第11話 婚約指輪

 桜の用意してくれた朝飯を食べて、着替えたり準備したりしているんだが、着替えから何から、全部、桜が手伝ってくれるんだけどさ。これじゃ、俺が駄目な子みたいじゃんなぁ。

 戦国時代って男ってだけで殿様だったんだな。あぁ、殿方って言うもんな、女は婦人か……。


 今日の予定としては、桜は王城に行って、メイド部屋から着替えなどの荷物を持ってくると、弥助も似た様な感じの様だ。

 王城まで、一緒に行って、セレスと2人で出掛けよう。弥助と桜に、金貨を10枚ずつ渡しておいた。

 生活に必要な物や、欲しい物があれば買っておけと言っておいた。


 王城に到着し、セレスを迎えに行こうとしたら、どこだかわからん!結局、桜に連れて行ってもらった。

 桜の歩き方がすこーし、おかしいけど、気にしても恥ずかしいだけだろう。


 セレスの部屋に到着して、取り敢えず、ドアを開けたら、着替え中だったようだ。黙って静かにドアを閉め、何事もなかった様に、ノックした。

 そして、もう1度ドアを開けて中に入って行った。


「さっき1度、開けましたよね?ドア。」


「ちょっと何を言っているのか、ワカリマセンネ。あ、メイドさん今日も綺麗だねぇ。今度デートしような。」


「ええ、是非。」

とニコやかに返されたりして、

メイドさんをナンパしていたら出て来やがりました。夜叉さんいらっしゃ~い。


 セレスティーナがもうキレていた。

「マサキ様?どうして、私を迎えに来て、メイドをナンパしているのですか?」


「そりゃ、何年後かの嫁より、すぐイケルメイドさんだろ?」


 おーっと、激オコプンプン丸だ~。

「もう!すぐそうやって私を虐めるんです!」


「これはな、虐めじゃなくてな、弄ってるだけだぞ?ほら、あれだ。好きな女の子に意地悪したくなるアレだ。」


「子供ですか!!」

 今日は、ちょっと手強いカモ。


 マサキは指を咥えて言ってみた。

「子供なんでちゅー。おばちゃん怒らないで~」


「な・ん・で・す・ってぇぇぇぇぇぇ!!!」

 おうおう、夜叉丸大爆発だー!


「お、コンニャク破棄したくなったかー?」


「しません!!!」


「セレス、あんまり怒ると、皺が増えるぞ?」


「皺なんてありません。」


「ほら、眉間に。」


 急に焦った様な顔で、眉間を触りだす。

「え?え?本当に?」

 ふっ、他愛もない。


「嘘に決まってんだろ?早くしないと、老いていくぞ!いや置いて行くぞ!」


「もう!待って下さーい。」

 メイドさん達は大爆笑だ。ヨカッタヨカッタ。



 セレスが左腕に抱き着いて、離れないので、ムニムニ気持ち良いのだが、歩きにくい事この上ない。こいつ、俺を発情させようとしているとしか思えない。

 取り敢えず、王城から出ようと、門に向かって行くと、門衛に敬礼されたり、もう面倒臭い事、面倒臭い事。


 城外に出て歩いていても、「王女様よ。」とか「セレスティーナ様よ。お綺麗だわぁ~ん。」とか聞こえて来るんだが、俺の左腕を右手で囲い込んだまま、左手で民衆に手を振りやがるもんだから、「王女様にくっ付いている男は何?」とか聞こえて来る訳ですよ。くっ付いているのは、俺じゃなくてセレスティーナなんだよ!!


 ウザさがピークに達した頃、一瞬の隙をついて、腕を振り払い、服屋に入ったら、呉服商でしたやん。和服ばっかりだ。折角だからと和服を見ていたら、着流しもあるし、羽織袴もあるんだな。


 自分用に着流しを2着買い、桜に腰元用の着物と、奥方様用の桜色の和服と帯、襦袢を購入。浴衣も男性用4着と女性用を2着購入した。金貨10枚だった。高いか安いか分からんかった。


 和服を買い終えた頃、セレスティーナがやってきた。

「次、行くぞ~。」


「えー、まだ見てないもん。」


「今まで、何してたんだ?セレスは、和服なんか着ないだろ?」


「着たいなぁとは思いますけど、公式の場では着られませんし、着付けも出来ませんから、難しいですねぇ。」


「和服は、俺達の国では、フォーマルウェアだからな。よし、次!」




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 その頃、王城では、サラビスが頭を悩ませていた。

「良かったなぁ、セレスティーナがマサキ君と婚約してくれて……。」


 コーラル公爵が首を捻る。

「どう言う事です?」


「いやね、冒険者ギルド本部から、Sランクの公示があったんだ。まあ、マサキ君がSランクになったんだけどね。能力値が…、世界最強なんだよ。」

 と言いながら、公示を公爵に差し出した。


 コーラル公爵が公示を眺めていた。

「マサキ・タチバナ

 戦闘力SSS、魔法SSS、魔力SSS、知力SSS、智謀SSS、総合SSSSS。

 Sランク主席とする。

冒険者ギルド世界統括グランドマスター:エルラーナ・ル・ラ・エクルラート。」


 サラビスが、安堵しながら公爵に説明する。

「あの魔女が、自分より強いと公言していると言う事なんだよ、それ。要するに、国と1人で戦争しても勝てると言う意味なんだ。

 うちは、セレスティーナが婚約しているから慌てる必要はないけど、他の各国は嫁の押し付け合戦が始まるよ。マサキ君にパーティの招待状が売るほど届く筈だ。」


 コーラル公爵が憐れんでいる。

「あー、彼の性格だと。面倒臭いから行かない。って言いますよね。」


「うん、面倒臭いだけで、済めば良いのだけど、やりそうなんだよなぁ、悪戯。いつもセレスティーナを揶揄っているのを見ていると、悪戯好きそうだもんなぁ。それが、ちょっと怖い。」


「そうなったら、出来る限りアドバイスをしてあげないと、異世界から来て、まだ1週間も経っていませんものね。」


「マサキ君は、カルロスと話が合いそうだから、彼に任せてみようかとも、思っているんだけどね。何かあれば、コーラル公爵も声を掛けてあげて欲しい。」


「承知しました。彼が、味方でいてくれる事の意味は大きいですね。」


「うん、マサキ君は帝国の関与を疑っていたけれど、これで多分、帝国は、手が出せなくなった筈だ。これは大きい。」


「国としての利益は計り知れませんね。」




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 相変わらず、セレスティーナは俺の左腕を、右手で抱え込んでいる。まあ、おっぱいが当たって良い感じなんだけどね。逃げるとでも思っているんだろうか。

 目抜き通りを大門方面に向かっていくと、洋服と言うのか普通の服屋があった。パンツを買わねば。


 店に入ってみると、割と日本に近い感じの物もあった。パンツと靴下を10セット買った。あとはTシャツっぽい奴があったので、これも10枚。

 普通の服はどうしようかなぁと見ていると、チノパン風の白のズボンと水色のジャケットを買った。春だから、こんなもんで良いかな。


 横でずっと見ていたセレスティーナは、男物見て楽しいのだろうか。

「セレスは、服は見ないのか?」


 セレスティーナは、我慢している様だ。

「見たいですけど、城に腐るほど服はあるので、見てしまうと欲しくなってしまいますから、見ないのです。」


「ほう。」

 ま、それならその方が、時間短縮になるな。女の買い物なんて、待てる男性諸氏はいるのだろうか。無理だよね?


 服屋を出たら、次に行きたいのは、酒屋だ!服屋で酒屋の場所は聞いて来たので、迷わず行けた。


 中へ入ってみると、結構色々並んでいる。日本酒めっけ!精米歩合が書いてあると言う事は、吟醸位はあるのかな?精米歩合が50%の物を1本と、蒸留酒を2本とワインを3本、ワインを蒸留した物を1本、これブランデーだよね。

 これだけ買った。


 次は、お茶屋だぜ。紅茶の茶葉も臭いが嗅げたので、アールグレイに近い物を、緑茶もあったので、茶葉を見てみると、深蒸し茶位の色合いの物があったので、この2つを購入した。


 次に行ったのは、宝石商だ。

 中で色々見てみたが、細工が拙い。

「店主。細工がもう少し精工な物はないか?」


「それでは、こちらの部屋へどうぞ。」


 どうやら、客層に合わせた別室がある様だ。

「こちらをご覧ください。如何ですか?」

 スマホを取り出し、画面に投影して、拡大してみた。見事な細工だった。その中の1つが気になったので、スマホを向けると、ミスリルリングにピンクダイヤモンドが乗っていた。


「店主、これはいくらだ?」


「金貨20枚で御座います。」


「まあ、石がデカすぎても下品だし、この辺かなぁ。」

 そう言って、金貨20枚を支払った。


 受け取った指輪をセレスティーナの左手を引っ張って来て、薬指に着けてやった。

「これは?」


「婚約指輪だ。」


「え?」

 セレスティーナは、狐に摘ままれた様な顔をしていた。

「何ていう顔をしてるんだ。美人が台無しだぞ?」


 セレスティーナは、今一つ理解が出来ていない。

「えっと……。」


「この世界にそう言う習慣が、あるかどうか知らないが、俺のいた世界では、婚約した時に、男は女に指輪を送るんだ。左手の薬指にな。で、結婚したら、2人揃いの地味目の指輪を左手薬指につけるんだ。」


 セレスが泣いてしまった。

「なんで泣くんだ。要らなかったか?」


「そうじゃなくて、マサキさんが本当に結婚してくれるのか、不安で不安で。でも、ちゃんと考えていてくれたのが、嬉しくて。」


「まあ、王族の指輪に200万リル程度じゃ怒られるかも知れないけどな。」


「え?そんなに高価な宝石なんですか?」


「ん?リングはミスリルだし、石はピンクダイヤモンドって言う、金剛石の中でも1番高い奴だぞ。カットも見事な細工だし、なかなか無いんじゃないかな。」


 店主が嬉しそうに話し出した。

「お客様は、御目が高いですね。うちの店で1番質の良い指輪を購入して頂きました。仰る通り、そこまで見事なカットはなかなか御座いません。」


「王女が付けていてもおかしくないか?」


「勿論でございます。世界でもトップクラスの指輪ですよ。王家にも無いのではないでしょうか。職人が特別ですので。」


「だってさ、セレスティーナ。堂々と着けておけ。」


「はい。」


「セレスティーナ様?」

 店主が呆気にとられている。


「そうだよ。俺の嫁になるんだ。」

 セレスティーナは、指に着いている指輪を眺めてうっとりしている。


「それは、おめでとうございます。」


「ありがとう。婚約披露パーティがあるから、その時にも着けるからな。」


 それじゃと手をあげて、セレスティーナを連れて外へ出た。

そろそろ小腹が空くかと思った頃、1件のレストラン風の店を発見した。もう昼だな。

「セレス、あそこに寄って行こう。」

「はい。」


 店に入ると、レストランの様なカフェの様な、中間かな。そんな雰囲気だった。窓際の席を選び、椅子を引いてやった。セレスティーナが座ったのを確認して向かい側に腰掛けた。


「マサキ様は、エスコートもしようと思えば出来るのですね。」


「セレスの俺に対する認識について、小一時間『O・HA・NA・SHI』しようじゃないか。」


 店員のお姉さんが注文を取りに来たので、メニューを見ていたら、パスタがあるじゃないかと、ベーコンとほうれん草のパスタを山盛りで頼んだ。

 セレスティーナは、本日のお勧めを選んだ様だ。


 マサキは目が点になっていた。

「山盛りとは言ったけどさ、これは酷くないか?」


「うふふ。楽しいですね。」


「セレスの顔が見えないんだけどな!」

 まあ、食ったね。それはもう一生懸命。美味いんだよ?美味いんだけどさ、直径1m位ある大皿にこれでもかって山盛りになっていて、向かい側に座っている、セレスティーナの顔が全く見えないんだよね。


 俺は頑張った、超頑張った、超絶頑張った。だが、これは食えないだろう。なかなか楽しい店主の様だな。だが、食う。そして、完食した!腹がぼっこり出っ張ってしまった。見苦しい。これはやっぱり、俺のイケメン伝説に喧嘩を売っているに違いない。いくぞおらぁ~。。。まあ、行かないけどね。


 セレスティーナが、マサキの腹を見て、目を丸くしている。

「何が入っているんですかね?」


「子供に決まってんだろ?」


「そんな訳ないじゃないですか!」


「俺は、手籠めにされたんだ!セレスのお母さんに!!」


「すぐそうやって、私を虐めるんですから……。」


「虐めてないだろ?ちょっと願望が漏れただけだ。」


「えー、お母様に手籠めにされたいんですか?」


「セレスの母ちゃんが1番美人だからな!」

 大笑いしながら、マサキは本当の事だと言った。そして、セレスティーナがちゃんと美人なんだと言う事も。


 会計を済ませ、外に出ると、マサキは一度魔力を循環させて、再度、魔力感知を展開し直した。

 満腹すぎて、体内魔力に引っ掛かりを感じたのだ。


 セレスティーナが目をキラキラさせて言う。

「本当に魔力の扱いが上手ですね。綺麗に流れているのが、解ります。」


「ほう、ちゃんと見えているのか?」


「はい。見えていますよ。」


「王女でなければ、一端の魔法使いになったかもな。」


「王女だとなれないのです?」


「そんな危ない事は俺がさせない。」


「過保護ですね。」


「なんとでも言え。」


 セレスティーナは、改めてちゃんと自分を見ていてくれるんだと、幸せそうな顔で、再び腕に抱き着いた。

 取り敢えず、王城に戻る事にした。もう散々見せつけてしまったが、民衆にセレスティーナのポンコツっぷりを、あんまり見せちゃいけないんじゃないか、と思ったからだ。


 戻って、セレスティーナの部屋でお茶をする事にした。夕方までは、ちゃんと一緒にいるよと言ったら納得したようだ。

 王城に到着して、セレスティーナの部屋まで連れて行ってもらった。全然覚えられないと言うか、覚える気が無いんだろう。


 セレスティーナの部屋に入ると、ソファに座ったところで、猛烈に眠気に襲われたので、セレスティーナの膝枕で少し眠る事にした。

 これは、あれだな。食い過ぎの影響だな。うつらうつらしていたら、セレスティーナに不意打ちのキスを唇に頂いた。気が付かなかった事にしておこう。


 セレスティーナは明日から、また学校に行くそうだ。ちゃんと勉強して欲しいものだ。うん。

 だから、明日から魔物狩りかなんかして、素材を集めてみようかと思っている。

 そんな事を考えながら寝ていたら、夕方までガッツリ寝てしまった。セレスティーナは1度も席を立つことなく、膝の上で俺を抱いていたそうだ。


 何?このクソ可愛い女。駄目親父になる自信しかねー。桜といい、セレスティーナといい、俺みたいなロクデナシには、勿体なさすぎる。


 だからと言って、心を入れ替えるつもりは毛頭ないのだ。でも、セレスティーナを、ちゃんと愛していこうと思う、マサキなのであった。


「セレス、ごめんな。寝ちゃったな。」


「いいえ、お疲れだったのでしょう。今日は楽しかったです。」


「俺もそれなりに楽しんだぞ。まあ、セレスが楽しかったんならいいや。」


 今日は、そろそろ帰るね。とセレスティーナに告げると、ドアに向かうフリをして、セレスティーナを腰抱きにして引き寄せると、ゆっくりとキスをしてやった。


 これで、明日から頑張ってくれる事だろう。

 背中越しにセレスティーナに手を挙げて振ると、そのままドアから出て行った。城の出口まで辿り着くのに、1時間以上掛かってしまったのは、内緒なのだ。そう、内緒なのだ!!






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