第59話 面倒臭がり
さーて、今日も宴会だーと屋敷に入って、騒ぎ出したところで、王城から出頭命令が来た。面倒臭かったので、
「セレス。親父が呼んでるから行って来い。」
と言ったんだが……。
「マサキ様を呼んでいるんですよ?」
「だからさ~、面倒臭いから明日な。って言って来て。」
「もう、不真面目なんですから!」
「俺が真面目だった事があったか?お前は俺の何を見て来たんだ?」
メイリーナが言う。
「貴方、私が行って来るわよ?明日の昼までには行く位でいい?」
「そうだな。取り敢えず、テストは一応成功だけど、各部チェックが終わってから、話すと言っておいてくれ。」
「やっぱりね。出来るかどうか分からないけど、造るって話はしてあるのね?」
「ああ、言ってある。」
「先回りはしていると思ったけれど、そこまで理解しろって言うのは、セレスにはまだ無理よ。長い目で見て頂戴。」
「ん。気を付ける。」
「お願いね。」
セレスティーナは納得いかない様だ。
「シャルちゃん。マサキ様が、お父様にお話ししてあるって事、想像ついた?」
シャルロットは笑いながら言う。
「私は、言ってあるとは思いましたよ。多分ですけど、自分からは言わないでしょうけど、材料を王城に貰いに行った筈ですから、聞かれているだろうとはね。」
「シャルちゃんの頭を分けて欲しい……。」
「セレスちゃんは、頭は良いと思うよ?視点がずれているだけで。」
「どういう事?」
「考える基準がセレスちゃんなんだよ。マサキ様は、私達の言う頭の良い人ではなくて、その遥か上を行きますから、想像出来うる面倒は避ける筈なんです。で、今日の場合、言ってなければゲートで帰って来てますよ。船で来たと言う事を考えれば、造っている事を王様が知っている事になります。知らないで来たら、面倒臭い事この上ないでしょ?根掘り葉掘り。」
「ああ……、そうだね。」
「面倒臭がりなのは、本当ですから、そこを見れば良いのですよ。」
マサキは頭を掻きながら言う。
「シャルはよく見てるのな。まあ、お前達を見ていると面白いよ。セレスは頭の回転が早いし、シャルは観察力に秀でているし、シリルの理解力は教えるのが楽だし、ユリアは素直だしな。セレスの場合は、回転は早いんだが、考える方向が明後日なんだな。」
シャルロットは言う。
「やっぱり先生ですね。見ていない様で、ちゃんと見てくれていますね。」
「俺は教師なんざ、あの3カ月の間しかやった事はないんだけどな。」
「マサキ様は視野が広いですから、先生も普通に出来たんでしょうね。」
「どうだかなぁ。さーて、飛空船の完成記念パーティしようぜ。」
そう言って、マサキは厨房に入った。キャベツを物凄い勢いで千切りにしていく、人数が多いので、最終的には刀を持ち出し、キャベツを滅多切りにして千切りにしていった。文字通り山の様な千切りキャベツを横へ置くと、ブロック肉を薄切りにして、1ブロック丸ごと薄切りにした。
大量の卵を取り出し、小麦粉を出して水で溶き、千切りキャベツと肉を入れて卵を落としグリグリ混ぜて、鉄板で焼き始めた。お好み焼きだ。マサキは大量のキャベツが入ったお好み焼きが好きだった。霧と桜に手伝ってもらいながら焼いていく。
焼くのを椿と桜に任せ、霧とマヨネーズを作り、前にカレーを作ろうと思って買ってあったスパイスと玉ねぎリンゴ、ニンニク、生姜、等色々使ってウスターソースを作った。
人数分のソースとマヨネーズを小皿に入れると、再び焼きに戻った。数えるのも面倒なので、30枚焼いた。完成した物を、食堂のテーブルに並べていき、焼酎とワインを出した。
シャルロットとリーザロットは、それを見ながら話しをしていた。
「物凄い手際ですね……。」
「シャル、あそこに辿り着くのは、プロになるしかないわよ?」
そこへ霧が通り掛かった。
「お二方とも、あれは普通ではありませんので、気にしてはいけません。上様は、私達の料理を絶品だと褒めて下さいますが、上様は、粗末な素材で手際よく、私達より美味しい物をお作りになるので、とても敵いません。今日の料理も、1人分に直すと、キャベツ1/4個と卵1個と肉を少々と小麦粉だけです。多分、凄く美味しいと思いますよ。」
リーザロットは、呆れ顔で言う。
「なんでも出来ちゃうのね……。」
「上様は、御父上が食道楽だったそうです。それ故、口が肥えていると言っておられました。不味い物を食べる位なら、自分で作ると言う発想の様です。ですが、あれはもう、素人ではないですね。上様には厨房に入って頂きたくないのですが、偶にやりたくなっちゃうみたいです。腕が落ちるのも嫌みいたいですけど。」
「培った技術を、失いたくないって言う気持ちは分かるわね。」
「そうですね。」
焼酎とワインで乾杯をして、お好み焼きを食べてみた。ウスターソースしか出来なかったから、どうかと思ったが、マヨネーズが効いて美味い。安くて美味い代表選手だと思う。これで、桜も霧も椿も作れる事だろう。今度は、トンカツからのカツ丼も作って見せてやらないとな。あ、大森林に牛もいたな、牛丼も教えておこう。
親子丼は……いいか。鳥は、ソテーか焼鳥、窯焼きがいいな。酒のツマミだな。スキヤキも出来るな。桜達の先祖は、獣の類は余り食べていない筈だから、肉の食い方を知らないのだ。精々、猪肉か鶏肉だろう。猪肉も悪くないが、臭みがな。あー、酒の友、鶏の唐揚げを忘れていた。枝豆があるんだよなぁ、揚げ物ってないよな。油の質か?知らないだけか?
「桜、どうだ?お好み焼き。」
「美味しいですよ。安い食材で、どうして美味しい物が出来るのでしょう。」
「桜達が作る煮物も高くはないだろう?俺は大好きだぞ、桜達の煮物。あれだって、出汁には工夫をしている筈だ。料理なんてのは、一工夫と隠し味、出汁。この辺で決まりだろうさ。」
「そうですか、自信を無くしてしまいます。」
「俺と比べちゃいかん。俺は、出汁を取るとなぜ美味いのか、旨味の成分が何なのか。を知っている。だから、それ有効に使えるのは、当たり前だろう。」
「教えて頂けますか?」
「ああ、いいぞ。例えば、鶏は落として直ぐ食べても良いが、豚なら落としてから4日後、牛なら10日後が1番美味いんだぞ。」
「え??そうなんですか?」
「そうだよ。肉の中のたんぱく質がアミノ酸に変わり切る頃だからな。」
「そのアミノ酸と言うのが旨味なのですか?」
「正確に言うと、アミノ酸の中のグルタミン酸と言う奴が旨味の正体だ。勿論、素材の風味とかもあるから、そればっかりではないけどな。」
「ありがとうございます。」
「あんまり固く考えるなよ。これとこれを混ぜたら美味そうじゃん、て思って、やってみたら、すっげー不味かったとか、いっぱいあるからなぁ。そんな冒険心や好奇心があった方が面白いぞ。」
「そうですね、色々試してみます。」
油も考えないとなぁ、オリーブ油、大豆油、菜種油、コメ油、ごま油、この辺りがあれば良いな。オリーブ油はありそうだが。コメ油は里で作らせればいいだろう。大豆も何とかなりそうな気がする。そう言えば、豆腐はないのかなぁ、海が近くないからニガリがないか。
あかん、船が出来たばっかりなのに、次から次へとやりたい事や欲しい物が出て来てしまう。働きたくないのに、過労死してしまうではないか。
まずは、海水浴行って遊ぶ。次に修練場に行ってみる。土地を探す。ここまでを、やってから色々考えよう。産業云々は、衣食住から考えれば良いだろう。衣は既に手が付き始めているし、これを魔道具化していく事を考えれば良いだろうな。
住は、トイレが出来たし、量産体制を築けば良い。魔法任せな部分を改善しなきゃいけないだろうが。
気が短いから、一気にやりたくなってしまうんだよなぁ。時間感覚は、地球にいた頃のままって事か。やれやれ……。
宴会もお開きとなる頃、女職人2人がマサキの所へ来た。皐月と弥生と言う名の娘らしい。
「御屋形様、お願いが御座います。」
「どうしたんだ?2人して。」
「えと、私達2人、このまま御屋形様の元で、働かせて頂く事は出来ませんか?」
「ん~、何の為に?」
「船の補修が出来る人間が欲しいのではと、考えました。それに操船を御屋形様がする事はないと思うのです。船員と船大工としてお傍に置いて頂けたら幸いです。」
「ふーむ、本音は?」
「御屋形様のお傍にお仕えしたい…だけです。」
「ふーむ、これから人手は欲しくなるけどなぁ、王女達は当てにならないし。桜、どう思う?俺は、2人は兎も角として、男手も欲しいんだけどな。」
桜は言う。
「良いのではないですか。2人とも美形ですし、上様好みなのでは?」
「いや、俺の好み云々の話ではなくてさ、働きたいと言う事に関してな。」
「いえ、上様はやりたい事が沢山あるのでしょうし、私達も助かりますから、構いませんよ。後は、上様がお手を付けるかどうかだけなのでは?」
「ふむ、手を付けて良いって事?」
「お傍にお仕えしたいとは、そう言う事です。」
「そうなの?」
と、マサキは2人を見た。
「「はい。」」
「まあ、手を付ける付けないは別としても、人手は欲しいな。2人が良いなら、この屋敷にいるが良いさ。桜、部屋の支度してやってくれ。」
「承知しました。」
「「ありがとうございます。」」
宴会をお開きにして、風呂に入ろうと、脱衣所に向かおうとしたところで、ウンディーネが帰って来た。ウンディーネは、茶髪の美少女を連れていたので、土の精霊か?と想像は付いたが、もう1人銀髪美女を連れているのだ。
「主様。土の大精霊ノーミードと精霊女王レオノール様。愛人にすればいい。」
「女王?女王連れて来ちゃったの?大丈夫?」
「大丈夫。主様の方が大事。」
「まぁ、取り敢えず、入っててくれ。詳しい話はまたにしよう。」
「うん、主様。2人も入って良い?」
「ああ、構わないぞ。」
「ありがとう。」
ウンディーネは、そう言って、魔力の中に溶けていった。残った2人の精霊も一礼して、魔力の中に入っていった。
マサキは風呂に入りながら考える。明日の朝は、船体の外周と砲筒周辺のチェックをして、問題なければ本格的な飛行テストをしてみるべきだな。まだ、全速を試していないし、自分で操船しながらチェックするのは無理だったから、皐月と弥生に教えてみるのも良いかも知れんな。皐月も弥生も美人というより可愛いんだよなぁ。黒髪の日本人顔だからだろうか。ポニーテールがよく似合う。
そんな事を考えていたら、女達がみんな入って来た。精霊達やニルフェスも外に出て来て、風呂に浸かっていた。
シリルが傍に来て、
「旦那様?この方達は?」
と聞くので、
「ニルフェスとウンディーネとシルフィードとイフリータは知ってるだろ?後は、土の大精霊ノーミードと精霊女王レオノールだよ。」
と教えておいた。
「え?大精霊全員に精霊女王に女神様?みんな旦那様の愛人ですか?」
「まあな。」
「もう、世界を征服したと言っても、良いのではないでしょうか。」
「そんな面倒臭い事しねーよ。」
「いえ、実質、この世界の力の全てを持っている、と言っても過言ではないですよ?」
「そう、なのかもな。」
「素敵です。私も働かないといけませんね。何か出来る事がれば、仰って下さいね。私も、旦那様のお役に立ちたいです。」
「そう思ってくれるだけで、嬉しいよ。まぁ、まずは、ちゃんと卒業する事だ。」
「はい。」
シリルは、やる気に溢れている。この娘には、学校を作った時、教師をさせてみても良いかもしれないな。女教師プレイ!!そそるわぁ~。
馬鹿な男である。
風呂から上がって、リビングに移動して酒を飲もうと思っていると、弥助と勘治がやって来た。ソファに座って、ウィスキーを用意してやり、乾杯すると、弥助が話し出した。
「上様。勘治達も上様の元で働きたいって言うんですが、どうですかね?」
「まあ、男手は欲しいところよな。弥助しかいないし。だが、取り急ぎの仕事はないぞ?強いて言えば、皐月と弥生と同じ様に、船の乗組員位か?宮大工の仕事は、当分ないなぁ。」
弥助は言う。
「上様。怒らねえで聞いて下さい。上様には、沢山の嫁、愛人がおられます。独り者の男は、後宮でもない限り、傍に置けないんです。間違いがあってはいけませんから。それで、この勘治ともう1人治吉と言うのがおりますが、この2人は夫婦で職人をしておりますんで、うってつけじゃないかと思ったんですが。」
勘治も言う。
「私は、手先が器用ですんで、大工仕事もやりますが、それには拘りません。御屋形様が、欲しいと思う物を作るのをお手伝いしたいんです。」
「ふーむ、それは助かるが、夫婦ともにそう思っているのか?」
「私の所も、治吉の所も女房の方が御屋形様にゾッコンです。」
「ふむ……、弥助。」
「はい。」
「使用人用の別棟に、2組とも夫婦で住めるように、部屋を用意してやってくれ。」
「「ありがとうございます。」承知しました。」
と、弥助は言って、準備をしに行った。勘治も1度頭を下げて、嬉しそうな顔で女房の所へ戻って行った。
なんのかんのと大所帯になったものよなぁ。この日は、シリルとミリアと1回戦ずつして、レオノールとも1回戦して寝た。1回ずつなら時間的余裕もあんだよな。そもそも、寝るのが早いんだから。夕方、飯食うだろ?風呂入るだろ?その後が、テレビも娯楽もないのだから、酒飲んでエッチする位しかやる事がないのだ。まあ、そこに不満はないのだが、ヤッてばっかりの言い訳をしてみただけ、なんだけどな。
だから、この世界はみんな朝が早い。朝7時から屋台で串肉バンバン焼いて売ってんだぜ?日本だったら普通売ってても食わねーだろ?だが、肉体労働が殆どだから、みんなよく食うんだ。商人と言っても、よく歩くしな。
で、俺が起きるのは、朝7時。遅い部類になっちゃうのよ。これで、朝飯食って王城行くだろ?もう、王と公爵は仕事の真っ最中なんだぜ?だが、こんな世界がわりと気に入っている。そんなに早く起きないけどね。
ユイとルミエールやミレーナ、ヘルミナは朝5時位には起きて支度を始めているし、くノ一3人娘も6時には厨房に入っている。本当によくやってくれていると思う。けど、彼女達には、それが普通なんだそうだ。俺が寛容過ぎると怒られた事もある。楽なんだから良いじゃないかと思うのだが、駄目なんだそうだ。
朝起きて、風呂に入って、飯を食ったら庭に出て、船体のチェックをしていった。傷みもなく問題はない様だ。1番心配していた砲筒の負荷が掛かる所も、強度を出していたお陰で、余裕の様だった。後は、普通に実用に耐えうるかの試験だけだろう。
そんな事を考えて、王城に向かった。王の執務室に入ると、サラビスが睨んでいた。
「なんだ、ご機嫌斜めか?イケメン親父。」
「出来たなら、出来たと言わんか、馬鹿者め。いきなり王都にあんなもので来たら混乱するだろうが。」
「ああ、飛竜が発着してる位だから、大丈夫かと思ったんだよ。」
「しかし、空飛ぶ船か。本当に出来たのだなぁ。」
「まだ、実用に耐えうるかどうかは、テストしないと分からないけどな。まあ、あれは難しかったよ。理論的には可能なんだけど、それを動く様にするのは大変だった。意外に苦労したと思う。半月掛かっちゃったからね。大精霊達の協力がなければもっと掛かってたよ。」
「大精霊?従えているのか?」
「いや、契約はしていない。愛人になってくれた。」
「そんな事が可能なのか?」
「ああ、なんか聞いた話だと、契約は精霊の方から破棄出来るんだってよ。愛人になると言う事は、精霊の側が誓いを立てるんで、俺が放逐しない限りは、いなくならないそうだ。」
「どこで見つけて来たんだ?」
「見つけた訳じゃない。未開の大森林の探索に行った時に、大森林の管理をしている女神に会ってな、紹介してくれたんだ。」
「そうか、あの大森林には女神がいるのか。」
サラビスい紹介しておくべきだと思ったマサキは、ニルフェスと4大精霊と精霊女王を呼び出して、紹介をした。
「マサキよ、今ほど、お前が息子で良かったと、思った事はないやも知れん。」
「そうか?」
「お前が、この世界を統べると言えば、もう、そうするしか道はないのだぞ?どの国であったとしても。」
「そうなのか?」
「それはそうだ。戦争にすらならん。水も風も土も火もなければ人間は生きてはいけぬ。世界中の人間の生殺与奪の権利を握っているのと、同じ事だぞ?」
「言われてみれば、そうかも知れないな。興味はないが。」
「だからだよ。お前にそう言う欲がないから、安心するのだ。お前が息子で良かったとは、脅威だからではない。力の使い方も、その責任も、よく知っているお前が力を持っている。それが息子だと思えば安心だし、これほど誇らしい事はない。」
「そっか、精々気を付ける事にするよ。期待を裏切らない様にな。」
「ああ、信用している。」
まだ用事があるからと言って、マサキは執務室を後にした。さて、職人を里へ帰さなきゃな。と屋敷へと足を進めたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます