第53話 下級女神と精霊

 エルフェリーヌを部屋へ帰した後、久しぶりに1人でぐっすりと熟睡したマサキは、翌朝起きて、かなりスッキリしている事に気が付いた。自分で言って措きながら、寝不足がもたらしていた疲労は、かなりの物だった様だ。


 体が元気ハツラツなので、下半身もハツラツな訳で、シルティーヌを襲いに行った。1回戦をじっくりと堪能し、シルティーヌは満足顔で失神していたので、朝風呂に1人で入っていた。そして、大森林の探索方法を考えていた。


 大森林の南の端から、北上しながら虱潰しに探索するか、ここから真東に向かって、横から入っていくか。どんな魔物がいるか分からないし、南端から行くのが正解なのだろうが、南端が遠いのだ。1度行けばゲートが開けるのだけど、面倒臭いと言うのが正直なところだ。


 ただ、どうせ探索するのなら、余すところなく見ておきたい。どうした物かと考えるのである。上空からでは、殆ど森の中は見えなかったのだ。面倒とばかり言っていられないか、1度行けば良いだけなのだ。飛行で行って、疲れたらそのまま帰って来ても良いのだ。テントとか野営道具が要らないだけ、恵まれていると言えるのだろう。


 ものぐさな自分の性格が、色々ネックになっている気がする。こんな事では、国など造れないだろう。何か自分の中途半端さが、今になって試練と化している様な感じなのかな。


 準備としては、野営の必要はないから、昼飯等の食料と水分だけで良いだろう。食料も屋台で買えば、外で食えるような物ばかりだしな。弁当でも作って行くのもありかもしれない。パンがあるからサンドイッチでも良いしね。でも、まあ今からやるのもなんだし、今日は屋台で良いだろう。


 よし!と独りごちて、風呂から上がり、霧の給仕で朝飯を食べたので、着替えを済ませてリビングでお茶を喫していた。早すぎて、屋台がやっていなさそうだったからだが、そんな空気を察したのか、霧が弁当だと言って2段重箱を1つ持ってきた。

本当に良く尽くしてくれる。何も言っていないのに、エスパーかと思うタイミングでこういう物が出て来るのだ。


 有難く、異空間に収納して、霧に礼を言うと外に出た。一応、非常食程度に屋台で肉串を仕入れておこうと思ったのだ。緊急や小休止の時に肉串は役に立つ。美味いしね。屋台に向かって歩いて行くと、もう商売を始めていた。30本程頼むと、いつもありがとよと言って、1本オマケしてくれたので、早速、口に頬張ると大門に向かって歩き出した。朝から肉もどうかと思ったが、適度に油が落ちて醤油味なので、全然美味しく食べる事が出来た。



 大門を潜って街道に出ると、迷宮方面に向かって歩いていった。街道脇からゲートを開いて、迷宮の入口裏に出ると、そこから林の方へ向かって行き、そこから飛行体勢に入った。一気に加速して、大森林方面やや南向きに飛んでいくと、30分位で、大森林が見えたので、南へと進路を変えた。そこから、1時間位飛んだだろうか、やっと南端に到達したので、着地した。やっぱり魔力の削れ具合が酷いので、木に背を預けて座り、休憩をした。



 少し考えてみた。嫁となる3人の女子生徒が加わった場合、里帰りするにも、遠すぎて最初のゲートを繋げる為に飛行で行こうとした場合、相当疲れる事が予想される。1回の飛行でなど、到底無理である。大陸を横断する程度の覚悟がいるのだ。


 嫁達全員を連れて旅行にも行きたいと考えると、やはり空飛ぶ船は必要だろう。今までは、いつか作ろうか程度の考えだったが、早いうちに作る事を心に決めたのである。



 一休みして、肉串を1本頬張ると、マサキは立ち上がって森の中へと足を進めたのである。魔力感知を頼りに、魔物や獣の気配を探りながら進んで行った。意外な事に獣が多く、魔物の気配は殆どない。いても小型の兎程度の大きさの様だ。資料室で見た大型の兎ではない。


 我が家の食料用に獣を狩って行こうと思い、異空間から大小を出して革帯に手挟んで、腰を落ち着けた。猪、熊、水牛、牛も野生がいた。これは、殺さず家畜として連れ帰るのも良いだろうと思ったが、それは国造りの土地が決まってからでも良いなと考え直した。それぞれ、血抜きをして異空間へ仕舞っていった。全部一頭ずつでも、全員分あるので、今日の狩りはこれで良かろうと、先へ進む事にした。


 大分奥へ入ったと思ったが、小川などの水辺に来たところで、気配は一変した。魔物が非常に多い。気配はそれほど強くないが、数が多そうだ。森の中と言う事を考えると火は余り使いたくないが、火が1番手っ取り早いのよな……。と考えながら、雷の魔法にしようと心に決め、魔物の大群に向かって行った。


 南端から入って3時間程歩いた水辺まで来た時、鼠の魔物が大量にいる事が解った。鼠に齧られるのも業腹物なので、【雷雨サンダーレイン】を広範囲展開して、鼠を感電死させていった。魔物じゃなくても食べたい動物ではないので、死骸をある程度纏めて、一気に燃やした。残しておいても良い事はなさそうな気がしたからである。


 しかし、鼠が大量に魔物化していたのは、何故だろう?食物連鎖で言えば、最下層に居そうなのだけどなぁ。そんな事を考えながら、鼠の発生源と思しき方面へと足を進めて行った。そうしたら、原因の1つと思われる、魔力溜りを発見した。淀んだ魔力が滞留していたのだ。風魔法で散らそうかと思ったが、魔力の質が気に入らなかったので、【浄化ピュリフィケーション】する事にした。


 溜まった魔力は、綺麗に浄化され、滞留もなくなった。魔力の質が悪いと粘っこく重たい感じで滞留するのかなぁと、腕組みしながらマサキは考えたのである。


 そこで、魔力感知の反応を精査すると、そんなに嫌な気配はないのだが、変な魔力溜りがあるのが分かる。その方面に進んで、浄化を進めていった。そこから更に2時間程進んだ頃、大きな魔物の反応がいくつかあった。そちらへ行くと、大きな熊の魔物と獅子の魔物だった。水魔法の【水矢ウォーターアロー】にライフル回転を与えて、それぞれの額に撃ち込んだ。水の矢はドリルの様に回転して額を貫き貫通した。


 即死状態だったので、早速解体して、素材を収集していった。皮、牙、爪、等が主だが、殺し方が綺麗だったので、良い素材が集まった。セリアが喜んでくれる事だろう。そんなAランク級の魔物を20体ほど処理して、進んだところで、なんと言うか清浄な雰囲気の場所に出た。


 そこは、木を間引きしてある様に、鬱蒼とした森ではなく、規則的に木が並んでいるのである。足を踏み入れようとして、一瞬躊躇した。結界の様な魔力の壁を感じたからだ。しかし、抵抗なく足は進むし、体も入ったので、そのまま進んでみた。魔力を感じる限り魔物はいない様だ。



 丁度良いので、昼休憩にしようと、1本の大木へ近寄り、根本で木に背中を預ける様にして座り、弁当を開いた。霧も気を遣ってくれた様で、握り飯がずらっと並んでいて、もう1段の重箱には、煮しめや、漬物が入っていた。塩気の聞いた握り飯に、煮しめが美味い。彼女達の料理の腕には、脱帽するばかりだ。


 水筒を取り出し、お茶を飲みながらこの後の事を考えた。まず、ここの調査をするか否か。どうも、淀んだ魔力とは正反対の綺麗な魔力が漂っている気がするのだ。このまま昼寝をしたくなる程、気持ちの良い空間なのだが、油断は出来ないと思う。こんな森の真ん中に、なぜこんな空間があるのか。何かしらの作為がない限り、こうはならないだろう。


 そんな考えに至り、周りを見回すが、誰かがいるとも思えない。弁当を仕舞って立ち上がると、今まで寄り掛かっていた木に魔力を感じた。魔力を目で追っていると、魔力が形を形成し始めた。


 暫く眺めていると、緑色の魔力が女性の形に変化して定着し、半透明から実体化した様に、色付いた。緑髪の美女だった、おっぱいが大きい。しかし、魔力から女が出て来る意味が分からない。腕組みをして悩んでいたが、悩んでも答えが出る訳でもないので、取り敢えず触って見る事にした。勿論、おっぱいを。


 両手でおっぱいを揉んでみると、ちゃんと触れるし、いい感触だ。揉み心地が最高だったので、黙って揉んでいたら、声が掛けられた。


「いつまで、揉んでいるの?」


「飽きるまで。」

 と答えておいたが、喋れるのか?こいつ。と言う疑問は残った。


「ああ、そう。普通はもう少し、違う反応なのだけど……。」


「どんな反応をして欲しいんだ?」


「別に良いわ。貴方には勝てる気がしないし、好きにして。」


「随分、諦めが早いんだな。お前は何者なんだ?好きにして良いなんて言われたら、最後までやっちゃうぞ。」


「私は、ニルフェス。人間には、ドライアドで木の精霊と言われているわ。これでも下級の女神なのだけど。」


「エリセーヌの部下なのか?」


「そうよ。貴方からはエリセーヌ様と創造神様、それに……武神アリス様の匂いもするわね。」


「女神なら良いか。食後の一発しようぜ。」

 と言って、ニルフェスに襲い掛かり、最後までしてしまった。



 マサキはスッキリした顔で聞いた。

「しかし、なんで下級とは言え、女神がこんなところにいるんだ?」


「無闇に森が伐採されない様に、見張っているのよ。とは言っても、この周辺だけだけどね。ねぇ、私、女神だって言ったのに、どうして襲ったの?」


「しようぜって言ったじゃん。エリセーヌともアリスとも散々したからな。俺の中では、女神はやって良いものと決まっている。」


「どう言う理屈なのよ……。なんか、でも貴方には逆らってはいけない気がする。」


「嫌だったか?無理矢理したつもりはないんだけどな。」


「ううん、そうじゃないの。女神に平然と手を出す人間を知らなかっただけ。初めてだったから、少し恥ずかしかったけど、気持ち良かったよ。」


「なら、良かった。ちょっと座ろうぜ。聞きたい事と言うか、相談がある。」

そう言って、マサキはニルフェスを抱っこしたまま座った。


「なあに?」


「ガリルの爺ちゃんからさ、神々の保養地を作ってくれって言われているんだけどさ、神々ってどんな所が良いんだ?」


「創造神様に?へぇ、貴方って人間なのに、私より神格は遥かに上なのね……。神々は、人間の観光地みたいな所で良いのよ?」


「ん?神格って何?」


「貴方はまだ人間だから分からないでしょうし、分からなくても良いのだけど、神としての格の事よ、上級神とか下級神とかあるでしょ?貴方の格は、多分、上級神と同等か、それ以上じゃないのかなぁ。エリセーヌ様を呼び捨てにして誰も怒らないのでしょう?少なくとも私は、創造神様を爺ちゃん呼びする神を知らない。」


「ふーん、神になる気はないから別に良いけどな。神になってもエッチが出来るなら、なっても良いが。」


「ぷっ、そこなの!?」


「そうだよ。俺はそれだけあれば良い。」


「貴方、面白いね!」


「そうか?じゃ、愛人にしてやるから一緒に来るか?嫁にするとエリセーヌがキレそうだから無理だけどな。あいつのヤキモチこえーんだ。」


「いいの?一緒に行っても。」


「ここの管理が大丈夫ならな。」


「それは、眷属を置いて行くから平気よ。平時は貴方の魔力の中に居れば良い?」


「おう、いいぜ。そうそう、保養地の話だけどさ、温泉とか娯楽があれば良い感じかな?」


「うん、良いと思う。」


「温泉を簡単に出す方法ないかなぁ?候補地に温水の水脈はあるんだけど、深いんだよ。」


「それなら、水の精霊を連れていけば良いじゃない。」


「精霊っているの?」


「いるよ、連れて行ってあげる。私に捕まってて。」


「ああ。」

 そう言って、マサキはニルフェスのおっぱいを揉んだ。


「ねぇ、どうしてそこなの?」


「そんなもん、好きだからに決まってんだろ?」


「まあ、いいわ。行くわよ。」

 そう言って、ニルフェスは高速で移動した。エリセーヌが爺ちゃんとこまで連れて行ってくれた時みたいな感覚だな。



 ニルフェスが降り立った所は、大森林の中だったが、綺麗な泉が湧いていて、やはり清浄な雰囲気があった。景色が最高だった。ニルフェスは水の中に向かって、声を掛けた。


「ウンディーネ?いるかしら?」


 ニルフェスの声に呼応して、水が盛り上がり、盛り上がった水が螺旋状に回転していき、水の中から、長い青髪で衣装も青いドレスのグラマー美女が現れた。


「ニルフェス様、お久しゅう御座います。」

と一礼した。


「貴方、この方が……、そう言えば名前、聞いてなかったわね。」


「ああ、俺は、マサキ・タチバナだ。」


「ウンディーネ、この方が愛人にして下さるから、一緒に来なさい?ここは、アクアで事足りるでしょ?」


「お?精霊もエッチできるのか?」


「やっぱり、そこは重要なの?」


「愛人と言うからにはな!」


「大丈夫よ。ねぇ、ウンディーネ。」


「えっと、ニルフェス様。エッチは確かに出来ます。ですが、お話が見えません。確かにそこの人間からは、只ならぬ力を感じますが……。」


「この方は、エリセーヌ様の愛しい人よ。」


「あ、そうなんですか。では、是非もありませんね。ご一緒させて頂きます。」


「あれ?随分、簡単なんだな。」


「それはそうよ。この世界の主神はエリセーヌ様ですもの。」


「やっぱ、あいつ偉いんだな。俺にはポンコツ女神にしか見えなかったが。まあ、デカい宮殿に住んでるし、天使もいっぱいいたからなぁ。」


 ウンディーネは、マサキに一礼すると、

「御用のない時は、貴方様の魔力の中に入っていても宜しいですか?」

と言った。


「ああ、構わないが、いいのか?俺の魔力の中なんて。」


 2人は揃って頷く。

「貴方の魔力と神力、凄いの。多分、居心地は最高よ。呼んでくれたら、いつでも出て来るからね。」


「うん、分かった。ところでさ、俺、この未開の大森林の探索に来たんだがな、此処って、多少淀んだ魔力溜りがあったけど、浄化して来たんだ。それ以外に、やばそうなのいなかったんだけど、そんな感じ?」


「ええ、この大森林はね、精霊や最下級神がチョロチョロしていて、人間が開発出来ない様に邪魔をしているの。節操なく開発してしまうと、色々弊害が出ちゃうからね。」


「そうなのか。じゃぁ、もう見るところもないか?」


「そうねぇ、神々の保養地を作るなら、精霊はいた方が良いけど、その都度言ってくれれば、私やウンディーネが連れて来るよ。」


「じゃ、もう良いな。一緒に行こう。入ってていいぞ。」


「「はーい。」」


 マサキは、魔力の中に、ニルフェスとウンディーネを取り込むと、【ゲート】を開いて、ローレル屋敷へと繋いだ。色々、説明が面倒だと思いながら、一応紹介はしなければならんよなぁと思うのであった。




 屋敷内に移動したマサキは、霧に弁当箱を超美味かったぞ!と渡して、みんなをリビングに集めてもらう事にした。まだ夕方前だったが、エルフェリーヌは来ていた様だ。


 みんなが集まったところで、

「ニルフェス、ウンディーネ。」

と呼びかけた。


 すると、マサキの胸の心臓付近から、緑色と青色の魔力が流れ出し、マサキの右膝と左膝の上に1人ずつ顕現した。


「みんなに紹介しておくぞ、下級女神のニルフェスと水の大精霊ウンディーネだ。一応、愛人て事にしてあるので、よろしくな。エリセーヌが怖いから。」


 全員が一斉に額を押え、膝を付いてしまった。


 そんな中、エルフェリーヌが口を開いた。

「マサキ様?下級女神様と大精霊様ですよね?どうして、そんなに軽ーく連れて来れちゃうんですか?いつもこんなに突拍子もないのですか?」


「だって、ニルフェスは弁当食ってる時に出会ったから、食後の一発しちゃったし、ウンディーネはすんなり一緒に来てくれたし?勿論、成り行きもあったけどな。」


 ここで、ニルフェスが口を開いた。

「貴方は、エルフの女王ね。貴女達は精霊信仰も女神信仰もあるから、そう思うかも知れないけれど、1つ覚えておくといいわ。この方は、神界でも私より遥か上のお立場の人なの。人間だから、信じられないかもしれないけれどね。」


「ニルフェス、俺は神ではないから、誤解を生む様な事は言わないでくれよ。信仰なんぞ、されたらかなわん。」


 エルフェリーヌが確認する様に言った。

「では、マサキ様の行動に、ニルフェス様もウンディーネ様も問題ないという事でよろしいのですね?」


「「大丈夫よ。」それに、私達は常にはマサキ様の魔力の中にいるから、貴女達の邪魔もしないわよ。呼ばれたら出て来る感じ。後、危ない時もね。」


「それは、私達も安心出来ます。」


 エルフェリーヌは、安心した様だ。


「まあ、色々、手伝ってもらおうと思って、一緒に来てもらったんだ。大森林は危険な場所ではなかったんだ。」


 この後、みんなで風呂に入った事は言うまでも無い。霧が抜けて、丁度40

オッパイだった訳だ。何を数えているんだという話だがな。


 だが、これで保養地の候補も絞れたと言っても良いだろう。自然破壊をするつもりはないし、大森林の開発はしてはいけない様だから、湖の北側で温泉掘って進めたいと思うのだった。みんなで住める城も欲しいしね。

 

 王都が近いのも、良い事だろう。これで、計画は進められるし、海水浴に連れていく事も可能だろう。修練場は、どこからでも行けるので、ローレルに拘る必要もなくなった訳だ。


 学生最後の夏休みを思い出深いものにしてやろうと、思うマサキであった。





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