第69話 壁
山の頂上の向こう側か、面倒だと思っていたら、シルフィードが抱っこして運んでくれる様だ。なので、シルフィードの方を向き、胸に顔を埋めて捕まった。結局、精霊はみんな行く様なので、船は、再び湖に浮かべておいた。
留守は弥助に頼んで来たので、大丈夫だろうと、シルフィードの胸の柔らかい感触を楽しみながら考えていたら、さすが風、もう着いた様だ。ああ、山脈を越えると、その先にもう1個山があるのね。山の中腹に開いた巣穴の入口に降り立ったマサキは、一応、大小を手挟んで中へ進んで行った。
巣穴って言うから、もっと慎ましい物を想像していたんだけど、高速道路のトンネル2個分くらいの穴のデカさだった。赤龍か、土木工事やらせんぞ。主にトンネル工事とか。なんて、アホな事を考えていたら、入口から50mくらい進んだ所が、大きなドームになっていた。
ドーム状になった空間の、1番奥に体を小さくして寝ている龍がいた。近付いて、顔をペシペシ叩いてみたが、反応がないので、鱗を1枚剥がしてみた。それでも起きないので、牙を抜いてやろうと思って、牙に両手を掛けたところで、起きた様だ。
『待て待て待て!!何をしておる!?』
「ん?起こそうと思って、鱗剥がしても起きないからさ、牙を抜いてやろうかと。」
『人間の身で、我を見ても、何とも思わないのか?』
「んー特には?それより聞きたい事があるんだよ。」
『少しは、驚かんか!我が、可哀相じゃないか。』
「えー、面倒だし、時間の無駄ぁ~。」
『ぬぅ、面白味の無い奴だ。ん?大精霊ではないか。揃ってどうした。』
レオノールが答えた。
「主様のお供よ。」
『主だと?お前達が従っているのか?』
「そうよ、私達の愛しいお方だもの。貴方じゃ勝てないわよ?」
『精霊女王に大精霊4人?全員ではないか!』
「そうよ。みんなこのお方のもの。エリセーヌ様も武神様も魔法神様も、このお方の女よ。私達もね。ニルフェス様もだわ。」
『なんと!人間にその様な傑物がおるとは・・・。それで、聞きたい事とは、何であろう?』
「ああ、あの山脈の南側に国を造っても良いか?」
『別に構わぬよ。』
「じゃ、赤龍はここで何してんの?」
『主に昼寝。一応、使命としては、空間の監視じゃな。悪魔界と繋がる様な、大規模な空間の歪みが出来ていないか、監視しておる。』
「ちゃんと仕事してるか?」
『しておるよ。人間が召喚したものまでは、責任は取れぬがな。』
「そうか、そうだよな。じゃ、城が出来たら遊びに来いよ。神達が遊びに来る所を作るんでな。赤龍も遊びに来い。」
『おう、そうか。じゃ、また教えてくれ。』
「おう、また来るよ。」
『待っておる。』
じゃ、と手を振って、入口まで引き返すと、シルフィードに抱き着こうとしたら、ウンディーネに抱き締められたので、ウンディーネに運んでもらう事にした。
「赤龍なかなか良い奴じゃないか。」
「主様が特別なだけ。普通は、龍の前に立って居られない。」
「ほう、そんなもんか。なぁ、ディーネ、フライングエッチとかどうよ?」
「したくなっちゃったの?」
「昨日からずっと、こんな感じ。やっぱ反動かなぁ。」
「そうかもね。でも、私は飛びながらは無理かな。シルフィが良かったね。」
「いいや、言ってみただけだ。やりたいのは事実だが、さすがに飛びながらはな。」
「ふふっ。」
船に戻って、船長室に入って、少し考え事をすると言って措いた。実際は、4大精霊と精霊女王とヤっていただけだが……。昨日から収まりがつかなくて、今朝は、セリアに無理をさせたかなぁと思うけど、あのケツを見ていると、襲いたくなるんだよねぇ。
さて、多少スッキリ?した様な気がする感じなところで、状況を整理しよう。土地として、此処は申し分ない。赤龍の了解は得られた。条件として、未開地で何処の国でもない。水源は豊富、土壌も問題ない、魔物も非常に少ない、温泉が沢山ある、新品の鉱山がある、湖がある、川が2本ある、小川もある、人間が住んでいない。最高の立地じゃね?
他にもあるかもと考えれば、幾らでも候補は出て来るんだろうが、決断の時な気がする。日本人組と少し話をしてみよう。
マサキは立ち上がると、食堂へ向かった。まあ、人数も少ないしと思って、全員集めてみた。
「弥助の里の者に主に意見を聞きたいんだけど、さっき見た広大な平原だけど、あそこに新たな街を作るとして、住みたいと思えるか?」
弥助は言う。
「条件的には、今の集落より全然良いです。水田も作りやすいでしょうし、畑もやりやすいでしょう。何しろ人が住んでませんから、無用な争いもないでしょうし。」
職人娘達は、嬉しそうに言う。
「私達の本来の仕事として考えると、新しい街なら大工仕事も沢山ありそうですし、森に魔物が少ないのなら、木の伐採も容易でしょう。樫、杉、檜と色々木も生えていましたから、計画的な伐採をすれば、環境は良いですね。湖も川もありますから、貯木場も出来ると思います。」
「ふーむ、集落をここに移転しようと言った場合、みんな来てくれると思うか?」
霧は、何を今さらと言う。
「上様。上様は、ただ移転するぞ。と一声掛ければ良いのです。ついて来ない人間などいませんよ。」
「霧。それは、お前の感覚であって、みんながそうとは限らないだろ?お前達は、忠義に厚いからそう思うのであって、そうで無い者もいるはずなんだ。
なぁ、奈緒。そうは思わないか?」
奈緒は少し考えて言った。
「えと、上様が初めて里に来られた日、頭領から少しお話がありました。『何れ、立花様が、我らの住みやすい国を造って下さる。それ故、皆で移転する可能性があると頭に入れておいてくれ。そうなれば、もう血が濃いの薄いの、望まぬ婚姻をせずとも良くなるはずだ。』と仰いました。そのお話をお聞きしました故、私達は、上様のお傍仕えをさせて頂きたいと思ったのです。是非、上様のお傍で、お役に立ちたいと考えました。今回、帰りました職人衆もそうです。一声聞いたら、すぐ行くと言っておりましたし、頭領もそのつもりです。」
「では、里の皆は、その話を知っているという事で良いか?」
「はい。」
「その中に、反対する者はいないのか?」
これには、瀬奈が答えた。
「私は、藤林瀬奈でございます。藤林の頭領、
「そうか…正尚も相当、疲弊している様だな。んじゃ、そのつもりで動くとするかな。で、瀬奈。藤林の娘って事は、忍びか?」
「申し訳ございません。職人と言うのも嘘ではありませんが、くノ一の術は心得ております。くノ一の仕事など滅多にございませんので、普段は職人をしております。他に、沙織も同様にございます。」
「ふーむ。弥助、霧。」
「「はい。」」
「知ってたな?お前達。」
霧は開き直る。
「知っておりましたよ。どうせ、上様に掛かってしまえば、側女にされるんでしょう?同じでは有りませんか。職人かくノ一か等、些末な事でしょう?どうせ、私は相手にされないのですから。」
「霧。言ってる事が、支離滅裂なんだが?そもそも、弥助に不満でもあるのか?」
「ふんだ。弥助に不満などありません。上様には不満しかありません。」
「なあ、弥助。お前も村垣家の当主になるんだ、もう1人2人娶ったら?正妻を霧として、奥を仕切らせたらどうだ?」
「上様も人が悪いですねぇ。霧は上様の事が大好きですからねぇ、もう少し構って欲しいんですよ。」
「充分に尽くしてくれていると思うんだがなぁ……、何が不満なのか…。と言うかな、睦月、沙織、奈緒、瀬奈の4名は側女になりたいのか?男からしたら、ただの都合の良い女なんだが…。」
瀬奈は言う。
「側女にして頂けるなら、そんなに有難い事はありませんが、ただのお手付きでも構いません。お傍に置いて頂けるのなら、お好きな時に、お好きな様にして頂いて構いません。寧ろ、して下さい。」
「何?その面倒臭くない、都合の良い女宣言は。何でそんなに俺の傍が良いの?
俺なんか、女好きで節操のない、ただのロクデナシだよ?大体、お前達に許嫁はいないのか?」
沙織が言う。
「上様。一晩に、あれだけの人数の女を満足させられる殿方を、私は聞いた事がございません。英雄、或は傑物でなければ、有り得ない事だと思います。別に、甲斐性があれば、何人女を侍らせようと、問題ないのではないですか?それに、今は集落でも男より女が多くて、許嫁がいない者もいるのです。」
「でもさ、人数がおかしいとかは、思わないのか?それに、沙織も侍りたいと思っていたりするのか?」
「私は、御手隙の時に、お手を付けて頂けたら良いなぁと思っています。けど、人数が多いので、ご無理はなさらないで頂きたいです。侍りたいか?と聞かれたら、やはり、侍りたいですけど。
それに、私達は、血が濃くなる事を避けると、適当な相手がいないので、許嫁はおりません。ですが、上様の御子であれば、産んでみたい・・・です。」
「うーむ、話がおかしな方向に行ってしまったな。じゃ、里の人間は問題なく、入植出来るんだな。」
弥助が、蒸し返す。
「上様。逃げましたね?」
「弥助、裏切ったな。だってさ~、こんなに真っ直ぐな娘達を、俺が穢して良いとは思えないんだよ。皐月と弥生は、なんとなしにやっちゃったけどさ。」
「私達も、なんとなしで良いですよ。いつか、上様の御子が欲しいです。」
と、睦月と奈緒に言われてしまった。
もう、諦めよう。俺には、来るものを拒むのは無理だ。女の悲しそうな、泣きそうな顔って、反則だよね。俺には、絶対に嫌だと言えないもん。それに、俺には王女なんかより付き合いやすいんだよね。マリアは、付き合いやすいけど、リリアーナとか、ヘカテリーナとかとする時って心が痛いのよね。まあ、本人達が喜んでいるから、良しとしているんだけどさ。
「霧。取り敢えず、飯にしよう。今晩はここに泊まって、明日は一応、国境に壁を作って行こう。それが終わったら、カステールとパルミナの向こうに何が有るのか見に行きたい。」
「上様。カステールの向こうには、何もないですよ」
と、弥助が言った。
「海って事?」
「いえ、高い山脈が連なっていて、カステールより向こうには、山しかないです。パルミナは小国ですんで、近隣に小さな国がもう1つ有りますがね。」
「なんだ、ツマランな。」
「でしょう?」
「じゃ、明日から土木工事しちゃおうかな。皐月。風呂の支度をしてくれ。」
「はーい。」
「弥助、一杯付き合え。」
「待ってました。」
こうして、夕食の支度が始まったんだけど、こうやっていると、こいつらだけで良くなるな。あ、桜は欲しい。ミレーナにも魔法の先生やらせたいな。メアリーには騎士団を作ってもらいたいな。ユイとヘルミナとルミエールには城のメイドを纏めてもらわないといけないか。セリアは手放せないし。
ミリアとオリビアは店を移転させるし、工房もこっちに移すし、冒険者ギルド本部も移しちゃえばいいか。エルフェリーヌは、外交もあるから手放せないし。居なくても大勢に影響がないのは、王女達だけか。
でもな、今更、捨てられる訳もないわな。シャルロットにはメロメロだし、マリアは良い奴だし、リリアーナは可愛いし、メイリーナは居ると楽だしな。なんのかんのと、セレスティーナも見捨てられない程度には、惚れてるんだろうな。
あーもう止めた。考えるだけ無駄。どうせ、拒めないのだ。開き直って、みんなやってしまおう。これでいいのだ。と言いうか、それしかないのだ。放っておいたら堕神になりそうな、アリスよりは全然可愛いと言うものだ。
よくも人が集まったものだ、女ばっかり。男手が欲しいし、弥助の他にも飲み友が欲しいぜ。里には侍もいると言っていたな、会ってみたいな。
そんな事を考えながら、弥助と飲んでいたら、飯の支度が出来たので、食事にして風呂に入った。やはり、この日も収まりがつかず、皐月、弥生の2人とヘルミナとして、やっぱりセリアを頂いてしまった。セリアは全然大丈夫だと言っていたが、無理はさせたくないので、1回戦で我慢する事にした。あの4人?こんな状態で初めての娘としても痛いだけだろうから、今はしたくないんだよ。そのうち機会もある事だろう。
翌朝は、朝飯を済ませたら、船を国境近くまで移動させた。領境に杭は打ってあるんだけど、元々こちら側は人が住んでいない為、魔物避け程度の対策しかないのだろう。領境の杭があるだけ立派なものだ。
領境は、小高い丘になっているので、東西に壁を作っていこうと思う。入られたくないのと、土木工事を始めた時、見られたくないからだ。そこに高さ10mの断面が、】の形、つまり外側が丸くなるような壁を、長さ10mに渡って作って見せた。
「ミー。」
「はい。主様。」
「これと同じ様に作れるか?」
「大丈夫。出来るよ。」
「じゃ、俺はここから西に向かって作っていくから、ミーは杭に沿って東に向かって作っていってくれ。川や小川の所は、アーチ状に水が通る様にしてくれればいいから。」
「はーい。」
そう言って、ノーミードに手伝ってもらいながら、魔法で壁を作っていった。その間、弥助と霧、沙織と瀬奈は昼用の獲物を獲りに行った様だ。皐月と弥生は船のチェックと細かい補修。あとの4人は、マサキに付いて回っていた。物凄いスピードでマサキは壁を作っていくのだが、如何せん距離が距離、20Kmほど作ったところで、昼となった。
面倒だったので、【
この間、屋敷に戻ってゲートで来る、と言う生活にしても良かったのだが、なんとなく、この気楽なメンバーで居たかった事もあって、1度も屋敷に戻らなかった。霧は何か言いたそうだったが、気付かないフリをして誤魔化していた。だが、この間に結局4人とも抱いてしまったのは、言うまでもないだろう。
壁が出来上がったので、一応、カステール方面も見ておこうと、船を西へ向けるとゆっくりと進んで行った。
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マサキ達が、更に西に向かって飛び立った頃。
エルスローム王国の王城では、大騒ぎになっていた。政務官の1人が、王の執務室へ駆け込んだ。
「陛下!大変で御座います。」
サラビスは顔を上げると、首を捻った。
「なんだ、騒がしい。何があったのだ?」
「サンドルとセベインの執政官より、報告が参っております。サンドルとセベインの北側の国境に、巨大で長大な壁が出現したと。数日前に見回った兵士の話では、数日前には何も無かったのに、突如として出現したと。」
サラビスとコンスタンは、顎に手を当てて唸った。
「俺は、そんな事を出来る奴を1人しか知らん。」
コンスタンは言う。
「私は、そういう事が出来る人物を、1人だけ知っています。」
「だよなぁ……。」
「ですよねぇ……。」
首を捻る政務官に、サラビスは言った。
「サンドル、セベインに通達を出せ。慌てる必要はない、事の真偽及び動機は、こちらで確認すると。危険な物ではないはずだし、脅威でもないから、心配するなと伝えてくれ。」
「はっ!承知致しました。して、陛下と宰相閣下には、お心当たりが、お有りなのでしょうか?」
「「ああ。有る。」多分、マサキ君だよ。それしか考えられないし、彼のやる事なら、心配は要らない。王国の脅威になる事は決してない筈だ。」
と、コンスタンが付け足した。
「あー、あの御仁ですか。承知致しました。推測ではあるが、と付け加えて、伝達しておきます。その方が安心でしょうから。」
「そうだね。それで構わないよ。」
「はい!失礼します。」
そう言って、政務官は執務室を出て走っていった。
「今度は、何をしようと言うのだ……。」
「陛下、あれじゃないですかね。保養地。」
「ああ、そうか!そうだな!王国内じゃないから、言いに来なかったんだな。」
「あと、エクルラートに気を遣ったんじゃないでしょうか。」
「何故だ?」
「王国内だと、マサキ君は叙爵しなければなりません。大公爵と言えど、家臣になってしまいます。女王の嫁ぎ先が、家臣では不味いと考えたのではないでしょうか。」
「ああ、そういう事か。確かに微妙な話になってしまうな。エクルラートを我が国の下に置く事になってしまう。」
「頭のキレるマサキ君ですから、その位の事は考えているでしょう。」
「そうだな。取り敢えず、入れ物を作ってしまえば、後で考えれば良いと思っていそうだしな。」
「そうですね、状況次第で、色々な手段が取れる様にしているのでしょう。」
「また、話を聞いてみなければならんな。だが…、サンドルの北には、赤龍がいるのではなかったか……。」
サラビスは、遠くを見る目で、思いを馳せるのだった。
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