第18話 セレス復活

 教室に戻って、みんなが着替えて来るのを待っていたのだが、魔力感知に反応があった。反応があった方へ走って行った。また天井か?

 と、思ったがなんか違う様だ。気配が止まった部屋へ入ってキョロキョロしていたら、女子が着替えの最中だったんだが……。参ったな、こりゃ、覗きか?


 なんて考えてたら、周りの視線が痛い痛い。魔力を薄く薄く広げて、気配を追った。キャーキャー煩かったが、これは、ただの覗きだなと、天井の覗き穴だけ塞いでしまうと、周りを見回して。


「うんうん、皆、発育が良いな!下着姿のお前達も可愛いぞ!」

 と言って、何もなかった様に、部屋から出て行こうとしたのだが……。


「先生?どうして、自然に出て行こうとしているのかしら?」

 と、シリルに服を掴まれた。


「ん?覗き穴は塞いだし。もう大丈夫かなと…。」


「え?覗きがいたんですの?」


「不穏な気配があったから、追いかけて来たんだけど、殺意までは無かったから、覗きと判断したんだよ、穴もあったし。

 まあ、常習犯なんだろうが、お前達の様な美女を見たい、と思う気持ちも分からんではないから、今回は警告に留めて措くつもりだ。」


「そうだったんですか……。」


「シリル、そんな事より、早く服を着た方が良いと思うぞ?俺は、そのままの方が好きだがな!大好きだがな!!」


「あ……、エッチ!!」

 何か物が飛んできた。顔でまともに受けたが、良い物が見れたし、良しとしよう。全く、発育の良い事だ、けしからん。


 だって、覗いて下さいと言わんばかりのスタイルの娘ばっかりなんだぜ?

 覗きに、同情するのも無理はないだろう。だが、隠れてやるのは、陰湿だし良くないな。堂々とスカートを捲れば良いのだ、その後、ボコられる覚悟があれば、だが。

 生徒だしな。大人だったら……、切っちゃうカモ。




 教員室に戻ったら、メアリーが待っていた。

「メアリーは、シャルロットの護衛なんだよな?」


「いえ、マサキ様のお世話係です。」


「は?」


「手当たり次第に、お手を付けられない様にと。」


「あぁ、俺の監視か。」


「いえ、監視ではなく、お世話です。我慢出来ませんでしたら、その……、私が……。」

 と俯いて、赤くなりながら言う。

(戦闘メイドかと思ったら、ピンクメイドなのか?)


「あれ?戦闘メイドだと思っていたんだけど、違うのか?」


「勿論、戦闘も致しますし、護衛も致します。ですが、マサキ様がついておられる時は、却って邪魔になりそうですので。」


「うーん、ちょっと理解に苦しむな。目的が見えて来ない。メアリーにその命令を下したのは、誰だ?」


「メイリーナ様です。『あの方は、何れ王になられるお方。セレス、シャルロット嬢とシリル嬢以外に手を付けそうになったら、貴女が抱かれてでも止めなさい。寧ろ抱かれてきなさい、本当は私が行きたいのだけど、サラビスが妬くからね。』と。」


「メイリーナが、メアリーに、体を差し出せと言ったのか?俄かには信じられんが…、そんなエキセントリックな人じゃないよな?あの人なら、自分を抱けとか言いそうだし。」


「あ、ご明察です。説明が足りませんでした。

 メイリーナ様は、マサキ様の事が好きな女性は騎士団にいるか?と、お尋ねになりまして、誰かマサキ様の傍仕えをしたい者はいるか?とのお話に、私が立候補したのです。

 本当は、メイリーナ様が行くと仰ったのですが、王様が怒ってしまいまして。」


「何やってんだ、あの夫婦は。セレスの親と言う事か……。」


「メイリーナ様は、マサキ様の大ファンなので。」


「それで?シャルロットは解るが、シリルの名前が、なんで出て来るんだ?」


「あれ?ご存じないですか?シリル嬢は、コーラル公爵様のご息女です。」


「あー…、そうなの~…。」

 なんて、話を聞いて、気を遣い過ぎだ。と内心驚いていた。と同時に下着姿を思い出していた。ええ体してたなぁと。


「あと、先程、王城より伝言が御座いまして、帰りに王様の執務室に寄って欲しいそうです。」


「ああ、承知した。」




 ホームルームをしに教室に戻ると、なんか微妙な雰囲気だったので、

「何かあったか?」

 とシャルロットに聞くと、覗きは誰だ?と言う話になったんだそうだ。男子が4人しかいない事から、色々邪推した挙句、微妙な雰囲気が出来上がってしまったんだと。


「さて、ホームルームを始める前に、言って措く。覗きがこのクラスの生徒だなんて、俺は言った覚えはないのだが?シリル、何を言ったんだ?」


「すいません。このクラスの生徒だと思い込んでしまいました。誰なんですか?」


「ほほう、それを俺が話すと思うか?」


「思いません。ですが、許せません。大切な殿方なら兎も角、知らない男に見られたなんて……。」


「俺も見たぞ?それはもう穴が開くほどに!」


 シリルは赤くなりながら言う。

「先生は良いのです。もう、散々下着も見られていますので、今更です。ですけど、隠れてコソコソしているのが、許せないと言うか、悔しくて……。」


「まあ、気持ちはわからんでもないが、若い滾りが、暴走してしまう事もあるだろうさ。ちゃんと警告はして措くから、心配するな。

 それに、シリル達は見目麗しく、聡明だからな。男心がくすぐられるのは仕方ないし、名誉な事でもあるだろう?

 見向きもされないよりは良くないか?身分の釣り合わない女の子に、密かな思いをよせる純情な男の子に、劣情が芽生えてしまっても致し方ないだろう?」


「そう言われてみれば、そうかもしれません。先生がちゃんとして下さるなら、これ以上は、何も言いません。」


 そこにクレイブが燃料を投下する。

「先生は、身分なんて鼻糞程度にしか思ってないだろ?」


「まぁな。本質を見失ってはいけないからな。王だから偉いんじゃない。治世に心を砕く王だから偉いんだ。分かるか?」


「何となく、ですけど。」


「分かりやすく言うとな。俺もそうだが、権力、武力、腕力、政治力と力には、色々な種類がある。が、どの力でも、力ある者が使うかが、大切なんだ。

 王には絶大な権力があるが、それを民衆の為に使うのであれば良いが、自分が贅沢をする為に権力を使っていたとしたら、ゴミクズ以下だよな。

 だから、王でも、偉い王とゴミクズ王がいる訳だ。


 もっと言えば、俺には最強と言われている武力があるが、だからこそ気を付けている事がある。それは、力を常に何かを守る為に使う。と言う事だ。

 そうでなかったら、怖くて近寄れないだろ?俺は美女と美少女とは仲良くしたいんだ!」


「あー、解りました!解りましたけど、少しは下心を隠せ、このエロ教師!」


 マサキは照れた様にはにかんだ。

「よせよ、照れるじゃねーか。」


「「「褒めてねーよ!!」」」




 シャルロットとメアリーを伴って、帰ろうと思ったんだが……。校門までに生徒がいっぱいいるしなぁ、魔法は使えないな。と、考えて刀を腰に差し落とした。

「マサキ様。何か?」


「お客さんだ。シャルロットを頼む。」


「承知しました。」


 鯉口を切り、近付いて来た2人の刺客を、生徒の間を風の様にすり抜けて行き、刀を振るって腕の腱を切り、服を切り裂き、取り押さえた。

 そのまま縛り上げて、転がした。

 生徒がわらわら集まって来た。


「先生、すげーな。肌に傷も付けずに服だけ切り裂くとか、剣も凄いんだな。どうやったら、こんな事出来るんだよ。」

 と、クレイブが大興奮だ。


「これは、女の子を裸にする為の技だ。」


「台無しじゃねーか!!」


「よせよ『褒めてねー!!』・・・・。」


「そうか、残念だ。教えてくれとか言われるかと思ったのに。」


「出来る訳ねーだろ!普通に神業だよ!!」


「でも、やってみたいだろ?」


「そりゃ、まぁ……。」


「男のロマンだからな!!」


「だな!!」


 どうやら、2人は解り合えた様だ。シャルロットは、後ろで半眼になっていた。

「男って言う生き物が、よく分からないわ。恰好良いけど……。」




 2人の刺客を引き摺りながら、帰ろうかと思ったら、お迎えの馬車が来た様だ。馬車の後ろに縛り付けて、素っ裸で引き摺られの刑に処して措いた。

 王城に到着すると、騎士達が慌てて、近付いてきた。


「この者は?」


「シャルロットを狙って来たから、引き摺って来た。」


「そう……ですか。では、お引き受けします!」

 騎士は、可哀相な物を見るような目で、刺客を見ていた。相手が悪かったなと。



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 その頃、学校に残っていた生徒達は興奮していた。主に、シリルとマリアだが。

「見ました?恰好良かったですね!」


「シリルちゃんが興奮しているところを、初めて見た気がする~。だけど、凄かったね。華麗と言う言葉が似合いそうな気がする。」


「そうね~、憧れちゃうわね。」


「でも、シリルちゃんはエッチな男性は駄目だったのでは?」


「なんて言うのかなぁ、先生のは、爽やかなエッチとでも言えば良いのでしょうか。エッチな事を全く隠そうとしないでしょ?

 なんか、別に悪い事でもないのかなと。いつも、美女だ美少女だって言ってくれるでしょ?悪い気はしないわよね。」


「そうだねぇ、毎日1回は必ず聞くよね。『お、今日も美人だな!』って。」


「うん、不思議な事に、先生に肌を見られても、腹は立たなかったのよね…。」


「何それ、シリルちゃん完全に落ちちゃってるじゃん。恋だよ、きっとそれ。私も落ちちゃってるけどね!時々見せるシリアスな顔が堪らく恰好良い!」


「恋……なのかしら。でも、恰好良いのは否定できないわ。」


 等と、いつの間にか、ロクデナシはアイドルになっていた様だ。



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 王城に入って、シャルロットを部屋へ送ると、王の執務室へと向かった。

「ちーす。励んでいるか?ダメ親父。なんか用だって?」

 と、見たら、セレスティーナとメイリーナもいた。


「まあ、座ってくれ。」

 と言われて、ソファにドカッと座った。


 セレスティーナが口を開いた。

「マサキ様。私が間違っていました、ごめんなさい。どうかしていました。マサキ様と婚約出来た事で舞い上がっていた様です。ご迷惑をお掛けして、すいませんでした。」


「それで?」


「どうやって、お詫びしたら良いかと……。」


「なんで?」


「だって、私がした事は、と言うか自分が何をしたのか、漸く理解出来ました。」


「ん~分からんな。何が言いたい?別れたくなったか?」


「いえ、そうではなくて……。」


「ああ、自分のした事の重大さに、今更気が付いて、一緒に居辛くなったって事か?だから謝りたいと。ハッキリしろ。別れたいのか、別れたくないのか。どっちだ。」


「別れたくないです!」


「なら別に謝罪はいらん。俺のお前に対する気持ちは、その指輪に全て込めたつもりだ。それを理解するも、しないもセレスお前次第だ。理解した上で受け取るも、受け取らないも、また、お前次第だ。いらなければ捨てろ。

 お前が何をしようとも、俺について来るのなら、てめーの女のケツくらい拭いてやるさ。その程度の事で、俺がブレると思うなよ。」


 セレスティーナは戦慄した、謝罪すらも烏滸がましいと言われて、どれだけ愛されているか、どれだけ大きな男なのか、改めて理解したのである。


「では、謝罪はしません。生涯、貴方の背中に着いていきます。」


「心配するな、お前が俺について来ると言うのなら、ちゃんと受け止めてやる。その程度の事は、出来る男だと思うぞ。少しは信じる気になったのか?」


「何故か、信じているつもりになっていたんですよねぇ…、言っている事は、全然信用していないのに。この世に、貴方程、信用出来る男性なんかいないのに。ちょっとおかしくなっていた様です。もう、迷いません。貴方を信じてついて行きます。」


 マサキは、セレスティーナに【精神鑑定メンタルアプレイズ】の魔法を使った。

(なんだこれ。精神汚染?混乱?)

回復リカバリー】を使って、もう1度【精神鑑定メンタルアプレイズ】を使った。魔法を使う度に、セレスティーナが光るので、皆、黙って見ていた。


 マサキは、腕を組み考え込んだ。

(うーん、何時からだ?デートの日は、王城に沢山あるからと、服を買うのを我慢出来ていた。だが、その日の夜には、城内を駆け巡っていた……。)


「セレス。」


「はい。」


「デートした事、覚えているか?」


「忘れる訳がありません。」


「あの日、王城に戻って、お前の膝枕で俺が寝てしまった事を覚えているか?」


「はい。お疲れだった様で、夕方まで寝ていましたね。」


「あの時、俺が寝てから、誰かに話し掛けられたか?」


「いいえ、あの時は、メイド達も気を利かせてくれて、誰も話し掛けて来ませんでしたよ?」


「ふむ……、だとすると、あのレストランか…?」



「椿!!」


「はい。」

 椿がすぅっと現れた。


「ちょっと店を見て来て欲しい。まだ存在するかどうか……だが。」


「承知しました。未だ有るようなら探りますか?」


「うむ、取り敢えず、魔法薬や錬金の類か、闇系統の魔法を使うかどうかだけ確認してくれれば良い。多分、そこは無関係な筈だ。あんな量のパスタを出す様な、シャレのわかる店が、そんな訳ないと思うしな。」


「承知しました。では。」

 と消えて行った。


(だとしても、敵は誰だ?あー!呉服屋の時、セレスは何処にいた?俺のミスだ……。)


「セレス。俺が和服を買っていた時、何処にいた?」


「それが、あの時も聞かれましたけど、覚えていないのですよ……。」


「セレス、お前、俺の事好きか?」


「はい。」


「間違いないか?」


「はい。」



 マサキは額を押えて、ソファの背凭れに、背中を勢いよく預けた。

「悪い、セレス。お前から目を離した、俺のミスだ……。」


 セレスティーナは、さっきから何なのだと、サッパリ解らないと言う顔をした。

「どうしたのです?」


「精神汚染されていた。呉服屋に来る前に誰かに会っていた筈なんだ。呉服屋に来た時、覚えてなかったのは、記憶を操作された可能性がある。俺の失態だ。」


「自分を責めないで下さい。私の心が弱かったのです。」


「セレス、俺達がデートする事を知っていた奴は、どれだけいる?」


「そうですねぇ、あの時食堂にいた人と、部屋付きのメイドだけですね。」



 マサキは念の為、【復元レストレーション】を使ってみた。セレスティーナが光に包まれた。

 発光が治まった時、セレスティーナはスッキリした顔をしていた。


「どうだ?」


「思い出せました。あの時、ウンザリした顔のマサキ様が、腕からすり抜けて行ったので、追い掛けようとした時、誰かに右手首を掴まれて、振り向かされて、

『目を見て』と言われたんです。

 その相手と言うのが、桜さんに似ていた様な気もしますし、メイドに似ていた気もしますが、女性でした。」


 マサキは、頭を抱えた。宰相の件が片付いて、敵が思い当たらないからだ。だとすると、王城内の妬み嫉みの類になる訳だが……。


「セレス。お前、城の中で、誰かに妬まれたりしてないか?」


「特にそういう事は、ないと思いますけれど……、強いて言うなら、ソルティアーナとは少しありましたけれど。

 それも、マサキ様と婚約したと言う話を聞いたソルティアーナが、お姉様狡いと罵声を浴びせに来た程度です。」


「王女が罵声は、普通浴びせないだろ?あの少し暗い感じの娘だよね?その娘の魔法適正は?それとメイドも。」


「調べて来ます。」


「いや、セレスは俺から離れるな。メアリー頼む。」


「承知致しました。すぐ調べて参ります。」

 メアリーは、そそくさと部屋を出て行った。



 サラビスが、全く分かっていない顔で言った。

「マサキ君。どうなっているんだ?」


「精神汚染されていた、セレスがね。俺が目を離した数分の間の事だったようだ。

 ただ、宰相の件が解決した直後だけに、敵と目的が分からなかったんだけど、精神汚染と言うのは、ご都合主義になるだけで、人格は変わらないし、死ぬような物ではないから、セレスの命を狙った物ではないと思う。

 だとすると、妬みの線はあるなぁと思っているんだ。で、あの社交的なシルティーヌがするとは思えないし、そもそもシルティーヌは、そんなに子供じゃないと思う。

 態々罵声を浴びせに行くほど、悔しがっているとしたら、ちょっとした悪戯気分でやられてた可能性があるのが、ソルティアーナと言う話になる。

 大体、あの日に出掛ける事を知っていたのは、食堂にいた人間だけだし、絞られちゃうよね。」


「でも、ソルティアーナは食堂にいませんでしたよ?」


「母親がいただろう?食堂で決まった婚約を知っていたんだろ?」


「あ!」


「どうするよ、これ。俺は判断しないぞ。小娘の悪戯にしては、質が悪い。」

 サラビスは難しい顔になった。


 一方マサキはウンザリ顔だ。

「これだから王族なんて……と言いたくなる気持ち、分かるだろ?帝国の件も目鼻が付いたから、ちょっと頼み事をしようと思ったのに。」


「もう目鼻が付いたのか、頼みとは?」

「いや、先にハッキリさせておこう。」


 マサキは、ソルティアーナの件をハッキリさせてから、シャルロットの件を進めようと、考えて一気に決着を着けることにした。 

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