第31話 首脳会議開幕

 どうせ城にいるので、と朝飯を食堂に摂りに行ったんだが、王族専用スペースに俺がいて、メイリーナが指輪をしているのをセレスティーナが見て、ちょっとむくれていたが、何も言わなかった。


「何も言わなかったところを、評価しても良いのだけど、声を掛けてくれば、満点なんだがなぁ……。」

 と、マサキが呟いた。


「ん?セレス?」


「うん、なんと言うか、16歳で達観しているシャルが異質なのかも知れないが、セレスがもう少し、大きく構えられればなぁと思うんだ。シャルと一緒にいるのは、安心できるんだけど、セレスだと、心配の種が尽きないと言うかね。」


 メイリーナは感心した。

「へぇ、ちゃんと見てくれているんだ。」


「俺をなんだと思ってんだよ。」


「面倒だから、見ない様にしているかと思った。」


「面倒だと思う事は多いけど、ちゃんと愛してはいるよ。ただ、夕べも言ったけど、弥助に指摘されるまでは、メイリーナを好きだと思う事を、自分で忌避していたから、なんか疲れてしまってな。セレスの顔を見たくないと思う程度にはね。普段は、ちゃんと愛してるよ。」


「そうなんだ。思ったより、ちゃんとしてるんじゃない。」


「してないと思ったか?」


「私にはね。」


「仕方ないだろう、人妻だったんだから。今回は、サラビスのデカさに救われたよ。メイリーナを抱き締めそうになった日、腹切ろうと思ったんだ。」


「ごめんなさい、あんな事があったのを知らなかったから、惑わす様な事を言ってしまって。でも、もう貴方を信じてついていくだけだから。」


「まあ、俺がロクデナシなのは、変わらない。苦労を掛けると思う。」


「いいのよ、そんな貴方を愛しているのだから。」




 そして、学校へ行く段になり、セレスティーナとシャルロットと一緒に馬車で行く事にした。もう面倒だから、全部話しておく事にしたのだ。地球であったアレコレをね。


 一通り話を終えて、スッキリした俺と対照的に、セレスティーナは泣いていた。シャルロットは、多分、そんな事があったんだろうと言う位は思っていたそうだ。何?この余裕。おっさん負けそう。


 涙を拭いたセレスティーナは、マサキに向き直り、

「いつも自分の事ばっかりで、ごめんなさい。私もちゃんと愛していますから。」

 と言った。本来は可愛い女なのだ。俺の特殊性故に辛い思いをさせているのは、分かっているだけに、優しくしてやりたいのだが、俺に余裕がなかったのだ。


 メイリーナの事については、特に思うところはないんだそうだ。本当に?と思ったが、本人曰く、メイリーナの気持ちは分かっていたが、マサキが受け入れないだろうと言う心配をしていたんだそうだ。


 一夫多妻ってこういう物なのかねぇ……。非常に納得いかないのだが、自分の事なので、そういうものだと思う事にした。




 学校について、ホームルームの時間に、俺の講義は夏季休暇までだと言った。ブーイングの嵐だった。嬉しい事だ。

「教えて欲しい事があれば、屋敷に来い。」


「先生の屋敷ってどこだよ。」


「シリルんちの隣。」


「「「「「は?」」」」」


「大公家の屋敷な。」


 クレイブが慌てた。

「先生って大公家なの?」


「いや?ただの冒険者だぞ。なんか王がくれた。Sランク主席ってな、国王より発言力が大きいんだぞ。国と戦争しても1人で勝てちゃうからだけどな。」


「「まじで!?」」


「おう、この王都程度なら3分で更地に出来るぞ。」


「まじかー!!」


「そう、だからまともな領主や国王だったら、俺に喧嘩は売らないな。まぁ、俺が面倒臭いから戦争なんかしないがな。戦争なんかしてる時間があったら、綺麗なお姉さんとイチャイチャしていたい。」


「その方が先生らしいな!」


 なんて、会話をしていたんだが。大きい魔力が近付いてきている。外では警報が鳴り始めた。

「今日の講義は中止!バーベキューやるからな!」


「なんでだよ。」


「肉が飛んで来たからだ。」

 と外を指さした。


 ワイバーンが飛んでいた。

「やべーじゃん、ワイバーンじゃねーか!」


「だから、肉じゃねーか!ちょっと3枚に下して来る。」

 と言って、マサキは窓から外へ飛んだ。


 ワイバーンに向かって飛行して行き、刀を降りぬいて首をスパっと落とし、尻尾に切れ目を入れて、尻尾を持って上空から血抜きをした。川に流せば問題なかろう。


 そのまま、ワイバーンを担いで学校のグランドに降りて、脇差を抜き放ち、綺麗に皮を切って行く、そのまま皮を広げて、ワイバーンの活造り状態になった。異空間から鉄板を出し、生徒達を手招きして、グランドに集合させた。


 肉を細かく切って、一口サイズにすると、とても食いきれなかったので、全校生徒を招集。生徒達に火を熾させ炭を投入し、鉄板の上にどんどん肉を置いていった。


「な?ただの肉が飛んでるだけだったろ?」


「先生がおかしいんだよ!!」


「はっは。良かったじゃないか、俺が王都にいる時で。」


「確かに!」


 ワイワイガヤガヤと全校生徒でのバーベキューは案外楽しかった。普段は会わないソルティアーナも楽しそうにしていた。皮と骨は素材になるらしいので、ギルドに持って行ってやらないとセリアが泣くので、異空間に仕舞っておいた。


 若い生徒達の食欲に圧倒されたが、それでも半分位は残ってしまった。適当な大きさに切り分け、各家庭に持って帰る様に、持たせてやった。ワイバーンの肉は高価らしく、みんな喜んでいた。




 帰りに王城へ寄ったら、親書を書いたと言うので、受け取った。候補日は3つ用意した様だ。

「マサキ、昼間はありがとな。」


「ん?ワイバーンか?」


「あぁ、被害が全くなく収まった、礼を言う。」


「気にするな。生徒達とバーベキューがしたかっただけさ。」


「バーベキューをやったのか?」


「あぁ、今日の講義は中止にして、全校生徒集めて豪快にやったぞ。案外みんな喜んでたな。セレスとルティも肉を持って帰る筈だから、食えると思うぞ。」


「はっは。お前に掛かるとワイバーンはただの肉なんだな。」


「そうだな、あれは肉にしか見えないな。じゃ、帝国に親書届けに行って来る。」


「ああ、頼む。」



 マサキは、その場でゲートを開くと、帝国の城のシャルロットの部屋へ出た。しまった……、いつもシャルロットに手を引かれて行ってたから、場所分からんぜ。

 と言う訳で、王城のシャルロットの部屋に直接ゲートを繋いで、移動した。丁度帰って来たところらしく、着替え中だった。


「シャル。鼻血が出る……。なんでお前は、そんなに魅力的な体をしているんだ。俺を出血多量で殺す気か?」


「だって、着替え中に来る、マサキ様がいけないんです~。」


「そうなんだが、そうなんだが、超襲いたい!!」


「どうぞ?」


「そういう事言わないで。お願いだから。」


「はいはい。」


「帝国の城に行ったんだけど、シャルがいないと、執務室まで行けなくて、戻って来た。」


「あぁ、もう!ちゃんと覚えましょう?」


「でも、シャルと一緒が良いから、覚える気はないのだ。」


「もう、はいはい。」


 16歳に適当にあしらわれる、おっさん……。最早、勝てる気がしない。


「行きましょう?」


「うん!」

 素直に従う忠犬になった様だ。




 再び、帝国の城のシャルロットの部屋に移動した、マサキとシャルロットは、チューをしていた。

「んあ、マサキ様用事があるのでは?」


「まぁ、そうなんだけど、シャルがエロいのがいけない!」


「そんな事言ったって……。成人しているんですから……。」


「じゃ、行こう。」


 シャルロットの部屋を後にしたマサキは、やはりシャルロットに手を引かれて行くのであった。

 皇帝の執務室に到着した、マサキは、親書を出して、皇帝に手渡した。マサキは返事を待つつもりでソファに腰掛けた。

 レオは、親書を読み進めていったが、3つの候補から、どうするか迷っていた。


「マサキ殿。3つの候補には、何か意味があるのか?」


「ああ、1つだと、都合のつかなかった時に、仕切り直すのが面倒だから、3つ用意しておけば、どこかでレオ親父の都合が付くだろうと思って、王国に3つ用意しろと言ったんだ。」


「ああ、成程、早い方がお互い良かろう。1番目の候補で頼む。」


「承知した。帝国は何人の予定?」


「私と、ルキウス、テリウス、宰相、あとは政務官を兼ねている、貴族が5人程だな。後は、身の回りの世話をする侍女と執事が9人で、18人だ。」


「承知した。王城内に宿泊出来る様、手配する。」


「頼むな。王国の西側は大荒れの様だな。」


「うん、まぁ、俺も派手にやっちゃったし、クソ貴族が西側に固まっていたんだ。これから、改革だってよ。」


「そうだろうな。交易では協力も出来るだろう。宜しく頼む。」


「あいあい。」




 シャルロットを伴い、執務室を後にすると、シャルロットの部屋から、王城のサラビスの執務室に移動した。


「行って来たよ。1番目の候補日で良いそうだ。向こうは、王族3名、宰相、政務貴族5名で、従者が各1名で総勢18名だそうだ。宿泊の手配を頼むね。」


「承知した。では、3日後からと言う事だな。ゲートは頼むな。」


「おうよ。これ終わったら、ローレルに遊びに行って来るからな。」


「ほう、迷宮か?」


「それもあるけど、弥助の祝言を挙げてやりたくてな、里がローレルの近くなんだそうだ。」


「あぁ、そういう事か。承知した。」




 シャルロットを部屋まで送り、ムラムラしていたので、屋敷に帰った。帰ると、桜と椿が目についたので、風呂と酒の準備を頼んだ。軽く飲みながら待っていると、支度が出来たと言うので、風呂に入った。


 これがまた、デカい風呂でなぁ、使用人の風呂は小さいらしいんだが、主用の風呂は完全に大浴場だね。30人は同時に入れそうだ。マーライオンみたいな奴からお湯が滔々と流れ出ている。かけ流し?


 桜に確認したら、地下から上がってきている様で、開栓したら、ずっと出ているそうだ。お湯を掬ってみると、魔石から出るお湯では無さそうだと思って湯舟に浸かってみると、細かい気泡が体に纏わりついて来る。

 これは、温泉だ、それも炭酸泉だ。気持ちが良いし、重曹採れるかも?


 良い屋敷をもらった。何処から湧いてきてんだろう。湖の北側へ行って、穴開けて調査してみるか。あの辺で温泉が出れば条件は良いな。港町はゲートで繋いでも良いし、やり様はある。湖の北側から眺める景色は最高だろう。


 重曹とれると良いなぁ、重曹は炭酸水素ナトリウムだろ?これにクエン酸を足してグラニュー糖を入れて水で割るんだよ。そうすると、ラムネの完成だ。


 小学校のクラブ活動で作ったのを思い出した。懐かしいなぁ、ラムネ美味かった。

クエン酸なんか柑橘系の果物から採れるし、グラニュー糖は砂糖だからな。挑戦してみよう。炭酸水が出来るだけでも、果実酒が美味くなる事だろう。


 まさか、屋敷で温泉に入れるとは、思わなかったが、嬉しい誤算だった。勿論、桜と椿とミレーナは一緒に入ったんだぜ?セリアとエルラーナはまだ、仕事をしているらしい。


 風呂から上がって、晩飯にすると言う話から、弥助と霧が何かを作っていると聞いた。どうやら、ギルドの5階にいる時から、糠床を育てていた様だ。やっといい具合に育ったらしく、胡瓜の糠漬けを出してくれた。


 凄く久しぶりに食べた糠漬けは、酒のつまみに最高だった。糠は毎日手を入れないといけないから、大変なんだよな。


 夜は、ムラムラを引っ張っていた為、セリアとしっぽりして、満足して就寝。明日も学校だ。学校は面倒でもある反面、成長していく奴らを見ているのもまた、一興なのである。




 学校へ行きながら、魔物狩りをして素材と魔石を集めていたのだが、首脳会談の日になったので、王城へ行って、準備の確認をし、シャルロットを伴い、ゲートで帝国へ移動した。


 帝国の城のシャルロットルームに出ると、取り敢えず執務室で良いかと向かった。執務室に着くと、総勢18名が揃っていた。従者はメイドが多く、部屋は一緒で良いのかと下衆の勘繰りをしていたのだが、レオ皇帝曰く、大丈夫だ、との事。


 一応、正式に王城に入った方が良いだろうと、王城正門にゲートを繋いだ。門衛に手を挙げて、帝国からの客人だと伝え、城内に伝令を走らせた。マサキは、自分が案内して行けば良いかと考えたが、王城内では、そういう訳にもいかないらしいので、後はお任せする事にした。


 チンが、いやセバスチンが、先導して皇帝以下18名を連れて会議室へ移動した。王国側は、サラビス王、コーラル公爵、ローレル辺境伯、スコット、交易担当政務官、等こちらは、6名。皇子分少ない感じね。


 まずはお互いの紹介から始めて、握手を交わし、先日の帝国民誘拐事件のお詫びから話が始まった。


 俺、此処に居ないと駄目?とメイリーナに目で訴えたが、右腕をがっちり抱き締められ、左腕はシャルロットにがっちり抱き締められて、両腕がおっぱいに挟まれている至福の時を、何故、会議室で迎えねばならんのかと、意味の分からないキレ方をしていた。


 メイリーナとシャルロットは、セレスティーナよりも通じ合っていると思うのだが、何故なのか。おっさんには、サッパリ解らないのである。


 俺は、王国の人間ではないので、必要ないと思うのだが、両国の橋渡しをしたのだから、ちゃんと立ち会えと言われてしまった。確かに首脳会談を勝手に決めて来たのは、俺だったな。


 かと言って、話す事が有る訳でなし、暇を持て余してしまうと、直ぐに悪戯心がムクムクと起き上がって来てしまう訳で。だが!両腕さらホールドされているのだ。もう初夏を過ぎた辺りなのだ、暑いわ!気持ちイイけどな。


 何も出来ない石像状態のマサキは、はて……と考える。エッチな魔法は無かったかと。避妊があるのだ、何かあるだろうと頭の中を整理した。ん~無くはないが、此処で発動したら顰蹙ひんしゅくを買ってしまうな……と考えていたら、鋭い眼光が右側から放たれた。


 メイリーナ鋭い!俺、逮捕されてるよね?


 ここは、1つトイレに行くフリでもと考えたが、メイリーナ城は落城しなかった。タイーホされてしまったので、大人しく会議の中身を聞く事にした。


 まぁ、半分は寝ていたのだが。


 今日のところは、一連の事件の反省と再発防止に向けての改革案を提示して、帝国側には納得してもらえた様だ。これで、午前中は終了らしい。よし!昼飯だ!!


と、思って脱出しようと思ったら、会食するんだそうだ……。何故、俺も?


 昼飯食いながら、色々話をしていたが、これは会食ではない、パワーランチと言うんだ。飯食いながら会議の続きしてんだもんよ。これで、夜はどうせパーティなのか、宴会なのか。なんだろ?


 午後の会議は、同盟に向けての双方の草案の提示と、それぞれの案についての説明があった。そりゃそうだよね、同盟が成立しなければ、通商も交易もないわな。


 今日は案の説明だけで、詳細は明日以降詰めるんだそうだ。


 よし、やっと解放だ!って思うだろ?離してくれないんだよね。夜の部突入です。パーティです。適当に挨拶回りを捌きつつ、適当に相槌を打ち、適当に飯を食らっていたのだが、テリウスが突っかかって来た。


「マサキ殿は、首脳会談の発案者でしょう。何故、何も発言されないのです?」


「あぁ、俺は王国に所属している訳でもないし、帝国に所属している訳でもないからね。正当性のある主張を双方がしている限り、発言する事はないよ。何故かと言えば、それをしてしまうと、両国に対する内政干渉になってしまうからだよ。ま、アドバイス的な発言はあるかもしれないけどね。」


「なるほど。理解しました。」


 あれ?聞き分け良い奴じゃないか。

と、思ってシャルロットを見ると、首を傾げていた。


 もっと陰険なんじゃなかったか?問題を起こすなら、こいつだと思っていたんだが……、ならば大丈夫なのかな?




 パーティが終わって、屋敷に帰ろうと思ったんだが、拘束されて泊まらされる破目になった。何故?

 今日、帰ったら明日絶対に来ないだろう?と言われ、来る訳ないだろ。と思わず返事しちゃったんだよね。来るよと言えば良かった。失敗失敗。





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