第26話 顛末報告(帝国)
更地になった領主館に変な魔力がないか、探って行く。まだ熱いので、近寄れはしないのだが、魔力を薄く延ばし探って行く。うん、台所のGすら消滅した様だ。あいつらは、永遠に消滅しても誰も困らない筈だ。
悪魔の痕跡が無ければ、この仕事は、これで終了で良いな。そもそも依頼を受けて来ていない。スコットの代わりに復讐しに来ただけなのだ。私怨でこれだけ殺せば、俺も立派な殺人鬼かもな。だが、やはり考えてしまうのだ、自分に置き換えて。
俺は地球にいた時は、愛しているつもりだった女に、最初から裏切られていた間抜けなのだが、もし、普通に結婚生活を続けていて、子を持ったとして、スコットの様な事態に陥ったとしたら、果たして冷静でいられるだろうか、と。
他人事ではあるのだけど、ある日、突然降って湧いた理不尽に、なんとか一矢報いたいと思うのは自然な事だと思うのだ。仮に日本であったとしても、法治国家だからと、理性を総動員して我慢しているに過ぎないと思うのだ。出来る出来ないは別として、殺してしまいたいと思う事はあるだろう。
思うのは自由なのだ、それを実行するかしないかが、理性的であるかどうかの、分かれ道であり、犯罪者になってしまうか、善良な市民でいられるかの境目なのだと思う。
こんな事を考えていると、またも碌な結論にはならないと思い、考えに蓋をする事にした。
「弥助、桜、霧、椿。」
「「「「はっ!」」」」
「帰ろうか。」
桜が首を捻る。
「上様、朝になってからでも良いのでは?」
「まぁな。それでも良いが……。」
弥助が言う。
「上様、帰りましょう。桜の戯言に、耳を貸す必要はありません。」
「兄様、私は上様のお体が……。」
「黙れ、後で説教だ!」
一応、ギルドには帰る旨を伝え、宿を撤収するので、手続きを頼む、とお願いして街の外へ出て、ゲートを開きギルドの自室へと戻った。
「ミレーナ、風呂の支度を頼む。」
「お帰りなさい。今しますね。」
弥助は霧と一緒に桜を自室に連れて行った。
「桜、お前は上様の決めた事に、異論を唱えすぎる。我らの主君なのだぞ?上様がお優しいから、問題になっていないだけなんだぞ?」
桜は納得がいかない様だ。
「ですが、お体が……。」
「何を言っているんだ。上様はゲートを開くだけなのだ。宿に戻るより、寧ろ早いくらいだ。お前のは、ただの私情だ。危険や間違いがあれば指摘はする、だが、お前のは、ただ上様と一緒に居たいと言うだけじゃないか。
セレスティーナ嬢と同じ事をしてどうするのだ、上様が今、思い悩んでいるのは分かっているか?」
「それは、分かっています。だから『黙れ』…。」
「お前如きが、解って差し上げる事が、出来る様な悩みではないのだ。今は、上様がしたい様にさせて差し上げるのが、我々臣下の役目だ。」
「そうでした。すいません。」
「上様は、セレスティーナ嬢に疲れさせられても、それでも歯を食いしばって、付き合っておられる。お前が同じ事をして重荷になってどうする。
セレスティーナ嬢は子供なのだ。そう思うから、上様は付き合っておられる。だが、桜、お前は1人前の大人として扱って頂いているだろ?」
「……、そうでした。何をやっているんでしょうか……、全く。兄様有難うございます。ちょっと盲目になっていた様です。」
「分かればいいさ。我らは、上様を支えていかなければな。」
「はい。」
霧が感心していた。
「弥助様が、そんな事を言う様になるとは、恰好良いです。」
弥助が照れた様に言う。
「全ては、上様の薫陶よ。上様と知り合ってから、自分が成長出来るのが良く分かる。あの方の器量は、我らでは推し量れる所にはいないのだ。」
「そうねぇ、本当に私達を大切に扱ってくれますものね。」
「今回の任務を依頼された時な、『失敗しても構わない、危険だと思ったら引き返せ、必ず俺の元へ戻れ、生きてさえいればなんとかしてやる。』と言って送り出してくれたのだ。それも怒り狂った状態でだぞ?こんな主君いないぞ?」
桜が反省しきりだ。
「私は何も見ていなかったのですね……。」
霧が言う。
「貴方が惚れる訳だわ。」
ミレーナが、風呂の用意が出来たと言うので、ミレーナと椿を誘って風呂に入った。両手におっぱいはええのぅ、心が安らぐと言うの?
日本では有り得なかったシュチュエーションに、前は背徳感があったのだが、慣れって怖いよね!!もう、これなしでは生きられないと断言しよう!
何を威張っているのか分らんが、女は偉大だよな!そう思うだろ?諸君!!
充分に温まったところで、風呂からあがり、着替えを済ませて、弥助の部屋に声を掛けた。
「弥助。風呂空いたからな、霧と乳繰り合えよ!」
「はーい。お言葉に甘えて、乳繰り合いまーす。」
さて、今日は寝て、明日は帝国いかないとな。
最近、1人で寝てないなぁ。添い寝がないと寝られないとか、幼稚園児かよ。と思うのだが、なんだろう、自動的に両側に誰かいるのよね。別に苦情って訳じゃないんだからね!
だけどさ、両側に良い匂いの女がいたらさ、元気になっちゃうと思わないか?
そんな訳で、ミレーナと2回戦、椿と2回戦。朝になっちゃったやね……。我慢しろよ!息子よ!!
怠い体にムチを打ち、朝飯を食ったら王城へと向かった。今日はシャルロット居なくても良いかなぁと思ったんだけど、この前、デート延期しちゃったし、連れて行こうと思うのだ。セレスティーナの様に疲れない、よく出来た女なのだ。
王城に着いて、シャルロットの部屋に向かって行くと、丁度、部屋からシャルロットが出て来た。
「シャル。帝国行こうぜ。」
「あ、おかえりなさいませ。もう解決したんですか?」
「ああ、スコットに知らせてやろうと思ってな。この前、デートも出来なかったしな。埋め合わせ。」
「まぁ、嬉しい。何を着て行こうかしら?」
「裸が1番素敵。」
「もう!!」
そんなこんなで、シャルロットの着替えを鑑賞して、ゲートを開き、シャルロットの部屋に直接移動した。
「ルキウスは何処にいるんだ?」
「多分、お父様の執務室かと。」
「パワフル親父は元気になったかな。」
「執務室で暴れているんじゃないですかね。」
「よし、身に行こう。」
と言って、左腕をすっと動かすと、シャルロットは直ぐに腕を絡めて来た。楽なんだよなぁ、こういうとこ。良い女だ。
シャルロットの私室を出ると、シャルロットに引かれるままついて行った。城と言うのは、どこも広いんだが、そんなに使うかね、使うか。
思わず、日本の城郭を思い出していたんだが、天守閣はさして広くないんだけど、御殿が広かったね。建物いっぱいあるし。こういう西洋風の城は、全部入っちゃってるからデカくなっちゃうんだな。
皇帝の執務室に到着して、ノックをして中に入ると、パワフルレオ皇帝とルキウスとテリウスの3人がいた。
「ちーす、ライオン皇帝元気になった?」
「おう、お陰様でな!」
「それは重畳。一応報告に来たのと、スコットに知らせてやりたい事が、あるんだが……。」
「構わないぞ。」
「先に報告をしておくね。今回の件、王国の失態と言って差し支えないだろう。スコットが不幸だったのは、相談した王国の宰相が、あまりのクズ野郎であった為に、王国の執行部は誰も知らなかったんだ。知らねーで済むか馬鹿野郎と言ってはおいたがな。
で、肝心のセベインなんだが、余りの酷さに街ごと消滅させようかと思ったわ。
セベインの領主カリグラ・フォン・セベインってアホなんだけど、盗賊団と癒着というより、盗賊団がカリグラの配下だった。カリグラの指示で盗賊団が人攫いをしていた。
カリグラ配下の盗賊団は、王国内ではなく、この帝国に来てやっていたんだな。で、明るみに出なかったのは、領主主催のオークションと言うのが、会員制で紹介がないと入れない等の措置が取られていた事と、カリグラの野郎が悪魔召喚してやがった。
オークションの情報を掴んだ、冒険者ギルドのセベイン支部のギルドマスターでアインスと言う元Sランクがいるんだが、売買している女性の出所を調査したが、国内しか調査していなかった様で帝国というのが盲点だった様だ。
で、直接領主に抗議に行った時に悪魔に隷属させられてしまい、身動きが取れなくなってしまった。と言う経緯で表に出ていなかったんだ。」
「そんな酷い事になっていたのか、しかも悪魔召喚とは……、馬鹿げてる。」
「今回5人の女性を保護したんだが、恐らく帝国民だと思うから、帰国の手続きをさせている。カリグラは領主館ごと消滅させってやった。中級上位の悪魔だったが、こいつも問答無用で始末した。盗賊団も全員殲滅。以上だ。
返す返すも、スコットが不憫でならん!テリウスには悪いがな。
王国の宰相が普通の人間だったら、もう終わっている話だし。」
「確かにな……。」
「ルキウス、スコットの所に案内してくれないか?」
「良いですよ。では、行きましょう。」
そう言って、ルキウスはスコットのところに連れて行ってくれた。一応牢の中では、あるものの普通に生活は出来ている様だ。
スコットを牢から出してもらい、面会出来る様にテーブルがある部屋へ移動した。
「スコット、昨日と言うか今日の未明だな。全ての決着を着けて来た。」
スコットは涙を流して何度も頭を下げた。
「本来なら生首を並べてやろうかとも思ったんだが、それも困るだろうと思って、こんな物を持ってきた。」
青の髪、赤い髪、金の髪、茶色の髪、ピンクの髪を並べた。
「青髪が奥さんを殺した奴、赤と金がイリアを犯した奴、茶色がイリアを最後に犯して殺した奴、ピンクが盗賊団のリーダーで最初にイリアを犯した奴だ。
こいつらは、死ぬより苦痛の精神崩壊と言う魔法を使って、のたうち回った挙句、廃人になったところで、首を刎ねた。
こいつらを使って人を攫い、金儲けをしていた、領主のカリグラ親子は領主館ごと消滅させてやった。
こんな事くらいしかしてやれなかったが、少しでも留飲を下げてくれたら、嬉しく思う。」
スコットは、マサキを正面から見詰め、
「有難うございました。ここまでして下さるとは思っても居ませんでした。最大の感謝を申し上げます。これで、私も気持ち良く妻の所へ行けます。」
と言って、頭を下げた。
マサキは、勿体ない気がしていた。
「なぁ、スコット。死にたいか?」
スコットは何言ってんだコイツと言う顔だ。
「と言いますと?」
「いやさ、死刑になりたいのかなと思ってさ。」
「私のした事を考えれば、それが妥当でしょう。」
「スコット、まだ30代も前半よな?」
「はい。」
「俺はこう思うのだ。仇は討った、本懐を遂げた後は妻と娘の菩提を弔いながら、妻の分まで生きてやるのも1つの選択ではないかとな。
人が本当に死ぬのは、誰も思い出さなくなった時、だと思うのだ。俺はな。
ならば、スコットが生きている限り、奥さんもイリアも胸の内で生き続けられるのではないかとな。」
「ですが、私のした事は……。」
「だからさ、帝国が許さんと言うのであれば、王国に責任は取らせる。言わば、王国の被害者でもあるのだから。スコットは優秀な官吏と聞いている。ならば、生きる道もあるだろう?」
スコットは、考える。
「もし、私が生きる道があると言うのであれば、妻の分まで全力で生きたいと思います。マサキ様に全てお任せします。」
「委細承知!!」
と言って、マサキは立ち上がった。
シャルロットは、一連のやり取りを見ていて、この人は、優しくて大きな人だなぁと思っていた。私はきっと幸せになれると思うのだった。
「ルキウス、皇帝の所へ戻ろう。」
と言って歩き出した。
「承知しました。しかし、貴方と言う人は器の大きな人だ、驚きました。ああいう解決法を提示出来るとは。
私もね、このまま裁くのは可哀相だと思っていたのですが、法に照らせば死罪ですし、かと言って法を蔑ろにすれば、次から裁けなくなりますし、どうした物かと思っていたんですよ。」
「考える事は、皆一緒って事さ。」
「皆、考えるのです。ですが、それを実行出来るだけの、知恵と力を持たない。」
「そんな事はねーよ。買い被り過ぎだ。」
なんて、やりとりをしていたら、執務室に着いた様だ。
執務室に入ると、皇帝は何かを考え込んでいる様だ。
「皇帝。スコットだけどさ、俺が預かるって言ったら怒るか?」
「そうきたか!だが、助かる!」
「やっぱり?」
「流石としか言い様がないが、上手く治めるのには最適だろう。」
「じゃぁ、スコットは俺が連れて行くとしてだ。今、王国の西側が壊滅状態なんだ。セベインは元より、その隣のサンドルも元宰相の領地だったしって事で、1回帝国と王国で首脳会談しとかないか?
どっちも首長は温厚なのに、色々事件が多すぎた、ここらで情報と価値観の擦り合わせをしたらどうかと思うんだ。行き帰りは、俺がゲートを開くから一瞬だしな。」
「それは、願ってもない話だ。是非1度サラビス殿と話をしたいと思っていた。文のやり取りはしていたんだが、如何せん時間が掛かる。膝詰めで話が出来るなら、それが1番良い。」
「じゃ、その話も王国でしてくるよ。夕方、スコットを迎えに来て、向こうでその話をしてみる。今日はこれからシャルとデートなのでな。」
「ふっふ、忙しい男だな。」
「本当だよ!俺は働きたくないのに、今日も徹夜だったしな!」
「体は大事にしろよ。」
「頑張ってみる。」
シャルロットと執務室を出て、流石に疲れから大きく息を吐いた。取り敢えず、シャッロットの部屋へ行った。
「シャル、悪いんだけど、1時間だけ寝かせてくれ。」
「良いですよ、お疲れですね。」
「1時間経ったら起こしてくれ。」
「はい。承知しましたよ。」
シャルロットの膝枕で少し眠るつもりが……。また、やってしまった。3時間位寝ていた様だ。
「シャル。1時間で起こしてくれって言ったよな?」
「顔がお疲れでしたので、起こしませんでした。」
「また、デート出来なくなっちゃうじゃないか。」
「そんなの些細な事です。これから長い時間一緒に居られるのです。忙しくしている時位甘えて下さい。」
「シャルのそういうとこ。俺には凄く有難いし、気が休まる。セレスといると疲労困憊なんだよな。本当に子供だからなぁ、あいつは。シャルは大人だな。そんな、シャルに惚れて良かったぜ。」
「嬉しいです。お父様に、『俺が勝手に惚れただけだ』と言ってくれた時、堪らなく嬉しくて、本当に貴方を好きになって良かったと思いました。
突然、『シャルロットをもらい受けに来た』って言われた時はびっくりしましたけど。」
「本当だぜ?俺はな、元々この世界の人間ではないんだ。異世界から来たんだよ。450年前に大量に来たらしいが、そいつらと同じ世界からな。
で、本当は、最初にシャルに会った時の落ち着きと、その美貌を見て惚れてたって言えば良いのかも知れん。が、俺の元いた世界と言うのは、一夫一妻制でな、重婚は犯罪だったんだ。だから、2人も3人もって言うのに凄く忌避感があってね、それで避けていただけなんだよ。」
シャルロットは驚いて、目を見開いていた。
「そうだったのですか……。」
「そう、成人の年齢も向こうは20歳なんだ、結婚は女性は16歳から、男性は18歳から出来るんだけど、実際は、20歳前に結婚する人は殆どいない。逆に30歳超えてからする人は沢山いるがな。
だから、そういう価値観の擦り合わせには時間が掛かる訳よ。セレスはそれを知っていてもアレだからな。本当に疲れるんだ。
シャルは、価値観関係なく大きく構えていてくれると言うのか、年齢のわりに懐が深いと言うのか、俺は一緒にいて居心地が良い。」
「じゃぁ、私が癒してあげます。」
とニコっとしたシャルロットは堪らなく可愛かった。
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