第64話 瞬剣のヘンリー

 朝、ベッドの中で考えてみた、ラーメリアがこのままだとすると、カステールとの間を分断されてしまう。それは上手くないが、致し方ないと思うしかないのだろうな。大森林に阻まれたエクルラートと同じと考えれば良いか。


 この世界で最大の大国は、エルスロームだが、ラーメリアは、それに次ぐ規模なので大国には違いないのだ。エルスロームは広大な国土を持つが、北は未開の森林と竜の聖域と呼ばれる場所があるだけで、南北に国はない。


 そのエルスロームの、南部3/4の位置から南の西隣にガイザス帝国がある。そして、エルスロームの北部1/4位の西隣から帝国を包み込む様に国土を持っているのが、ラーメリアなのだ。


 そのラーメリアの北半分の西隣にカステール王国があって、その南隣にパルミア王国があるのだ。つまり、エルスロームとカステール、パルミアは、ラーメリアに依って分断されている、と言う事になるのだ。ラーメリアの機嫌を損ねるのは、各国共に上手くないのだ。


 エルスロームは、東にエクルラートがあるだけなので、大国と言う事以外に脅威はないのだが、大陸のほぼ中央に南北を分断する形で鎮座するラーメリア王国は、それだけで脅威なのだ。サラビスとコンスタンが無視出来ないと言う訳だな。


 ラーメリアの国王があそこまで高飛車になるのは、致し方ないのかもしれない。だがしかし、マサキは、国王でも貴族でもない。しかも、空を飛んできているのだから、ラーメリアが南北を分断していようが関係ないのだが、それが理解出来ない程の愚王なのか?


 リリアーナを見る限り、そうとも思えないから判断に困るのだ。愛する娘の前で、舞いあがっていただけの様な気もしなくはないが……。寧ろ、そうであって欲しいと、マサキは願うばかりなのだ。


 そんな事を考えていたら、エルフェリーヌが目を覚ました様だ。

「ねぇ、朝から難しい顔をして、何を考えているの?」


「ん?現在の世界情勢。」


「うそ、どうせあの愚王の事でも考えていたんでしょ?そんな事、考えなくて良いから、もう1回しましょ。」

と言って、エルフェリーヌが覆い被さって来た。


「フェル。いつからそんなにエロくなったんだ?」


「だって、こんなに気持ちが良い物なんて知らなかったんだもん。貴方が私をエッチにしたの。責任、取ってね。」


「まあ、そんな責任なら取るのは、やぶさかではないが……。」

と言って、朝から裸の闘いが繰り広げられるのだった。


 エルフェリーヌと1回戦して満足したマサキは、朝風呂に入る事にした。屋敷の風呂と比べたら猫の額程度の大きさだが、6人程度は入れる大きさはあるのだ。体を充分に伸ばして入れるので、気持ちが良いのだ。精霊達が世話を焼いてくれるのも快適だ。


 風呂から出て、朝飯でも食おうと食堂へ行ったのだが、王女達に白い目で見られてしまった。何?何なの?と思っていたら、シャルロットが口を開いた。


「旦那様?昨日、王城でやっちゃったんですって?」


「ああ、最初から喧嘩腰だったしな。」


「じゃ、仕方ないですね。」

と、シャルロットは納得した様だ。


「えーー?シャルちゃん、それで納得して良いの?リリアちゃん置いて来ちゃったんでしょう?」

と、セレスティーナが慌てた。


 シャルロットは言う。

「多分、旦那様は、リリアちゃんが御父上と喧嘩別れして来るのは、良くないとお考えになったのでしょう。だから置いてきたのではないでしょうか。後で迎えに行けば良いのですし。」


「えー、でも、あの娘ちゃんカワユス親父じゃ、幽閉されちゃうかもしれないじゃない?」


 マサキは頬杖を突いて、大きく息を吐いて言う。

「ばーか。リリアは、俺のクラスで1番真面目で勤勉な生徒なんだぞ?」


「え、どういう事ですか?」

と言った瞬間、ドカーンと言う轟音と共に、城の外壁の一部が吹っ飛んだ。

「こういう事だ。リリアを幽閉なんて出来る訳ないだろう?」

と言って、マサキは甲板に出て行った。


 マサキが、甲板に出ると、城の頂上に開いた壁の穴から、リリアーナがマサキに向かって、躊躇なく跳んだ。両手を広げて、真っ直ぐマサキの元へ。落ちるなど微塵も考えもせず。

「せんせー!大好きでーす!」

と言いながら。


 マサキは苦笑を浮かべると、頭を掻きながら【浮遊フロート】で浮き上がっていき、リリアーナを正面から抱き留めた。


 それを見ていた同級生組は、複雑な顔をしていた。


 マリアが言う。

「何?この、リリアちゃんがヒロインで、私達がその他大勢の物語の様な展開は。恰好良いけど、リリアちゃん狡い!!」


 ヘカテリーナも言う。

「まるで、一幅の絵画の様ね。私も城に穴開けて、飛び降りてみようかしら?」


 ユリアナは、困った顔をして、

「私は、城がないから井戸に飛び降りる感じですかね?」

と言った。


「「ユリアちゃん、それは悲しいからやめよ?ね??私達も我慢するから!!」」


 セレスティーナとシャルロットは、腹を抱えて笑っていた。シリルは、私も井戸かしら……と笑っていた。


 リリアーナを抱いたまま、甲板に降りて来たマサキは、リリアーナを降ろすと聞いた。

「何があったんだ?」


「お父様が、私を城の1番上にある部屋に幽閉しようとしたので、壁に穴を開けて逃げて来ました。」


「話、出来なかったのか?」


「なんて言うのか、私に執着していて話が通じないのです。」


「子離れ出来ない親父……か?」


「はい。情けない事ですが…。」


「この国には、宰相の様な立場、或は、王の兄弟や王子等はいないのか?この場合、幽閉するべきは、リリアでなくて、王なんだがな。」


 などと、話をしていたら、騎士団に船を囲まれてしまった。マサキは、大きく溜息を吐いた。囲んでいる騎士団を甲板から見回して、船首から声を掛けた。


「えーと、責任者はいるかー?」


 騎士団長が前に出た。

「私が騎士団長だが?」


「どういうつもりなのか、聞いても良いか?」


「王の勅命により、リリアーナ王女殿下を誘拐犯から保護し、誘拐犯である冒険者マサキ・タチバナを捕縛し、処刑する!」


 マサキは、天を仰いだ。

「騎士団長。お前は自分が何を言っているのか、理解しているか?理解した上で、俺に喧嘩を売っているのか?」


「冒険者風情が何を血迷い事を。理解しているに決まっているだろう。」


「じゃ、ラーメリア王国として、俺に宣戦を布告したと言う事で良いのだな?」


「宣戦布告だと?そんな大袈裟な物である訳がない。これは、ただ、犯罪者を捕縛しに来たに過ぎん。」


「出来ると思うのか?」


「出来ない訳がなかろう?」


「分かった。ならば、死にたい奴から掛かって来い!」

そう言って、マサキは船から飛び降りた。


 異空間から大小を取り出し、腰に差し落とした。刀の鞘を握って、鍔に左手の親指を掛け、鯉口を切った。マサキを囲んでいる騎士全周に殺気を放った。正気で立っていられるのが、何人いるかなぁと、のんびり考えていた、その時。


「やめんかー!!!馬鹿者め!!!!」

と、走って来る男がいた。ん?ステファン?ではないな。


 男は、走って来て騎士団長の前に出ると、騎士団長をぶん殴った。マサキは、豪快な男だなと微笑ましく見ていた。


「貴様ら!国を滅ぼす気か!?」

と、殴った騎士団長に怒鳴った。


「公爵様、この者を捕えよとは、王の勅命ですぞ!?」


「馬鹿か、貴様ら!!そんな事が出来る訳なかろう!そんな事も分からんのか!?兄上が何をとち狂ったか知らんが、大方、リリアーナを嫁に出したくないだけだろう。相手を考えろ!」


「たかが、冒険者じゃないですか。何を恐れているのです?」


 公爵と呼ばれた男は、額を押えて騎士団長に言った。

「たかが、だと?相手は、Sランク冒険者主席なのだぞ?それも、史上初めてと言われる5Sの実力を持つ、世界最強の冒険者なのだぞ?王国騎士団が全員で戦っても勝てぬわ!もし、この方が気の短い御仁であったならば、この街は既に灰燼と帰しているわ!馬鹿どもめ。」


「ですが、しかし、王命ですので……。」


「馬鹿が……、国が無くなれば、王も騎士もなかろう!頭の悪くて固い男だな。」

そう言うと、公爵はマサキに向き直った。


「私は、ラーメリア王国にて公爵を務めます、王弟のヘンリー・フォン・ラーメリアと申します。此度の不始末、責任を持って対処致します故、少々、お待ちいただく事は可能でしょうか?」


「ああ、構わないよ。このままじゃ、リリアーナが可哀相だしね。」


「有難く。」

ヘンリーは振り向くと、

「騎士団は直ちに、詰所に戻って謹慎致せ。兄上には、私が話をしに行く!」

と言って、城に向かって歩いて行った。


 マサキは、船の甲板に戻ると、リリアーナに話し掛けた。

「リリア、お前、公爵が来るのを知ってただろ?」


「はい。幽閉された時、執事に叔父様の所へ走らせました。ですが、いつ来れるか分かりませんでしたので、飛び降りてしまいました。」


「ヘンリーと言ったか、頭のキレそうな人だな。」


「ええ、叔父様は凄く頭が良くて、父より王に向いていると思います。いつも味方になってくれる、優しい叔父様なのです。」


「ほほぅ、大好きな叔父様と言ったところか?」


「ええ、父には子が私しかいなくて、叔父様には、男の子しかいませんので、本当の娘の様に可愛がってくれました。魔法学校に行きたいと言った時も、父は烈火の如く反対しましたが、叔父様が全て手配して下さって、行かせてもらえたのです。」


「と、言う事は、魔法学校なんかに行かせたから、悪い虫が付いたとかなんとか喧嘩になっていそうな気がするな。まあ、悪い虫は事実だが……。」


「この半年、マサキ様の事ばかり考えて、お嫁さんにして頂く事を夢見てきました。本当に大好きなのです。だから、悪い虫なんて言わないで下さい。」

と言って、リリアーナはマサキに抱き着いた。


 マサキは思う、悪い虫だよなぁと。エルスローム王国の王家フィーベル家の娘、3姉妹全員だよ?王妃まで奪ってしまった鬼畜だよ?担任したクラスの女子生徒全員だよ?それに、ムラムラしたらメイドにも片っ端から手を付けているし、自重しようと思ったのに、皐月と弥生もやってしまったし。本人が望んでいると言ってもなぁ、最早、俺の下半身は、別人格を持っているのでは?と、疑ってしまいそうなのである。


 リリアーナの真っ直ぐな愛が、心に痛くても仕方のない事だろう。今更、貞操堅固になんて出来ないし、マサキは、如何した物かと悩むのである。マリアみたいに軽ければなぁなんて思っていたら、マリアに言われてしまった。


「マサキ様?リリアちゃんを抱き締めながら、私を見て、物凄く失礼な事を、考えていませんでしたか?」

 マリア鋭い!


「そんな訳ないだろう?マリアは可愛いなと思っただけだぞ??」


 マリアは半眼で言う。

「へぇ、リリアちゃんを抱き締めながらねぇ……。まあ、良いです、私も城から飛び降りたら、ちゃんと抱き締めて下さいね?」


「分かった、船から突き落としてやるね。」


「ちがーーう!」


「そうか、スカイダイビングエッチとか斬新じゃない?」


「なんで、そんなアクロバティックなエッチを考えるんですか?」


「ん~~?マリアだから?」


「えー、普通に愛して下さいよ!!」


「うむ、善処する。」


 なんて、アホな会話をしている間中、リリアーナは顔を赤くして、マサキの腕の中で胸に顔を押し付けていたのである。可愛いよね。


 俺の女はみんなエロいんだが、エロ話をしても問題ないのは、まだ乙女なマリアだけだし、手を出しちゃいけない雰囲気を持つプリティ担当のリリアーナは、貴重だと思う。ヘカテリーナはどう変身するか楽しみな感じかなぁ。マリアとヘカテリーナは、体がエロいんだ。曲線がね。リリアーナは、エロいと言うより、綺麗な曲線を描くんだ。


 そんな不謹慎な事を考えていたら、執事が走って来た。リリアーナが爺と呼んでいた人物だ。30半ば位だろうか、すらっとした立ち姿に所作が美しい。デキル男と見た。


 そんな執事が、王の執務室へ来て欲しいと言うので、また6人で向かう事にしたが、大丈夫だろうか。6人と言っても、リリアーナ付きのメイドが行方不明なのだけど。


 執務室に入ると、ステファンが縛られていた。ヘンリーがやったのだろう。ヘンリーには武術の心得もありそうな気がする。騎士団長を殴った時の拳は、普通痛い筈なのだが、全然平気だったからね。


 3人でソファに座り、3人が後ろに立った。リリアーナ付きのメイドは、いつの間にか忽然と現れていた。デキル!


 向かい側にヘンリーが座り、縛られた王を横に座らせた。

「お待たせしてしまって、申し訳ない。このバカ兄貴の所為で、気分を害してしまって重ね重ね申し訳ない。此度の来訪の趣旨をお聞かせ願えますか?」


「やっと普通に話が出来るのか。ならば、まず、今回来た目的は、エルスロームの王都で結婚式を計画しているので、是非、出席して欲しいと言う、お願いだ。

 で、遠方である事もあって難しかろうと思って、空飛ぶ船を造ったから、迎えにくるよと言う話だよ。

 空の旅が良ければ、ここからだと半日もみてくれれば、エルスには到着するし、時間が無ければ、俺の魔法を使えば、1分程度で移動出来るから、1日、2日の時間を作ってくれさえすれば、家族みんな来られるよ。と言う案内だね。」


「え?その話をするだけで、あの大騒ぎですか?」


「その話にもならなかったんだよ。挨拶の時点でもうアレ。」


 ヘンリーは、天を仰ぎ、向き直った。

「王族が争うのは、国が乱れる元になりますから、兄がやる事には、口を出して来ませんでした。が、これでは、国のと言うか、民衆の将来に不安が残る……。

 王は兄のままで、私が摂政に就こうと思います。恐らく、騎士団長と同じ様に、宰相もイエスマンと化している事でしょう。私が、窓口になりますので、何でも仰って下さい。」


 マサキは、心配顔になった。

「だが、それだと暗殺の恐れはないか?」


「大丈夫ですよ。私、騎士団長より強いので。冒険者を暫くしていましてね、ですが王族だとなかなかそうもいきませんで。父に呼び戻されてしまったんですよ。」


 後ろでエルラーナが声を上げた。

「あ!瞬剣のヘンリー!?」


「そうですよ、グランドマスター、緑麗の魔女。」


 エルラーナが嫌そうな顔をしたので、マサキが言う。

「エルラーナ。魔女ってな、お前が思っている意味じゃないぞ。魔法の魔だぞ。『緑色の似合う麗しい最強の魔法使いの女』の略だぞ。」


「え?そうなの?」


「そうですよ。何だと思ってたんです?」


「バケモノ扱いの魔女だと、ずっと思ってた。」


「ははー、確認しなかったんですね?」


「ローレルの冒険者とか、みんな知ってたぞ?みんな尊敬してたし。」


「知らなかったの私だけ?」


「んだな。」

「そうですよ。」


 エルラーナは、嬉しそうな悔しそうな微妙な顔をしていた。


 それから、エルフェリーヌがエクルラートの話をして、国交の言質は取れた様だし、政策の話では、ステファンも文句はない様だ。要するに、リリアーナを取られると思って、色々拗らせていただけの様だ。


 エルフェリーヌが老獪だと思うのは、今、何もない状態で言質を取っている事なのだ。俺が国を造ろうとしている事をエルフェリーヌは知っている。そして、エクルラートとエルスロームを繋ぐ何かを考えているだろうと、予想をしている。だから、今、言質を取っているのだ。インサイダー取引みたいだが、問題なかろう。


 ヘンリーも話は合いそうだなぁ、カルロスと3人で飲んだら、面白そうだなぁ。と思いながら、日程が決まったら知らせに来ると、話をして帰る事にした。


 リリアーナに聞いた話だと、あの出来そうな執事の名前は、セバスチャン・ボルダーと言うらしい。ついに、セバスチャン発見。連れて帰ろうと言ったんだが、リリアーナが家族がいるから駄目だと言うので、城を造ったら呼べば良いだろうと思う事にした。


 よくよく考えてみたら、地球には、ドイツ人にセバスチャンて結構いるよね。まあ、セバスチャンは、なかなかいないだろうが。


 船に乗り、上昇してエルスに向けて出発した時、エルラーナに聞いてみたんだけど、あのヘンリーは元Sランク冒険者なんだそうだ。二つ名がある位だしな。ワイバーン程度ならソロで倒す強者つわものらしい。暗殺の心配は毒位か、大丈夫そうだな。



 そんな話をしながら、エルスローム王国の王都エルスに船を向けたのである。夏休みは、あと3日。3人の引っ越しを済ませてしまおう。リリアーナの引っ越しの許可?取ってませんが何か?


 もう、リリアーナは俺のもんだと、宣言して来たのだから問題ないのだ。そもそも、婚姻届けなどないのだから。もう、婚約者と言うより、限りなく嫁に近い立ち位置なのだ。女神像の前で誓いを立てていないと言うだけなのだ。


 一緒にお風呂とか?無理だよなぁ、マリアとイチャイチャして紛らわそう。






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