第72話 ただ、忠臣が為に

 朝飯を食べて、支度を終えたマサキは、メアリーにリリアーナの護衛を頼んだ。メアリーは放っておくと、騎士団に出勤してしまうのだ。まあ、あの尻を維持しているのが、騎士団の訓練だと言うのなら、構やしないのだが。あのプリケツは、誰にも触らせねー。


 とことんアホなマサキではあるが、今日の計画を進めていく。ケネスとサーシャを呼び出して、今日は、絶対に屋敷の外へ出るなと伝えた。シスカの動きが読めないからだ。シルフィードが監視はしてくれているのだが、マサキがすぐに動けるとは限らないのだ。


 そして、共を選ぶ段になり、迷ってしまった。弥助を連れて行きたい気もするのだが、もし、静だった場合に俺に迷いが出そうな気がするのだ。そんな事を考えながら、エントランスで固まっていると、霧に声を掛けられた。


「上様?何を悩んでおられるのです?」


「んあ。いや、何でもないよ。今日の予定を反芻はんすうしていただけだ。」


「上様……、嘘が下手ですよ?」


「嘘ではないぞ。今日は、アレコレ行かなきゃいかん所があるけど、順番を間違えると、首が絞まってしまうんでな。」


「では、私がお供します。」


「あ、駄目。相手がコレだから。」

と、小指を立てた。


 霧が溜息を吐いた。

「上様。何をお隠しになっておられるんですか?お顔に出ています。」


「別に隠しちゃいないさ。ただ、確信が持てない事に、振り回されるのは御免なんだよ。帰ったら、ちゃんと話すよ。それじゃ駄目か?」


「はい、結構です。最初から、そう言って下さい。」


「ああ、善処する。」


「上様の善処するは、絶対にしないので駄目です。」


「ああもう!小姑め…。」


「な・ん・で・す・って~!?」


「じゃ、急ぐから!」

と言って、マサキはダッシュで玄関から逃げた。




 マサキは思う。霧はなんであんなに鋭いのだと。唯一手を出していない彼女が、多分1番、俺を見ているのだろう。弥助よ、手綱をちゃんと握ってくれと、祈るばかりである。現状、俺が霧に手綱を握られている様な気がするのだが……。本当によく出来た女だよなと思う。


 庭で、あれこれ考えていたが、まずは動かねば何も始まらんと思い。カステールの王の執務室に繋いでしまえと【ゲート】を開いた。そのまま、足を踏み入れると、マルキアスと目が合ってしまった。


「よう、ハッスルしてる?」


「おお、いきなりなんだな。吃驚するじゃないか。」


「うん、悪い。急ぎの用があってね。少し時間もらえる?」


「ああ、構わない。まあ、掛けてくれ。」

とソファを勧めてくれた。


 マサキは、マルキアスの顔を見て、全部話した方が早いと判断し、カステールのエルス屋敷の話をしていった。


「で、確証があるのは、エルスのカステール屋敷にチュゴセンの諜報員と言うか、工作員が入り込んでいる事と、場合に依ってはマリアが危ないと言う事だけなんだが、もしかすると、マリアの姉ちゃんにも虫が付いている可能性を疑っている。」


「それは、なぜ?」


「うん、チュゴセンが、ああいう国だから、当然、カステールでも警戒していると思うんだ。で、本国では入り込み難いと思えば、狙いは学生になると考えた。実際、マリアに聞いた話だと、侍女は貴族家の令嬢だと聞いているが、姉ちゃんの帰郷に同行した執事の素性は、分からないとの事だった。

 今回のネズミも、マリアの入学に合わせて、男女2人が入り込んでいる。そう、4年半も目立った動きをせず、情報収集だけしている様なんだ。ただ、今回はそいつらが、ラーメリア王家の情報も集め始めた事で、俺が察知する事が出来たんだ。で、ぶっちゃけちゃうと、マリアとラーメリアのリリアーナが危ない。」


「なるほど。チュゴセンか。奴らは、国内に入り込んでは、人を攫って行くのだ。抗議したところで、決して認めはしないのだが。それ故、入国には細心の注意を払っている。そう考えれば、カトリーヌについて来た執事を疑う気持ちも分かるし、筋は通る。だが、どうやってそれを証明するか、なんだよ。」


「そこは、魔法を使おうと思う。だから、証明は簡単なんだが、分からないのは、チュゴセンの目的なんだ。国家を簒奪なんて出来る訳がないし、周辺の国にちょっかいを掛ける意味が分からない。」


 マルキアスは、苦虫を潰した様な顔で言った。

「金と女だよ。宗主と呼ばれる国家元首は、独裁者だから、誰も諫言しない。だから、国外から良い物を買ったり、良い女を攫ったり、買ったり、そんな事の為に、している事なのさ。信じられないだろう?」


「思った以上にクズだった……。」


「それに、チュゴセンと言う国はね、宗主だけではなくて、国民性として嘘つきなんだ。国外の誰かが考え出した器具とかあっても、平気で我が国の誰々が考え出したとか言い出すからね。宗主が変わったとしても、付き合える国ではないね。」


「ふーむ。宗主がいなくなっても……か。でも、放置は出来ないよなぁ。」


「そうだね。何かこう、良い薬があれば良いのだけどねぇ。」


「薬か。嘘を吐いたら、腕、足が捥げる呪いの魔法ならあるが?最後は死ぬけどな。宗主に掛けて来るか。いや、国民全員にだな。」


「そんな事が可能なのか?」


「可能だよ。ただ、息をする様に嘘を吐く奴は、生き残れないだろうけどね。」


「じゃ、エルスの屋敷の事は、任せても良いのかな?」


「ああ、その為に来たんだ。屋敷を捜索する許可を、一筆書いて欲しくて。」


「構わないよ。マリアの為でもあるのだし、すぐ、書くよ。その間に、カトリーヌの所に行って来てくれないか?執事もいるはずだ。」


「承知した。」


「案内させる。」


 マルキアスはそう言うと、1人のメイドを呼んだ。カトリーヌ付きの貴族家の令嬢と言う侍女の様だ。可愛かった。可愛かったが我慢したさ。何をって?右手がプルプルしている事で察してくれ。


 右手をプルプルさせながら、ケツをチラ見と言う名の、ガン見をしながらついて行った。王女の私室ではなく、公務室の様だ。もう、政務を執っているのかな?

メイドさんが、ノックをして、扉を開けると、マリアよりパイオツカイデーなお姉ちゃんがいた。


「あら?マリアの良い人ですね?私も攫いに来てくれたんですか?」

と、言いながら、フライングボディーアタックをして来た。


 仕方がないので、お姫様抱っこで抱き留めたんだが、何故か顔を真っ赤にしていた。なんて言うか、姉妹揃って飛ぶの好きって言うか、初対面の筈なんだけど、エキセントリックな姉ちゃんだな!


「抱き留められてしまいました。普通は倒れるのですが……。」


「こんな巨乳が飛んで来たら、倒れたら勿体ないじゃないか。堪能せねばな!」


「どうぞ、ご堪能下さい。その代わり連れて帰って下さいね。」


「何?罠なの?罠だったの?これ、マルキアスの罠なのか?」

カトリーヌは微笑んでいるだけだ。


「姫様?私も、ここに案内する間中、ずっとお尻を見られていました。」

と、侍女が言い出した。


「あら、マーガレットもお持ち帰りですね。」


「は??2人とも初対面だよね?」


「でも、こうやって抱いて頂いているのですから、もう貴方のものですわ。」


「いやいや、抱き留めなかったら怪我してるよね?そもそも、抱いて頂いてって誤解を招く様な言い方は、良くないと思うんだ。」


「そんな、些末な事を気にしてはいけません。」


「些末じゃねーよ?違うよ?今日は用事があって来ただけなんだよ。そもそも、マリアをもらうのに、お姉ちゃんはもらえないだろ。マルキアスに、殺されてしまうわ。勘弁して下さい。」


「何を仰っているのかしら?今、貴方以上の方は、世界中探してもおりませんのよ?それに、お父様は反対しませんわ。エルスロームのフィーベル家からは、3姉妹をもらったとか…?」


「そこは否定できないけども、けども。もう、俺には13人の嫁と16人の愛人がいるのね?もう無理じゃんな。」

 そう、当初はみんな嫁にするつもりだったのだが、跡目がどうとか面倒だと言う事で、セリアが愛人で良いと言い出したのを皮切りに、ユリアナ以外の平民は、全員愛人と言う事で落ち着いたのだ。なんか妻であれば良いのだと。ユリアナは、友達と一緒が良いとの事で、そのまま嫁になるそうだ。


「そんな人数など、どうでも良いではありませんか。この胸に触りたいでしょ?マーガレットのお尻も触りたいでしょ?触れば良いのです。貴方には、それが許されるのです。」


「いやさ、触りたいけどもだよ?王女だ皇女だ貴族令嬢だってさ、疲れるんだよ。俺の身が持たない。まあ、面倒だから、マルキアスに丸投げで。」


「仰いましたね?マーガレット聞きましたね?」

「はい。姫様。」


「俺は、物忘れが激しいのでな。3歩あるくと忘れるんだ。」


 そんな会話をしている間に、呆然としていた執事に向かって、左手の指輪から、【審判ジャッジメント】の魔法を飛ばした。


「さて、先に用事を済ませるから、降りてもらって良いか?」


「はい。」

と言って、カトリーヌは自分で立った。



「さて、そこの執事君。ちょっと聴きたい事があるんだが、正直に答えてくれると嬉しいな。」


「何でございますか?」


「お前は、チュゴセンの間者か?」


「いいえ、違いますぅうぅぅぅぅぅうぅぅうがぁあぁぁぁ!」


「言い忘れてたけどさ、嘘吐くと激痛が走るからね。嘘を吐き続けると、腕が取れて、足が取れていくから気を付けてな。答えなくても嘘になるから気を付けて。

次、聴くぞ。何の目的でカステールに入り込んでいる?」


「言います言います。宗主様の命令です。目的は分かりませんが、定期的に王家の情報を報告しています。」


「報告手段は?」


「定期的にチョゴセンから、忍びが取りに来ます。」


「その忍びの名は?」


「知りません。」


「それは、男か女か?」


「男です。」


 ふーむ。試しに【精神鑑定メンタルアプレイズ】をぶつけてみた。正常か。


「その忍び達は洗脳されているか?」


「はい。最初は金で雇い入れるのですが、その間に洗脳してしまいます。」


「手段は?」


「精神魔法です。」


 聴きたい事は、こんなものだな。こいつは捕縛で良いかな。異空間からロープを出して、縛り上げた。

「じゃ、姫様。さようなら。」

と、言いながら、ロープを引っ張って諜報員を連れて、マルキアスの執務室に向かった。


 やっぱついて来るよなぁ。姫と侍女がついて来た。マルキアスの執務室に入り、諜報員を引っ張って、マルキアスに言った。

「これ、諜報員だったよ。定期的にチュゴセンから、忍びが報告書を取りに来ているそうだ。」


「そうか、ありがとう。」

そう言うと、マルキアスは近衛騎士を呼んで、近衛が諜報員を連れて行った。


「じゃ、これを。」

と、マルキアスは、屋敷の捜索許可書を差し出した。


「おう、ありがとう。助かるよ。」


 カトリーヌが一歩前に出てほざく。

「お父様。私も、マサキ様について行っても宜しいですか?」


「だからさ~、今日、初対面だよね?なんでそうなるんだよ。」


「まあ、私は構わんが。」


「え?構おうよ。娘いなくなっちゃうじゃん。」


「娘は、何れ嫁に行ってしまうのだから、一緒だろう?」


 あー、王族ってこうだったわ。忘れてた。王族だけじゃねーな、この世界、みんなこんなだわ。


「・・・・・・持って行けと?」


「是非に、だな。エルスロームは、3姉妹共と言うし、うちが2人なら可愛いもんだろ?」


「はいはい、分かりました。返せって言っても、返さねえからな?」


「返されたら困ってしまうわ。」


「俺は、チュゴセンの諜報員を、炙り出しに来ただけなんだけどなぁ。」


「まあ、お土産だと思え。今回の御礼だ。」


 諦め顔のマサキは言った。

「ふぅ~、荷物は?」


 カトリーヌは嬉しそうに言う。

「ついて来て頂けます?」


「はいはい。おっぱい揉むからな!」


「どうぞ、お好きな様に。」


 諦めるしかなかった。時間もないのだ。

「で、一応、マーガレットはカトリーヌの侍女って事で良いの?」


「ええ、お手付きにして頂ければ、問題ございません。」


「あ、そう……。」


 カトリーヌの私室へ入ると、一通りの荷物と、マーガレットの荷物を異空間に収納した。

「今から、なさいます?」


「大変魅力的なお誘いなんだが、時間がないんだ。」


「そうですか。残念です。」

 残念なの?やりたいんだろうか?

「したいの?」


「ええ、経験がないので。」


「じゃ、今晩にでも。」


「「はい。」」

え?2人とも?アグレッシブな事だ。


 その場で、【ゲート】を開いて、2人を伴って、王都屋敷へと移動した。

「霧。」


「はい。上様。」


「この2人に部屋を用意してくれ。マリアの姉ちゃんのカトリーヌと侍女のマーガレット。俺は、これから、まだ行かねばならんから、後を頼んで良いか?」


「承知しました。4階で良いですね?」


「そうだな。」


 そう、言い置いてマサキは、玄関から外に出ようとしたところで、弥助に捕まった。

「上様。また、押し付けられたんですかい?」


「今回は、王にじゃなくて、自薦だ。マリアの姉ちゃんは、マリアより強烈だったよ。初対面でいきなり飛んでくるんだぜ?抱き留めたら、お持ち帰り下さいだってよ。王も持ってけって言うし、エルスロームから3姉妹もらっているだろ?うちは2人なんだから可愛いもんだろ?とまで言われたよ。」


「あちゃー、それは、大変ですね。」


「弥助にも分けてやるぞ。」


「私は、霧と一緒に上様に尽くすのが、生きがいですから。」


「お前には、頭が下がるよ。」


「馬鹿言っちゃいけません。私達が受けている御恩に比べたら、なんて事はございませんや。」


「ちょっと、出掛けて来る。」


「上様。お待ち下さい!何かお隠しになっておられますね?」


「いや?別に。」


「いいえ、隠しておられます。それも、私達2人に何かあるのでは?」


「考えすぎだ。」


「上様。水臭いじゃないですか。あんまりですよ。なぜ言えないのです?」


「俺の懸念が、確定していないからだ。ただの思い過ごしの可能性が高い。ただ、それだけの事さ。」


「ならば、私も連れて行って下さい。私の忠義は、上様、ただお一人の物です。ですから、何卒。」


「弥助。何が知りたいんだ?」


「上様が、何を悩んでおられるのか。何を心配されているのか。です。」


「今、俺から話せる事は、本当にないんだ。色々な可能性を考えている内の1つが、ちょっと気に掛かるだけだ。別に心配している訳でも、悩んでいる訳でもない。帰ったら、話せると思う。そんなに時間は掛からんさ。」


「本当ですね?」


「お前に嘘は言わねーよ。」


「分かりました。お待ちしています。」


 夫婦揃って忠義に厚い事だ。2人は幸せにしてやりたい。すぐに片付けよう。そう決意を新たにしたマサキは、カステールの屋敷に向かうのだった。

「シルフィ。動きはあるか?」


「ないよ~。」


「シスカと言う名の、女の居場所は特定できるか?」


「大丈夫。」


 歩きながら、そんな会話をシルフィードとしていたのだが、カステールの屋敷にはすぐ着いた。門の警備には、顔が知れているので、通してもらい。玄関を入って、執事長に王の許可書を見せて、中に入れてもらい、ニールセンとシスカを呼んでもらった。


 マサキは、魔法のイメージを固めて待っていた。程なく、ニールセンとシスカが入ってきた。その場で、ニールセンに【審判ジャッジメント】を飛ばし、シスカに【精神鑑定メンタルアプレイズ】をぶつけた。

(やはり、洗脳状態か。)


 マサキは、そのままシスカに【回復リカバリー】【浄化ピュリフィケーション】【復元レストレーション】を放った。ニールセンにも一応、【精神鑑定メンタルアプレイズ】を放って見た。

(正常…か。)


「さて、シスカ。お前は洗脳状態にあった訳だが、覚えているか?」


「少し混乱していますが、覚えています。」


「お前の本当の名前は、静か?」


「はい。」


「霧の姉か?」


「え?はい。」


「分かった。さて、ニールセン、お前はチュゴセンの間者だな?」


「違いますぅぅぅぅぅぅががぁぁぁっぁあぁあああああ!!」


「悪いな。魔法を掛けていてな。嘘を言うと、激痛が走る。ずっと嘘を言うと、腕や足が千切れるからな。ラーメリアを探っているのは、なぜだ?黙っていても嘘になるからな。」


「リリアーナ嬢を誘拐する為だ。」


「なんの為に?」


「宗主様が、欲しいと仰られたからだ。」


「マリアにくっ付いていたのは、何を探る為だ?」


「カステール本国に潜入する為だ。」


「だろうな。」


「宗主と言う独裁者に従っていて、お前達は満足なのか?まあ、チュゴセン国民はみんな嘘つきだと聞いてはいるが。」


「宗主様に従っていれば、美味い蜜が吸えるからだ。」


「他に、この街に潜入している、諜報員または、工作員はいるか?」


「今は、もういない。先年、カステール本国に入ったからだ。」


「そうか、もう聞く事はない。どうする?このまま死ぬか?」


「死にたくない。助けて欲しい。」


 マサキは、勝手な事だと思ったが、

「執事長!」

と、執事長を呼んだ。


「はい。何でしょう?」


「こいつは、チョゴセンの諜報員だ。捕縛すると良い。嘘を吐くと激痛が走る魔法が掛けてある。取り調べはしやすい筈だ。処分に困ったら、エルスロームの騎士団に預けても良いがな。」


「承知しました。近衛!こやつを捕縛しろ!地下牢へ。」


「はっ!」


「執事長、この女は、洗脳されていた、俺が預かっても良いか?」


「然るべく。」


「ありがとう。静、着いて来い。」


「はい。」


 そう言って、静を屋敷から連れ出し、マサキの屋敷に連れ帰った。門を入って玄関まで辿り着くと、静かに玄関を開けた。中に入ってエントランスに立って叫んだ。

「弥助、霧!」


「はい。上様。」

と、2人ともすぐに走って来た。マサキの後ろにいる静を見た2人は、涙を流しながら崩れ落ちた。


 弥助がむせび泣きながら、言った。

「上様。狡いです。また1人で抱え込む、おつもりだったのでしょう?」


「すまんな、弥助、霧。洗脳されていたから助けられた。が、もし宗主とやらに心酔していたなら、切らねばならないと思っていた。切れなかったかも、しれないがな。マリアとリリアの命が掛かっていたからな。」


「それで、お一人で悩んでおられたのでしょう?」


「お前達の悲しむ顔は、見たくなかったのでな。」


 マサキは、静に向き直ると、言った。

「まだ、混乱しているか?」

と、言ったんだが、静は泣いていた。


「私は、貴方様に救われたのですね。霧と弥助がお世話になっているんですね。」


「ああ、ここには、霧と弥助の他に、桜と椿。皐月、弥生、瀬奈、奈緒、睦月、沙織に勘治夫婦、治吉夫婦、三郎夫婦、三次夫婦がいる。静も自分の家だと思って過ごすと良い。」


「ありがとうございます。」

と言って、静は平伏した。



 マサキは、助けられて、ほっとしたが、チョゴセンの忍びはみんな洗脳されている。これは、戦争だなと、静かに怒りの炎を燃やすのだった。



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