第23話 セベイン
ギルド5階の自室に戻った、マサキは腹の中に燻る、怒りの矛先を求めていた。建設的な考えが全く出来ないのだ。それが、また苛々に拍車を掛ける。
そんな、負のスパイラルに入り込んでしまったマサキは、何を思ったのか、脇差を取り出すと、刀身に紙を巻き始めた。が、スコットの事を思い出して、まだ片付けなきゃいけない事があったなと、自嘲するのであった。
マサキは、メイリーナの気持ちに責任を感じていたのだ。なんでも直ぐ理解してくれるメイリーナに甘えていたんだと。それが、メイリーナの気持ちを揺らがせてしまった、とも。それに、「私が欲しいの?」と聞かれた時、思わず、抱き締めそうになってしまった事で、マサキの心に影が差した。
メイド服姿のミレーナが心配そうに遠くから、マサキを眺めていた。刀に紙を巻き始めて、自分の腹に向けた時は、飛び出しそうになってしまったが、1人にしてくれとの、マサキの言葉を守っていた。
毎日、魔法を教えてもらって、たった1週間で4属性は全て中級まで使える様になった。マサキの言った事は本当だった。今は、毎日が楽しくて仕方ない、全てはマサキのお陰だと感謝しきれない気持ちを抱えていたが、悪魔に抱かれた体で、抱いて下さいとも言えず。悶々としていた。
マサキの事は、桜に合わせて上様と呼ぶようにした。自分も配下で良いと思ったからだ。本当なら処刑されていた身、こんな時こそ助けてあげたいと思うのだが、なかなか声が掛けられなかった。
ミレーナは、今は自分しかいないのだし、いらんと言われたら引けば良いと思い直して、マサキの所に行く事にした。
「上様?」
「ん?なんだ、今は1人にしてくれないか?」
ミレーナは、精一杯、勇気を出して声を出した。
「上様が何を思い悩んでいるのか、私には分かりません。が、汚れた身ではありますが、私で良ければ、抱いて下さいませんか?欲望の捌け口に使って頂きたいです。」
マサキは、自嘲気味に笑った。
「心配掛けたか。ミレーナ、おいで。」
マサキはミレーナの手を取ると、腰抱きにして隣に座らせた。
「ミレーナ。お前は汚れてなんかいない。もう綺麗な身になったんだ。処女に戻ったと言っただろ?だから、こんなアホの欲望の捌け口等と言わず、惚れた男の為に取っておけ。」
「私は、上様が苦しんでいる姿を見ていられません。それに、1度は死んだ命です。上様以外の男になど興味ありません。毎日毎日、魔法を教えてもらえて、幸せです。上様の元で一生魔法使いでいると決めたのです。だから、せめて苦しい時だけでも、私にお相手をさせて下さい。」
マサキは、ミレーナがこの話を切り出すのに、勇気を絞り出したんだなと思った。悪魔に抱かれた体だから、となかなか言えなかったんだろうと。
これは、抱かないと忌避していると思っちゃうよなぁ。ミレーナの勇気に感謝しながら抱こうと決めた。
「ミレーナの絞り出した勇気を頂こう。」
「はい。」
と、ミレーナをお姫様抱っこして寝室に連れ込んだ。
貪る様にミレーナと3回戦した、マサキはそのままミレーナに腕枕したまま就寝した。ミレーナは念願が適って満足そうだ。マサキはミレーナに救われた気がした。
一方、エルラーナはミレーナとしているマサキを見て、ミレーナが頑張ったんだなと安心して部屋に戻った。
翌朝、エルラーナが朝食の支度をしていた。ミレーナは少し寝過ごしただけだったが、慌てて手伝った。
「ミレーナ、昨日は勇気を出したみたいね。」
「あの方が、あんなに苦しんでいる姿は見ていられなくて、私で慰められるならと思って頑張りました。上様は切腹?なさろうとしていましたし。」
「ずっとして欲しいと思っていたんでしょ?」
「でも、私は……。」
「その先はもう言っては駄目よ。彼が貴女を綺麗な体に戻したと言った以上、彼はそんな事を気にしたりしない。人種や種族すら気にしない人だし、差別を嫌うからね。これからは自信を持って抱かれなさい。」
「はい!」
「それにしても、切腹か……、本当に危険だったのね。じゃ、彼を起こしながら襲われて来ようかな。」
と言って、エルラーナは襲いに行った。
寝起きにエルラーナに襲われて、2回戦してしまったが、ミレーナのお陰で気持ちが少し楽になっていた事もあり、体調は大分良かった。
「俺には勿体ない女達だよなぁ……。」
朝食を摂り、学校も行かねばなぁと思いながら、どうしようか迷っていた。王都からセベインまでは、1日80Km移動すると仮定して、15日の行程か……、騎士団を先発させたとして、10日後に入れば充分かな?
そう考えたマサキは、王城に向かった。執務室に着いたマサキは、サラビスに聞いた。
「騎士団がセベインに先発したとして、何日後の到着予定?」
これには騎士団長が答えた。
「普通に行って15日の行程ですが、騎士達であれば騎馬もありますので、12~10日でしょう。」
「じゃ、10日後にセベイン入りすれば良いかな?」
「何かあるのか?」
「いや、まだ先生だからな。」
「あ、そうか。学校か。」
「だよ。学校でスカート捲りしてる方が気が紛れるしな。」
「何しに学校行ってるんだ?」
「そんなの決まってるだろ?スカート捲りだ。」
「その調子なら、大丈夫そうだな。」
「ああ、昨日は、ミレーナが頑張ってくれた。勇気と言う奴を見せてもらったんでな。危うく死ぬところだったらしい。」
「マジか!!」
メイリーナの言った通りだった。
「なぁ、マサキ。メイリーナをどう思う?」
「好きか嫌いかって話か?」
「いや、そうじゃなくて、何かこう変な力みたいなものを持ってそうな?」
「あー、時々エスパーかよ、とは思うかな。打ち合わせなしで、目を見ただけで要求が解るみたいな。」
「やっぱり、そう思うか。」
「どうしたんだよ。喧嘩でもしたのか?」
「いや、特にはないんだが、予知能力とかあるのかなと思う事があってな。」
「ん~、予知能力というより、読心術かと思ってるけどね。心が読める的な。」
「ああ、そんな感じかも知れん。」
「まあ、女はみんな大なり小なりそんなもんだ。好きな男とかだと、常に目で追ったりしているらしいからな。顔見ると分かるらしいぞ。女は怖いと言う事だ。
学校の女子生徒ですら、それだからな。メイリーナ妃みたいに年季入ってたら一目で解るとか怖い事言いそう。」
「ふむ……。」
「騎士団は今日には出発してくれるの?」
騎士団長が答えた。
「ええ、編成が終わったんで、今日出発します。」
「一応、昨日の内に、俺の隠密達が出発しているんで、到着時に証拠は集まっている筈だ。証拠が手に入り次第、盗賊団は殲滅する。領主は、騎士団に任せるか現地で判断しよう。」
「承知しました。」
「じゃ、学校行って来るわ。」
と言って、マサキは手を振って、執務室を後にした。
「流石ですね、昨日あれだけ荒れていたのに、今日には、もう冷静に手を打ってきている。現地での展開も視野に入っている様ですね。」
サラビスは、どうしたもんかと思っていた。
「なんと言うか、恐らく本人も相当辛い過去があるから、あれだけ荒れていたんだろうが、一晩でこれだからなぁ。
あいつに言わせると、冷静さを失った方が負けるんだそうだ。剣術の達人とかだと必ず、自分を冷静に戻す手段を2つ3つ持っているものなんだそうだよ。」
騎士団長は、なるほどと感心しながら言った。
「1度騎士団にお招きして、薫陶を頂きたい物です。」
「学校の先生をしている位だ。その位、晩飯1回とかで受けてくれそうだがな。」
「そうですね。今度聞いてみます。」
では、と騎士団長は執務室を出て行った。
執務室に1人残ったサラビスは、困っていた。さっきの、マサキの話をそのまま受け取るならば、メイリーナは、完全にマサキに心を奪われている事になる
王妃が5人いるサラビスにとって、メイリーナが望むのなら、それでも良いのだが、問題はマサキが受け入れるかどうかと、セレスティーナ、ソルティアーナの2人がどう思うか、だろう。
特にマサキは難しいだろうと、サラビスは考えている。恐らく憎からず思っているんだろうが、それはそれ、これはこれ、と考える男だからである。最初に婚約したのが、セレスティーナであるから尚更だ。
ただ、サラビスとしても、昨日の危ういマサキを見ているだけに、メイリーナが望むのなら、メイリーナを、マサキに付けてやるのは良い事だと考えている。サラビスも、マサキを息子の様に考えているのだ。
サラビスは、1度話合いをしなければならないと考えた。マサキのいない間に、家庭内の意思統一が必要だと考えた。マサキを家族として受け入れる為に。
マサキは取り敢えず、学校に行く事にして、講義をしていたのだが、いつもの覇気がない。今一つノリの悪いマサキにクレイブが心配して声を掛けた。
「先生!」
「ん?なんだ?」
「元気ないな、大丈夫か?女子のパンツでも見た方が良いんじゃねーか?」
「うむ、それは良い考えだ。が、そう言うのは、突発的にやらないと面白くないだろ?まあ、見せてくれるのならウェルカムだがな!」
こんな事を生徒に心配される様じゃ、俺も修行が足りないんだな、と自嘲気味に笑うのだった。次の日からは、なんとか自分を立て直し、心配されない程度には、講義出来たと思う。
何日か流れ、
「明日から、ちょっくらセベインまで、盗賊団をシバキに行って来るから、俺の講義は休みな~。」
「え~、ツマラン。俺も休もうかな。」
「帰ったらすぐテストすっからな!」
「えーー!!!」
「まあ、直ぐ帰ってくるさ。」
そんな事があって、その日の夜には、出発する事にした。あれから、ミレーナとセリアと交互に相手をしてもらって、エルラーナに朝襲われると言う生活をしていた。出発前はセリアと2回戦して、夜半には、飛行体勢に入った。
翌日の朝早く、セベインに到着したマサキは、冒険者ギルドへ顔を出した、受付窓口に行って、ギルドカードを提示し、伝言がないかと、宿の手配を依頼した。
「宿はすぐ手配致しますので、お待ちください。伝言については、弥助様と言う方から、到着次第、宿へ伺いますと伝言が御座いました。」
「ありがとう。」
「宿へは一緒に行きましょう。そのまま、お手続きをしておきます。では、ご案内致します。」
と言って受付嬢が一緒に行ってくれた。とは言え、ギルドの2件隣の宿ではあるが。宿の受付で手続きを待っていると、マサキ様、こちらが鍵です。最上階ですので、ごゆっくりどうぞ。と言って、受付嬢は帰って行った。
最上階と言っても5階だが、5階はスイートルームになっており1部屋しか無い様だ。広い訳だよな。5つ位部屋があるから、みんな寝られるなと考えていたら、直ぐに弥助が来た。天井からだが。
「上様、お待ちしておりました。」
「何日前から入っていた?」
「5日前からですね。」
「早かったんだな。」
「そりゃ忍びですから。」
「みんなはどうした?」
「来てますよ。」
と、言うが早いか、桜、椿、霧が降りて来た。
まぁ取り敢えずゆっくりしようぜと言う事で、ソファに座った。
「どうだった?」
弥助が答える。
「大体掴めました。まあ、酷いもんです。盗賊団と領主のカリグラはズブズブの仲ですね。領主がオークションを開くのに合わせて、盗賊団が若い女を攫ってくる。それで、儲けを折半している様です。」
「この国に奴隷制度はないだろ?」
「犯罪奴隷だけですね。」
「売られた女はどこへ行っている?」
「貴族の慰み者か、大商人の妾かってところですね。会員制らしくて、紹介がないと入れない様です。」
「領主は金の亡者な感じか?」
「そうですね、王国は税金を上げると、領政監視員に報告されますから、税率には手は付けてませんがね、ただ、最近は領政監視員も金で抱き込まれている様です。」
マサキは頭が痛くなってきた。
「金と言うのは、そこまで人間を駄目にするかねぇ……。貧乏人なら兎も角、貴族だぜ?強欲にも程があるだろう。盗賊団のアジトは解っているか?」
「そっちは、全然簡単でした。人数は8名、戦闘力はチンピラ程度ですね。」
「領主側の主だった者は?」
「領主と息子、それから執事ですかね。ただ、その執事がちょっと不審なんですよね。もしかしたら、この間の悪魔みたいな奴かも知れません。」
「どういう事だ?」
「天井から見張っていたんですがね、ある部屋に入った後、出て来ないんで部屋を覗いてみたら、いないんですよ。」
「可能性は、捨てきれないな……。だが、それなら召喚術師がいる筈なんだが。」
「確かではありませんが、領主のカリグラは召喚術が使えるそうです。」
マサキはウンザリした顔で、言った。
「悪魔案件は面倒臭いんだよなぁ、もう全員殺すかな、いっその事。なんか物的証拠や、攫われた女の居場所とかは分かるか?」
「女は、アジトにおりますんで、それが証拠になると思いますわ。」
「そうか……。まぁ夕方になったら動こうか。俺も夜通し飛んで来たから、魔力を回復させたいし、みんな大変だったろ。休憩しようぜ。桜、風呂準備してくれ。」
「はい。」
と返事をして、桜は風呂の準備に行った。
「そういや、弥助、お前達の祝言は?」
「どうしようかと思いましてね。このまま所帯持っても良いかなとも思っているんですわ。今は上様の部屋に御厄介になってますが。」
「もうさ、部屋足りないから、城でも建てようかと思ってるんだ。そこに屋敷建ててやるから、それまで不便かもしれんが、我慢しとけ。」
「上様ついに城持ちになりますか?」
「必要に迫られた感じだがな。小さい国でも作って、みんなで楽しく暮らすのも良いかもな。取り敢えず、温泉が出て、川か湖が近くて、海から遠くない所を探しているんだが、なかなかないのよね。やっぱり露天風呂は欲しいじゃん?
まあ、元気があれば、掘れば出るんだろうがな。」
「じゃ、それまで我慢します。」
「霧も良いか?弥助と2人が良ければ、考えるぞ?」
「上様、ありがとうございます。今は、みんなでいるのが楽しいですし、弥助も居ますので大丈夫です。今までは、なかなか一緒にいる事が、出来ませんでしたので。」
「弥助が駆り出されるからか。」
「はい。だから、上様の元に居れば一緒にいられますから、満足です。」
「そうか。椿の年だと、そろそろ結婚じゃないのか?」
「確かにそうなんですが、許嫁も居ますが……、嫌なんです……。」
「もしかして、桜と同じパターンか?」
「はい。」
「蛇の次はなんだ?」
「台所のGですかね。」
「生命力が凄そうだな。どこにでも現れる的な?」
「えっと、付き纏われて、監視されるんです。」
「ストーカーか、忍びの男は、弥助しかまともなのがいないとかじゃないよな?」
「いえ、いますけど。勝手に決まっていた許嫁で、当たりだったのは、霧ちゃんくらいですよ。あとは皆、我慢しているだけです。」
「それさ、本当にただの種の保存だよなぁ。その辺りも、何か打開策を考えた方が良いかも知れんね。」
桜は風呂の支度が出来たと言ったので、風呂に入る事にした。やっぱり桜は入ってきたが、意外な事に椿も入って来た。まあ、眼福なので、良いのだが。
「椿も入って来たのか。こう言うのは平気なのか?」
「いえ、どうせ子を産むのなら、上様の子が良いと思いまして。」
「あら、大胆。」
「だって、桜ちゃんだけ狡いじゃないですか。」
「まぁ、その辺はお前達が良いなら俺は構わない。どっちみち俺は助平なんだし、一緒にいたら、いつかやっちゃうし。」
「上様は、そう言うところは隠さないのですね。」
「隠す必要性を感じない。見たいものは見たいし、触りたいものは触りたい。」
「そういう正直な所が潔くて好きですね。」
「そんなもんか、じゃぁ風呂から出たらハッスルするか?」
桜が怒る。
「上様は少しお休み下さい。夜通し飛んで来たんですよね?」
「まぁ、いいじゃないか。椿の気が変わらない内にな、桜も寂しかったんじゃないのか?」
「そうですけど、上様のお体が……。」
「大丈夫だよ、夕方まで時間はあるしな。ちゃんと寝るよ。」
3人で風呂から出て、浴衣を着ると、弥助に霧と2人で入って来いと送り出してやった。この世界夫婦でもあまり一緒に風呂に入る事はないんだそうだ。
楽しいのにな。
その後、椿と桜を1回戦ずつして、両側に女体を感じながら寝ると言う、暴挙を犯し、随分リラックス出来た様に思う。疲れも取れた気がするんだけど、どうだろう。
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