第24話 モヒカンは駄目だろう

 夕方になって目を覚まし、椿の胸をモミモミしながら、今日の予定を考えていた。アジトを強襲して女性の救出が最優先として、問題は領主館だな。本当に悪魔だとするのであれば、悪魔が向こうにいる間に黒い魔力渦を消してしまいたい。


 問題は角が何本あるかだなぁ、執事に擬態してると分からないんだよなぁ。考えても、実際に目にしない事には判断がつかない為、これも保留。


 クソ、考えが纏まっていかない……。俺は壊れてしまったんだろうか……、まあ、これが終わったら、旅に出よう。色々見て回り、各地で美味い物を食べ、良い女をナンパするのも良いだろう。

「うえさまぁ~・・・。」

 椿が潤んだ瞳で、振り返った。あ、ずっとモミモミしながら弄んでたっけ。気持ち良くしてしまった責任は取らねばならんだろう。なぁ、そう思うだろ?諸君!!


 誰に言い訳をしているのか知らないが、

 もう1回戦、椿との裸の闘いを終えて、頭がクリアになったところで、冷静に考えてみた。重要なのは、順番だ。アジトの方は、全員で行って一瞬でケリを着ける。忍び2人娘に女性の守りを頼み、弥助と霧には、逃げる奴の捕縛。後は、俺が盗賊団を殲滅すれば良い。


 問題は領主館だ。領主を先には少し危険だと思うし、かと言って悪魔がいると考えれば……、あれ?何故、俺はこんな思考をしている?


 常に最悪を想定するのが、俺のやり方だった筈だ。悪魔は居ると考える、それも大罪系が。その状態で順番を考えるのなら、悪魔が最優先だろう。1人で領主館は突入するつもりだったが、これでは手が足りない。


 だが、悪魔は精神生命体の筈だ。受肉しなければ現世で実体化は出来ない筈…、だとすると、やはり執事に取り憑いていると考えるべきだろう。そうなると、執事を殺して悪魔召喚した事になる。ミレーナの時は、彼女が、人を殺せないと言ったら、次に出て来る時には執事になっていたと言っていた。


 普通は、依り代が無ければ召喚者に憑依するはず…、あー、対価がミレーナとの情事だったから、別人である必要があったのか、だから適当な男に憑依していたのか。これは、ミレーナの無知故のイレギュラーだな。通常の悪魔召喚は、依り代を先に用意してから行う筈だ。依り代に満足しなければ、憑依はしない、とエリセーヌは言っていた。ならば、あの執事程度なら、大罪系まではない……か。


 しかし、魔力渦が開いてしまっていれば、悪魔が1人とも限らないんだよな。これは先に領主を捕えてから、悪魔を誘い出す形が良いだろう。領主を助けに、悪魔が来る事が分かっているのなら、対処は出来る。よし、この考えを元に作戦を考えよう。



 ルームサービスで晩飯を全員で食べて、今夜の作戦について話をした。

「弥助の先導で盗賊団のアジトへ行き、桜と椿は被害女性の安全の確保。弥助と霧は、周囲の警戒と逃げる奴の捕縛。俺は正面から入って、敵の注意を引き、殲滅。」


 桜が不満そうだ。

「それでは、上様がお1人になってしまいます。」


 弥助が諫める。

「桜、上様の腕を理解していないのか?あんなチンピラ8人程度は、息を吸って吐く間に首が飛んでいる、問題ない。それに、上様程、我々忍びを大事にして下さる主君などいないのだぞ?我々を路頭に迷わす様な事はしない筈だ。ね?上様。」


「そうですね、承知しました。」


 と桜は納得した様だが、弥助の奴がハードルを上げて来た。まあ、弥助なりの、上様、死んじゃいけませんぜ!と言うエールなのだろう。この信頼感が胸に刺さるんだよなぁ。大罪系が出た時、死なない自信が全然ねーし、寧ろ死ぬ気満々だし、刺し違えれば倒せる自信はあるんだ。刺し違えれば。ちらっと弥助を見ると、してやったりと言う顔をしていた。気持ちの良い男だ。


「問題の領主館だが、弥助以外の3人とも外の警戒を頼みたい。弥助は隠れてついて来い、先に領主を縛り上げて、悪魔を誘い出す。領主親子を縛り終えたら、弥助も外で待機してくれ。

 悪魔がいる可能性を考慮した時、どの程度の悪魔か分からんが、最悪大罪系を考えると、お前達を護りながら戦える自信がない。大罪系悪魔は普通に人間が相手に出来る様な奴ではないからだ。桜、異論は認めない。俺を死なせたくないなら、絶対に中に入るな。以上だ。」


「「「「承知。」」」」


 桜がまたも不満そうだったが、これは仕方ない。いくら忍びであっても勝てはしないのだ。大罪系悪魔は元々が天使なのだから。エリセーヌの話では、堕ちた天使が眷属を増やしていき、繁殖した結果として悪魔になったと言っていた。ガリルの爺ちゃんの話を信じるのなら、大罪系は当分出て来ない筈ではあるが……。




 日が落ちるのを見計らって、弥助の案内で、盗賊団のアジトへ向かうと、もっと地下とかに隠れ潜んでいるのかと思えば、普通に酒場を根城にしている様だ。弥助の話では、女達は2階の1室に閉じ込められていると言う。営業している訳ではない様で、客はいないみたいだ。


 日が落ちたところで、ハンドサインを出すと、椿と桜は屋根に上がって行った。弥助と霧は影にすぅーっと消えて行った。マサキは、異空間から大小を取り出すと革帯に手挟んで、腰を落ち着けさせた。


 入口の扉を開けて、中に入ると、もうねガッカリした。世紀末のモヒカン野郎が革の上着に鋲を打った服を着てるんだぜ?しかもこの世界、髪の毛の色がカラフルなもんだから、そのまんまじゃねーか!著作権料払え馬鹿野郎!と思いながら、声を掛けた。


「兄さん、今日のオススメはなんだい?」


「悪いな、この店は営業している訳じゃないんだ。今は、住んでるだけの元酒場なんだよ。」


「そっか、人がそこそこいるから、営業しているのかと思っちゃった。だが、それなら客ではないんだな?全員。」


「ああ、全部仲間さ。」


「そうか、じゃぁ、全員死ね。」

 と言うや否や、刀の鞘を持った左手の親指が鍔を弾いて鯉口を切った。そのまま、刀を抜き打ち、今話をしていた奴の足の腱を切り、残り7人も両手両足の腱を切り飛ばし、その場に転がした。


「さて、お前達に質問だ。帝国に人攫いに行った時、15歳の娘を庇おうとした母親を切り殺したのは、誰だ?答えないと、お前達の大事な所が1本ずつ無くなって行くぞ?まあ、1人1本しかないんだがな!」


 1人が、青毛のモヒカン野郎を指さした。

「そうか、ありがとよ。」

 と言うと、青毛のモヒカンを切り落とし、紙で包んだ。


「もう1つ質問だ。その15歳の娘を犯したのは誰だ?」


 髪を切られるだけと思って安心したのだろうか、2人が手を挙げた。

「他にはいないか?」

 そう言って、2人の赤と金のモヒカンを切り落とし、それぞれ紙に包んだ。


「じゃ、その娘を犯した後、殺したのは誰だ?」

 ブルブル震えていた奴が、手を挙げた。茶色のモヒカンを切り落として、やはり紙に包んだ。


「お前達のその髪型は決まりなのか?」


「ボスの趣味だ。」


「ボスはどれだ?」


 皆が指を差した先にいたのは、最初に話をした奴だった。


「なんで人攫いなんかやっている?」


 ボスモヒカンは答えた。

「領主様の命令だ。良い金にもなるしな。」


「じゃ、何故、娘を殺したんだ?」


「殺せとは言ってねーが、り過ぎて死んじまったんだよ。」


「当然最初はお前がったんだよな?」


「それはそうさ。いつも1番は俺だ。」


「そうか…。」

 と言って、ピンクのモヒカンを切り落として、紙で包んだ。


「さて、お前達は首を落として殺そうと思っていたんだが、気が変わった。簡単には死なせねー。殺して下さいと言わんばかりの苦痛を与えてやろう。」


 そう言ったマサキは、静かに【精神崩壊マインドクラップス】を全員に掛けた。全員が苦しそうに叫び声を上げ始めた。


「ぐおぉぉぉ!!」「ヴァアァァァ…」


 その間に、救出した女性達を外に連れ出し、4人に外で守っている様に指示をした。完全に狂ったのを見届けたマサキは、1人ずつ首を刎ねて回った。

 8人全員を始末して、女性達をギルドで保護してもらう事にした。女性達は全部で5人しかいなかった。次のオークションまで時間があった為だろう。


 マサキは、女性達にギルドで保護してもらう事と騎士団が王都から来るから、騎士団が来たら、保護するのと同時に家に帰れるよう、取り計らうと伝え、攫われた時の状況を騎士団に話して欲しい事をお願いした。





 冒険者ギルドに到着し、ギルドマスターを呼び出した。先に、1人の受付嬢に女性達の保護をお願いしたら、2つ返事で引き受けてくれた。

 1人のおっさんが、マサキの前に現れた。


「これは主席殿。態々セベインまでどうしたんです?」


 マサキはおかしいと思った。主席を知っているなら、名前を呼ぶ筈だからだ。

「用があるからに決まっているだろ?馬鹿なのか?貴様。」

 と言いながら、殺気をぶつけていた。


 ギルドマスターを気取る男は、ガクガクと震えていた。

「本当に貴様がギルドマスターか?」

 と、問いかけると同時に虚空に向かって、刀を一閃した。キーンと言う音がして、ナイフが壁に刺さった。


「どういうつもりだ?そこに隠れている腐れ外道。さっさと出て来い。」


「いやー流石ですね。俺も元Sランクとして、どの程度の力量か試したかったんですよ。申し訳なかったですね。」

 と言いながら、30代の男が階段の影から出て来た。


「ほう、力量ねぇ……。」

 と言いながら、左手の指輪から【精神鑑定メンタルアプレイズ】を飛ばした。

(ギルドの内部までかよ……。)


 マサキは、ギルド全体に、【回復リカバリー】の魔法を掛けた。目の前に出て来た、30代の男は汗を流しながら、

「この状況は……?」

 と言いやがった。


「ギルドマスターを呼び出した俺に、お前がナイフの投げつけたんだ。」

 と言って、壁に刺さったナイフを指差した。

「まさかそんな……。」


「覚えていないとは言わせない。何をしたかは覚えている筈だ。」

 まだ、混乱しているのか?記憶に齟齬がある?あ、忘れてたと、【復元レストレーション】を掛けた。


「ああ、思い出せました。申し訳ありません、私がギルドマスターのアインスと申します。大変失礼致しました。」





 改めて、アインスの話を聞くと、こうだ。

 領主主催のオークションで、人身売買が行われている、と言う情報を掴んだアインスは、領主館に抗議に行ったそうだ。一通りの話を終えた帰り際に、執事に何某かの術を掛けられた様な気はしたが、その時は、特に気にしなかった様だ。


 だが、日数が経って来た時、おかしいと自分で思ったそうだ。Aランク冒険者を見ると、殺意が尋常じゃなく湧いてくる。Sランクの話を聞いただけでも、そうなったから、これは不味いと、ギルドマスター室から出なくなったんだと。


 今日は、偶々、俺がSランクの主席であった為、受付嬢が念の為と知らせたそうだ。それを聞いてから、殺意が抑えられず、俺が来るのを待っていたんだと。


 マサキは、頭を掻きながらアインスに告げた。

「うーん、仮定の話が確定になった訳だが……、悪魔に隷属させられていた。恐らく、AとSランクの冒険者を殺せとでも命令されていたんだろう。」


「マサキ殿は、この街に何をしに?まさかオークションの件ですか?」


「そうだ。オークションで女を売る為に、盗賊団を使って、帝国に女を攫いに行っていたのは、知っているか?」


「もしかして、酒場のチンピラ共ですか?」


「そうだ。」


 アインスは、腑に落ちたと言う顔をした。

「そうか、そうだったのか!くっ……。」


「何か思い当たる事でもあるのか?」


「ええ、オークションで売られる女性をどうしていたのかが、どうしても分からなかったんです。街中で攫われたとか、売られたと言う話も出て来なくて、調査したんですが、全然分からなかったんですよ。チンピラ共も、街中では何もしていませんから、捕縛も出来なくて。」


「チンピラは全員、首を刎ねて来た。捕らわれの女性達は、衛兵に渡したら、敵に返す様な物だろ?だから、ギルドで保護してもらおうと思って連れて来たんだ。そしたら、これだよ……。」


「申し訳ありません。」


「いや、過ぎた事を言っても仕方ない。今は、保護した女性を全力で護ってやってくれ。あと、悪魔隷属の話には、あんまり驚かないんだな。知っていたのか?」


「女性達はお任せください。私も元Sランクですから、下級悪魔とは戦った事があるのですよ、奴らは魔力を隠すのが上手いので、なかなか見破れないんですが。そう思うと、あの悪魔も下級悪魔、或は中級下位の域を出ないと思います。」


「如何して分かるんだ?」


「私の師が、大罪系に連なる、中級上位の悪魔と戦った事があるんだそうですが、隠してはいるんでしょうけれど、隠しきれていない、禍々しい魔力が漏れているんだそうです。

 普通の人には分からないでしょうが、魔力感知が使える人であれば、すぐ分かるとの事でした。あの執事からは全く漏れていませんでしたからね。」


「なるほど、それは参考になる。ありがとう。下級悪魔なら3秒で殺せるしな。」


「え?それは凄まじい。」


「まあ、俺がこの前殺した奴は、2本角だったから、大した事ないんだろ?」


「いえいえ、下級悪魔は1本角です。2本は、中級下位ですよ。3本で上位、4本が上級です5本が大罪系ですね。」


「あ、そうなの?一撃で死んだから下級だと思ってた。名無しだったしな。」


「名持ちが出て来たら、もう、どうにもなりませんね。」


「だが、悪魔がいると言う事は、必ず召喚術師が近くにいる筈なんだろ?」


「それが、一概にそうも言えないんですよ。封印されていた悪魔が封印が解けて出て来たとか、普通の召喚に紛れて出て来て、勝手に受肉する奴とか、結構色々あります。大概が下級悪魔なので、対処出来ていますが、大罪系が健在なうちは繁殖で増え続けるので、鼬ごっこですね。ただ、召喚で出て来るのは、術師の魔力量と質によりますから、殆どが下級ですけどね。」


「ふーむ、良く知っているんだなぁ。」


「私の師は、悪魔祓いの祈祷師も兼ねていたんですよ。ですから、師の受け売りです。師は祓えても、魔界に帰すだけで、倒せないのが口惜しいと言ってましたよ。」


「いや、凄く参考になった。また、教えて欲しい。」


「いつでもどうぞ。これから領主館に?」


「ああ、もうじき王都から、騎士団も到着すると思うから騎士団が来たら、女性達を案内してやってくれ。俺は悪魔とりあってくる。」




 ギルドを後にした、マサキは、領主館が見える所まで来ていた。魔力感知を最大に広げて気配を探った。30人位が中にいるっぽいな。ん?騎士団か?多数の人間が街中に入って来た。


 騎士団が来たのなら、少し話をしておこうと思ったマサキは、その場で待っていた。領主館の正面の離れた所に立っていた、マサキの所に騎士団長が来た。

「マサキ殿、どうですか?」


「状況の説明をしておこう。・・・・・・・・・な訳で、捕らえられていた女性を5人、冒険者ギルドに預かってもらっている。恐らく帝国民だろう、事情を聞けたら家に帰れるよう取り計らってくれ。チンピラ8人は首を刎ねて酒場に放置している、処理を頼む。

 あと領主館なんだがな、悪魔がいるのが確定した。だから、俺が悪魔を倒すまでは、館を囲んで逃亡者が出ない様にして欲しい。そして、俺が悪魔を倒せたら、全ての人間を捕縛して欲しい。30名位いそうだ。」


「委細承知しました。」


「あとなぁ、悪魔を召喚したのが、領主っぽいんだよ。問答無用で首刎ねて良いかな?捕縛した時に再召喚されるとウザいんだよね。」


「そこは、マサキ殿の判断にお任せします。」


「じゃ、領主と息子は首ちょんぱでいくね。」


「さーて、行くか~、弥助。」


「はっ!」


「断罪の時間だ!」


 そう言うと、マサキは、領主館正門に向かってゆっくりと、歩きだすのだった。








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