第9話 Sランク就任

 やはり王城の飯は美味い。米がないのが不満だが、桜に頼めば手に入る気がする。漬物とか作ってそうだなぁ、忍びの集落に遊びに行ってみようかなぁ。

 食事をしながらそんな事を考えていた。


「桜と弥助の集落ってどこにあるんだ?」


 弥助が答える。

「ローレル辺境伯様の領地内で、少し街から離れた所ですね。」


「米、味噌、醤油、漬物とかある?主に糠漬け、沢庵とか。」


 弥助は笑いながら、

「全部有りますよ。漬物は、冬備えにも必須ですからねぇ。浅漬け、糠漬け、干し芋、干し柿なんかもありますよ。」

 と言った。


「マジか!干し芋が有るって事は甘藷かんしょが有るって事?」


「芋の種類はどうか分かりませんが、甘い芋ですね。荒地でも育つので、食料確保には便利なんですよ。」


「王都を暫く観光したら、ローレルに行こう。ローレルまで何日掛かる?」


「馬車で行くと……、天候の問題も有りますから、片道20日位は見た方が良いですね。」


「1600Km~2000Km離れているって事かな?」


「凡そ、その位だと思います。」


「本当に辺境だなぁ……。」

 と、マサキは、少し遠い目になった。が、おや?と思った。

「あれ?だけどさ、辺境伯はどうやって戻って来たの?数日しか経ってないよね?」


 ローレル辺境伯は、笑いながら言った。

「気合に決まってるだろ!」


「そんな訳ねーだろ!」


「ハッハ。飛竜に乗って、往復したんだよ。飛竜なら丸1日で着くからね。」


「飛竜?どんなの?ワイバーンじゃないんだよね?」


「小型の竜だよ。性格が大人しくてね、卵から育てれば良く懐くし、ワイバーンと違って、頭も良いから手が掛からないんだ。」


「ほぅ、なんか恰好良いな。」

 マサキは欲しそうな顔で、頭の中で空を飛ぶ光景を思い浮かべた。竜の聖域とやらに行ってみようかと考えていると。


「聖域は入っちゃ駄目だぞ!死人がいっぱい出る。」

 と、先にローレル辺境伯に言われてしまった。


「なんで分かった?」


「そんな顔してたら、何を考えてるかなんて判るぞ、普通は。竜の聖域に入ってしまうと、無数の竜達が仕返しに出て来るんだ。街に襲撃に来るから民衆が困るんだ。竜は頭が良いからな、急所を押えて来やがる。」


「じゃぁ、駄目だな。」


 サラビスは、マサキを見て、そう言えば、と言った。

「マサキ殿は、こちらに来たばかりと言っていたが、生活は出来るのか?」


「まあ、まだお金もあんまりないし、今回の依頼料で色々揃えるつもり。ガリルの爺ちゃんは金は持たせてくれなかったんだけど、心配性のエリセーヌが、内緒で少し服の中に入れておいてくれたから、何とかは、なったんだけどね。だからほら、城の食堂使い放題は助かるんだよ。いつでも、美味い物が食えるなんて、幸せじゃないか。」


 弥助が手をポンと叩いた。

「そう言えば、姫様を助けて下さいとお願いした時も、報酬は飯と寝床でいいや、って仰ってましたけど、本気だったんですね!冗談だと思ってました。」


「だって、すげー眠かったし、腹減ってたし?」


 サラビスは大笑いだ。

「セレスティーナの命も、マサキ殿に掛かると、安いもんだな!」


 セレスティーナは膨れっ面で言う。

「そういう、お父様だって、礼だけで良いと言われてましたよ?私より安いじゃないですか!」


「アッハッハ!そうだった!だから困るんだよな。普通、王族を助けたりしたら、それなりの物を期待するじゃないか。過去にも、恩賞で報いて来た実績もあるしな。それが、貴族は嫌だ、欲しい物はない、だからな。周りに対して示しが付かないんだ。功績があっても何もないとなれば、誰もヤル気を起こさなくなってしまうからなぁ。為政者としては、それは困るんだけどな。」


「それなら、対外的にセレスと俺の婚約発表でもしておけば、良いじゃないか。報酬はセレスティーナ姫だと。国王は娘を売ったんだと!!」


「人聞き悪い事を言うな!」


「でも、功績上げたら、王女もらえるんだぜ?って噂になれば、騎士達はヤル気になるぜー多分。王妃が全員美人だから、王女も全員美人だからな。下衆なやり方だけどね。美人王妃が5人もいるんだから、娘を量産するんだ!

 でも、俺の場合は、冒険者だから報酬は全て、ギルド経由で入っていると思われるだろうから、心配ないだろ?」


「そうだな、それで押し通すか。」

 サラビスは、頭の中で作文をしているようだ。


「そう言えば、セレス。お前17歳って言ってたよな?」


「はい。そうですよ。ちゃんと成人してますよ?」

 セレスティーナは成人を強調して言った。


「学校行ってないのか?」


「いえ、行ってますけど、ここの処、色々あって行けていないだけです。」


「なんだ、まだガキ生じゃないか!しっかり勉強して青春しておけよ。」


 セレスティーナは、疑わしそうな目でマサキを睨む。

「男見付けて来いとか思ってるんでしょ?」


「そんな事は思っちゃいないさ。何しろコンニャク者だしな!」


 セレスティーナは、半眼で言った。

「お父様。婚約披露パーティーを早くしましょう。この人、逃げそうです。」


 サラビスは頷いた。

「うむ、手配しよう。」



 食事も終わって、そろそろお暇しようとしていたら、執事のセバスチンがサラビスに紙を届けに来た。

 サラビスはそれを確認してサインすると、マサキに差し出した。

「依頼完了証明だ。持っていけ。」


 マサキは受け取ると、確認した。

「5枚も?」


「そうだ。セレスティーナの救出・護衛・余の治療・犯人の捕縛・謁見の間の戦闘・忍者の捕縛、で合計6件。その内、護衛の分はサイン済みだからな。」


「了解した。有難く。これで、服が買えるぜ…。」


 すかさず、セレスティーナが寄って来る。

「マサキ様。お買い物に行きましょう。」


「なあ、王女って街中をフラフラして良いものなの?普通ダメじゃね?」


 サラビスが少し考えて、

「マサキ殿が一緒なら構わんだろ。もう狙われている訳でもないし。」


「そうか、なら一緒に行くか?」


 満面の笑顔で、

「はい!」

 と言われてしまった。可愛いんだよなぁ、ちくしょうめ。


「ただし、明日だぞ?今日はまだギルドでやる事があるし、部屋の確保もせねばならんからな。明日迎えにくる。」


 セレスティーナが疑いの目を向ける。

「本当ですよ?絶対に来て下さいね?」


「大丈夫だよ。もう諦めた、と言うより、主に俺の問題だしな。17歳に引っかかってるだけだし。」


「17歳は駄目なのですか?」


「あーうん、ダメじゃないんだけど、俺がいた世界では17歳ってのは、高校生ってまぁ学生なんだけど、18歳で高校を卒業すると、一応1人前と認められるんだけど、あっちの世界は、20歳で成人なんだよ。

 こっちの価値観に合わせるにしても、せめて18歳かな~と思うんだ。それに最高学府は、高校ではなく大学ってのがあるんだけど、学士で22歳で卒業、博士で24歳で卒業だからね。俺が、良心の呵責に耐えられない気がするってだけなんだけどね。17歳に手を出しちゃダメだろとか思っちゃうけど、セレスは美人だからな、我慢出来る自信がないんだよ。

 一応、向こうの世界でも女性は16歳から結婚は出来るんだけど、男は18歳からなのな。ただ、実際は普通の人で早くても、22歳~25歳位で結婚する感じかな。最近では普通に30超えてから結婚する人も多いしね。

 まあ、平均寿命の違いなんだろうけどな。

 いずれにしても、セレスに問題があるわけじゃない、俺の心の問題なんだよ。」


 セレスティーナは、ごめんなさいと言った。

「そうですね、世界の価値観の違いがありましたね。でも、ちゃんとお付き合いして頂けるのなら、18歳になるまで待ちますから、デートくらいは良いですよね?」


「それは全然構わない。と言うか、それが青春と言うものだろう。」

 この瞬間、マサキはセレスに陥落した。仕方ないよね、一途で、性格可愛くて、容姿は超絶美人なんだもん。背中に夜叉が住んでいるけどな……。



 マサキは、一応皆に挨拶すると城から出た。弥助と桜も一緒だ。取り敢えず、ギルドまで行こうと、歩いていたら、桜が前に出て振り返った。


「立花様。やはり私は、立花様にお仕えしたいと思います。お傍仕えをさせて頂けませんか?戦闘時の采配にしても的確無比ですし、何しろあの技前です。私がお仕えする主君は、立花様しかおられません。」


 マサキは頭を掻きながら、弥助を見た。

「弥助、どうなの?これ。」


 弥助は、笑いながら言った。

「私も、立花様について行きますよ。」


「何も持っていない主君てどうなのよ?ま、いっか。まずはギルドだ。話はそれからだな。」


「「はい。」」



 ギルドの入口を入ると、冒険者が殆どおらず、閑散としていた。昼間の1番少ない時間なんだろうな。


 窓口のセリアの所へ行くと、依頼完了書を差し出して言った。

「セリアちゃん、これ処理してくれ。」


「はい。少々お待ちください。」

 セリアは、依頼書を1枚ずつ確認して、計算をしていった。何回か計算をし直して出た数字を、依頼書を纏めた紙の上に記入した。


「全部で、1億2千万リルになりましたが、どうしますか?」


「カードに入れておいてくれ。あ、金貨88枚と銀貨を200枚だけ、出してくれ。」


「承知しました。では、ご確認下さい。金貨88枚と銀貨200枚です。」

 木皿の上に、10枚ずつ纏めて硬貨を出して、革袋を添えてくれた。


「おう、ありがとう。セリアはデキル女だったんだな!」


 満面の笑顔でセリアが言う。

「そうでしょう?今度ご飯奢って下さいね。」


「おう、任せとけ。勝負パンツ履いて来いよ。」


「まかせとけ~」

 とセリアが右手でガッツポーズを作って、燥いでいた。


「あ、そうだ。部屋は?」


「エルラーナ様を呼んで来ますので、少々お待ちくださいね。」


「あいあい。」


 セリアは階段を駆け上がって行く。見えないかなぁと思って下から覗くんだが、今一歩な様だ。良いケツしてやがる。こう、ペロンと撫でたいなぁ……。

 だらしない顔でそんな事を考えていたら、セリアが降りて来た様だ。


「マサキさん、そんなだらしない顔してないで、行きますよ?」

 と、マサキの手を引いて、階段へ向かった。

 4階に上がると、エルラーナの執務室へと入った。そのままソファに案内され、座り込んだ。弥助と桜は後ろに立つ様だ。まあ、好きにさせておこう。


 セリアがお茶を淹れてくれて、エルラーナがソファに座った。

「なんか依頼書が沢山になってたわね。今回は儲けさせてもらったわ。6件ですものね。それも1日で解決でしょう?今日から、Sランクで良いわ。セリア、カードの手続きをして頂戴。」


「はい。マサキさんカードを下さい。」

 マサキは、異空間からカードを出すと、セリアに渡した。

セリアは、カードを両手で受け取ると、一礼して部屋を出て行った。


 エルラーナは、足を組んでマサキを見つめた。

「内容を確認させてもらったけど、貴方本当に人間?魔法だけじゃなくて、剣術もだけど、その知識と頭脳。とても1日で出来る仕事じゃないわよ。」


「今回は、敵が誰かハッキリしていたからな。そんなに頭は使っていないぞ。知識に関しては、異世界人だからとしか言えないな。教育水準が違い過ぎる。」


「そうねぇ、そうかもね。それでね、Sランクになったでしょう?私より強いと言う事は、最強のSランクになったの、名実共にね。それに知識と智謀がついてるから、貴方の値段が凄く高くなっちゃうんだけど、許してね。」


「高いってどの位なんだ?」


「内容にもよるのだけど、一声2000万リル。これが最低。」


「金貨200枚か…。そんなんで依頼来るのか?」


「まあ、王家か貴族でしょうねぇ。指名が入るのは。大商人もあるかな?」


「まあ、食っていければ、仕事はしたくないんでな、大丈夫だよ」


「そう、それじゃ、Sランクの公示を出すわね。」


「公示?」


「そうよ、各ギルド支部と各国王家に、Sランク就任の通知を出すの。凡その、能力を添えてね。Sランク冒険者は、片手で余る位しかいないから、紹介しておかないとね、失礼を働くバカもいるからね。」


「ふーん。ま、何でもいいよ。それより部屋クレクレ。」


「そうね、案内するわ。」

 そう言って、エルラーナは、組んでいた足を解いて立ち上がった。


 マサキは、エルラーナの後ろについて、階段を上がりながら、エルラーナのお尻を撫でていた。

「どうして、お尻を触っているのかしら?」


「この前は、おっぱいしか揉んでいないからな、お尻も構ってあげないと、可哀相じゃないか!お尻が拗ねちゃったらどうするんだ。」


「そう、じゃぁ、時々遊んであげてね。」

 マサキは、何言ってんだコイツと言う顔で、エルラーナを見た。


「そういう顔しないでよ。貴方に乗ったのが間違いだったわ!」

 エルラーナは顔を真っ赤にして抗議した。


「エルラーナ、お前可愛いな!」


「ふん、もう乗ってあげないんだから。」


 5階に上がると、広いギルドの床面積を考えても、部屋が2つしかないのは、おかしいだろうと思いながら、ついて行った。

 廊下が、丁度建物の裏側になる様で、部屋が2つ並んでいた。


 エルラーナが、手前のドアを指さして、言った。

「ここが、私の部屋ね。で、奥の部屋が貴方の部屋よ。」


 マサキが、首を捻る。

「他にSランクはいないのか?部屋2つしかないのか?」


「そうよ、王都のSランクは、今まで私だけだったの。今日からは、2人だから心強いわ。」


「じゃ、4階は執務室だけ?」


「4階はね、職員の仮眠室とか、更衣室、職員用の会議室とかね。ギルドマスターの執務室もあるわ。私はグランドマスターだから、別なのよ。貸し出し用の会議室や、講習会場は3階ね。」


「なるほどなぁ、ギルドマスターは会った事ないぞ?」


「今は別の支部に応援に行っているのよ。」


 マサキは、納得して自室と言われた、部屋のドアを開けて、中に入って行った。広い。とにかく広い。風呂もデカいし、多分6~7人は同時に入れるだろう。リビングは30畳位あるね、キッチンやトイレも快適そうだ。


 あとは10畳位の部屋が4つと主寝室が20畳位だろうか……。キングサイズのベッドが、鎮座していた。ポケーっと部屋を見て回っていたら、エルラーナが説明してくれた。

「ソファやベッドは、全部入れ替えて新品にしてあるわ。布団も全部新品だから、食器類も新品を揃えておいたけど、足りなかったら買い足してね。」


「なあ、なんで冒険者1人住むのに、こんなに部屋がいっぱいあるんだ?」


「そうねぇ、Sランクに成る程の人だと、大体、女性が沢山いるのよね。だから、かしらね。それに家族が出来ても住めるでしょ?ギルドとしては、出来るだけいて欲しいからね。」


「そういう背景もあるんだな。取り敢えず、生活に必要な物は揃ってるんだな。」


 エルラーナは、腕を組んだまま、指を頬に当てて考えながら言う。

「ええ、まず大丈夫だと思うわ。食事は、ギルドの酒場は朝からやっているから、そこで摂っても良いし、私の部屋に来ても良いわよ。自分で作っても良いし。したい様にしてくれて構わないわ。」


「至れり尽くせりだなぁ。」


「Sランクは、それだけ貴重と言う事よ。」


 だだっ広い、5LDKの豪華な部屋に満足したマサキは、エルラーナを促して、執務室に戻った。


 執務室で雑談をしていると、セリアがカードを持って来てくれた。黒地に金色に近い色の縁取りと、冒険者ギルドの違い剣の紋章が入っていた。

 カードを受け取って見てみると、質感が凄く良い物の様な気がした。


「これ、何で出来てるの?」


 セリアは言う。

「アダマンタイトをベースに、オリハルコンで縁取りをしてあります。無くさないで下さいね。」


「わかった。ありがとう。」


 エルラーナが最後にと話し出した。

「Sランクは、専属受付嬢が付くのだけど、セリアで良いかしら?」


「別に、セリアでもエルラーナでも2人のどちらか、なら構わない。」


 エルラーナが頷くと、セリアが前に立って、一礼した。

「では、本日より、私セリアはマサキ・タチバナ様の専属となりますので、宜しくお願い致します。諸所のお手続きや、ご質問、依頼の確認など、全て私が行いますので、口頭でご指示頂ければ結構です。」


「窓口には、いるの?」


「いえ、マサキ様が不在の間は、事務所におりますが、お部屋にマサキ様がいらっしゃる場合は、事務所とマサキ様のお部屋のどちらかにいます。専属になりましたので、窓口業務は行いません。」


「じゃ、あれか。俺が働かんと仕事がないのか……。」

「そういう事です。」


 なんか首輪をつけられた気分だが……、まあいいか。

マサキは、部屋に戻ると言って、執務室を出て、5階へ上がった。桜達と今後の話をしなければならないからだ。






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