ファンタジーなエレベータなのだ。最上階は5階とした、本当の最上階は、神殿もあるし、精霊の泉もあるので、嫁ズと言えども簡単に入ってもらっては、困るのだ。神様はいつ来るか分からないのだ。


 5階には、俺の部屋とメイドの控室。寝室は、和室なのだが、ベッド有りみたいな。そんな事を考えている。ベッド作らないとなぁ。俺の希望で厨房は作ってもらった。霧や桜には、内緒なのだが。バレたら無くなってしまう事は、火を見るより明らかなのだ。偶には、俺もやりたいのだ。何れにせよ、5階は俺の専用スペースなので、気が楽と言う物だろう。


 4階は嫁ズの部屋しかない。このフロアは全部洋室だ。だが、嫁ズの部屋しかないと勘治は言っていた。だけど、部屋が80もあるのは、何故だろう。おかしいよね。もし、神様が住むと言った場合の部屋は、城の裏側に用意してあるのだ。

 その辺の抜かりはない。何故なら、アリスとクレアが帰るとは思えないからだ。


 使用人部屋は1階に50くらいは、あるんじゃないだろうか。エントランスなんだけどね。当然、ここにも大浴場はある。1度に50人くらいは入れそうな。





 進捗状況を一通り見て回り、一旦、屋敷に戻ったら、結婚式の日取りが決まったとメイリーナに言われた。教会は、マサキと嫁達全員だけで、披露パーティは、王族・貴族の令嬢だけで良いだろうと言う話になった。本人達もそれが良いと言っていたので、良いのだろう。


 ウェディングドレスは用意しようと思ったが、人数が多すぎて、挫折した。普通のドレスで良かろうと。カラフルな方が良いよね。38人も真っ白がいたら、逆に怖いと言う物だろう。









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