第49話 迷宮攻略

 朝起きて、風呂に入りながら考える。迷宮に入ってみたものの、ここ迄は、大した事のない魔物が数に物を言わせた感じだったが、正直、1匹でも100匹でも魔法が使えれば変わらない。この先は、どうだろうか。もっと楽しい何か、はあるだろうか。もっと面白い魔物がいても良いと思うのだ。何かいないかなぁ……。


 魔法と言うのは、戦争の概念も変えてしまうのだなと、今更ながらに思ったのである。迷宮で魔物を相手にしていて思ったのだが、数がいくらいても手間は大して変わらない。と、言う事は、敵の兵士が1人であろうと1000人であろうと、変わらない。数より質なのだ。無条件に魔法を教えてしまうのも考え物だろう。


 土木作業や建設作業、農作業に使える魔法を、魔法書にして売り出す様な形にするのが良いかもしれないなぁ。読めば使える様になる書にする感じで。考えてみれば、魔法って簡単に使えてしまう大量破壊兵器なんだよねぇ。今まで、考えてもみなかったけど、運用は慎重にしなければいけないね。


 今日は、30階層まで行きたいけど、28階層からは未知の階層なんだっけか。まあ、俺の場合は、最初から情報を得て入っていないので、変わらないのだけど。


 そんな事を考えて風呂から上がり、朝飯を食ったらさあ迷宮だと準備をしていた。ふと考えて、野営の準備はするべきか?と思ったが、ゲートを迷宮の20階に繋げられるか試してみる事にした。迷宮は別の空間の様な気がしたからだが、問題なく繋げられた。じゃ、野営の必要はないなと、その場から迷宮入口裏手に移動した。


 入口の兵士にカードを見せて入場した。1階層の石碑から20階層に飛び、21階層の入口まで、そのまま進んで行った。


 21階層は、森林?なのか?鬱蒼と茂る木々、足元は地面が見えない程度の草。何が出るか分からない感じ。だが、何か違和感があるんだよ……。


 腕を組んでマサキは景色を見ながら考える。

(あー、物凄く深い林で薄暗いのに、草が生えている。そうだよなぁ、こう言う所ってキノコとか、多少のの草はあるだろうけど、日があたらないから、下が見えない程の草っておかしいよね。これが、迷宮の不思議なのかねぇ。)


 草の中に小さい魔物でも潜んでいるのだろうか。と思いながら、足を踏み出すと、虎?スマホの画面を見ると、『マーダーレパード』と出ていた。豹か、速そうだなと思ったマサキは、刀を抜身にして、手に持つことにした。


 走って来た豹を躱しながら、刀を降り抜いたマサキは残心の構えを解くと、豹の死骸を確認した。豹にしては異様に大きいのだが、まあ、迷宮仕様なのだろうと思う事にした。しかし、狼と違って動きが速い、気を付けようと思いながら、魔石を拾いに行った。


 魔石と一緒にドロップ品があったのだが……、ヒョウ柄の毛皮ではなく、ヒョウ柄の布が落ちていた。手に取って見ると、肩紐とワイヤーの入っていないブラだ、どう見ても。何故かと言えば、ホックが付いているからだ。しかし、この世界にホックなんかあったか?やっぱり迷宮は謎だ。


 だが、マサキは俄然やる気になった。何故なら、セットでなければならない物が有る筈なのだ。そう、魅惑のアイテム、ヒョウ柄パンツだ。そう思ったマサキは、ここからが凄かった。森の中を疾走し、木を避けながら、魔法を速射し、刀を神速で振り抜き、木を避けながらの足運びは迅速を極め、気配だけを頼りに確実に豹を屠って行く。


 何百頭倒しただろうか、22階層への通路まで到達した。多分、1つの階層を抜けるのに、今までで、最速ではなかっただろうか。しかし、ゲット出来たのは、ブラばっかり58個。サイズは色々ありそうだが、ここでは、これしか出ないんだと諦めた。魔石は、300個以上あったから、金にはなるだろう。


 22階層に降りていくと、21階層より大きい豹がいた。これは……、大きいブラなのか?と思いながら、再び神速の無双が始まった。23階層への通路まで来た時、丁度400頭を屠ったところだった。ここ迄で、132枚のヒョウ柄パンツをゲットしたのだ。最初の1頭を倒した時に出たパンツを見たマサキは最早、鬼神であった。


 かつて、こんなに萌える、そして燃える展開があっただろうかと、マサキは、23階層へ降りて行くのである。次は、何が出るのか、非常に興味深いとマサキは興奮しっ放しなのだ。ただでさえ、戦闘で興奮状態のところへこんな物が出たら…、マサキの近くに女性がいなかった事に感謝すべきだろう。


 23階層に降り立ったマサキが最初に見た物は、相変わらずの森林地帯ではあるが、巨大な芋虫であった。大きさとしては、10tトラックくらいだろうか。こんなもん、どうやって倒すんだ?と、試しに、刀で切り付けてみたが、表面が分厚くて、刃が通り辛い。等と試していたら、糸を吐き出し巻き付けられてしまった。


 身動きが取れなくなり、やばいと思ったが、【短距離転移ショートトランスファ】で糸の中から抜け出し、刀に魔力を通して切り付けてみた。今度はすんなり頭を切り落とせた。ふぅ、と一息つくて、足元を見ると、魔石と真っ白なシルクのキャミソールが落ちていた。


 今度は、刀に魔力を通しっ放しにして、森の中を駆けながらひたすら芋虫を切っていった。この芋虫、『ヒュージシルクワーム』と言うそうだ。そのまんま感が否めない。キャミソールが100着手に入ったところで、24階層に降りて行った。


 24階層に行くと、堅そうな装甲と言うか甲殻を持つ、巨大なカニ?いや蜘蛛だな。が、いた。ここでも魔力を刀に通しっ放しにして、切ったり、【雷矢サンダー】を放ったりして倒していったんだが、ドロップがおかしい。包み紙に入った化繊のパンツ5色セットなのだ。しかも包み紙にS・M・Lの表記がある。どう見ても、地球産だよね。だが、狩りつくす!


 嬉しい事に男物のトランクスとボクサータイプのパンツもあった。25階層もこんな感じでいったのだが、予想通り、ブラの5色セット(ワイヤー入)だったのだ。これにもB65からG75までの表記があり、どう考えても地球産なのだ。この階層に居続けたら、ランジェリーショップが開けるのでは?と思いながら、26階層に向かった。歩きながら考えたのだが、21階層からここまで、凄く良い修行になっているのだ、体捌きから魔力を通した斬撃や運足まで。


 まあ、修行になるのなら、趣味と実益を兼ねて30階層まで行ってから、考えようと頭を切り替えた。


 26階層に降り立つと、森林だったステージは、清流の川へと変わった様だ。此処には、リザードマンがかなりの数いた。しかも結構強い。シミターの様な剣を持ち、素早い動きで斬撃を放ってくる。普通の騎士程度では、歯が立たないだろう。しかも、皮膚が硬いから神様印の刀でなかったら刃筋が立っていないと、直ぐに刃毀れする事だろう。


 やはり、とても良い修練になるのだ。こちらの世界に来てから、手応えのある修練が積めていなかったので、体の動きを確認する意味でも、有意義な時間を過ごせていると思う。特にリザードマンは、剣術も然ることながら、水魔法を織り交ぜて来るので、集中して戦う事が出来た。ここでのドロップは、高級パンツブラセットだ。やはり地球産。


 27階層も、同じ様なステージで、今度はドラゴニュートだったが、色が黒いリザードマンといったところだ。強さがマシマシになって来た。これに数で来られたので、少し苦労してしまったが、全数倒す事が出来た。そう、殲滅したのだ。ドロップがTバックとブラのセットだったから。


 そして、此処からが未攻略なんだな、28階層。

あー、これは普通の冒険者じゃ嫌だわ。リザードマンとドラゴニュートが混在していて、更に川の中にもいるし、ひしめき合うと言う位多いのだ。


 でも、河原だし火で良いかと、500発程度の【火玉ファイアボール】を作り出し、一斉に放った。しかし、盾を持っているドラゴニュートと水の中にいた者が残ってしまった為、刀に魔力を通して、切り捨てていった。ドロップは、カラフルなビキニの水着だった。パレオも所々に落ちている。ふむ、夏季休暇の間に海水浴でも連れて行くか。


 と、考えながら29階層に降りて行った。29階層は、断崖のある荒野だった。暑いかと思ったが、この迷宮は空調が効いていて、夏の外より涼しいのである。しかし、敵が見当たらないと思って上を向いたら、いたいた。トカゲ、トカゲ、トカゲと来たから、またかな?とは思ったが、ワイバーンがいた。


 見える範囲で、10匹か、自分が飛ぶのも面倒だからと、【重力グラビティ】で地面に落として首を落として回った。これ、リザードマン程練習にならないなと思っていたら、ドロップもへぼかった。パラソルとバスタオルとレジャーシートとデッキチェアだったんだが……。海水浴セットよな?


 ワイバーンを全部で30匹程倒したところで、30階層への出口を発見した。30階層のボス部屋の前で壁に寄り掛かり、座って休憩をしながら考えた。


 この迷宮が見付かったのは、この春なのだそうだ。それも突然発見されたと言っていた。そして、20階層から先の情報が、異常に少ないとも。27階層まで攻略されていたのにも関わらず。まあ、ドロップが恥ずかしくて、言えなかったのかもしれないが。


 ドロップが地球産っぽいのも、作為的な物を感じるのよな。もしかして……。


『エリセーヌ。』

『はーい。』

『ローレルに新しく発見された迷宮ってさ、ガリルの爺ちゃんが作ったとかか?』

『え?なぜそれを?』

『やっぱりか。俺のそそりそうな物ばっかりがドロップアイテムだったんでな。ゲームっぽかったし。』

『マサキさんが修行になる様に、作ったんだそうですよ。』

『そうか。爺ちゃんには、良い物をありがとうと伝えてくれ。』

『良い物って何ですか?』

『エリセーヌは気にしなくて良いんだよ。じゃぁな。』


 と言って、会話を終わらせた。エリセーヌなんかに知られたら、ガリル爺ちゃんの好意が無駄になってしまうのだ。


 軽く食事をして、休憩をしたマサキは、立ち上がると30階層ボスの部屋へと足を進めた。大扉を軽く押すと、扉が開いて中に入った。扉が閉まって、中が明るくなると、死臭が漂っていた。


 中は、広大なドーム状になっており、正面には、死霊竜ゾンビドラゴンが寝ていた。マサキが中央付近まで歩いて行くと、起き上がって対峙した。

 臭いし、竜だしと思ったマサキは、殲滅魔法を使う事にした。ゾンビドラゴンに向かって左手を翳すと、【爆炎エクスプロージョン】を放った。


 ゾンビドラゴンに向かった炎は、着弾と同時に大爆発を起こした。マサキは、自分がめっちゃ熱くなる事を計算に入れていなかった。兎に角臭い物は消毒だ!程度にしか考えていなかったのだ。


 自らの周りに結界を張ったマサキは、炎の治まるまで眺めていた。

 段々小さくなってきた炎の先を見ると、焼け爛れてはいるが、竜が動いている。これは、ちょっと面倒だぞと思いながら、刀を抜いて魔力を通した。7色に光る刀身を確認して、燃えている竜と対峙した。


 ゾンビドラゴンは、いきなり真っ黒いブレスを放ってきた。まあ、俺もいきなり【爆炎エクスプロージョン】だったし、御相子かと思いはしたが、範囲が広くて避けるのが一苦労だった。ブレスが収まるのを待って、刀で切り掛かっていった。


 上段からの一刀両断は、ゾンビドラゴンの右前足の爪で弾かれた。弾かれた刀の勢いのまま反転して、右から左へ刀を回し、右前足を切りつけた。魔力が通っているのにも関わらず、切断が出来なかった。足の踏ん張りが足りなかった事と間合いが微妙にずれていた為だ。


 マサキは地に足を付け、地面を踏みしめて、間合いを計っていたが、ゾンビドラゴンは尻尾を振り回してきた。マサキの左側から回って来た尻尾を、体の向きを変えて一刀両断すると、尻尾は途中から切断されて、先の方は、入口扉付近まで飛んで行った。マサキは振り下ろした刀を龍尾と言う技で、鋭角的に跳ね上げ、尻尾を根元から切り飛ばした。


 そのまま、横へ回り込み飛びあがって首を一刀両断しようと思ったが、ゾンビドラゴンは、右後ろ足で刀を止めた。止められたところで、マサキは【雷槍サンダースピア】を5本ゾンビドラゴンに向かって放った。


 動きが一瞬止まったゾンビドラゴンの首を落とし、皮の無くなった骨の隙間から、【爆炎エクスプロージョン】を体内に放って、内部で爆発を起こし、決着が着いた。両手で抱える程の魔石を異空間に仕舞った事で、復活もないだろう。再ポップはあるのだろうが。


 ドロップを待っていたら、少し大きめの箱が出て来た。開けてみたら、中から手紙とコートが出て来た。


『雅樹君へ

 迷宮攻略おめでとう。雅樹君好みのドロップアイテムが沢山出たと思う。ワシからのプレゼントじゃと思ってくれ。このコートは温度調節機能付きの全属性魔法防御のコートになっておる。冬には便利じゃろう。


 さて、ここからが本題じゃ。この迷宮は、この階層で最下層と言う事にしてある。が、雅樹君だけは、この先に修練場として入れる様にしてある。修行に使うと良い。石碑の向こう側の壁に魔力を流すと、扉が現れる、そこから入れるでの。

                                ガリル』

 と、書いてあった。


 ボス部屋の出口側の扉を出ると、石碑はあったが、証は無かった。魔法陣だけが、静かに光っていた。


 マサキは、少し考えて、今日は帰る事にした。

 多分、俺専用の修練場となると、相当キツイ事が予想されるからだ。そして、30階層の出口には、【ゲート】を使えないと来る事が出来ない。まあ、21階層から、下着狩りして来ても良いのだが。


 今日は、ゾンビドラゴンが意外に激闘だった事もあり、体を休めておきたいのと、ギルドに情報提供がてら、規制を入れた方が良いと思うからだ。21階層以降は、全員Aランクのパーティが必須だろう。特にリザードマンエリアからは、相当苦労する筈だ。20階層から30階層まで、石碑がない事を考慮すると、20階層までで、規制するのが良いだろう。


 20階層の証を無くしてしまえば良いかと考えるマサキであった。一旦魔法陣に乗って、1階層まで移動して、再び20階層に降りてみると、証は無かった。と、言う事は、元々俺専用みたいな物だったのか?27階層まで行った奴のドロップを聞いてみなければ。


 そんな事を考えたマサキは、再び魔法陣に乗り、1階層へ移動した。入口の兵士に攻略が完了した事を伝え、ギルドに報告に行く旨を伝えた。


 迷宮入口から裏に回って、【ゲート】を開き、屋敷の庭へ移動した。そこから冒険者ギルド迄歩いて行き、中に入って受付嬢に迷宮攻略の報告に来たと伝えた。


 暫く待っていると、受付嬢のアンナが、こちらへと言いながら案内してくれた。3階に上がり、ギルドマスター室に入ると、ソファに案内され、アンナがお茶を淹れてくれた。マサキは、ソファにドカッと腰掛けると、お茶で口を湿らせた。


 体のデカい男が近付いてきて、

「お待たせして申し訳ない。ギルドマスターのロバートです。元Aランクです。」


「Sランク主席のマサキ・タチバナだ。宜しく。」


「今日は、迷宮を攻略されたとか?」


「うん、未攻略だった、この春見付かったと言う迷宮をね。」


「僅か3日でとは、恐れ入りました。で、情報は提供頂けますか?」


「その前に、27階層まで攻略済みと聞いていたのだけど、余りに情報が少なかった言い訳を聞きたいんだが?」


「それはですね。正確に言いますと、27階層まで行った。と言うだけで、攻略した訳ではないのですよ。21階層からは、斥候役の人間が気配を消して、魔法を駆使して見て来ただけなのです。ランク評価をしたかったものですから。」


「あのさ~、そこは受付嬢にも、正確に伝える様に指示を出せ、死人が出るぞ。まあいい、取り敢えず、1回殲滅してみた。21~30階層までだけどな。で、結論から言うと、最下層は30階層。

 で、今のランク評価は、ちょっと不味い。10階層までは、Bパーティで良いと思うが、11階層からは、Aランク以上。21階層からは、Aランクパーティ以上とするべきだろう。

 30階層のボスは、死霊竜ゾンビドラゴンだったし、俺もちょっと手古摺ったから、Aランクパーティでもきついかもしれんなぁ。」


「では、その様に発表致します。情報提供に感謝します。」


「いやいや、俺もギルドに貢献しておかないと、エルラーナに怒られるし、冒険者を死なせたくないのは、同じさ。」

 そう言うと、マサキは立ち上がり、手を上げてギルドマスター室を後にした。


 マサキが出て行った後、ロバートが呟いた。

死霊竜ゾンビドラゴンにソロで勝てるのか?バケモノめ……。」


 アンナは、釘を刺す。

「そんな事を言ってはいけません。色々、冒険者の事を考えて下さっていますし、助けてもくれています。それも無償です。エルラーナ様に言いつけますよ?」


「あ、ああ。確かにそうだな。」

 と、ロバートは冷や汗を流していた。



 ギルドを出たマサキは真っ直ぐ、屋敷へ帰った。お土産を分けなくては!!と気合を入れたのである。




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