第17話 破談??

 王城では、セレスティーナがメイリーナに絶賛怒られ中だ。セレスティーナは項垂れているが、そんな事で心が折れる様な女ではないのだ。そう、騙されてはいけないのだ。


「セレス。貴方は指輪をもらった事で、嬉しい嬉しい、言い回っていたようですけれど、あの指輪の意味を全然解っていないのですね。マサキ殿もさぞ幻滅した事でしょう。理解していないどころか、お仕事の邪魔をしているんだもの。

 今回の依頼をした時、マサキ殿は最初、お断りになったそうですよ。セレスがいたら仕事にならない。邪魔だし、面倒な事この上ないと。」


「え?そんな事……。」


「それでもサラビスがちゃんと母が言い聞かせたから、大丈夫だと言ったんだけど、セレスは懲りると言う事を知らない女なんだから、無理なんだと。

 最終的に、セレスが1度でも邪魔になったら、降りると言う条件の元、親父の頼みじゃ断れないと言って、受けて下さったのです。

 マサキ殿には解っていたのです。セレスがマサキ殿を下に見ている事も、信用していない事も。だから受けたくなかったのですよ。」


「私、マサキ様を下に何て見てません。ちゃんと信用もしています。」


「貴方がそこまで馬鹿だとは、母も思いませんでした。もう結婚はお止めなさい。貴方には、マサキ殿に大事にして頂く資格がありません。」


「お母様。分かりません。どうしてそうなるのですか?」


「言わなければ、分からないとは……、情けない……。指輪の意味を理解していますか?」


「私が1番だと、愛しているぞ、と言う事ではないのですか?」


「それが、分かっていながら、破談だと言う言葉に反応したのでしょう?全然信用していない証拠でしょう?

 言葉では、わからないだろうと思って、指輪に思いを込めて下さったんでしょう?2人きりの時に、別れようと言われたなら、まだ話は解ります。

 他国の人間がいる場所での話でしょう?それにいちいち反応してしまう程、信用出来ない人って事よ。

 マサキ殿の頭が良いのは知っているのでしょう?そんな他国の人間がいるところで話を持ち出すと言う事は、帝国に対する牽制に決まっているでしょう。

 そういう誤解がない様に、指輪を送って下さった、マサキ殿の気持ちを踏み躙っただけでなく、その言葉で何かを探っていたのでしょう。それを邪魔しただけなの、貴女は。やり難くて仕方なかったでしょうね。」


「でも……。」


「そこで、『でも』と言う言葉が出るのなら、指輪をお返しして、婚約は白紙に戻しましょう。恥ずかしくて嫁になど出せません。」


「どうして、そんなに怒るんですか?好きな人に破談なんて言われたら、ショックじゃないですか!」


「・・・・・・・・もう駄目ね。貴女、修道院にでも行きなさい。自分の事しか考えられない王族なんて必要ありません。ショックにならない様に指輪を送ってくれたんだと言う事が何故わからないのですか!!

 それに、帝国の皇女に、挨拶を適当にした時も注意したそうですね。

 彼が、ちゃんとした挨拶が、出来ない人だと思いますか?態とそうしているに決まっているでしょう?それだけ、貴女は彼を下に見ているの。

 そうやって、仕事の邪魔をして、迷惑を掛けているのに、貴女は自分の気持ちだけ。マサキ殿だって、セレスが近くにいる依頼なんて、受けたくないと思うのは仕方がない事でしょう。彼らは命の掛かった仕事をしているのですから。」


「・・・・・・・・。」


「それにマサキ殿にも、言われたのでしょう?デートと仕事を一緒にするなと、セレスの行動をマサキ殿が手で制しなかったら、王子が死んでいたと。

 自分が何をしたのかも、理解出来ない馬鹿な娘だとは、流石に母も思いませんでした。サラビスに言って、婚約は白紙に戻して頂きます。発表前で良かったわ。」

 そう言って、メイリーナは立ち上がった。


 セレスティーナは茫然自失だった。


 メイリーナは、自室を出ると、王のいる執務室に向かった。王族として、あんな娘では嫁になど、恥ずかしくて出せないと、心底思っていた。

 メイリーナが執務室のドアをノックした。中から返事があって、入室した。


「貴方、セレスティーナですけど、破談にしましょう。そして修道院にでも入れてしまいましょう。駄目です、あれは。自分の事しか考えられない。前から説明していた事を1つも理解していない。マサキ殿が仰った様に、懲りると言う事を知らないとは、言い得て妙ですね。」


「そうか、理解しようとしていない感じか?」


「認めたくない感じですね。」


「マサキ君も、今のままでは、結婚しても傍には置けないと言っていた。」


「そうでしょうね。先回りして手を打っていたにも関わらず、本人が全く意味を汲み取っていないのですから、『使えない女』と言う評価になっている事でしょう。

 あんなに高価な指輪まで、送って思いを伝えているのに、理解してもらえないんでは、マサキ殿が不憫過ぎます。娘に甘い顔をするのも、これ迄ですよ。」


「お前がそこまで言うのだ、余程酷いのであろう?」


「貴方は現場にいたのでしょう?それを見て、なんとも思いませんでしたか?」


「いや、マサキ君にどう謝ったら良いかと、そればかり考えていた。マサキ君が言った通りになってしまったからね。」


「マサキ殿程の慧眼の方に、セレス如きが説教をする事自体に、違和感を持たないあの娘では、ちょっとマサキ殿の嫁は荷が重い事でしょう。

 あの娘はいつから、あんなに傲慢になったのでしょうか。マサキ殿を下に見て、信用もしておりませんのよ?ですが、それを認めないのですよ。」


「ふむ……。それでは、マサキ君がどうこうではなく、王家として、嫁には出せないな。しかし、困ったな。彼には小さい国を持ってもらおうと思っていたんだ。」


「国。ですか?」


「ああ、彼の知恵を少しでも分けてもらう為に、神々の保養地を公国にして、彼の治世の勉強を、王子達や、若手の貴族に学ばせる事が出来ると思ってな。」


「それは良い考えですが、それなら余計にセレスでは駄目ですね。シルティーヌはどうなんでしょう?満更でも無さそうでしたけど。」


「シルティーヌが良くても、マサキ君がなぁ、今回の件で、絶対王族は面倒臭いと思っているだろうしなぁ。」


「有りそうですわね。」


「セレスティーナが破談になれば、これ幸いと皇女も切って捨てるだろうし。頭の痛い所だな。セレスティーナが改心してくれれば良いが、難しそうだな。

 懲りないみたいだし。シルティーヌと話してみるか…。」




 一方、セレスティーナは、此処へ来てやっと母親お言葉を吟味し始めた。自分が何をしたのか。自分がどれだけ傲慢だったのか。これ迄を振り返っていた。

 指輪に込められた思いの丈を、あの日抱き寄せられて、キスしてくれた意味を、じっくり考えていた。


 言われてみれば、頭脳明晰で武勇に優れ、ちょっとエッチで何事もハッキリしている人が、私にだけ、抱こうともしないのに指輪を送ってくれた、思いを込めて。

 もしかして、私はとんでもない事を、仕出かしたのではないだろうか。マサキ様を自分の所有物の様に考えていたのでは、ないだろうか。


 思い通りにならない人だから、執着したのではないか?執着を好きなんだと思い込もうとしていたのでは、ないだろうか?


 でも、この恋焦がれる様な、どうしようもない胸の痛みはなんだろう。私が間違っていた。それは間違いない。


 どこで間違えたのだろう、あの日、助け出されて、とても恰好良い人だと思った。嫁ぐのなら、こんな人が良いと思ったが、まるで相手にしてもらえなかった。子供と王族には興味がないと。そんな人が婚約を認めてくれた。思いの籠った指輪も送ってくれた、そして嵌めてくれた。


 どうして、私は感謝をしていないのだろう。当たり前だと思っていたのだろうか。

これを傲慢と言うのだろう。何時からだろう、こんなに傲慢になったのは。


 私は、あの人を信じて背中について行けるだろうか。私を見て欲しいと思いながら、私が、あの人をちゃんと見ていなかった。自分の幻想と、重ね合わせていただけなのだ。取り返しのつかない事をしてしまった。


 どうしたら、良いだろう。謝って済む事ではないけれど、どうすれば良いかわからない。そうか、こういう時に母様に相談すれば良いのか。

 セレスティーナは、意を決して立ち上がり、執務室へ向かうのだった。


 執務室に着いたセレスティーナは、ドアをノックした。中から返事があったので、入室した。そこには、考え込む父と母の姿があった。

「お母様。私が間違っていました。私はとんでもない事を、仕出かしてしまいました。どうやってお詫びしたら良いでしょうか。」


 メイリーナは懐疑的な眼差しを向ける。

「どう言う事?」


「お母様が部屋を出てから、やっとお母様の言葉の意味を、考える事が出来ました。そもそも、私が一目惚れして、まるで相手にされてさえいなかったのに、漸く婚約を認めてもらったのに、感謝もせず、頂いた指輪の意味も深く考えず、ただ自分に都合の良い事だけを見ていた様です。

 あの人のあの偉大な背中を見もせず、何をしていたんでしょうか。今更自分の馬鹿さ加減に気が付いたのですが、マサキ様にどうお詫びすれば良いか、全く分からないので、相談に来ました。

 例え婚約が駄目になったとしても、一時の幸せも頂きましたし、私がとんでもない事をしていたのも、間違いないので、お礼とお詫びはしなくてはならないと思いまして。」


 メイリーナは大きな溜息を吐いた。

「全く。随分、その答えが出るまで時間が掛かったわね。もう無理だと思ったわ。感謝の心を持たない王族なんて虫けら以下よ。

 それで、どうしたいの?心を入れ替えて、マサキ殿について行きたいの?それともマサキ殿を貴女のお思い通りにしたいの?または、もう別れたいの?」


「許されるなら、マサキ様の背中を見て、ついて行きたいです。」


 メイリーナは息を吐いた。

「許されるなら?貴女はまだ、あの方の器の大きさを理解していないの?」


「どういう事ですか?」


「貴女もまだまだね。マサキ殿が子供と言う訳だわ。あの器の大きな、マサキ殿が許さないと思う?よく思い出してごらんなさい。テリウス皇子を生かしておけないと言った時、マサキ殿は何て言ったの?」


「えっと……。思い出せません。お父様は覚えていますか?」


 サラビスは当たり前だと言った。

セレスティーナに手を掛けようとしたんだと言ったんだ。最後にセレスティーナにはこう言ったのは覚えているか?

抱き着いていたら、王子が死んでいたと。デートと仕事を一緒にするな。俺のしている仕事はそう言う仕事なんだと、心に刻んで措け、とな。」


「セレス、分かる?」


「すいません、わかりません。」


 メイリーナはヤレヤレと両手を胸の高さにまで上げた。

「もう、お馬鹿さんだねぇ。貴女は、まだ見捨てられていないと言う事。傍においてもらえるかどうかは、これからの貴女次第でしょうね。今までの貴女だと、傍にはおけないそうよ、理由は、守り切れないからだそうよ。」


「守り……。」


「そうよ。自分が気に入るいらないではないの。ポンコツの貴女では、貴女を守り切れないから、傍におけないと言っているの。良かったわね、ポンコツでも愛してもらえて。これだけの大きな愛情を頂いて、気が付かない大馬鹿者だったのよ?貴女は。」


「本当に……。」


「理解出来たかしら?」


「はい。」


「もし、今までの事を謝っておきたいのなら、私も一緒に謝ってあげるから、シャキっとしなさいね。でも、謝るよりも感謝の気持ちをどう伝えるかよ?まあ、貴女は全てを差し出しなさい、心を全てね。信じる事、疑わない事。愛する事。

 本当に、今までの貴女と付き合うのは疲れたでしょうねぇ……。」


 セレスティーナは、顔を上げた。

「本当に、何をやっていたんだろう……。気が付いてみたら、恥ずかしくて。」


「お父さん、良かったわね、懸案事項が1つ減ったわね。でも、シルティーヌに話しちゃったわよね?」


「まあ、本人がその気になっちゃったら、両方もらってもらおう。コーラルも娘もらって欲しいなぁって言ってたな。」


「シリルちゃん?」


「そうだな。マサキ君はシリル嬢がコーラルの娘だとは知らない様だがな。」


 セレスティーナは、笑った。

「でも、手遅れじゃないですかね。あのクラスの女子は全員、マサキ先生にメロメロですよ?多分。

 凄いんですよ。興味ない奴はねてろよ~って言うんですけど、講義が面白いから誰も寝ないんですよ。人の心を掴むのが、上手いと言えば良いのでしょうか。1度聞いた事があります。どうやって面白い講義を考えるんですかって。」


「なんて言ったの?」


「馬鹿だなぁ、俺が考えて来るなんて、面倒な事するわけないだろ。俺が楽しい様にやるんだ。と言ってました。だから、ヒステリーに教職は務まらないとも。

 でも、あれですね、傍から見たら講義に見えないかも知れません。この魔法の属性は、男のロマン属性だとか、乙女の夢属性とか、傍から見たらふざけている様に見えると思います。そもそも教科書使った事ないですし。

 でもね、私、土属性の適正ないんですけど、中級魔法までは土属性使えるんですよ?たった2週間で。マサキ様は、本当の天才なんだと思います。元の世界に魔法はないそうですから。」


「凄まじいですわね……。」


「大体、学校行くのが楽しいとか言いませんよ?普通。私のクラスだけ、講義中に笑い声が響いていますから。」


「セレス。それだけ尊敬の念があれば、もう大丈夫ね。あんまり心配させないでよ。」


「はい。ごめんなさい。どうかしていました。」



 メイリーナは、最後にと言った。

「貴女は、よく聞き流しているけれど、マサキ殿の言葉には必ず意味があるの。裏に隠された意味もあるし、伏線の事もあるし。これからは、絶対に聞き逃しては駄目よ。ふざけている様で何か目的があったり、色々あるからよく聞く事。

 サラビスなんか、それで苦しんでいるんだから、言葉の裏を読み取らないといけない事が多いのだけど、伏線の様にヒントを出して行くの。でも、全部は教えてくれないのよ。

 為政者なら、この程度の裏が読めないと、アホ貴族に良い様に使われる日が来るぞって。」



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 その頃、マサキは、魔法実習の講義で、シャルロットにマンツーマンで、無詠唱の魔法を教えていた。

「ふむ、シャルロットは、魔法の才能がありそうだな。」

「本当ですか?また教えて下さいね。」

「パンツ見せてくれたらな。」

 と、また馬鹿な会話をしていた。


 そして、青白い炎の【火玉ファイアボール】を乱発させていた、方を向いたら、トンデモない事になっていた。障壁はボロボロだし、見学席は炭になっているし。


「な、威力がやべーだろ?」


 シリルが心配そうに言った。

「どうしましょう。アレ。」


「まぁ、バーコード教頭がやりましたって言っておこう。」


「先生。それはやばいんじゃ?」


「大丈夫だよ。大体の事はハゲの所為にしておけば、まるく治まるもんだ。」


「マジで?」


「いや、なんとなくそう思っただけだ。弁償しろって言われたら、サラビスに請求書送っておくから、問題ない。」


「先生。全然責任取る気ねーじゃねーか。」


「馬鹿野郎。もうお前達は、宮廷魔法師団に入れるだけの実力があるんだ。この国の軍事力増強に協力してやったぞ。って言っておけば大丈夫だ!」


「よし、証拠隠滅魔法が炸裂するぜ。よく見ておけよ。」




 【重力グラビティ】の魔法で、隕石を大気圏に引っ張り込んで、訓練場に落としてっやった。跡形もなく証拠が消えた。てへ。








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