第27話 シャルロット

 シャルロットの膝枕で熟睡する事3時間、昼近くまで爆睡していたロクデナシは、シャルロットに外に昼飯を食いに行こうと誘ってみた。


 だが、シャルロットは、疲れ切った顔のマサキを外に連れ出したくないと言い、帝国の城で食事した事ないでしょ?との言葉から、城の食堂へ向かった。テーブルに着いて食事をしてみると、案外和食テイストな物が多かった、王国より帝国の方が、俺の口には合うかも知れない。


 特筆すべきは蕎麦があった事だろう、蕎麦の実があると言う事は、蕎麦殻が手に入れば枕が作れるじゃないか。


 まあ、蕎麦をフォークで食べるのはヤメテと思ったのは、内緒だが。うちは、最初に弥助や桜と一緒に暮らし始めた為、普通に箸を使っているからな。なんか、有る物をを吟味していくと、普通に日本のレベルの生活が出来る事に気が付いた。


 美味しい山盛りパスタがあるのだ。デュラム種の小麦粉があると言う事だろうし、普通の小麦粉もある。卵も高価だがあるしパンもある。これは、戦国時代には、まだなかった、日本の伝統料理を作るべきではないだろうか!


 1度港町マイルに行って、ゲートを開くべきだな。何時になるか分からんが、天麩羅を作って、弥助と一杯やるのだ。




 そんな事を考えながら食事を終えると、シャルロットに手を引かれ、再びシャルロットの部屋に連れていかれた。


「なぁ、シャル。折角2人きりなのに何もしなくて良いのか?」


「こうして2人でいる事が、幸せだから良いのですよ。貴方と一緒にいるだけで、心は満たされています。余計な心配はしないで下さい。私は、貴方を疲れさせる事が本意ではありません。また、元気な時に一緒に出掛けて下さい。」


「シャル……、っ……。」


「どうしたのです?」


「んあぁ、言葉に出してしまうと、抑えが効かなくなりそうなんでな。止めておいたんだよ。」


「言って欲しかったなぁ…。でも、いつか言ってくれるんですよね?私が押し倒せる年になった時には。私はいつでも良いのですが、貴方の倫理観が許さないのでしょう?なら、私は待ちます。いつまでも。」


「そんな事言われちゃったら、俺の中のシャルへの気持ちが、どんどん膨らんでしまうだろ?ある意味シャルも危険だ。大人の余裕を感じさせると言うか、本当に17歳なのか?と疑ってしまう。」


「えーと……、今年17歳になるので、まだ16歳なんです……けど…。」


「マジで!?あーそうだよな、17歳で卒業なんだから、今年17歳だな。」


「そうか、みんな満年齢で言ってないのか!セレスも16歳だし、ソルティアーナに至っては15歳?」


「ソルティアーナさんは、もう今年16歳になったそうですよ。でないと婚約出来ませんから。」


「だが、俺の倫理観タワーが、今、ボロボロに崩れ去って行く音が聞こえた。あと2年も待つの?俺の理性は紙より薄いのに?超薄々なのに?NASAもびっくりな程薄いのに?」


「あ、でも私は、来月には17歳になりますから、あと1年ですよ。」


「うん、頑張る……。」




 夕方まで、シャルロットと他愛もない話をしながら、それでもちょっと我慢出来なくて、軽くキスをした。シャルロットが、凄く嬉しそうな笑顔を見せてくてたので、マサキはそれで満足する事にした。頭では…だが。気合と根性で息子の主張を退け、断腸の思いで、皇帝の執務室に向かう事にした。


「レオ親父。スコット連れて行って良いか?」


「おお、良いぞ。会談の件、よろしく頼む。」


「承知した。」


 その足でスコットを迎えに行った。

「スコット、行くぞ。話はついた。」


「承知しました。有難うございます。」





 シャルロットと腕を組んだまま、その場にゲートを開いた。スコットを押し込んで、マサキは、エルスの王城に移動した。王の執務室に直接移動したが、サラビスとメイリーナ、コーラル公爵がいた。コーラル公爵は正式に宰相の地位に付いた様だ。これで、王国の政治も落ち着く事だろう。


 シャルロットを左側にスコットを右側にソファに腰掛けた。

「全部片付いた。まあ、酷い有様だったが、聞くか?」


 サラビスは、頷いてソファへ移動して来た。

「そんなにか。それで、この御仁は?」


「ああ、先に紹介しておこう。帝国の優秀な官吏だったスコット君だ。王国政府で使ってくれ。」


「それだけじゃ、分からんだろう。」


「そうだな、クズ宰相の犠牲者が此処にもいた、と言えば分かるか?

 帝国でやらかした事を考えれば、死罪が適当なんだろうが、泣く泣く引き金を引かせたのは王国だ。責任をとって然るべきだろう?そう思って俺が預かって来た。

 皇帝もそれで良いと言うしな。何れ、俺が結婚していくと、家もデカくなるし、家令でもして貰おうかと思っているんだけどさ、当分の間預かってよ。」


「お前と言う奴は……、そんな裏技を使って来たのか。だが、家を大きくする覚悟はした様だな。」


「んまぁ、覚悟って程でもないがな。上様上様と言って、勝手について来る奴らもいるし、王女だ皇女だって嫁もらって1冒険者でいられる訳もないしな。ただ……、そうなると、セスティーナはもらえない。」


「それは、何故か聞いても良いか?」


「良くも悪くもあいつは子供なんだよ、感情が動きすぎる。冒険者の妻だったならそれでも良かったさ。だが、為政者側に立つ人間の妻にはなれないな。

 まあ、女性には多いんだが、理性ではなく感情で物を考えてしまう。所謂ヒステリーと言う奴だな。だが、直ぐの話じゃないし、当分は様子見するつもりだけどね。為政者側に立つと決めた訳でもないからな。」


 サラビスは、頭を抱えた。

「お前と言う奴は、どこまで先回りしてくるのだ。まあ、分かった。スコット君には、うちで働いてもらおう。今までは何を?」


「皇子の指南役だな。コーラル公爵の補佐が適当だと愚考する。そうでないと、他の執政官が自信無くすと思うぞ。」


「そこまでだったか。確かに勿体ない。」


「元々、家族愛の強い、優しく頭のキレる男なんだよ。」


「愛ゆえの……か。それは、元宰相を使っていた者として、責任を取らねばならんな。コンスタン、スコットを付けても良いか?」


 コーラル公爵は、笑顔で言った。

「優秀な官吏は、喉から手が出る程欲しいですよ。よろしく、スコット君。」


 スコットは、立ち上がり、綺麗な紳士の礼をした。

「スコット・バルリアと申します。不肖の身では御座いますが、宜しくお願い申し上げます。」


「公爵ってコンスタンて名前だったんだな!コーラルが名前だと思ってたわ。」


「はっは、そう言われてみれば、ちゃんとした名乗りをしていなかったね。コンスタン・フォン・コーラルが私の名だよ。」


「そっか~、そう言えば、コーラル家って聞いた気がするな…、シリル嬢か!あー納得した。」


「シリルももらってくれるかい?」


「まあ、もう少し色々落ち着いてから考えるよ。一応、そんな話も耳にはしていたから、頭には入れている。」


「うん、前向きに考えてくれると嬉しい。」


「そこは、シリル嬢次第じゃないかな。彼女は、俺みたいな助平で女好きな男は、駄目な部類だと思うよ。」


「それは、どうかな?」

 と、不敵な笑いを漏らすコンスタンだった。



 マサキは、後は…と天井を見ながら考えた。

「そうだ、忘れるところだった。サラビス王、勝手に話をして来ちゃったんだけれども……、良かったか?」


「何がだ!?」


「今の王国は西が壊滅状態な訳じゃん?壊滅させた俺が言うのもなんだけどさ。で、皇帝に提案をして来たんだ。俺がゲートを開いてやるから、首脳会談をやらないか?とな。皇帝もサラビス王とは、1度顔を会わせて話をしたい、と乗り気だったからな、どうかな~と思ってさ。

 それに、西が壊滅状態であるから、帝国との流通経路を拡大する事によって、経済の立て直しをしないと、内需だけでは賄いきれない、と言うのが、俺の見解だ。

帝国にも利の有る話だしね。」


 サラビスは呆れた顔だ。

「なんと言うか、有難うございます、としか言えないが?」


「アフターサービスは万全なんだよ?幸い、セベインと帝国をよーーく知っているスコット君が此処に居るしな。」


「分かった、是非、お会いしたいと伝えてくれ。日時の調整はどうすれば良い?」


 マサキは少し考えて、

「そうだなぁ、こちら側の都合で、候補日を3つ作ってくれ。1日で終わる会談になるとは思えないし、この日から5日とかを3つね。親書があると良いね。それを持って、俺が帝国に行って来るよ。」

 と言った。


「承知した。コンスタン、頼む。」


「分かりました。」


「じゃ、俺はシャルとデートの途中なんでな。スコット、行く道は必ず付けてやる、此処で先ずは頑張ってみて。」


「承知しました。貴方様に最大の感謝を申し上げます。」


「気にするな、俺の勝手でした事さ。」


 じゃぁねっと手を上げて、マサキはシャルロットを伴い執務室から出て行った。


 サラビスは、やれやれといった表情で言った。

「スコット君、さっきの会談の話や経済立て直しの話はスコット君が?」


「いえ、私も今初めて聞きました。」


「天才かよ……。」


「ですね、恐らくそれをする事によって、私の価値を高める狙いもあると思いますね、一石二鳥どころか、四鳥位狙っていそうです。男が惚れる男、と言うのを初めて見た気がします。」


 コンスタンも驚いた顔だ。

「末恐ろしいと言うか、是非、政治の表舞台に上がって欲しいと言うか、勉強させられますね。スコット君は、どうして彼の提案にのったんだい。君は自身の身の処し方は、知っている人だとお見受けするが……。」


 スコットは恥ずかしそうに言った。

「死ぬつもりだったんですが、彼にこう言われました。

 人が本当に死ぬのは、誰も思い出さなくなった時だと。だから、私が生きている限り、妻と娘は私の胸の内で生き続ける事が出来るのだと。故に妻の分まで生きなければならないと。本当に優しい御仁です。」


 メイリーナは、考える。

「そうやって、人の人生を背負っていくのね。彼は……。」


 スコットも言う。

「普通は、出来る事ではないのですけどね。ですが、私はこう考えました。彼の話にのって、この身をお任せする事にしましたが、重荷にならなければ、支える事が出来るのであれば、最大の恩返しになると。」


 メイリーナは感心した。

「良い出会いであった様ですね。このえにしは、マサキ殿にとっても大きな財産でしょう。その価値を解っている人ですから。」




 マサキは、シャルロットを連れて、前に指輪を買った宝石商に立ち寄った。

「また、良い奴あったら見せてくれないか?」


 店主は、思い出したのか、笑顔になって奥へ案内してくれた。色々見ていたが、商品が前と少しずつ違う事に気が付いた。

(ほっほーん。質を上げて来たか……。)


「店主。全ての商品の質を上げてきたな?目移りしちゃうぞ。」


 店主は嬉しそうに言う。

「はっは、分かりますか。この前、貴方様に高品質の物だけを、吟味されてしまいましたので、私からの挑戦で御座います。」


「そうなのか、商人魂に火を付けてしまった様だね。じゃ、これを。」

 と言って、マサキが手にしたのは、薄く青く光るダイヤの指輪だった。


 店主は手を額に当てて、

「流石で御座います。少々値が張りますが宜しいですか?」


「ああ、構わない。」


「2度目ですので、少々勉強させて頂いて、300万リルでどうでしょうか?」


「大丈夫だよ。此処は、ギルドカードでの支払いは大丈夫?ダメなら降ろして来るから取っておいて欲しいんだが。」


「ギルドカードで結構ですよ。冒険者ギルドと商業ギルドには対応出来ます。」


「じゃ、これで。」

 と、カードを出して清算してもらった。


「Sランクの冒険者様でしたか。納得です。では、マサキ様、こちらへサインをお願いします。」


 そう言われて、マサキはサインをした。箱ももらったが、その場で、シャルロットの左手の薬指に嵌めてやった。魔法的なオートリサイズがついているので、指にピッタリになった。ミスリルリングは、ほぼオートリサイズだ。


 箱をシャルロットに手渡しながら、説明をしてやった。

「これは、ブルーダイヤモンドって言う、色付きの金剛石だ。この世界で、このブリリアントカットと言うんだが、なかなか見つけられないんだぞ?婚約指輪な。」


 シャルロットは、ポカーンとしていたが、我に返り、

「マサキ様。いけません、このような高価な物を頂いては、私が見合うとは思えません。」


「いいんだよ。俺の気持ちだ、受け取っておけ。俺のいた世界では、男は婚約者に指輪を左手薬指に嵌めてやる習慣があるんだ。結婚するまで、着けておけ。」


「結婚したら、お返しすれば良いのですか?」


「結婚したら、もうちょっと大人しい、御揃いの指輪を着けるんだよ。婚約指輪は外行きに使えば良い。」


 そう言って、マサキはシャルロットの腰を抱き、店主に手を挙げて店を後にした。



 店を出たマサキは、山盛りパスタの店にシャルロットを連れて行った。美味いんだ、ここのパスタ。量が普通なら……だがな。


 前回の山盛り事件があった為、今回はちょっと警戒して、大盛やや少なめとか言ってやったんだが、普通の大盛を出してくれた。


 実は前回の時は、お薦めに入れていない為に、パスタを注文してくれる人が少なく、一目見てパスタと言ったマサキに嬉しくなって、山にしちゃったんだと。


 しかも完食してくれたんで、今日はサービスだと言ってくれた。

「シャル、その金剛石の様にずっと輝いて居て欲しい。俺のシャルに対する気持ちは、その指輪に全て込めた。昼間、言えなかった事も含めてな。後はシャルが判断して欲しい。」


「とても嬉しいです。指輪を着けていると、一緒にいなくても繋がっている様な気がします。どんな時も貴方を信じてついて行きます。末永く、宜しくお願い致します。」


 やはり、シャルロットは大人だった。こんな16歳いないよね、普通。どちらかと言えば、セレスティーナの方が疲れるけれども、年齢相応の気がする。疲れるけども。子供だと思えば付き合えるが、あれで22歳とか言われたら…無理だな。


 だが、おっさんにJKの相手は無理だろうと思えば、納得もできるので、婚約者のままいる訳だが、正直、シャルロットには驚かされる。この世界の教育がそういう教育なのだろうけど、16歳で達観している様な?皇族だから、そうならざるを得なかったのかも知れない。セレスティーナに自覚が無さすぎ、とも言うのだろう。


 容姿は、シャルロットが青髪でセレスティーナが茶髪という位で、2人とも超絶美女なのだ。成長しすぎじゃね?って位、抜群のプロポーションに美人小顔。容姿だけなら双璧なのだ、容姿だけなら。


 セレスティーナに落ち着きがあれば、2枚看板と言っても良いだろう。なんであんなに残念王女なんだろう……。ちなみに、くノ一達は黒髪黒目で、ポニーテールにしているので、これはこれでみんな可愛い。弥助の許嫁の霧は、18歳とも思えぬ美貌と落ち着きを醸し出している。弥助の女房じゃなかったら、掻っ攫ってるね。



「あ、シャル。言い忘れていたが、セレスティーナの前で、指輪の値段の話はしない様にな、大変な事になりそう。」


「セレスティーナさんの指輪より、お高いのですか?」


「ああ、100万違う。あいつを連れて行った時は、あれが1番良い物だったんだが、多分、あいつはそれを理解しない、出来ないのではなく、しない。金額で比べる筈だ。俺にとっては、そこにある物の中で最高の物を送るって事に意味があるのだが、あいつには理解できん。

 今回、シャルに送ったのだって、今、あそこにある中で最高の物なんだ。だが、あの店主の事だ、もっと良い物を仕入れようと頑張るかもしれないよな?

 そうした時に今度は400万の値が付くものがある可能性もある訳だ。逆にもう300万の値が付くような物は現れないかも知れない。

 だが、俺は相場師でも宝石商の商売敵でもない訳だ。俺が指輪に込めたのは気持ちであって、値段ではないのだけど、多分、彼女には理解出来なくて、色々な所に言って回る筈だ。私は、と。」


「あぁ、面倒臭いですね。ご苦労されていたのですね……。」


「あ、分かってくれる?」


「ええ、それは面倒ですね。ですが、試してみたい気はします。」


「ヤメテ。マジ面倒だから。」


「冗談ですよ。私が貴方を疲れさせたら死んでしまいます。王女と皇女に過労死させられたSランク主席。冗談になっていませんね。」


「あはは、違いない。」



 この日は、シャルロットを王城へ送り届け、別れ際に少し濃厚なキスをして、帰宅した。シャルロットを襲ってしまいそうな、自分に辟易としながらも、理解あるシャルロットに惚れ直してもしまう自分が、どうしようもなく、ロクデナシなんだなと、改めて思ってしまうのである。







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