第77話 作戦行動終了

 腹一杯になった腹を抱えて、マサキは再びホールに向かった。尋問の結果もそうだが、あの荒れ放題の国は、誰かが纏めないと駄目だろう。あわよくば、それをパルミナに押し付けようと言うのである。アルジャーノなら上手くやりそうな気がするんだよね。主に自分が面倒を見たくないだけだが。


 静が、微妙に距離を取って近付いてこない。霧と違って、人柄が奥床しいのかもしれんな。姉妹とは言え、その程度は違ってくるだろう。


 そして、鋭い霧に絡まれる。

「上様。失礼な事を考えていましたよね?」


「何の話だ?静も霧と一緒で美人だなぁと、思っていただけだが?」


 霧は、ポニーテールを振り回して、回し蹴りを放ちながら言う。

「お姉様の方が美人だと言いたいのですね!」


 マサキは、それを左手で受け流しながら、足首を掴んで逆さ釣りにして、言った。

「そんな事ないぞ?」

「キャー、犯される~、寧ろ、犯してくださ~い。」


 呆れた顔で、マサキは霧の足を放す。

「何を口走ってるんだ、お前は。」


 霧は、両手を床に付いて立ち上がってニコッと笑った。可愛いんだけどね。


 これを見ていた沙織は思った。霧の体術を、軽くあしらうとか普通は出来ないんだけどなぁ。と。あの華麗な剣術だけではなく、上様はやはり凄い人なのだと。そう、あの剣技を見た、くノ一娘達の間では、マサキはアイドルになっていた。霧の様に本気で仕掛けて、軽くあしらわれると言うのが、羨ましくて仕方ないのだ。


 そんな事に気付かないマサキは、正直なところ、霧には困っているのだが、周りから見ると、ジャレついている様にしか見えないのである。周りの評価として、霧は『マサキの女』なのだ。そして、マサキは気が付いていないのだが、実際に霧と弥助に依って、マサキに近付いて良い女は管理されているのである。


 まあ、マサキとしても、近付く女の管理までされているとは思っていないが、他のそう言った煩わしい雑事は、弥助と霧が全部処理している事には気付いているので、2人の献身的な忠義に感謝するのである。




 ホールでは、アルジャーノが先頭に立って、騎士や政務官に指示を飛ばし、女の子達の、何時頃攫われて、どういった被害が有ったか等を詳細に記録していた。補償をなされなければならないからだ。


 一方、トマスは騎士団長と共に、21人の性犯罪者を、徹底的に搾り上げていた。残りの女性達の行方や攫った男性の行方、チュゴセンの女性がいないと言う不可解さの追及をしていた。


 そして、判った事。残りの女性は、娼館にいるか、21人の内の宗主親子3人以外の屋敷にいる事が判明。そして、許し難い事に、男性陣は全員殺したとの事だった。更に、当然最初は、チュゴセン女性を攫う事から始まったのだが、今、街中にいる女性以外は、ほぼ攫ったと。そして、精神魔法を掛ける過程で狂って死んでしまったり、上手く洗脳出来なくて、殺してしまったり、凡そ人とも思えぬ所業を繰り返していた為、チュゴセンの女性は、ほぼ全員亡くなったと言う事だった。そのお陰で、精神魔法の腕が上がったんだと自慢していた。


 そして、始末に負えないのが、街中にいるチュゴセン人は、ほぼ宗主の信者と化している為、少し魔法に秀でた者が、宗主として同じ事をするだろうとの事だった。


 宗主は、元々精神系の魔法は、得意ではなかった様だ。攻撃魔法が得意だったらしい。だが、精神系は得意ではないが、嫌いではない。使いこなせれば、思いのままになる女も出来るだろうと、街中で人体実験を始めたのが切っ掛けで、恐れられて、部下が出来、付き従う者が増えていったんだと。みんなが自分に群がり、欲望を満たしていったんだと言っていた。まあ、その通りなんだろうな。


 理解出来た事は、チュゴセンとは、宗主と取り巻きだけじゃなくて、国民自体がやばいという事だ。普通、こんな独裁者は、早々に処刑されるものなのだ。それが、国民の側から祭り上げられて、宗主になっているのだ。


 過去の話、先代の宗主はどうだったのかと、聞いてみたが、精神魔法みたいなのは使えなかったが、金の亡者であったらしい。他国で考え出した物を、我が国が開発したとか言い出して、利権に絡もうとする宗主であった様だ。それから、各国の優秀な研究者などを拉致して来る事が始まったのだと。だが、新しい物が作り出せないと殺す。そんな事を繰り返して来たらしい。


 過去には、こんな事もあったらしい。パルミナに軍事侵攻を掛けて来て、チュゴセンにパルミナ兵を誘い込み、押し返して終戦とし、後から、国民が大量に虐殺された等とでっち上げ、大騒ぎして金銭を要求すると言う、幼稚極まりない事もしていたんだと。


 他にも色々あったらしいが、聞いていて、辟易してしまったマサキは、アルジャーノと話をする事にした。


 マサキが、アルジャーノを呼ぶと、アルジャーノは頷いて、話合いのテーブルに着いてくれた。

「アルジャーノ。もうあの国は駄目だし、一層の事、あの国をパルミナに併合してしまわないか?軍事侵攻しちゃってさ。」


 アルジャーノは目を大きく開けて言う。

「マサキ殿がそんな事を言うとは、思わなかったな。」


「まあね、本来なら戦争を容認する事などないよ。だけど、あれは国とは言わないし、自治能力なんかないからね。まともな人間が統治して、明確な法の元で裁いていかないと、まともな人間が少なすぎる。」


 アルジャーノが、フッと笑った。

「面倒臭いから、お前がやれと言えば良いだろう?」


「あ、バレバレですか。」


 アルジャーノは、真剣な顔になり、大きく息を吸った。

「だが、マサキ殿が賛成してくれるのなら、やろうと思う。いつまでも、このままでは、国民の安全に関わるしね。」


「頼むよ。」

と、マサキは笑って誤魔化した。


 アルジャーノは、21人は牢に入れておき、軍事的に占領が済んだら、見せしめの為にも苛烈に処断すると言った。マサキは、それにも賛成だった。1度劇薬投与は必要だと思うからだ。


 盗賊だけで構成されている村とか、労働力は拉致してくるとか、そんな物が文化として根付いているのだ。なので、後はパルミナ王国の意向に全て任せる事にした。要するに、後は全て丸投げだ。


 軍事侵攻する時に、壁に穴を開ける事を約束して、引き上げる事にした。疲れたし、眠いし、土木工事したいしね。


 各国の了承とか面倒だな。電話みたいな通信手段を魔道具で考えてみるか。魔法陣をブラックボックスにしてしまえば、何とかなりそうな気がするな。





 2日後に1度顔を出す約束をして、【ゲート】を王都屋敷に繋いで屋敷に戻った。労働の後は、風呂だろうと、そのまま温泉へ直行した。湯舟に浸かりながら体を伸ばし、疲れが抜けていくのを感じながら、湯舟の縁に頭を乗せて目を瞑り、少し考えてみた。


 よくもまあ、女達をあんな家畜みたいに扱えたよなぁ。もう、宗主も手に余っていたんじゃないかと思うのだ。手を付けていない、檻に入れた女性が80人。甘い汁を吸いたい奴が、忠臣面してどんどん集めてしまった結果、あんな事になっていたのかもしれないな。


 なぜ、そんな風に思ったかと言うと、醜男ぶおとこ2と戦っていた時、宗主は起きたのだが、一言も発せず、抵抗もせず、黙って縛られた。やはり、こうなってしまうよなぁと、達観している様にも見えたからだ。自分が始めてしまった事で、宗主に祭り上げられ、みんなが追随して収拾がつかなくなった。しかし、もう部下達を止める事は出来なかった。自分も気分が良かったから、だろうな。


 彼は、傅かれながらも1人ぼっちだったのだろう。弥助や霧の様な、諫言出来る忠義に厚い家臣がいなかったのだろうな。その証拠に、宗主の名前を知っている者が、極少数なのだ。結局、最後まで名前は聞かなかったしね。まあ、パルミナに任せたのだ。気にするのを止めよう。


 そんな事を考えて風呂から上がったのだが、晩飯まで時間もあるし、やる事もないので、まだ明るかったが、リビングで軽く酒を飲む事にした。弥助を相手に。


「弥助、ご苦労さん。一杯やろうぜ。」


 嬉しそうに、弥助が銀製タンブラーを2つ持って現れた。

「待ってましたよ。上様。今日はそんな気分だろうとね。」


 ソファに2人で座って、軽くタンブラーを合わせると、チビチビ遣り始めた。

「で、あの4人はどうすんだ?」


「くノ一3人は、良いと思うんですが、助成を迷っているんですよ。腕は悪くないんですが、里に許嫁がいるんです。一旦、里に帰そうかと思っているんですよ。」


「ほほう。くノ一3人に許嫁はいないのか?」


「本人達は、いないと言っていますね。本当かどうかは、判りませんが。」


「嘘を言う事もあるのか?」


「ええ、自分が嫌いだと、無かった事にしてしまうんですよ、勝手にね。桜みたいなもんです。」


「だが、才也や才賀みたいなのだからっていう訳じゃないんだろ?」


「ええ、あんなのは稀ですが、性格が合わないとか、顔が嫌いとかは、普通にありますね。」


 マサキは、ソファの背凭れに背中を預けて天井を眺めならが、ウィスキーを喉に流し込んだ。

「だが、この世界、男より女が圧倒的に多いと聞いている。里もだろう?人柄が良ければ、顔は言っちゃいけねーよなぁ。」


 弥助が笑いながら言う。

「ふっふ。里の余った女は、みんな上様に引受けて頂いてます。それでも、まだ多いですね。それに、人柄が顔に出ている事が多いのですよ。」

(もしかしたら、イケメンかどうかじゃなくて、人柄を顔に見ていると言う事か。)


「何?あいつら余り物なの?」


「厳選はしていますが。ただ、くノ一は、血が濃くなると、縁談候補から外されるんですよ。」


「まあ、別に不満がある訳じゃないんだけど、藤林も大変だなぁと思ってな。恨まれてるだろ?あいつ。」


「頭領が、物凄く苦労しているのは、みんなが知っていますから、恨まれてはいませんよ。ただ、好いた男が近親者で、許されない恋だったりして、血を恨む女は意外と多いですね。」


 マサキは、腕を組んで考える。

「早く、そう言う煩わしさから、解放してやりたいもんだな。そう言えば、くノ一が宗主の慰み者にならなかったのは、何故なんだ?」


「魔法契約で縛られているからですよ。最初は、依頼で現地に入っているでしょ?その依頼を受ける時、契約を交わすのですが、性交渉は一切しないと言う文言が入っているんです。で、洗脳されたとしても契約条項は生きていますから、出来ないんですよ。違反時はアレですから。」

と、弥助は自分の股間を親指で差し、クイッと捻った。


「貴重な男なのに……。」


「そんな奴の血を残しちゃいけませんや。ま、そんな訳なんで、緑、藍、紫乃も気に入ったら、遠慮なくやっちゃってください。最早、義務と言っても良いでしょう。」


 マサキは、笑いながら言う。

「最近、俺の下半身は、お前達夫婦に牛耳られている様な気がするよ。」


「はっはっは。上様は、我らの希望ですから。」


 結局、助成は1度帰って、許嫁の気持ちを確認して、一緒になる様なら、連れて来ると言う事になった。助成と許嫁も相思相愛らしい。弥助の所と似た様な感じみたい。小さい頃から一緒にいたんだと。


 助成を【ゲート】で集落へ送ってやった。助成は、久しぶりに許嫁に会えると、嬉しそうに帰っていった。必ず戻って来ますと、言葉を添えて。




 2日後、弥助と霧と桜、瀬奈を供に、再びパルミナを訪れた。アルジャーノは、もう騎士団を、昨日のうちに出発させていた。今頃は関所付近だと言うので、【ゲート】でそちらに向かう事にした。


 関所付近に移動すると、チュゴセン国内に入れず、立ち往生している馬車やテントがあった。騎士団は、まだ来ていない様だが、遠くに見えるので、直に着く事だろう。マサキは、立ち往生している馬車を見て回ったが、荷台の中が見えない。弥助達に御者や警護の気を引いてもらって中を見てみたが、麻袋が沢山乗っていた。


 1つを開けて見たが、案の定、女性だった。御者と警護を峰打ちして回り、テントも開けて見たが、そこにも女性が詰め込まれていた。商人とかはいない様だ。こんな国と交易しても仕方ないか。周りにいた男達を全員制圧して、麻袋から女性を出してやり、テントからも出してやって、新たに24名の被害者が追加になった。


 どこの国から連れて来られたか聞いてみたが、どうやら全員、カステールという事だ。中に1組、貴族の令嬢と侍女がおり、面倒な事をしてくれたものだと思うのである。まもなく、騎士団が到着し、マサキが事情を話すと、男達を全員捕縛してくれた。女性達は、送り届けるよと引受け、狭いが、1度馬車に全員乗ってもらう事にした。御者を弥助に頼み、壁に穴を開けに行ったのだ。


 元々、関所があった所に、馬車が1台通れる程度の穴を開けてやったら、中が大変な事になっていた。なんで、通れないんだと、関所兵と通りたい奴が、喧嘩になっていたのだ。関所兵も可哀相な事だと思うが、騙されてはいけない。関所兵もロクな者ではないのだ。


 壁の内側に入って行くと、早速、馬車に乗る奴や歩き出す者がいたが、マサキは開口一番、旅支度の連中に申し渡した。

「この壁を通る事は、罷りならん!その場にて大人しくしろ。一歩でも動けば、首が飛ぶと思え!」

と、言いながら、殺気を放った。


 誰からも文句は出なかった。女性を乗せた馬車を通し、騎士団が続々と壁を通過してくる。一部の騎士が、旅支度の連中の目的や身元の確認をしだした。結局、ここでも、関所兵を含め全員捕縛となった。


 うーむ、これ国民残るかね?正に、ならず者国家なんだなぁ。この世界の1番隅だし、ならず者が集まってしまったのかもしれないな。騎士団の通過が完了したところで、再び壁を閉じた。


 捕縛した者は、関所で押収した馬車に乗せられた。女性騎士が御者をしていた。中々可愛い娘だった、メアリー程良いケツはしていないが。1回お願いしたいが、1回で良いなぁと考えていたら、自分でアホかと思ってしまった。ここ2日、禁欲なる物をしてしまった所為だろう。何故かって?宗主の事を考えたら、する気になれなかっただけだが・・・。


 それからは、特に人に会う事もなく、街の入口に着いたが、門衛がウザイので、ぶん殴って罪状を聞き出したところ、全然有罪だったので、縛り上げて馬車に乗せた。騎士団はマサキのやり方を見て、唖然としていた。取り敢えず、声を掛けて、お前は女達を弄んだ方か?と聞いて、イヤらしい笑みを浮かべた兵士を殴って昏倒させ、刀を股間に当てて聞き出していたのだ。


 男には、これが1番早いんだぜ?とマサキは騎士団に教えてやった。女性騎士は慌てていた。兵士を殴って昏倒させるのが難しいのだと。じゃ、最初から剣を抜いて股間に刺せと言って措いた。街の大門を入って、大門を閉じ、開けられない様に壁を被せておいた。




 ここ迄、手伝って、女の子達に、全員カステールの王都から攫われてきたのか聞いたら、王都の隣の街でテーラルと街で攫われたらしい。どうも、まだその街にチュゴセンの残党がいるようだ。テーラルまで王都から2日掛かると言う話だし、面倒だな・・・。


 取り敢えず、カステールの王城へ帰す事にした。残党をどうするかは、マルキアスの判断に任せよう。依頼されれば動いても良いが、他国の中の事だからね。


 途中、乱暴等されなかったかを確認して、問題なさそうだったので、【ゲート】を開いて、カストの王城へと繋いだ。王の執務室に入ると、マルキアスに新たに24人保護した事と、貴族の令嬢と侍女も居る事を伝えた。


 どうも、まだテーラルに潜伏しているという事を伝えると、直ぐに捕縛しに行くと言っていた。24人もテーラルまで送ってもらう様にお願いしておいた。後は任せておけば良いだろう。




 再び、チュゴセンに戻ると、騎士団は人数も300名規模で来ているが、仕事が早かった。人海戦術で街中の屋敷や娼館を捜索し、男と言う男を一旦全部集めて事情聴取を始めた様だ。従って、門も関所も開けて良いとの事だったので、それを終えたら、お暇する事にした。



 あくまで占領軍はパルミナだからね。閉じた門と関所にもパルミナの騎士が残っており、壁を崩して通れる様にしたら、お礼を言われた。


 こうして、チュゴセン掃討作戦は、終了したのである。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る