第19話 下級悪魔

 ソルティアーナとメイドの魔法適正を調査しに行った、メアリーが戻って来た。

「マサキ様、ソルティアーナ様のメイドが、闇適正を持っていました。連れて参りますか?」


「そうだね、連れて来てもらおうか。」


「承知しました。」


 メアリーは仕事が早い。物の数分で、件のメイドを連れて来て、ソファに座らせた。

「君の名前は?」


「ミレーナです。」


「えっとね。怒ったりしないから、正直に話して欲しい。良い?」


「はい。」


「君は精神操作系の魔法が使えるね?」


「はい。」


「ソルティアーナに命じられて、セレスティーナに精神汚染の魔法掛けたよね?」


「・・・・・・はい。」

 と返事をして、床に膝をついた。そして、

「申し訳ございません。」

と土下座した。


 マサキはミレーナの体を起こすと、ソファに座らせた。

「今は、問題ないから、話を聞かせてくれ。」

「はい。」


「ソルティアーナに何を頼まれたんだ?」


「はい。ソルティアーナ様には、精神崩壊をさせる様に言われましたが、私にはそんな事とてもではないですが出来なくて、精神汚染だけにしたのです。

 ですが、精神崩壊と違って、汚染だと顔を覚えられてしまうので、記憶操作を使いました。」


「君は、優秀な闇魔法使いなんだろうが、どうしてメイドをしている?」


「私、魔法適正が闇しかなくて、闇魔法だと召喚魔法位しか使い道がないし、好きじゃないのですよ、闇魔法。それで、魔法使いの道は諦めました。」


「そうか、記憶操作の危険性は理解しているか?」


「いえ、前後の記憶が思い出せないだけだと習いました。」


「そうか……。魔法に関する知識不足の弊害がこんなところでも、か。記憶操作系の魔法は、最悪廃人になるからな。二度と使わないと約束出来るか?」


「はい。二度と致しません。」


「魔法好きか?」


「好きでした。闇しか適正がないと知るまでは。」


「今でも、なれるのなら魔法使いになりたいと思うか?」


「夢、でしたから。なりたいです。」


「記憶操作系の魔法を、二度と使わないと約束出来るのなら、俺がお前を魔法使いにしてやろう。」


「え?でも適正が……。」


「そんな物、俺には関係ない。この世界の魔法に関する認識が間違っている。だから、その気があるのなら、俺が鍛えてやると言っているんだ。」


「お願いします。私に出来る事なら何でもします。是非、教えて下さい。」

 ミレーナは、テーブルに頭をぶつけてしまいそうな位に、頭を下げた。



「さて、メアリー。ソルティアーナを連れて来てくれ。」


「承知しました。」


 メアリーは、執務室を後にした。戻ってくるまで、暇だったので、ちょっと揶揄ってみる事にした。


「メイリーナ妃。偶には、俺と火遊びしてみないか?」

「あら、良いわよ?」

「じゃぁ、今晩にでも。」

「待ってるわ。」


 サラビスは、大慌てだ。

「待て待て待て!!亭主の前でなんて言う約束をしているんだ!」


「うむ、セレスティーナの親父と言う感じがする。」


「でしょ?私じゃないのよ。」

 と言って、メイリーナは微笑んだ。


 一方、セレスティーナは落ち着いたものだ。

「ほう……。大丈夫、みたいだな。」


「当たり前です。マサキ様はそんな事しません。ただ、何も言っていないのに、お母様と通じ合っているのが、悔しいです。」

「そのうち、分かるようになるさ。セレスならな。」


 サラビスだけ置いていかれた様だ。

「何なのだ?冗談なんだろ?」


 3人で顔を見合わせて、ただ笑うだけだったので、サラビスが激オコだ。

「どーいう事だ!!」


「な、セレス。昨日までのお前が、こうだったんだ。」


「見苦しいですね。恥ずかしいです。」


 マサキは、サラビスに向けてニヤニヤしながら、言ってやった。

「セレスの背中にいた夜叉は親父譲りだと言う事だ。メイリーナ妃の次の台詞はこうだ。『『男の嫉妬はみっともないわよ』』。」

 見事にハモッた様だ。サラビスは滅茶苦茶悔しそうにしていた。メイリーナはニコニコしていた。ミレーナも笑っていた。



 そんなアホな事をしていたら、メアリーがソルティアーナを連れて来た。ソルティアーナは、ミレーナがいるのを見て、悟った様だ。


 サラビスは、ソルティアーナの顔を見て言った。

「何か言い訳は、あるか?」

 ソルティアーナは、ただ、セレスティーナの顔を見て、

「ごめんなさい。」

 とだけ言った。


 マサキは念の為、【精神鑑定メンタルアプレイズ】を使った。それを見ていたミレーナの目がキラキラしていた。本当に魔法が好きなんだろう。

(あれ?なんだこれ。)


「ミレーナ。ソルティアーナの部屋へ案内してくれ。」

「はい。」

 マサキは、セレスティーナの手を引いて、ミレーナと執務室を出て行った。


 歩きながら、ミレーナに話を聞いた。

「ソルティアーナが、悪魔と接触する機会とかあったか?」

「いえ、学校に行っている間の事はわかりませんが、それ以外ではないと思います。」

「召喚魔法を使った形跡は?」

「ありません。」


 ソルティアーナの部屋に到着すると、部屋に入り、魔力の微細な動きを探した。魔力検知も全開だ。クローゼットの中に、気持ちの悪い、魔力を検知した。

「セレス、少し離れていろ。」

「はい。」


 マサキは、クローゼットの扉に近付くと、異空間から刀を2本とも取り出した。2刀とも腰に手挟んで、大刀の鯉口を切ってから、扉を開けた。

 そこには黒い渦の様な、禍々しい魔力溜りがあった。左手に魔力を集めると、黒い渦に翳して、【浄化ピュリフィケーション】を行使した。

 黒い渦は消えたが、謎が残る。何故こんな所に?



『エリセーヌ。』


『はい、マサキさん』


『ちょっと教えて欲しい。王女の精神鑑定をしたら、悪魔隷属って出たんだが、部屋を漁ってみたら、クローゼットの中に禍々しい魔力の渦があったんだよ。それは浄化したら消えたんだけど、王女はどうすれば良い?』


『魔力の渦は、悪魔の通り道ですから、消えていれば問題ありません。悪魔側からは開けませんので。隷属ですか……。マサキさんなら出来るかな。

創造神様に与えられた刀に神力を通して、鎖を断ち切るイメージで、体を袈裟切りにして下さい。体は切れず、悪魔との繋がりだけが切れます。

 ただ、悪魔と性交している可能性がありますので、処女かどうかの確認だけはして下さい。性交していた場合は、魔力で子宮まで綺麗にするイメージで浄化と復元を行って下さい。悪魔の子が産まれてしまう可能性があります。

 ただ、王女が悪魔とどこで繋がったか、ですね……。調査をお願いします。』


『承知した。神力ってどうやって通すんだ?』


『えーとですね、まず、精神統一して下さい。そうすると、体の中に魔力の隣に神聖な魔力…みたいな感じがする力を感じる事が出来ると思います。それを魔力と同じ様に刀身に通す様なイメージをして下さい。』


『わかった、ありがとう。やってみる。』



 もう1度、クローゼットを覗くと、渦は無かった。

「ミレーナ。あの娘は、クローゼットで何かしていた事はあるか?」


 ミレーナは少し考えた。

「覚えがありませんね。」


 取り敢えず戻ろうと、廊下に出ると、廊下を執事風の男が歩いていた。魔力感知を広げたまま歩いて行くと、ソルティアーナの部屋に入って行くのが、分かった。

「2人とも、セレスの部屋の中で待っていろ。今のが悪魔だ。ちょっとって来る。」


 ソルティアーナの部屋に戻ると、クローゼットの中を見て、オロオロしている悪魔を見付けた。

「お前は、ここで何をしている?」


 悪魔は振り返り、偉そうに言った。

「ふっ、ここの出口を塞いだのは貴様か?」


「さてな。下級悪魔の分際で偉そうじゃないか。」


 何故わかったと言う、驚愕の表情で叫んだ。

「なっ!貴様何者だ?」


 マサキは、ニコやかに答えてやった。

「イケメンだ!たぶん。」


「ふざけているのか?」


「ふざけていないとでも?お前の名前は?」


「名等ない!死ね!」


「いや、死ぬのは、お前だろ?所詮名無しだろ?」

 悪魔は名前持ちが非常に危険なのだ。


 下級悪魔は、マサキに掴みかかって来た。マサキは体裁きで躱すと、腰の刀の柄に右手の甲をのせて、鯉口を切った。

 悪魔の突進に向かって、右足をドン!と踏み出し、右手を返しながら柄を掴むと、左手で鞘を押え、腰を目一杯右に捻り、遅れて右手が大刀を引き抜いて一閃した。悪魔は、右腰から、左肩に向かって両断され息絶えた。

 居合の技名、一閃だった。


 悪魔の死体を見ていると、変身していた様で、悪魔らしい見た目に変わった。2本の角を切り落とし、遺体を異空間に収納した。

 部屋が血で汚れてしまったが、仕方ないだろう。


『エリセーヌ。悪魔の死体ってどうすれば良い?』


『戦ったんですか?』


『丁度戻って来たみたいでな。名無しだった、角が2本。』


『灰も残らない位に燃やせますか?』


『多分、出来ると思う。』


『では、そうして下さい。お疲れ様でした。愛していますよ、死なないで下さいね。』


『ああ、分かった。俺も愛しているよ。』



 マサキは、その足で、セレスティーナを迎えに行き、ミレーヌと3人で執務室に戻った。

「ああ、疲れた……。」

 と言って、ソファにドカッと座った。勿論、隣にはセレスティーナだ。何があるか分からないから、セレスティーナを離せない、心配性のマサキなのである。


「ソルティアーナと話は出来たか?」


「うむ、要領を得ないのだ。」 


「だろうな。悪いが、今から、ソルティアーナを裸に剥いてくれ。1枚残らず、裸にしてくれ。」


「何故だ!娘を辱めるのは、親として看過出来ん。」


「あーもう、面倒臭いなぁ。メイリーナ妃、未亡人になって、俺んとこ来る?」

 メイリーナは、呆れた顔で言った。

「それも良いわね。親馬鹿もここ迄来るとねぇ、困ったわ。貴方、マサキ殿が何故ソルティアーナを辱める必要があるのです?セレスの事なんか言えませんよ?」


「どう言う事だ?」


「説明なんか後だ。邪魔するなら、国王と言えども切り捨てる。これは、そう言う事案だ。四の五の言ってねーで、さっさとやれ。ミレーナ頼む。」


「承知しました。」


「メイリーナ母さん。悪いんだが、後で、ソルティアーナが生娘かどうかだけ、目視で確認して欲しい。そうでなかった場合は処置がいる。」


「わかったわ。私は貴方を信じているから、大丈夫よ。」


 マサキは、ソファの上で結跏趺坐を組み、精神統一を図る。体の中を流れる魔力を辿って行きながら、神力を探す。心臓の横辺りに、温かみのある、魔力と似た様なでも、神聖な力があるのが、分かった。

 マサキはゆっくりと目を開いた。ソルティアーナは既に裸になっていた。16歳とは思えない、見事なプロポーションだった。


 マサキは立ち上がると、ソファを避けて、刀を振れるスペースへと、歩いて行った。ソルティアーナは落ち着いている様だ。特に抵抗もしていない。


「メイリーナ母さん。ソルティアーナをここへ立たせて、目を瞑らせて。そしたら離れてくれ。あと国王を押えておいて。」


「わかったわ。」

 メイリーナは、ソルティアーナを立たせると、掌で瞼を閉じさせた。


 マサキは異空間から大刀だけを取り出すと、腰に差し落とした。

左手親指で鍔を弾き、鯉口を切ると、ゆったりとそれでいて、一気に大刀を引き抜いた。瞑目し、体の力を抜くと集中力を高めていく。薄っすらと、マサキの体が光り出し、刀に流れていく。


 刀身が黄金に光った時、マサキは八相に構えた。一歩二歩とソルティアーナに近付いて行き、間合いに入った所で一旦立ち止まり、鎖を断ち切るイメージを頭の中で固めて、息を止めた。

 次の瞬間、右足の踏み出しと同時に右上から袈裟切りに刀を振り下ろした。

 残心の構えを取ったまま、数瞬。マサキは息を抜き、残心の構えを解いた。納刀して、ソルティアーナを見ると、体のどこにも傷は付いていなかった。


 マサキは、ソルティアーナに優しく、

「目を開けてごらん。よく頑張った!」

 と声を掛けた。


 ソルティアーナは、マサキにしがみ付き、声を出して号泣した。しばらく、ソルティアーナに胸を貸してやり、落ち着く迄、抱き締めてやった。

 落ち着いて来た頃合いを見て、メイリーナに目線で合図をすると、毛布を持って来て、ソルティアーナの背中から被せた。

 ソルティアーナをメイリーナに任せると、やはり、目で確認を頼んだ。


 マサキは、サラビスを引き摺って、執務室から連れ出した。セレスティーナもついて来たので、メイリーナの手伝いを頼んだ。

 暫く、ドアの外で待っていると、セレスティーナが呼びに来た。

 再び、執務室に入ると、服を着たソルティアーナがソファに座っていた。


「メイリーナ母さん、ありがとね。セレスも。」


「御礼を言うのはこちらでしょ?」


「服を着ているところを見ると、大丈夫だった感じ?」


「ええ、全然生娘だったわ。大丈夫よ。」


 マサキは、大きく息を吐くと、ソファにドカッと座った。

「気分はどうだ?ソルティアーナ。」


「凄くスッキリした気分です。胸を貸して頂いて有難うございました。」


 サラビスは、不貞腐れていた。

「おっさんが不貞腐れても可愛くないぞ?」


「説明を求む!!」


「どの件だ?俺がメイリーナ妃と目で会話してた所か?」


「そこも気に食わんが、ソルティアーナの件だ。辱めを受けさせたんだから、説明しろよ。ちゃんとな。」


「そこは、国王的に威張って良いのか?泣きたくなる話だぞ?」


「マジか!?」


「ソルティアーナの目の焦点がおかしかったから、精神鑑定をしたわけだが……、悪魔に隷属させられていた。ソルティアーナの部屋のクローゼットに悪魔の出入り口が作ってあった。だがこれは、こちらから開けなければ、作れない。

 城内を悪魔が闊歩してた訳だが、国王としての言い訳があるなら、聞いてやろうじゃないか?ん??」


 サラビスは、戦慄した。城内に悪魔がいた等と、信じられる話ではなかった。

「それは……、その悪魔は今どこにいるんだ?」

「殺したよ。」

「は?」

 マサキは、悪魔の角を2本取り出して、テーブルの上に置いた。

「悪魔の角だ。で、取り敢えず、今はソルティアーナに聞かないといけない事があるから、おっさんは、そこでメイリーナ妃に慰めてもらっていてくれ。」


 マサキは、ソルティアーナに向き直ると、顔を見て安心した。前の様な暗さがなかったからだ。

「辛い事も聞くかも知れないが、良いか?悪魔案件は、適当に済ませられないんだ。」

「大丈夫です。もう素っ裸を見られていますから、何でも聞いて下さい。」

 と、赤くなりながら答えてくれた。


「まず、クローゼットの中に黒い渦を作ったのは、誰だ?」


「それが…分からないのです。気が付いたら、そこにあって、気持ち悪いなぁって、眺めていたら執事風の男が、渦の中から現れて、目が合ったところから、逆らえなくなって、自分でしたくない事をさせられたり、したりていました。」


「うーむ、あれを作った奴が、城内にいる筈なんだよなぁ。いつ頃出来ていたか、分かるか?」


「そうですねぇ、お父様が寝込む前日だった気もします。」


「ふむ…、宰相一派に召喚術師は、いたんだろうか?それより、ソルティアーナの母ちゃん、裸に剥きに行こう。」


 ソルティアーナが嬉しそうに返事をした。

「はーい。」


「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!」

 サラビスは、またも悋気を起こしている。


「その前に。ミレーナ、ちょっとこっち来い。」


「はい。」

 マサキは、【精神鑑定メンタルアプレイズ】をミレーナに使ってみた。

(正常と。)

「ミレーナ、今日のパンツは何色だ?」


「白ですが、何か関係あるのですか?」


「まるで関係ない。」


「・・・・・・・」

「あははは!」

 ソルティアーナが爆笑している。大分元気になった様だ。もう安心かな?



















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