第25話 領主館消滅

 領主館の正門へと足を進めるマサキの後ろにいた弥助が、気配を断つと闇へと消えて行った。相変わらず見事な物だと感心しながら正門へ近付いた。

 門を護る兵士が2人居たが、2人とも殴り倒して騎士団に引き渡した。


 正門を入って、魔力感知を広げながら玄関を入ると、美人のメイドさんが声を掛けて来た。

「どちらに御用ですか?」


 マサキは約束が有るかの様な顔で、

「領主様の所へ。」


「では、ご案内します。」

 と言って、案内してくれた。


 これは罠なのか?馬鹿なのか?試しに【精神鑑定メンタルアプレイズ】を掛けてみた。

(正常……。ただの親切なのね……。この娘は攫って帰ろうかなぁ、美人だし、エロそう。)


 メイドが領主の部屋の前で止まり、ノックをしようとしたので、止めた。

「君は、ここへ来て長いのか?」


「そうですね、1年位です。」


「良いかい、今から館の外へ出るんだ。そうすると王都から来た、騎士団がいるから、マサキに保護してもらえと言われたと言うんだ。いいね?」


「え?何故ですか?」


「今は時間がないから、騎士団に聞けば良い。頼むから言う事を聞いて欲しい。」


「わかりました。後で貴方がちゃんと説明して下さい。それなら従います。」


「承知した。今は早く外へ。」


「はい。」




 メイドさんが、外へ向かって早足で向かうのを見届けて、領主の部屋の扉を開け放った。中には、領主親子と悪魔が揃っていた。


「よう、強欲領主。悪魔の手を借りないと、金儲けも出来ないのか?無能。」


「なんだ貴様は!」


「なんだ貴様はってか?俺はアレだ、美少女大好きエロ教師だ!」


「そのエロ教師が何の用だ!」


「なんの用って馬鹿なのか?美少女大好きって言ってんだろ?美少女に鬼畜な所業を繰り返す、強欲領主の首を刎ねに来たんだが?俺はな、性技の味方じゃねー、正義の味方になりに来たんだぜ?多分。」


「正義の味方だと?それこそ馬鹿じゃないのか?ここを何処だと思っている。」


「ん?お前んち?正義の味方じゃねーな、女の敵は俺の敵。うん、この方がしっくりくるね。で、取り敢えず、お前達親子の死刑は決まっているから、大人しく待ってろ。さて、そこの悪魔君言い訳を聞こうじゃないか。」


「ふっふっふ、人間風情に何が出来る、死にたいのか?」


「ふっふっふって、何かの読み過ぎじゃねーのか?もう少し面白い笑い方しろ。」

 と言いながら、左手で鞘を押えて、親指で鍔を弾いて鯉口を切った。右手の掌を上に向けて甲を柄に置いた。


「ならば殺してやろう。」


「下級悪魔風情に、俺が殺せるかカス!」

 と言うや否や、右手を返して刀を一閃した。右手1本が飛んだが、躱された。

「ほう…。」

 躱されたのが、ちょっとショックだったけど、バレない様にしないとね。


「貴様強いな。だが、そこまでだろう?」

 等と戯けた事をほざいているので、右手の掌に白い炎を出して、それをポイッと悪魔に投げてやった。それを避けようとしたので、それに合わせて大きく踏み込み、一刀両断した。


 悪魔は縦に真っ二つに別れた。投げた白い炎がその上に落ちた。悪魔が燃え始めたので、魔力でドーム状の結界を展開して、中を高濃度酸素で満たしてやった。と言うかイメージだがな。


「さて、お前達。Sランク冒険者主席マサキ・タチバナの名に於いて命ずる、降伏しろ。ならば家族だけは助けてやろう。悪魔案件は、全員殺さないと後が面倒だってのは、分かるか?それに俺が名を名乗った以上、降伏しないのであれば、屋敷ごと消滅すると思え。」


「悪魔があいつだけだと思っているのか?」


「別に思ってねーけど?」

 と答えながら【沈黙サイレンス】の魔法を飛ばしておいた。


「召喚出来ぬ!!」


「そりゃそうだろ。まあ、降伏する気なしって事で良いのかな?」

 とその時、魔力感知に引っ掛かりがあった。後方から魔法の気配だ。

 咄嗟に左へ飛んで、躱したが、領主親子の首が飛んで、そのまま壁も吹っ飛んだ。


「あらぁ~召喚主を殺しちゃ駄目じゃな~い。風通しも良くなっちゃったねぇ。あの燃えているのは、別身体なのかな?」

 と、後方から来た悪魔に声を掛けた。


「ふっふっふ、分かるか。俺は下級悪魔みたいな弱っちいのと違うのでな。」


「下級じゃないって言ったって、角3本じゃん。名前はあるのか?」


「ぬ、名前など無くても俺は強い!」


「なんだ、名無しか。じゃ、死合うか?」


「やろうではないか、現世に出て来ても、暴れられなくて退屈してたんだ。」


「ふーん、ご期待に沿えるかどうか分からんが、まあ、死ね!」

 と言って、【重力グラビティ】の魔法を結構強めに掛けた。悪魔は床にベチャっという感じで、へばり付いている。


「ぬがぁ!!卑怯だぞ!!!」


「何が卑怯なのかサッパリ分からんが、早くやろうぜ?強い悪魔さん。」

 と、言いながら首を落とし、体を切り刻んでいった。小間切れにしたところで、再び白い炎を出し、燃やしていった。


「お前なんかに暴れられて堪るか、馬鹿野郎。」


「出番なかったですね。しっかし、上様の魔法の使い方は、面白いですね。」

 と言って弥助が降りて来た。


「そうか?普通じゃね?」


「いや、さっきの会話の展開だと、激しい戦闘になりそうな気がするじゃないですか。それが、べちゃってなって終わりですもん。」


「なんか面倒臭くなっちゃってさ~、それに、多分【風刃ウィンドカッター】だと思うんだけどさ、結構威力あったじゃん?あれ使われると、俺は良いけど、死人が出そうだったからな。」


「確かにそうですね。」


「この親子も、燃やしておいた方が良さそうだな。根まで腐ってそうだったし。」

 そう言いながら、再び炎を出して親子とも焼き尽くした。


「そうですね、悪魔は何が有るか分かりませんしね。」





「じゃ、弥助、騎士団呼んで捕縛しろって言ってくれ。俺は魔力渦を探す……のも面倒だなぁ、聞いて回るか。」


「承知。」

 と言って、弥助は外へ壁の穴から出て行った。


 マサキは、館の中でプルプル震えていた、可愛いメイドさんを捕まえて、黒い魔力の渦を見た事ないか聞いてみたが、知らない様だ。だが、パンツは黒なんだそうだよ。何をしているのかって?聞き込みだよ、君!


 可愛いメイドさんに、領主の私室に連れて行ってもらったが、ここでもなかったので、寝室へと案内してもらった。あったよ……気持ち悪い魔力。寝室にある小部屋にそれはあった。金庫もあった。


 魔力渦に左手を翳して、【浄化ピュリフィケーション】を掛けて、魔力渦を消してやった。スッキリした。どうも隠し金庫らしいので、金庫を開けてみたが、金だけで面白い物はなかった。


 寝室だけにベッドがあったので、メイドさんに、折角だからやってく?って聞いたんだけど、良いですよ?と言われたが、後が怖かったので、止めておいた。一応、メイドさんにも【精神鑑定メンタルアプレイズ】を掛けてみたが、正常だった。


 ちょっと軽そうなメイドさんだったので、一応、執事とエッチした事あるか聞いてみた。処女だとマジギレされてしまった。悪魔だったからね、エッチしちゃうと大変なんだよと説明して許してもらった。


 可愛いメイドさん、超可愛いんだけど、20歳なんだそうだ。ムラムラしちゃうので、そろそろ自重しよう。メイドさんを伴って館を出ると、騎士団長が走って来た。


「お疲れ様でした。中級上位の悪魔がいたと聞きましたが、大丈夫でした?」


「あの程度なら、ガキの自慰センズリより楽だな。あ、この娘は正常。保護してあげて。後、処女確認は、ギルドの受付嬢にでも頼めよ?見たいからって騎士団でやるなよ?」


「騎士団にも、女性は居ますから大丈夫ですよ!」


「そういや、メアリーも騎士団だったな。」


「です!」


「領主家の家族は?あ、いいや、後は任せる。ただ、いつから悪魔がいたか、分からないんだよね。領主館を更地にしても良いかしら?あとこれ、隠し金庫にあった金だ。」


「お預かりします。悪魔がいた館ですから、更地にしちゃった方が良いと思いますね。誰も入りたがらないでしょうし、何が残っているか分かりませんしね。」


「じゃ、やっておく。後さ領主主催のオークションて位だから、誰にどの娘を売ったか分かるだろうし、書付でもあれば、今の内に館から持って来いよな。買った奴も全員縛り上げる事を希望する。」


「当然やります。すぐ書付等の調査に入ります。」




 マサキは、思ったより難しい敵じゃなくて良かったと、騎士団の作った陣幕の中で座った。そこへ最初に保護してもらえと言ったメイドが来た。

「おう。無事だったか~。」


 メイドは綺麗にお辞儀をした。

「ありがとうございました。まさか悪魔がいるなんて、思いもしませんでした。」


「大丈夫だ。普通の奴は誰も思わない。召喚する奴がおかしいんだ。」


「後で、貴方が説明してくれるなら従いますと言いました。」


「うん、聞いた。」


「では、ご説明をお願いします。」


「なんの?」


「私を助けようとして頂いたのは、解りました。では、何故、助けようと思ったのですか?」


「思考が正常だったし、美人だから?」


「私、失業してしまったんですが、どうして頂けますか?」


「そこは騎士団に相談しようよ。どのみち次の領主がすぐ来るはずだし。」


「私は、貴方に従いました。ですから、貴方のメイドです。」


「あ?何?その超理論!罠なの?罠なのか??貴様悪魔の手先か!!」


「だって、恰好良い貴方がイケナイんです!なんとか使ってもらえる、口実を考えていたら、理論が破綻してしまいました!!」


「いやいや、おかしいだろ?玄関から部屋まで案内してもらっただけだよね?」


「ずっと、私のお尻を見ていました!」


「見るよ!寧ろケツしか見てねーよ!?何が言いたいのか、ちゃんと言え。超理論聞いても、サッパリわからんわ!」


「私を貴方の元で働かせて下さい。」


「いや、俺は屋敷持ちじゃないからな、メイドいらないよ?」


「何でもします。」


「えっとね、今そんな事言われても、住む所がないのな。もし、メイドが必要になる時がくれば、その時は考えよう。名前と年齢を述べよ。」


「ユイ。17歳です。」


「俺は、18歳未満に興味ねーんだよ。来年になったら考えよう。」


「本当ですか?本当ですね?では、それまで王城で働かせて頂く様にします。」


「なんだよ、進路決まってんじゃねーか!」


「王城は保険です。」


「何て言うか、抜け目ないのな。まあいいや、俺はまだやる事があるからな。」


「はい。」




 なんか色々面倒だな。まあ、学校の先生も、帝国へ報告に行けば終わる話だし、それが終わったら、弥助達と旅に出よう。なんで、俺の傍には男は弥助しかいないんだ?


 弥助達と旅に出て、保養地になりそうな土地を自分で探そう、魔改造しても良いしな。そこに城か大きな屋敷を建てよう、もう王都に戻らなくて良い様に。

米・味噌・醤油があれば、日本人なんか生きて行けるのだ。あとは温泉があれば幸せかな。衛生面でも良いしね。



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 少し時間を遡る、マサキが椿と桜と裸で遊んでいた頃、王城のサラビスの私室では、家族会議が行われていた。


 出席者は、サラビス、メイリーナ、ルチア、シルティーヌ、セレスティーナ、ソルティアーナ。サラビスが急遽招集したのだ。


 サラビスが口を開く。

「余人を交えず、話をしたいと思って、集まってもらった。マサキの事で、色々思う所があった。俺は、彼を息子の様に思っている。

 だが、暫く前にとても危ういマサキを見た。彼は恐らくだが、相当辛い思いを過去にしてきている筈だ。それ故の優しさであり、それ故の憎悪の炎なのだと思う。

 マサキを支えてやるのに、セレスティーナ、ソルティアーナでは支えきれないと判断した。彼が持っている闇は、ある特定の状況になると顔を出す様だ。それ故、メイリーナが望むのであれば、メイリーナをマサキにつけてやろうと思っている。

 メイリーナ、お前は女として、マサキが好きなのであろう?」


 メイリーナは、顎を指で押さえて少し考えた。

「そうねぇ、女として……か、そうかも知れないし、ただの母性かも知れない。けど、マサキ殿を愛してはいるのは間違いないわ。この前の一件で、マサキ殿の過去の話を、エルラーナさんに聞いたのだけど、涙が止まらなくて、どうにもならなかったわ。心の傷だけでも、癒してあげたいと思う。」


 サラビスは、意外だと言う顔をした。

「案外すんなり認めるのだな。」


「あの話を聞いた後、自室に籠ってずっと考えていたのよ。私が余分な事を言ってしまった事もあったりして、どうしてあげられるかなってね。」


「あの話と言うのは聞く訳にはいかないか?」


「ごめんなさい、この話をしてしまうと、エルラーナさんに迷惑を掛けてしまう。私がマサキ殿がなんか危ないからって、お願いしに行った時、本当は、弥助さんにしか話していない事だから、話してはいけないのだけど、と言って教えてくれた話なの。だから、マサキ殿が自分で話す気にならない限り、私からは言えない。」


「だが、弥助しか知らない筈の話をエルラーナが知っておるのだろ?」


「ええ、マサキ殿が弥助さんと、お酒を飲みながら話しているのを、桜さんが立ち聞きしていたらしくて、余りにも悲しく抱えきれなくなって、エルラーナさんにだけ話したらしいのよ。だから、私から言えるのはこれだけ、裏切りには苛烈になるから、マサキ殿を試したりしない事。」


「そうか……、ならば余計に難しいか…。俺は、あいつを家族として迎え入れたい、そう考えている。セレスティーナとソルティアーナは、メイリーナが一緒に行く事に何か思う所はあるか?」


 セレスティーナは、呆れた顔で言う。

「母様がマサキ様に思い入れがあるのは知っていましたし、今更ですかねぇ。

 ただ、マサキ様が受け入れると思えないのですよ。あの人も、母様の事は好きなんだと思いますけど、それはそれ、これはこれ、と考える人ですから。私の存在を考慮しない人ではないですよ。聞いてくれれば、私に問題はないのですけど、相談をしてくれるとは、思えないですねぇ。

 マサキ様は、お父様の事も好きですから、母様が裏切ったと考えるのが、1番怖いと思います。」


 ソルティアーナは気にしないと言った感じだ。

「私は、特に思うところはないですね。どの道、お嫁さんは増えてしまうと思いますし、結婚しても、メイリーナ母さんがいれば相談もしやすいでしょうから。」


 サラビスは、考える。メイリーナを1度離縁して、どうしても受け入れない様なら復縁すれば良いかとも。


「3人に異論がないのなら、1度マサキと腹を割って話をしてみようと思う。

 結果は分からんが、あの危うさは放っておけん、メイリーナが危ないと言った日、本当に危なかったそうだ。腹を切る寸前だったと。何かを思い出して思い留まった様だがな。

 そういう意味でも、あいつには女が必要なんだろう。あいつは1人で色々背負い過ぎる、それを解ってやれる女がな。」


 セレスティーナは驚愕していた。

「マサキ様が?腹を切る?どうして?ねぇ、どうして!?」


 サラビスとメイリーナは嘆息した。

「セレス、貴女がそうなっちゃうから、マサキ殿は何も相談出来ないのよ。貴女を愛してはいるのだろうけれど、甘える事が出来ないのよ。

 あの日、執務室には絶対に来ない様に言ったのは、マサキ殿が溢れ出る怒りを精一杯抑え込んでいるのに、貴女がいたら収拾がつかなくなってしまうからよ。

 もう少し大人になりなさい。あの方は、好きなだけで着いていける人では、ないわよ?」


「わかりました……。」



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 騎士団長が、走って来た。

「それらしい書類を全て押収しました。ちょっと見ましたけど、とんでもない奴らでしたね。徹底的にやります。領主館はやっちゃって下さい。」


 マサキは立ち上がって、

「承知した!」

 と言った。



 マサキは、丹田で魔力を練り上げる。石材をも溶かす温度、2000℃位をイメージすれば良いだろう。


 右手に白い炎、左手に魔力と言ういつもの形でイメージだけを膨らませていく。と同時に、魔力を練り上げる。

 正門まで近づき、炎を放り投げ、ドーム結界を展開して、酸素を一気に高濃度に上げていくイメージで炎上させた。


 結界の維持と熱の管理をしながら、館を溶かしていく、真っ赤にドロドロとした液体に変わっていくのに、それ程時間を必要としなかった。


 平面になってしまった領主館。これで、殺菌まで出来た事だろう。







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