第66話 サービスサービス
この日の夜は、明日から学校だからと、ユリアナにせがまれてユリアナの部屋で寝る事にしたのだが、考えてみたら何か関係あるのか?ないよなぁ。そう思って、ユリアナに聞いてみたら、ただエッチをしたかっただけだと言われた。俺もチョロいな。
翌朝、風呂から上がって食堂へ行くと、制服女子が7人もいた。うん、どう見ても学校です。いつもの日常が帰ってきたような気がした。朝食を済ませて、7人を馬車で送り出すと、ミリアの親父の工房に向かった。メイド服を引き取る為だ。
工房に着くと、ミリアとオリビアの両親が、笑顔で出迎えてくれた。挨拶が遅くなって申し訳ないが、2人とももらったよと言うと、よろしくお願いしますと頭を下げられた。親父の名前をガッツ、母親の名をキャシーと言った。
「ガッツは、タチバナ商会服飾工房 工房長を名乗ってくれ。で、職人を増やして良い。そうだな、後進の育成も含めて4~6人は増やしても問題ないだろう。工房長の仕事は、品質に責任を持つことだ。必ず、自分の目で見て、品質をチェックしてくれ。」
「承知しました。それだけで良いので?」
「ああ、ある程度仕事が増えて来ると、組織化して分業しないと辛くなる。つまり、デザインを考える人、服を作る人、売る人は別の方が良い。それらを纏めて経営するのが、俺の仕事になるんだ。
工房長の仕事は、余分な事は考えなくて良いから、その分、どうやって短い納期で、品質の良い服を作るか。に集中してくれれば良い。」
「なるほど。それであれば、作る事に集中出来ますから、別の事に時間が取られなくて良いですね。」
「だが、今度は職人が増えると、1人で細部までチェック出来なくなって、品質が落ちる事になるから、キャシーと協力してやってくれ。質には、とことん拘ってくれ、それが信用に繋がり、やがてブランドになる。」
「承知しました。」
「じゃ、メイド服をもらって行くよ。」
メイド服を異空間収納に仕舞って、工房を辞した。帰りにミリアの店に寄ってみたら、大変な事になっていた。男の行商人が、大挙して店に押しかけていたのだ。
「ミリア。どうしたんだ?」
「あ、会頭。このメイド服の注文なんです。」
と、ミリアは自分が着ているミニスカメイド服を引っ張った。
「どの程度の数だ?」
「100着単位で、7件の行商さんが来ています。」
「数と行商名を紙に書いて、サインをもらえ。仕切りは1着5000リル。計算書を書いて、半券を引き換えとしてもらう様にしよう、割印を忘れるな。納期は、2週間。半金を前払い、半金を商品と引き換えとしよう。」
「はい。分かりました。」
行商の1人が声を上げた。
「商品もないのに、先に金を払えと言うのか!?」
「え、でも……。」
とミリアが困っていたので、助け船を出してやった。
「当たり前だろう。200着もの注文を頂けるのは、非常に有難い事だが、当然製作には費用が掛かる。そして、貴方は行商で、更に初取引だ。リスクを回避するのは、当然だろう。信用取引と言うのは、信用を積み重ねてから行うものだ。200着で100万リル、その半金の50万リルを前受金として頂いたところで、契約成立とさせて頂こう。」
「貴様、どういうつもりだ!何の権利があって、口を出している!」
「俺はこの店のオーナーだ。」
「なんだと!この店は、この女が開いた筈だ!嘘を言うんじゃねー!」
「俺が買い取ったんだ。俺の身分は、商業ギルドでも冒険者ギルドでも、なんならエルスローム王家でも保証してくれるが?」
「後悔しても知らないからな!」
「商品を仕入れに来たのに、金を持って来ていない訳だな?」
「・・・・くそっ!覚えてやがれ!」
と言って、行商の1人は去って行った。
「椿。」
「はっ!」
「今の奴の後を付けろ。目的を探り出せ、大方、ミリアが目当てと見たがな。」
「承知!」
ミリアが不安そうに言った。
「会頭。行商の方を怒らせて良いのですか?」
「道理の判らん行商と付き合っても良い事など1つもない。行商人と言うのは、本当に有難い存在なんだ。真っ当に、正直な商売をしてくれる行商人とだけ、付き合えば良い。今も工房で話をしてきたが、商品の品質には、徹底的に拘る様に指示して来たから、似た様な別の商品を、うちのだと言われて売られたりしても、困るんだよ。今度はうちの信用に関わるからね。」
これを聞いていた真っ当な行商人は、皆一様に頷いていた。行商人の話だと、全額前金の方が多いそうで、半金だと、より多くの商品を仕入れられるから、助かると言っていた。当たり前だよね、行商は常に旅をしているのだから、いつ引き取りに来るかも分からない訳で、掛かった費用がいつ回収出来るか分からないのだ。それだけに、全額前金と言うのも頷けるのだ。
では、何故半金にしたのかと言うと、より多くの服を仕入れて、売りに行ってもらった方が、その地方で勝手に宣伝してくれる事になるからだ。そうすると、より多くの注文を持って行商が戻ってくるのだ。
その時、また魅力的な別の商品を用意しておけば、また行商は喜んで売りに行ってくれるのだ。そうすれば、店も工房も行商も儲かるWIN×WINの関係になるのだ。これが、信用になるのだ。
と、言う事をミリアとオリビアに教えてやった。ミリアは、マサキとウンディーネが漉いた紙にメモを取っていた。
「なぁ、ミリア。王都に居ながらにして、港町マイルで商売が出来るって、素敵だと思わないか?それを行商人が可能にしてくれるんだ。」
「ああ、なるほど!そうですね。」
「だから、行商人は大事にしないといけない。が、それは相手に依りけりって事だぞ、行商は誰でも良い訳じゃない。」
「はい。覚えておきます。」
「今日、半金を払ってくれた行商は、ちゃんと覚えておくのだぞ。」
「はい。」
300着程度なら、すぐに渡せたのだけど600着は無理だったので、どの行商にも渡さなかった。それこそ、喧嘩になりかねないからだ。行商が来るのが、今日だけとも限らないしね。
その代わり、行商の1人は、女性用下着をかなり買って行った。メイド服より高いのに。それでも仕切り価格で2割は引いておいたのだけど、サイズ表記の考え方と作っておいた、バストとヒップの計測用紐を渡してやった。
ブラの着け方も、オリビアを連れて来て、ちゃんと屈んで胸をぶら下げた状態で、着けるとこういう風に、形の良い胸になると熱弁しておいた。この行商は、商品を見る目があると、ミリアにしっかり覚えておく様に言っておいた。
服のデザインもそうだが、生地がなぁ……。と考えると、綿と言うか、コットンと言うか、必要だなぁ。肌触りが良くて伸縮性があると言うと、綿をメリヤス生地にすれば、インナーもアウターも良い物が出来そうだけどなぁ。綿花か…水を食うんだよなぁ、あれ。
綿花、紡績、織機、和服が有るのだし、絹もあるのだ。どこかに有りそうだけどなぁ。まあ、和服は麻か絹なんだけども。まあ、今、考えても仕方がないと思い直し、ローレルに向かう事にした。
屋敷に戻ると、椿が帰って来た。
「上様。後を付けたのですが、ロクでもない奴らでした。如何しますか?」
「目的は、何だった?」
「えーと、店の乗っ取りと、ミリア、オリビアを手籠めと言うか、妾にすると言ってました。主犯は、カルメロ商会の会頭です。同じ服飾関係の様ですね。どうも裏で商売の邪魔をしていた様ですよ。」
「あー、だから上手くいってなかったのか。先に排除しておくか。」
「承知。ご案内します。」
椿の案内で、カルメロ商会へ行くと、行商人の奴と30代半ばのハゲがいた。悪い奴にはハゲにチョビ髭がよく似合う。
「よう、ゲーハー商会に改名した方が良いんじゃないか?」
行商の男が、
「あ、お前は!」
と言った。
チョビ髭ハゲ親父は言う。
「貴様は何者だ?ワシが誰だか分かっているのか?」
「知らんがな。」
「ワシは、オフォード伯爵家の三男でな、伯爵家に喧嘩でも売りに来たか?」
「ほう、じゃ、お前は俺を誰だか知っているか?」
「平民風情を、いちいち知っている訳がなかろう。」
「久々に聞いたなぁ、平民風情。俺は、Sランク冒険者主席マサキ・タチバナと言うんだが、知らないか?喧嘩云々言っていたが、伯爵家を潰して来れば良いのか?
普通の商人なら、多少自重しようかと思ったが、貴族家なら遠慮する必要はないな。」
「「え?」」
「え?じゃねーよ。そのオフォード伯爵家?へ連れていけ。」
行商人はあくまでも強気の様だ。
「後悔するぞ!」
「後悔ってのは、先にはしないんだ。早く連れていけ。チョビ髭。」
待っていても時間の無駄なので、チョビ髭と行商人の首根っこを捕まえて、外へ引き摺り出した。近くにあった、オフォード家とか言う伯爵家の屋敷に着くと、門から入ろうとしたら、門番に止められた。
「伯爵家に用があって来た。通るぞ。」
「少々、お待ち下さい。お名前を頂けますか?」
「俺は、Sランク冒険者主席マサキ・タチバナだ。」
「はい。ご案内します。」
チョビ髭を引き摺ったままだったのだが、門番には特に何も言われなかった。玄関まで来ると、執事に案内を交代した。そこで、マサキは執事に聞いた。
チョビ髭ハゲ親父を片手で掲げて、
「こいつは、伯爵家の者で間違いないか?」
「はい。御三男のカルメロ様です。」
「承知した。」
そのまま、カルメロを引き摺って連れて行った。応接室に入ると、初老の紳士が待っていた。
「これは、マサキ殿。スペンサーです。家のカルメロが何かやらかしましたか?」
「いや、このカルメロに喧嘩を売られたのでな、買っても良いか聞きに来たんだよ。こいつは、平民風情と言っていたが、オフォード家は、そういう認識か?」
「ああ、この馬鹿はまだそんな事を?」
「まあ、そこは本題じゃなくてな。本題は、俺の女が経営している服屋に、商売の邪魔をしていたんだ。で、俺が買い取ったんだが、また金も持たずに、無茶な注文をしに来てな、俺の手の者に調べさせたら、その店の女を妾にするのと、店の乗っ取りが目的だったんだ。因みに、その店の女は2人とも、俺の妻なんだよ。」
スペンサーは、頭を抱えてしまった。
「馬鹿な奴だとは思っていましたし、とても、オフォード伯爵家を名乗らせられないという事で、放逐したのですが、阿漕な商売をした挙句、オフォード家を名乗ったという事ですね?」
「まあ、そういう事だ。」
「私共は、貴方様と敵対する意思も御座いませんし、陛下にも聞いておりますし、我が息子が資材部で政務官をしておりますので、一方的にですが、貴方様の事は、よく存じております。ですから、そんな馬鹿な事は致しません。」
「あー、あいつか!彼には、俺がいつも苦労を掛けているんだ。これは、水に流さざるを得ないな。彼には、感謝しているんだ。」
「有難い事です。」
「じゃぁ、これどうしよう?」
と言って、2人を掲げた。
「その行商の男は、行商等ではなく、詐欺師ですので、当家から騎士団に突き出しましょう。カルメロは、うちで幽閉します。カルメロ商会は、マサキ様のお好きな様にご処分下さい。」
「だが、オフォード家の財産もあるのだろ?」
「いえ、放逐した時に持たせたお金だけで、一切援助はしておりませんので。」
「承知した。出来るだけ潰さない方向で考えるよ。従業員もいるのだろうしね。」
「流石ですね。商会の方はお任せします。私共は、二度とカルメロを外へは出しません。」
「分かった。では、そういう事で。失礼するね。」
そう言って、マサキは踵を返した。執事がマサキを玄関まで案内して行った。
マサキがいなくなった応接室では、護衛騎士が、詐欺師を捕縛して王国騎士団へと連行して行った。
「父上!お許し下さい!」
カルメロは懇願する様に叫んでいた。
スペンサーは、この期に及んで、まだ許されると思っている息子を、憐みの目で見ていた。
「もう父でもなければ子でもない。その歳になって、まだこんな事をしているのか!情けない。ジョージに感謝するのだな。ジョージがいなかったら、もうお前の首は飛んでいた。」
カルメロは、目を剥いて言った。
「たかが冒険者に、何が出来ると言うのです!?」
「まだ、分からんか!お前みたいな弟がいても、ジョージには苦労を掛けている、感謝していると、平然と言える御仁なのだぞ?普通はな、弟が駄目なら、兄も駄目だと思う物なのだ。
陛下が、王国の至宝、稀代の傑物と仰って、王女殿下を3人とも嫁がせた程の御仁なんだよ。お前如きが太刀打ちできる訳があるまい。」
カルメロは、観念した様だ。護衛騎士に牢へと連れて行かれた。
玄関を出たマサキは、カルメロ商会の従業員を、何とかしないといけねーよなぁと思いながら、歩いていた。カルメロ商会は、事務所の建物と店が別になっており、店を覗いて見ると、執事服や紳士服、メイド服や婦人服を主に取り扱っていた。下着類もあったりしたが、女性用下着とメイド服は危機感を覚えるわなと思うのであった。
カルメロ商会の事務所に入ると、番頭格の奴はいるか?と聞くと、どうもあの詐欺師が番頭だったらしい。じゃ、その次の立場の者は?と聞くと、店の店長だと言った。店長は男性だったが、わりとまともな人物らしく、元々服屋をしていたんだそうだ。が、経営が微妙だった頃に、カルメロに店長をやらないか?と誘われて、働き始めたとの事だった。
事務所と店の全員を集めて、今日からカルメロ商会はなくなり、タチバナ商会になった事を伝えた。給金については、当面は据え置くが、折を見て変えていく事を伝えた。ミリアの店と同じにしていくと。
事務担当者の女性から、それはいくらだと質問があったので、月々一律銀貨20枚と役職者には役職手当が付くと言ったら、大騒ぎになってしまった。毎月銀貨10枚程度しか貰っていなかった様だ。店長も15枚しか貰っていないと。工房も有る様で、職人も同じかと聞かれたので、同じだと伝えた。職人はもっと少なかった様で、これで職人離れが無くなると喜んでいた。
工房は、合併しても良いかも知れん。品質の面でバラツキは出したくないしね。店長には、執事服と紳士服、男性用の普段着や下着に絞れと指示を出した。女性用は、ミリアの店でやるからね。当面は、給金だけは弄っていくが、今の体制で頑張って欲しいと伝えた。そのうち、場所を変えて大きな店舗と工房を用意すると。
店長には、カルメロ商会の看板を全て撤去するよう指示をして、タチバナ商会の看板を発注するよう伝えた。その足で、商業ギルドに行き、カルメロ商会の消滅とタチバナ商会が引き継いだ旨を伝え、店長のホレスをタチバナ商会の役員として登録をした。
そのまま、ミリアの店に行き、ホレスを紹介して、ミリアが副会頭で、ミリアとオリビアがマサキの妻である事を説明し、運転資金や従業員の給金は、ミリアの所に取りに来るよう指示をして、ホレスを店に返した。
「会頭。今日は、ローレルに行ったのではなかったのです?」
「ああ、あの馬鹿な行商いただろ?あいつ、ちょっとおかしいと思って、椿に後を付けさせたんだ。そうしたら、カルメロ商会が、この店の乗っ取りと、お前達2人を妾にする計画だったらしい。それで潰して来たんだけど、そのまま手に入れて来たんだ。」
「ああ、私達が危なかったのですね。護ってくれて有難う御座います。」
「妻を護るのは、当たり前だろう。」
「でも、嬉しいです。また、サービスしちゃいます。」
「む、それは大歓迎だがな!それはそうと、前から商売が上手くいっていなかったのも、カルメロの野郎の妨害があったみたいだぞ。」
「そんなに前からだったんですか……。」
「まあ、妨害がなくても、赤字じゃない程度の商売だっただろうがな。」
「そうですね。このショーウィンドーとか斬新ですね。外でお客さんが見て、中に入ってくる人数がかなり増えました。売り上げも順調ですし。やり方次第なんですね。」
「そういう事だ。もう夕方か、俺は屋敷に戻るが、2人はどうする?」
「一緒に帰ります。」
と言って、店の戸締りを始めた。
屋敷へと足を進めながら、思うのだった。結局カルロスの所に、行けなかったなぁと。明日は、迷宮で女性用下着を取ってから、一緒に売りに行こう。きっとカルロスは喜ぶはずだ。
そんな事を考えながら、屋敷に戻ったのだが、風呂に入って晩飯を食べて、一休みしてから、サービスしてくれると言う、ミリアとオリビアと3人で寝る事にした。
ん?サービスの内容?
知りたいか?知りたいよな??知りたいはずだ、健康な男性諸君!!!
だが、それは教えられないな。我が妻の痴態を、公表する訳にはいかないのだ。
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