第51話 女王様

 エクルラートの王都の大門まで辿り着いたマサキは、門衛に招待状とギルドカードを提示して、中へ入れてもらった。わりと好意的な様な?特に警戒もされなかった。エルフなんてさ、ちょっと耳の形が違う位で、イケメンと美女ばっかなんだぜ?まあ、寿命の違いと言うのはあるが。


 俺だったら、自分が年とっても嫁さんがずっと若かったら、幸せだけどなぁ。嫁さんには、寂しい思いをさせてしまうとは思うけど。多分、愛してしまったら止まらないな、きっと。なんとか死なない努力はすると思うけども。


 そんな事を考えながら、街中を進んで行くと、違い剣の紋章があった。冒険者ギルドだ。そっか、国は関係ないから、ここにもあるんだな。覗く用事もないし、寄るなら帰りでもいいか、とギルドの前を素通りした。それにしても、石造りの家が多い。エルフって森の中で生活するもんじゃないの?ツリーハウスとか。


 そんな期待をしていただけに、マサキはちょっと不満だった。が、何かの読み過ぎなんだろうと考えに蓋をした。街中をキョロキョロと、色々見ながら歩いていたら、多い事多い事、美少女が。ツルかどうかは知らないが、ペタがいっぱいだ。


 エルラーナは、ボンキュッボンなんだけどなぁ。女王がツルペタだったらどうしよう。愛せるとは思うが、する気にはならないな。だとするなら、嫁なんかにする訳もないな。子種が目的なんだったら、ないわ~。マサキは、断じてロリコンではないのだ。何か読んだ事あるな、のじゃロリババアとか。




 子種が目的ってのは、招待状には書いてない。嫁の一人に加えて欲しいとは書いてある。子種ってのは……、ああ、コンスタンがそうじゃないかと言っていたんだったな。だけど、子種が欲しいのなら、別にエルラーナがいるんだから良さそうな気もする。妹の子って愛せないものかな?


 何を隠そう俺は、実は子供は苦手なのだ。いなければ、いなくても平気な感じ。遊んでやる事くらいは出来ると思うが、オムツを替えたり出来る気がしない。泣いていても精々抱っこする事くらいしか出来ないだろう。世のイクメンを名乗る男性諸氏に、心からの敬意を表したいと思う。


 16人の嫁に1人ずつでも16人。ちょっと結婚してはいけない気がして来た。俺みたいなロクデナシに、子育てなど出来る訳がないのだ。きっと子供と遊ぶ暇があったら、綺麗なお姉さんを口説いている事だろう。自分で考えても思う、どうしようもないクズだと。俺に足りない所は、そう言う所なんだろうとは思うのだが、直せる気がしないし、何か言い訳を考えて、直す気もないのだろう。


 これは、一度嫁ズに話をしておいた方が良いだろう。無理をしてまで結婚する必要など、全くないのだ。

 何れにしても、会うだけは会わないといけないと思い、マサキは王城に向かうのだった。




 王城の門に辿り着き、門衛にギルドカードと招待状を見せ、玄関まで案内してもらった。玄関には、美人エルフメイドが待ち構えており、案内をすると言うので、ついて行った。このメイドさんはやべー、ドンキュッボンな感じでスタイル抜群なのだ。ボンではなく、ドンなところが特にやばい。女王はどうでも良いから、一発ヤラナイカ?と言いたい。言わないが。


 謁見の間にでも連れて行かれるかと思ったが、女王の私室なのか執務室なのか、普通の部屋の前まで来た。メイドがノックをして、中から返事があり、扉を開けると中へ入れくれた。ソファのある所まで歩いて行くと、スーパー美女が待っていて、立ったまま、挨拶を交わした。


「初めまして、エルフェリーヌ・ル・ラ・エクルラートで御座います。」


「Sランク冒険者主席マサキ・タチバナだ。遊びに来いと書いてあったから、遊びに来たんだが……。エルラーナと似てないな、美人だけど。」


「父が違いますので。」


「ほう、異父姉妹か……。」


「まずは、どうぞお掛けになって。」


「ああ、失礼する。」

 そう言って、マサキはソファに腰を下ろした。エルフェリーヌもソファに腰を下ろすと、手ずからお茶を淹れてくれた。


 マサキは、お茶を啜って一息吐いた。

「女王ってのは、自らお茶を淹れたりするものなのか?」


「そうですね。私室には誰も入れませんので、自分の事は自分で出来ませんと。」


「ほほう、部屋付きメイドとかは置かないのか。」


「ええ、公私は分けたいものですから。」


「なるほどな。それで、この招待状の趣旨だが、サッパリ分からん。」


「そのままで御座いますよ?私を貴方様の妻にして頂きたく。」


「女王が、嫁いでどうすんだ?」


「譲位致します。」


「あ?国を捨てると言うのか?」


「いえ、エクルラート王家は姉妹が多いので、女王の人選には困らないのですよ。とは言え、継承順位が有りますので、すぐ下の妹が女王になりますが。

 それに、我がエクルラート女王国にとって、貴方様との縁は、喉から手が出るほど欲しい物でもあります。」


「俺には、エルラーナがいるから、縁ならあるんじゃないか?それに、俺との縁が欲しい理由が分からんし、その生贄にでもなろうと言うのか?」


「その様なつもりは、毛頭御座いません。では、まず私個人としてのからお話を致します。

 貴方様のSランクの公示が出ました時、エルラーナが他人の実力を認め、あまつさえ主席として公示を出した事に、驚きを通り越して、血迷ったかとさえ思いました。それ程までに、エルラーナは強かった。魔法に秀でるエルフの中でも突出しており、更に研究を重ねておりましたから。

 ですが、そのエルラーナが完敗だと、勝てないんだと、公示に出ていた実力値がそれを示しておりました。史上初の5Sでしたから。

 興味を持った私は見に行きました。そして見てしまいました、セベインで中級上位の悪魔を、まるで本気を出さず、赤子の手を捻る様に圧倒したあの戦いを。あれを見て、体が熱くなってしまい、恋をしたのだと思います。

 それから、少し調べさせて頂きました。依頼で行った学校で魔法を教えている生徒達が、凡そ人間とも思えない程に魔法の実力をつけている事も、数々の事件をものの数日で解決している事も。

 知れば知るほど駄目でした。気持ちが抑えられなかったのです。貴方様を慕うこの気持ちを。それで、招待状をお出ししたのです。」


 マサキは、種じゃないんだなと思ったが、でもなぁと言う顔だった。

「ふむ……。それで、本音があると言う事は、建前もあるのだろう?」


「ええ、私達は、エルフの国と言われていますが、別にそんな定義をした覚えはありませんし、建国時には、沢山の人間がいたと聞いております。私が、人間に嫁ぐ事で、再び人間との交流が出来るのではないかと考えております。そして、王家の人間として、マサキ・タチバナ様は申し分のないお相手なのです。」


「しかし、エルラーナと父親が違うと言う事は、多夫一妻制なんじゃないのか?」


「いいえ、死別でした。母上は、寂しさに耐えられなかったのだと思います。」


「同じ事が、エルフェリーヌ。お前にも言えるんじゃないか?俺は人間だ、寂しい思いをさせる事になるぞ。」


「それは覚悟の上です。貴方様をお慕いするこの気持ちだけは、ご理解頂きたく思います。例え、思いが適わなかったとしても。」


 マサキは腕組みをして考え込む。

「ふーむ……。」

(寂しい思いをさせずに済む方法もあるにはあるが……、エリセーヌの所へ行くのが遅くなるしなぁ。あれ?あいつ死ななくても良い様な事も言っていた様な?まあ、エルラーナがいれば一緒か。恋心か……政略でないなら、無下にはしたくないよなぁ。)


「なぁ、エルフェリーヌ。俺な、もう16人もいるし、女好きなんだが……?」


「問題ありませんよ。私は、生涯貴方様だけを愛すると誓えますよ?」


「ならば俺の心の是非など些細な事だ。その気持ち、有難く頂こう。」


「本当……ですか?」


「ああ、よろしく頼む。」


 エルフェリーヌは、満面の笑みと同時に一筋の涙を見せた。

「嬉しいです。エルラーナもいるし、女王なんかやっていると、大抵の男性は畏まってしまうので、本音を聞いて頂けて良かったです。」



 マサキは、頭を掻きながら、それでと聞く。

「で、俺との縁が欲しいとは、そういう意味なんだ?」


 エルフェリーヌは、厳しい顔つきになった。

「それは…ですね。貴方様は、何れ悪魔との戦いを、想定しているのではないか。と愚考致しました。悪魔との戦いは、エルフとしても総力を挙げる事になります。

 一部の例外を除いて、人間の実力では戦えないからです。その時が来ましたら、是非、貴方様に指揮を執って頂きたいと言う事です。」


「そうか、昔から人間は、エルフ達に守られていたのだな。まあ、指揮を執るかどうかは別として、小さな国を造ろうとは思っている。人間も忍びもエルフもない国をな。それが、エルフと人間の架け橋になれば、それはそれで良かろう。

 エクルラートと人間社会を隔てているのは、大森林の存在も大きいと思うんだよな。大森林の向こう側に何某かの策を打たないとな。

 ただ、国造りに関しては、極秘で頼む。確定していない情報を拡散すると、付け込まれたり、邪魔が入ったりするからな。」


 エルフェリーヌは、適わないと言った。

「貴方様は、そこまで既に想定されているのですね。それならば、我が国も協力しなければなりませんね。」


「そうだな、その時は何か頼むかもしれないな。」


「なんなりと。」




 マサキは、眠気と空腹を覚えていた。寝不足のところに飛行魔法で魔力を削ってしまったからだ。

「なぁ、エルフェ…、フェルって呼んで良いか?」


「はい!それでお願いします。」

どう見ても、17,8歳の乙女な感じなんだがなぁ、300歳超えてんだよなぁ。


「フェル。ちょっと飯と寝る部屋貸して欲しい。空腹と眠気で死ねそうだ。」


「どうやって、ここ迄来られたのです?」


「ん?大森林の上空を飛んで来た。」


「空を飛べるんですか?」


「ああ、魔法を同時に3つか4つ展開出来れば、誰でも飛べる。」


 エルフェリーヌは、目をキラキラさせて、胸の前で手を組んだ。

「私も飛んでみたいです!」


「今度教えてやるから、一緒に飛んでみようか。1人でやるなよ?落ちたら、死んじゃうから。」


「はい。お願いします。では、お食事を運んできますね。」

 そう言って、エルフェリーヌは部屋から出て行った。


 マサキは睡魔に勝てず、ソファで体を横にした。一瞬で爆睡の彼方へと意識を飛ばしていた。が、天井の鼠に気が付かない訳もなく。しかし、面倒だったので、放置して寝てしまった。


「タチバナ様?タチバナ様?」

 と言いながら、エルフェリーヌがマサキを両手で揺り起こした。


「ああ、寝ちゃったな。」

 そう言って、マサキは体を起こした。


「お疲れなのですね、お食事が冷めないうちにどうぞ。」


「おう、ありがとう。」

 そう言って、食事に手を付けた。パンとステーキとスープだった。エルフって菜食主義とかじゃないんだなと、変な感動をしながら、食べ進んでいった。その間、エルフェリーヌは、ニコニコと嬉しそうに眺めていた。


 マサキが食べ終わる頃、扉からノックの音が聞こえた。

 エルフェリーヌは、どうぞ!?と声を掛け、ノックの主が入室して来た。


 入って来たイケメンエルフは、一礼すると言い放った。

「女王陛下。人間風情と何をお話されているのです?陛下の身の危険をお考え下さい。

 では、用件を申し上げます、エルフォリア様との婚約を認めて頂きたく、お願いに参りました。」


 エルフェリーヌは、大きく溜息を吐くと、イケメンエルフを睨みつけた。

「エルガイズ、貴方はお客様に対して、無礼な口を利くに飽き足らず、妹を嫁に寄こせと言うのですか?貴女は、私に求婚していたのではなくて?」


 エルガイズと呼ばれたイケメンエルフは、エルフェリーヌに結婚を申し込んでいた様だ。こんなに気立ての良い女を、今更手放すつもりはマサキには毛頭ない。

だが、妹に乗り換えると言う、厚顔無恥さには、許しがたいものもある。どうせ、王配の地位が欲しいだけだろう。


 エルガイズと言う男は、臆する事無く言い放つ。

「陛下に於かれましては、この身では分不相応と判断しました故、また、妹君のお人柄に接するにあたり、惚れ込みまして御座います。」


 マサキは思う。こんな馬鹿がいるんだと。まさか、要職には就いていないだろうな、と。こんな馬鹿で政治家が務まる様なら、世界征服も簡単だろう。1番強敵なのが、エクルラート女王国なのだから。


 マサキは、助け船を出してやる事にした。

「このまま見ているのも、楽しそうだったんだがなぁ、イケメンエルフ。頭に蜘蛛の巣が付いているぞ?」


 エルガイズは、頭を触りだした。が、分からないのだろう。鏡を探してキョロキョロし始めた。


 マサキは、笑いながら言う。

「嘘に決まってんだろ?お前が、天井で盗み聞きしていたのを、見逃してやったんだ、感謝しろよ?」


 エルフェリーヌが慌てた。

「タチバナ様?どういう事ですか?」


「ああ、こいつは、俺とフェルの話を天井で聞いていたんだよ。面倒だったから見逃がしてやったけどな。もしかしたら、覗きの常習犯かもしれないぞ?

 ま、変態覗きストーカーって事だ。まさか、こんな奴が要職に就いていないだろうな?」


 エルフェリーヌは、顔を真っ赤にして怒っていた。

「まさか、そんな事までしていたなんて。許せません!」


 エルガイズは、切れ芸を見せる。

「貴様!人間風情が何を言う!陛下、こんな奴の言う事を信じるんですか!?」


「俺さ、その風情って言葉、そう言う意味で使うの嫌いなんだよ。」

 と言って、パチンとフィンガースナップを鳴らした。


 エルガイズに強烈な重力が掛かり、膝から崩れ落ちた。そのまま床に這いつくばり、目だけマサキを見上げる。エルフェリーヌは目を大きく見開いて見ていた。


 マサキは座ったままで、エルガイズに言う。

「お前が、誰に喧嘩を売っているのか教えてやろう。まずは、お仕置きだな。天井裏で盗み聞きをしていた分。」

 と言うと、エルガイズの体に電流が流れた。


「アッババババババババ…………」


「正直に言え、言わないなら、お前の大事なところを切り落とす。エルフェリーヌの部屋を私室を覗いたな?」


「う、、」

 マサキは、立ち上がると、異空間から刀を出し、一気に引き抜き、股間に刃を向けた。

「はいぃ。覗きました!」


「で、妹に乗り換えようとしたのは、譲位の話を聞いたからだろ?お前は王配の地位が欲しかったんだよなぁ?好きでもなんでもなく。」


「は、はい。」


「知ってるか?女の敵は、俺の敵。なんだぜ?」


 エルガイズは必至で懇願する。

「すいません、すいません。二度としませんから、切らないで下さい。」


 マサキは黒い顔でニヤッとした。

「馬鹿野郎。俺を悪鬼羅刹の様に言うんじゃねー。俺は優しいんだぜ?」

 そう言って、1つの魔法を行使した。何をしたのか、誰も分からなかっただろう。本人が気が付くのもしばらく先な筈なのだ。【不能インポッシブル】の魔法を掛けて差し上げたのだ。


 エルフェリーヌは、マサキの黒い笑顔を見逃していなかった。が、取り敢えず近衛を呼んで、エルガイズを捕縛させた。


 エルフェリーヌは、エルガイズが連行されるのを確認して、マサキに向き直った。

「タチバナ様?今、エルガイズに何の魔法をお使いになったのです?」


「知りたいのか?知らない方が良いと思うぞ?」


「流れる様に魔力を扱いになるのも素敵でしたけど、先程の魔法は全く覚えがないので、気になってしまって。」


「ああ、既存の魔法ではないしな。俺が作った魔法だし。」


「魔法をお作りに……なれる?」


「ああ、まあな。」


「ええええええええええ!!」


「おいおい、女王様がはしたないぞ?」


「だって……真理の理に至っていると言う事じゃないですか。」


「ある意味そうかもな。まあ、フェル。お前は俺の嫁になるんだろ?なら、そのうち分かる。取り敢えず、エルガイズは二度と女に手は出せん。役に立たなくしてやったからな。」

 と、再び黒い笑顔を見せたマサキは、異空間からダイヤの指輪を出した。


 エルフェリーヌの左手を取ると、薬指に指輪を着けてやった。

「フェル。お前の気立ての良さと聡明さに惚れた。もう、お前は俺のもんだ、絶対に離しはしない。良いか?」


 エルフェリーヌは涙を浮かべながらも笑顔で、

「幾久しく、よろしくお願い致します。」

と返事をした。



 マサキは、鞭を持った女王様でなくて、本当に良かった。と、心から思うのであった。そういう店もあるんだろうか?とも。アホである。




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