第63話 姫殿下

 カステールに向けて航行中、恐らく2時間も掛からないであろう道のりなのだけども、何となく疲労感があったので、休憩をしたかった。でも、すぐ着いちゃうよね……。


 マリアを呼びたいが、どこにいるのやら……。伝声管でも、付けておけば良かったかな。


「弥生。マリアを呼んで来てくれないか?」


「承知しました。」

と、返事をして、弥生は操舵室から出て行った。


 船長席に座って、目を瞑って休息を取っていると、弥生がマリアを連れて戻って来た。

「マサキ様?どうしました?」


「ああ、マリア。王都のカストは、船で行って大丈夫かな?」


「それは、先生流に言うと、気にしたら負けでしょう。」


「それもそうか。王城に船が降りられそうな場所ってあるか?」


「騎士団の訓練場に降りちゃえば良いですよ。自由人の先生らしくないですね。」


「そりゃ、マリアを貰いに行くんだからさ~、一応、気を遣っておかないと、やらんとか言われても困るじゃん?俺はマリア欲しいし。」


「もう、全部あげます。好きにして下さい。」


「なんて魅惑的な言葉なんだ!もう俺んだからな!返さないからな!」


「何なら今からします?」


「なん・・・だと・・・?」


「だって、シリルちゃんは、もうらしいじゃないですか?」


「シリルが言ったのか?」


「いえ、セレスちゃんです。」


「まあ、シリルともするが、1番のエロ好きはセレスだぞ?」


「あー、それは自分で言ってました。私は我慢できないって。シリルちゃんも結構好きって言ってましたよ。」


「まあ、うちには、エロい女しかいないらしいな。マリアもエロエロだしな!」


「私は、まだした事ないですよ~。早くして下さい。」


「今からしちゃうと、王城着いた時、歩くのが変になるぞ?」


「う、それは、ちょっと恥ずかしいですね。」


「挨拶が済んだらしようか。今日、マリアを屋敷に引き取る話もしようと思ってんだけど、反対されるかな?」


「何とも言えませんね。エルスのお屋敷は、買い取った屋敷なので、家賃とか掛かってませんし。」


「マリアは兄弟姉妹はいないのか?」


「お姉様と弟が2人と妹がいますけど、エルスにいるのは、私だけです。」


「マリアはどうしたい?卒業まで、今のままでも良いが。どうせ半年なんだしね。」


「私は早く、先生と暮らしたいです。もう、学校には来ないでしょう?」


「まあ、もう先生はないな。」


「じゃあ、一緒が良いです。」


「まあ、反対がある様なら、ちょっと脅かしてやるか。」


「ぷっ!」



 そんな話をしていたら、カステール王国の王都上空に来たので、微速前進で王城の訓練場を目指した。下では、騎士がやはり大騒ぎをしていたが、マリアに手を振らせたら治まった。


 ゆっくりと着地させると、魔導力を切って、階段を降ろした。メンバーは、ヘカテリーナがマリアに変わっただけで、メイドもヘカテリーナ付きからマリア付きに変わっただけだ。6人が降りて階段を収納すると、騎士団長と思しき人物が声を掛けて来た。


「マリア姫様。これは何の騒ぎです?」


 マリアは、ちょっと姿勢を正して、

「ただいま戻りました。騎士団長、私の恩師にして、婚約者のタチバナ様をお連れしました。父王様にお取次ぎを。」

と、言った。


「はっ!承知致しました。」

と、騎士団長が敬礼をした。マリア、恰好良いぞ。やっぱり姫なんだよなぁ。マリア姫だってよ。普段はまるっきりJKなんだけどなぁ。体は、超大人だけどな!!


 そんな事を考えながら、騎士団長に案内されながら、マリアが俺の左腕を掴んで歩いて行く。うん、マリアが保護者だな。こういう時の姫連中は恰好良いんだ。セレスティーナとか、堂々として恰好良いんだぞ~。マリアも負けていない。育ちの良さが滲み出ているね。赤髪美女で、良い体していて、エロトークOKなんだぞ?きっとマリアは、俺の嫁になる為に生まれて来た女なんだな。間違いない。


 マリアに引き摺られながら、着いて行った先は、やはり執務室。ちーすとでも言いそうな感じで入りそうになっちゃった。執務室に入ると、先に騎士団長がソファを勧めてくれたので、左にマリア、右にエルフェリーヌの体勢で座った。


 騎士団長が、王に話をしに行った様だ。机に向かっていた王が立ち上がり、ソファに来て座った。

「ようこそ、カステールへ、タチバナ殿。お初にお目に掛かる。マルキアス・フォン・カステールと申す。以後、良しなに。」


「Sランク冒険者主席、マサキ・タチバナと申します。以後、お見知りおきを。」


「エクルラート女王国の現女王、エルフェリーヌ・ル・ラ・エクルラートと申します。こちらも、お見知りおき下さい。」


「おお、エクルラートの女王殿で在られたか。これは失礼を。」

「えー?先生、私聞いてないよ!」


「マリアが聞いていなかっただけだろ?昨日も、そんな話をした筈だがなぁ。」


「あ……れ?」


「うむ、いつものマリアに戻ったな。さっきまで誰かと思ってたぜ。」


「う、酷い…。」


「何言ってんだ、その方が可愛いぞ。」


 マリアが嬉しそうに顔を赤くした。

「えへぇ・・・。」


「マリア姫、顔がだらしなくなってるぞ?マリア姫。」


「うへ、2回言われた。気を付けます。」


 と、此処からは、パルミナ王国でした話と全く同じ話をした。エルフェリーヌも同じ事を言っていた。所詮、外交なんて、こんな物なんだろうか。条件の変わる案件なら、色々話もあるだろうが、挨拶だけだし、こんな物だろう。


 マルキアスも、概ね好感を持って迎えてくれたので、話はしやすかった。結婚式にも来てくれると言うし、マリアを屋敷に引き取る事も了承してもらった。卒業まで妊娠はさせないと言う約束はしたけどね。そんな事は、俺もさせたくないので、問題ない。


 エクルラートについては、やはり認識がサラビスやアルジャーノと大差なかった為、交流出来る様になった時には、是非、交流を進めましょうと、言質を取っていた。エルフェリーヌは、なかなか老獪だな。


 エルスの屋敷は、弟と妹がまた受験するから問題ないそうだ。マリアの姉ちゃんも魔法学校出身らしい。国交がないから、迂遠な方法を取っているんだな。これも少し考えよう。


 会談は1時間程度で終わった。午後4時、微妙な時間だよなぁ……。取り敢えず、船に戻り、階段を降ろして6人とも乗船を終え、邪魔になるので、上昇させた。


 一応、ラーメリア方面に船を進めているのだが、到着予定時刻が5時半位だろうと思うのだが、どうしたものか。


 一旦、上空で静止させ、配下以外を食堂に集めた。

「今から、ラーメリアに行くと、夕方になっちゃうんだけど、そこら辺に船を降ろして、1泊して朝から行くのが良いか、今からラーメリアに行って、街で1泊するのが良いか。どう思う?因みに、この船は夜間飛行を想定していないので、夜は飛ぶつもりはない。」


 リリアーナが、口を開いた。

「王城に船を降ろして、王城にお泊り下さい。」


「いや、急な訪問だし、人数が多いし、迷惑この上ないだろ?40人もいるしな。」


「いえ、大丈夫だと思います。」


 メイリーナが言う。

「ねぇ、貴方。船に居れば生活出来るのだから、王城に降りる事が出来れば良いのではない?迷惑なら船で寝ればいいのだし。トイレはこっちの方が快適だし。」


「それもそうか。リリア、王城に船が降りられる場所はある?」


「はい、城の中庭に降りられると思います。」


「中庭か、大丈夫かなぁ。ま、行くだけ行ってみようか。」


 そう言って、再び、全速前進を指示するのだった。


 大体1時間半と言うところで、ラーメリア王国の王都ラーマが見えて来た。速度を微速に落とし、王城方面へ向かった。ここで、リリアーナを連れて甲板に出て、中庭を教えてもらった。マサキは、操舵室に戻って、中庭へ着陸させようと操船していたが、広さが微妙だったので、慎重に降ろしていった。


 ゆっくり、ゆっくろと下降させていき、リリアーナに手を振らせ、そーっと着地した。船から降りる前に、リリアーナと少し話をした。


「リリア。リリアは1人娘と聞いているが、溺愛されていたりする?」


「そうですねぇ、お父様は、ちょっと鬱陶しい位かもしれません。」


「リリアは、早く俺の屋敷に来たいとかある?それとも、卒業までは、今の屋敷から学校通う?」


「私は、一刻も早く、マサキ様の元へ行きたいです。」


「うーむ、今日は挨拶がてら、リリアを俺の屋敷に引き取る話をしようかと思っていたんだが、親父が面倒な感じか?

 書簡にあった、『1人娘を差し出しても良い』と言う台詞が、気になって仕方ないのよな。俺は、その差し出すって言葉が好きじゃないんだ。なんか人質みたいじゃないか。そこがどうも気になるんだよなぁ。」


「そんな事が書いてあったのですか?」


「まあな。そうなると、俺の屋敷に引き取る代わりに条件が出される可能性もあるし、慎重にならざるを得ないかなと思うんだ。正直なところ、リリアみたいに真っ直ぐ愛してくれる娘に、悲しい思いはさせたくないのだけど、最悪、決裂する可能性があるんだよなぁ。」


「大丈夫です。先生を大好きになったのは、私の意思です。どうせ私は、マサキ様以外に嫁ぐ気は有りませんから、問題有りません。」


 この娘は、真面目で清楚な心優しいお嬢様なのだが、意思の強さが凄いのだ。頑固ではないのだけど、目標が決まると妥協しない。方法は色々考えるし、人の意見も聞くのだけど、最後の答えは自分が決断する強さを持っている。良い娘なのだ。そして、均整の取れた、見事なプロポーションの持ち主で、純白のワンピースが似合いそうな、正統派清楚美女なのだ。


 俺みたいな、薄汚れたロクデナシが触ろうとした瞬間に、オーラに阻まれそうな雰囲気を持っているのだ。一生触れる事が出来ないんじゃないか、と疑ってしまう程なのだよ。とても、エロ話が出来ると思えない。どうしよう?


 なんて言うか、ザ・王女って事なのかなぁ。日本に居た頃の、俺のイメージだと王女と言うのは、色々と謀略を働かせて、阿漕な事をしているイメージしかないのだが……。俺が曲がっているだけか。


 何にせよ、超お嬢様なんだな。俺の手で汚してはいけない気がするのだけど、今更止めようとは言えないよなぁ。俺が密かに進めている国造り計画は、俺の周りにいる奴らが、笑って生きていける国を造ろうと言う物なのだ。そんな中で、自分の女が悲しい思いをするのは、やっぱり違うだろうと思うのだ。まあ、まずは会ってみて、話をしてみない事には始まらないな。と、下船する事にしたのだ。


 甲板に出て、階段を降ろし、リリアーナとメイドを先頭に、6人が降りて行った。そろそろ、日が沈むと言う頃合いで、やっぱり迷惑だよなぁと思いながらも、リリアーナの気持ちを優先しようと思うのだ。


 周りにいる騎士に交じっていた執事が、近寄りリリアーナに一礼した。

「リリアーナ殿下。お帰りなさいませ。」


「ただいま、爺。マサキ・タチバナ様にお越し頂きました。お父様は、今、お手隙ですか?」


「はい。未だ執務中かと。」


「お会い出来ますか?」


「では、ご案内申し上げます。」


 リリアーナに左腕を掴まれて、引き摺られて行く。これはもうデフォルトだな。リリアーナも堂々としたものだ。1番王女っぽいのよな。真面目で勤勉、清楚で素直、俺には壊せないぞ!と思いながら、引き摺られて行くのである。


 王の執務室に入ると、リリアーナの親父が待ち構えていやがった。

「ようこそ、ラーメリア王国へ。国王のステファン・フォン・ラーメリアである。」


「Sランク冒険者主席、マサキ・タチバナだ。以後、お見知りおきを。」


「エクルラート女王国、女王エルフェリーヌ・ル・ラ・エクルラートと申します。お見知りおき下さいませ。」


 ステファンは、驚愕の表情を浮かべた。

「女王殿?」


「ええ、この度、マサキ様に嫁ぐことに致しましたので、ご挨拶をと。」


「エクルラートの女王ともあろうお方が、冒険者に嫁入りすると?」


「一介の…。随分、馬鹿にされましたわね、マサキ様?」


「別に良いんじゃね?冒険者なのは本当だしな。だが、まあ、俺に対する認識の程度は分かったよ。話す事は何も無くなったな。差し出すと言う言葉の意味も分かったし、帰るか。」


「そうですわね。話をするだけ無駄ですね。」


「取り敢えず、言っておく。リリアーナは俺の嫁にもらい受ける、異論も反論も認めない。これは決定事項だ。それじゃあな。」

と言って、踵を返した。


 ステファンが顔を真っ赤にして怒り狂ている。

「無礼者!!貴様、何様のつもりだ!!!」


 マサキは、振り返ると、のんびりした口調で言った。

「その言葉、そのまま返してやるよ。1国の王など、俺の前では無価値だと知れ。

 今日、態々挨拶に来たのは、リリアーナの為だ。それ以上でも以下でもない。たかが一介の王如きに下げる頭なんか持ってはいない。俺は、たかが王などではなく、リリアーナの親父に会いに来ただけなんだけどな。」


 リリアーナは、怒っていた。拳を握り締めて、俯いて震えていた。

 やっちまったからなぁ、そりゃ怒るわな。と思ったんだが……。


。いつから、そんなに傲慢になられたのですか?マサキ様に掛かれば、ラーメリア王国1つ滅亡させるのに、1日も掛からないですよ?世界最強の冒険者に対して、一介の冒険者とは、聞いて呆れますね。この国の国王より遥かに重要な人物に対して。大したものですね。」

と、リリアーナは冷たく言い放った。


 ステファンは、悲しそうな顔をした。

「リリアーナよ、父とも呼んではくれぬのか?」


「私のお父様は、貴方程馬鹿ではありません。書簡に1人娘を差し出しても良いと書いたそうですね。そもそも、そこがおかしいのです。リリアーナが好きだと言うから、仕方ないからやるよと言う意味ですよね?

 私は、もらって頂く立場なのですよ?お分かりでないのでしょう?そんな頭の悪い父親を持った覚えはありません。」


 ステファンは崩れ落ちた。床に手を付き、膝を付き、項垂れている。娘の前で恰好付けたかっただけなのか、ただの親馬鹿なのか、或は本当に馬鹿なのか。俺には分からんが、リリアーナは、辛辣だった。


 俺なら耐えられる自信がない。俺の為なら父親を切り捨てると言っているのだ。このままにして措いては、いけないだろう。


「リリア、俺なんかの為に、自分を傷付けちゃいけない。良い所も悪い所も受け入れられるのは、家族だけなんだ。残念ながら、俺と結婚しても祝福はしてもらえないだろうが、確執は俺とステファンの間に留めるべきだ。リリアが、親父を貶める行為は、即ち自分を傷付ける事になってしまう。それを、俺は容認しない。リリアを傷付けるのが、リリアであっても、俺は許しはしない。」 


「はい、ごめんなさい。でも、悔しかったんです。私、初恋だったんです。初めて本気で好きになった人を馬鹿にされて、悔しかったんです。」


「リリアの気持ちは嬉しいんだよ。嬉しいが、俺はそれを許してはやれない。いつか、後悔する事になってしまうからね。俺が馬鹿にされたところで、リリアと俺はずっと一緒にいられるんだからな。」


「はい。ありがとうございます。」

 あ、ここで、ありがとうなんだ。大した娘だよなぁ。やっぱり俺には勿体ない気がする。


「リリア。俺は、お前を生涯愛し抜くと誓おう。だが、親父とは、ちゃんと話し合っておけ。俺の事は気にしなくて良い。」


「はい。マサキ様を好きになって、本当に良かったです。」


「俺は、リリアに笑っていて欲しいだけさ。所詮は自己満足なんだよ。」


「それでも、大きな愛を有難うございます。」


「ああ。じゃ、俺達は船にいるから、ちゃんと話し合ったら、戻っておいで。朝までは動く事はないから、心配しなくて良いぞ。」



 エルフェリーヌを伴い、マサキは船に戻るのである。書簡の文面が気になっていたんだが、リリアーナが粗末に扱われていた訳じゃなくて、良かったと言うところだろう。マサキが馬鹿にされる分には、構わないのだ。相手にしないだけだから。馬鹿にされたところで、死ぬわけでなし、困る事は別にないのだ。


 マサキが気になっていたのは、1人娘を差し出すから嫁にしろと言う一点に尽きる。娘を生贄にして何かを企むのなら、許しはしないつもりだったのだ。どうも、親馬鹿なのか、良い恰好をしたかっただけなのかは、分からないが、その心配だけはなさそうだ。


 この日は、エルフェリーヌと傷の舐め合いをする様に、同衾して眠ったのである。











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