第30話 引っ越し

 心の内では、何かスッキリしてしまったんだが、何故かセレスティーナとは顔が合わせ辛い。何故かじゃねーな、当たり前だわな。普段は、セレスティーナをちゃんと好きなのだ、感情の動きが面倒な時はあるのだが。


 ただ、不思議だと思うのは、メイリーナにどうしてあそこまでの恋心を持ってしまったのか、なのだ。女性を信用する事はおろか、好きになる事すらなかった俺が、何故、あんなにも焦がれてしまったのかが正直解らない。エリセーヌに癒されて、ちゃんと好きだと言える程度には回復しているのだ。いるのだが、好きになってはいけない人を好きになるとか、ちょっと信じられないのだ。


 まぁ、もう認めざるを得ないのだけどね、心に巣食っていた蟠りが解けていく様な感覚が確かにあって、気分が楽なのだ。甘えたかったのかも知れないな。

 もう、悩むのは止めよう、仕方ないのだ、好きな物は好きなのだ。もうそれで良い。


 若干思考の放棄にも見えるが、マサキは取り敢えず考えに蓋をした様だ。後は、セレスティーナに言える勇気があるかと、ちゃんとメイリーナを口説けるか、なのだろう。


 ギルドで、依頼完了手続きをして、弥助と一緒に用意してもらった屋敷へと行ってみた。何か作為的な物を感じるが、コーラル公爵家の隣なんだよ……。

でな、公爵家の隣で、王城の隣なんだけど、今はない大公爵家用の屋敷な訳よ。つまり、公爵家よりデカいのよな?駄目じゃね?


 まぁ、考えても仕方ないので、門から入ってみたが、玄関遠いよ!玄関開けてみたよ。広いよ、凄いよ、どうやって維持すんだって、これ。桜と椿とミレーナの負担が凄そうだなぁ、ユイっていたな、あれ攫ってくるか。使用人用の別棟もあるな、そっちも覗いてみよう。


 我々、小市民には安心する間取りだった。どうもこちらは、使用人の中でも所帯持ちが住む部屋の様だ。弥助には丁度良いだろうが、一緒に酒飲みたいよなぁ…。

まぁ、部屋は本館にアホ程あるので、霧にお願いしてみよう。


 ギルドに戻って、エルラーナと話をした。

「エルラーナ、お前も屋敷で一緒に暮らさないか?」


 エルラーナが意外そうに言った。

「え?良いの?」


「逆になんで駄目なんだ?」


「だって、今まで別の部屋だったし、嫌なのかと思って。」


「部屋数の問題だよ。本当は、ギルドの部屋をぶち抜いて、繋げようかと思ってたんだ。借り物だし、流石に不味いと思ってやめたんだよ。」


「そうだったの……。貴方が良いなら引越しするわ。一緒に居たいもの。」


「まぁ、今度は屋敷がデカすぎて、逆に困ってんだけどな。セリアも攫ってしまおう。」


「どこなの?」


「公爵家の隣。大公家の屋敷。」


「あら~、殆ど城ね。」


「そうなんだよ、大は小を兼ねると言うがちょっとな。ダンス用のホールとかあるけど、踊らないし、パーティーしないし。」


「まぁ、王女と皇女をもらうのだから、体裁もあるんじゃない?」


「俺からしたら、みんなただの良い女、なんだけどな。」


「貴方はそうなのよね。王女も皇女もエルフも受付嬢もメイドも忍びも関係ないのよね。貴方のそういう所とても好きよ。」


「俺はお前の全てが好きだがな。」


「あら、私だって貴方の全てを愛しているわ。」


「やべーちょっとムラムラしてきた。執務室プレイは有りか?」


「良いわよ、来て。」


 なんて言われて燃えちゃいましたさ。その後、エルラーナの部屋に突撃して荷物を全て異空間に収納し、強制的に引っ越し完了。セリアも同様、勝手に部屋に上がり込み、部屋にある物を全部持っていっちゃいました。


「セリア、お前の家はもうない。俺と一緒に暮らすのだ。パンツは全て俺が持っている。返して欲しければ屋敷へ来い。」


「なんで~?」


「お前に拒否権はないのだ。」


「いや、嬉しいから良いんだけど、パンツは返して。」


「早く来ないと被っちゃうからな。」


「いやぁぁぁぁ!」




 そして、ギルドの自室へ戻り、俺の女達よ!引っ越しだ~と声を掛けた所、流石忍びと言ったところか、既に準備は出来ていた。


 しかし、ミレーナはまだまだだったので、パンツだけ先に回収してあげた。

「上様。何故パンツだけ持っていくのですか?」


「男のロマンだからだ。」


「全然わかりません。」


「なんなら、被って見せようか?」


「ごめんなさい。そのままお持ち下さい。」


「食器類は持っていって良いらしいから、持って行こう。」

 という訳で、持てる物は全て収納した。




 この後、宝石商に行った、1人で。店主に良い物があるか聞いたら、案の定また仕入れをした様だ。幾つか見ていったが……。これは、どうなんだろう、ピンクダイヤがあるのだが、薄いピンクなのに発色がとても綺麗なんだ。が、セレスティーナが拗ねそうな気がするんだよなぁ。だが、買う。


「店主これはいくらかな?かな?」


「うーん、いつもお買い上げ頂いているので、300万リルで結構ですよ。」


「おう、有難う。んじゃ、ギルドカードで頼む。」


「承知しました。」

 マサキは、ギルドカードを渡すと、サインをした。

「この度も有難う御座いました。」


「こちらこそ。また、頼む。」


 そう言って、店を出ると屋敷へ戻って行った。




 屋敷へ戻ると、皆、屋敷のリビングにいた。部屋割りをしたいのだが、上様に決めて頂こうと、待っていたらしいのだ。

「霧。」


「はい。上様。」


「この屋敷には、所帯持ちの使用人用の別棟があるのだが、俺は弥助と酒が飲みたい。俺にとって、男同士の語らいも重要な時間なんでな。子供が出来るまでは、こちらで生活してくれないか?」


「私達は、こちらで生活するつもりでしたよ?私にとっては、弥助も大事ですが、上様も大切ですので、どうぞお気遣いなく。」


「そうか、弥助、よく出来た女房だな。」


「そうでしょ?私には過ぎた女房ですよ。」


「祝言を挙げさせてやりたいな。この屋敷なら充分出来るだろうが、両親とか遠いな。1度ローレル行って、ゲート繋ぐか。」


「有難うございます。」


「じゃ、今暫く待ってくれ。」


「いつでも結構ですよ。」


 この屋敷、4階建てなのだが、4階の最奥が主寝室になっており、アホ程広い。そして、天蓋付きのベッドで大きさとしては、キングサイズより大きかった。

ハーレム仕様なんですね。そうなんですね?あぁ……、そもそも一夫多妻ってハーレムじゃん。珍しい事ではなかった……。大公家の屋敷だしな。


 2階3階にも沢山部屋があり、どこを使うかで迷ってしまったそうだ。ミレーナ、桜、椿は家事もあり、メイド等の使用人が使う部屋が1階に10部屋もあるので、そこで良いと言う。


 4階の主寝室以外は、一応、王女、皇女の為に開けておこうとなり、エルラーナ、セリアは3階の2室を使う事になった。使用人の部屋以外の部屋は滅茶苦茶広いのだ。夫婦でも充分住めると思う。


 2階は客間の様なのだが、客来ないよね?と思って、弥助夫婦には2階の最奥を与えようと思ったのだが、霧からストップが掛かった。


 屋敷の1階に、所帯持ち用の使用人部屋があるらしく、そこで良いと言われてしまった。私達は、上様の臣下でありたいと。


 正直、気にする事はないと思うのだが、こういうのを忠臣と言うのだろうか。仲間じゃ駄目なのかね。きっと駄目なのだろうな、船頭が多くなってしまうと、碌な事にならないのは、確かなのだ。少し寂しくはあるが……。弥助には、忍びの頭領になってもらえば良いか。


 立花家の忍び軍団を作るのも悪くないかも、立花忍軍とか言っちゃって。まぁ、土地を探してからの話だがな。




 くノ一達は皆が腰元の様な和服なのだが、これが見ていて萌える。和服ポニーテールか和服団子頭なのだ。これは萌える。だが、和服の色を変えてもらわないと、霧を襲ってしまいそうで怖い。メイド長を霧にして、色を変えよう、買って来るぜ!


 思い立ったら、すぐ呉服屋へ向かった。金貨100枚使っちゃったが、問題ないだろう。気にするだけ無駄なのだ。霧用の小袖と霧と椿に綺麗な小袖、霧の為に、豪華な打掛も買ってしまった。祝言に欲しいよね?打掛。


 その足で、メイド服を作っている服屋へと向かい、メイド服のスカート丈がなげーんだ馬鹿野郎!と抗議をし、絵を描いて、こう言うのを50着作れと言い渡して来た。出来たら屋敷に持って来いと言って来た。これで我が家もメイド喫茶になる事だろう。


 さらにその足で、商業ギルドへ行き商会登録だけして来た。タチバナ商会にした、色々考えはしたのだ。ジャパン商会とかニッポン商会とか、イケメン商会とか大人の玩具商会とか……、後で赤面するだけなので、やめておいた。


 なんで、商会登録したのか?それは、魔道具を作って販売する為なのだ。服工房を買収して、俺好みの服を製作して売るのも良いだろう。と、そんな事を考えているのだ。


 取分けトイレの開発は急務であろう。今の穴式でも問題ないのかも知れないが、やはり、洗浄機能と水洗は欲しいのだ、臭いのも嫌だし、衛生面に問題があるように思う。日本のトイレットペーパーの様に良い物はないのだから。


 和紙なら簡単に作れると思う。が、洋紙は溶剤が手に入らないし、工程が複雑なので、新たな紙の開発も必要だろう。木の皮はその辺にあるが、パルプとか言われても分からんしな。要は、木の皮を集めて、小間切れにして繊維を取り出して漂白して、どうにかして綺麗にくっ付ければ良いのだろうが、くっ付け方が解らない。


 和紙は海苔の様に漉けば良いのだけど、強度も足りない気がする。こうぞ雁皮がんぴが、その辺にあるとも思えないのだ。そもそも和紙は、忍び達の里で作っていそうな気がする。


 紙って、魔法で作れないか?と工程をイメージしてみたが、やはり繊維をどう織り込むかの知識がないので頓挫してしまうのだ。今後の課題としよう。




 よく考えてみたら、ここ数日で金貨160枚、1600万リルも使ってしまったようだ。これは霧に怒られるカモしれない。多分、弥助が言うんだろうなぁ。まぁ、上手く誤魔化そう。


 そんな事を考えながら、屋敷に戻った。

「椿。これ、綺麗な小袖があったから、外着に使え。」


「うわぁ、有難うございます。」


「霧、これ、普段着の小袖に使ってくれ、色が皆と一緒だと襲わない自信がない。あとな、こっちが外着用の小袖な。あとはこいつだ、祝言の時に着ると良い。」

 と言って、畳紙に入った、打掛を渡したのだが、その場に崩れ落ちる様にして座り込んで、泣いてしまった。


「上様……。」


「弥助、霧を泣かせてしまった。後を頼む。」


「上様…、これはいけませんぜ。」


「ん?何がだ?」


「こんな豪華な打掛、いくらしたんですか。泣くほど嬉しいに、決まっているじゃないですか。我らの為に、有難うございます。」

 と言って弥助まで涙を流してしまった。


「だってさ、祝言は女の夢が詰まってんだろ?生涯に一遍の晴れ舞台じゃないか、精一杯綺麗な恰好したいだろ?俺がしたのなんて、その一部に過ぎん。後は、弥助が幸せにしてやるんだからな。俺からの、弥助と霧への感謝の気持ちだと思ってくれれば良いさ。」

 そう言って、リビングへと足を向けた。




 想像してみた。腰元とメイドが入り乱れる喫茶店。ミニスカメイド服が出来てくれば、もう萌えっぱなしに違いない。そうは思わないか?諸君!!


 日本の時代劇文化と秋葉原文化に感謝しつつ、野望に邁進するのだ。俺の野望?そんな物は決まっているのだ、女達と将来嫁になる女達、彼女達とエロエロイチャイチャする事なのだ。政治?興味ないですね。経済?美味しいですか?それ。


 野望と言うと、天下統一とか言われそうだが、興味がない。何故なら、俺は仲良く出来る奴がいれば、それで良いからだ。だから、学校で教えてやるから、後はお前達でやれと言うスタンスが合っているのだと、思う。そういう意味では、教師も悪くないかもしれない。


 だが、やたら体だけが大人な子供が多いので、おっさんは困ってしまうのだ。

16歳でダイナマイトボディはおかしいと思わないか?1人だけなら、偶々と思う事も出来ただろう。確かにツルペタもいるのだが、ケツが主張しているのだよ。


 そう、みんながみんな、「体は大人、頭脳は子供、名……。」と言う感じなのだよ。逆だがな!おっさん的には間違いが起こる前に、身を引きたいと言うのが正直なところなのだ。


 メイリーナを好きだと認めてしまってから、俺の理性さんは、どこかに出張してしまった様で、節操と言うものが全然ないのだ。セリアを見かければ後ろから襲い掛かり、桜と椿を捕まえては、「あ~~れ~~」と帯を引っ張って、回してみたりと、ただの助平親父なのだ。


 昔バブルの頃、官僚たちの間で「ノーパンしゃぶしゃぶ」なる物が流行っていたが、当時は馬鹿じゃねーのかこいつら?と思ったものだ。日本の行政は大丈夫なのか?と子供心に真剣に考えたものだ。


 しかし、今はなんとなく気持ちは分かる気がする。だって、ミニスカメイド服着せて襲ったら一緒だよね。秋葉原の文化は純粋に喫茶店でメイドさんの鑑賞&コミュニケーションであった筈だ。


 まぁ、我慢出来ない俺が、全て悪いのだ。




 この屋敷に工房を作ろうか、帝都の家でやろうか、迷うのだが、帝都に行くと心配する奴がいるのだ。まぁ、桜だが。魔道具作りに必要な設備としては、工房と鍛冶工房も必要だな、彫金道具もいるか。裁縫は誰か出来そうだなぁ、メイドと腰元だし。後は、革か。皮を鞣して革にするのは簡単だが、革を加工するのが、難しい。


 まぁ拙速に事を決めていくのも、良くないのだろう。もう少し、ゆっくりできないのかね、俺は。


 まずは、屋敷での生活が落ち着く迄は、止めておこうと決めた。まだ、先生しているしな。明日から、また学校なのだ。今月で仕舞いにするつもりではあるが。




 その夜は、王城に向かった、城に入って、真っ直ぐメイリーナの居室に向かった。メイリーナの部屋の扉をノックした。王妃付きの侍女が扉を開けてくれた。


 中に入ると、メイリーナは寝支度をしていた様だ。俺が部屋に足を踏み入れたと同時に、メイリーナは侍女に目配せして、下がらせた。


 マサキは、ツカツカとメイリーナに近付くと、腰に手を回していきなりキスをした、それもかなり強引に濃厚なキスを。長い時間キスをして離すと、

「メイリーナ。俺はお前を愛している。俺の女になれ。死ぬまで俺の傍にいろ。」

 と、言い放った。そして、

「やっぱり、ここから始めないと、何処へも行けないみたいだ。お前の残りの人生を、俺にくれ。」

 と、付け加えた。


 メイリーナは、いきなりの事に困惑していたが、

「強引なのね。私も愛しているわ。貴方の女にして。離さないでね。」

 と返した。


 この言葉に箍が外れたマサキは、メイリーナを押し倒した。そして左手の薬指に指輪を嵌めてやった。


 この夜、メイリーナを抱いた。これまでの思いを全てぶつける様に。興奮しすぎて、5回戦もしてしまった。そのまま、メイリーナの部屋に泊まって寝た。


 朝起きた時、メイリーナは頭をマサキの左肩に乗せていた。

「ねぇ、凄いのね。私も、凄く興奮してしまったわ。あんなテクニックをどこで覚えたの?」


「知りたいのか?」


「ええ、貴方の事は、なんでも知りたいわ。」

 そう言われたマサキは、地球であった事を全て話してやった。弥助が知らない様な事まで。両親の死の真相まで。


「これまで、生きて来て、この世界に来るまで良い事など、1つもなかった。この世界に来ても、女に恵まれたと言う事位だろう。目の前に理不尽が横たわっていると、俺の中の獣が目を覚ます。だから、メイリーナ、お前が欲しい。俺を御せるのは、恐らくお前だけだ。」


「うん、ついて行く。」


 そして、そのまま朝から、ファイト一発してしまったのは、言うまでもないだろう。メイリーナに惚れた理由、自分の中に燻った猛炎を、静めてくれる存在だからなのかもしれない。

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