第7話 謁見の間の戦い
「サラビス王、休憩の時間は終わりだ、働いてもらうぞ〜。」
マサキは、ベッドまで歩いて行った。
「残念ながら、ゆっくりさせてやれる時間がない。もう完治している筈だ、謁見の間で座っているだけでも良い。あと、王命で宰相とティーダ男爵を呼び出して欲しい。王よ、断罪の時間だ。」
サラビスは、何の話だと言う顔で、寧ろお前は誰だと言う視線を向けてくる。
「何の話をしているのだ?話が見えないのだが?」
マサキは、やれやれと言う顔で、セレスを見た。
セレスはまだ何も話していない為、泣きそうであった。そこへ、シルティーヌがツカツカと歩み寄り、王に話し出した。
一通りの事件を話し終えたと思われる頃、王が死ぬ寸前であった事、マサキが魔法で治した事、そもそも病気ではなく毒物だった事、を最後に説明していた。
王は、真っ青な顔で、聞いていた。宰相が企んだ事で、どれだけの命が狙われたかを理解した様だ。
「王には、ほんの微量ながら、スズランの根を混ぜた薬を飲まされていた様だ。即死性のある毒だから、たった5日で、あれだけ衰弱していたんだな。」
最後にマサキが口を添えた。
マサキは更に言う。
「必死に、王女や王妃を守ろうとしていた公爵家や、ローレル辺境伯やその手の者の事を考えれば、やるべき事は決まっている。
それに、これは時間との戦いでもある。王の健在を知られる前に手を打ちたい。実行犯の薬師は冒険者ギルドに隠している。要するに、遊んでいる暇はないと言う事だ。」
サラビスは、情報を頭の中で整理している様だ。ベッドの上で、目を瞑り手を顎に当てて考え込んでいる。
「着替えを持て!執事のセバスチンを呼んで、宰相とティーダ男爵をすぐに呼び出すのだ。王城内の大掃除だ!」
(セバス…チンかよ…。セバスって呼ぶか、チンて呼ぶか迷うよな!)
マサキは、その声を聞いて、瞑目して頷くと、目を開いて退出した。そのまま、執事室へと戻ろうとしたところで、桜が帰って来た。
「立花様、2名とも執事室に入れておきました。」
「相変わらず仕事が早いな。」
「立花様の御命ですから。」
「少しくらい失敗しても、俺は怒らないぞ?お前達の命の方が心配だ。」
桜が畏まって、マサキを見上げる。
「立花様。お願いが御座います。」
「ん?なんだ?」
「この件が終わるまでとのお約束で御座いましたが、このまま、お仕えさせて頂く訳には、参りませんでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「立花様を、主君と仰ぎたく思います。」
マサキは驚いたが、なんで主君?みたいな顔になった。
「主君て、俺は何も持っていないし、貴族になるつもりはないぞ?」
「存じております。お傍に仕えさせて頂いて、身の回りのお世話だけでも、させて頂けないかと。」
「そんな事されたら、俺の理性が持たねえよ。止めておけ。俺としては、桜の能力的にも容姿も、欲しいなぁとも考えたんだけどさ。18の若い身空で、身を切る必要もないだろ?許嫁だっているんだしな。
まだ結婚とか考えてないし、無責任な事は出来ないよ。桜の為にもな。まあ、終わるまで考えてみろ。セレスが妬くぞ?」
桜は、残念そうな顔だが、諦めなさそうな目をしていた。
「許嫁の事は言わないで下さい。でも、少し考えてみます。」
マサキは、執事室のドアを入ると、弥助とマカレイと薬師がいた。
「薬師の名前は?」
弥助が答えた。
「ハリソンです。宰相に命じられて、スズランの根を微量ずつ、最初は食事に、後は薬に混ぜていたそうです。」
マサキがハリソンを見ると、ハリソンはガクガクブルブルと震えていた。
「なんで、宰相の言う事なんか聞いたんだ?」
ハリソンは、ビクつきながら答えた。
「王城御用達の看板は、やはり大きくて、城の出入りを、差し止めると言われまして。宰相は、自分の天下だと思っていた様で、やりたい放題だと言っていました。」
マサキは、溜息を吐いた。
「ハリソン。お前は救い様がないな。御用達の看板が無くなると、儲からないって話だろ?薬師の仕事はなんだ?具合の悪い人に薬を売るんだよな?違うか?」
「その通りです。」
「で、お前は、具合の悪い人に売る筈の薬に、毒を入れたんだよな?薬が毒なんだぜ?誰がお前から薬を買うんだ?
御用達の看板より大事な信用を、お前は自分で捨てたんだ。御用達の看板にしがみ付くより、薬師としての矜持を大切にするべきだったな。」
ハリソンは、ガックリと肩を落とした。残念ながら、ハリソンは死罪を免れないだろう。動機も動機だし、情状酌量の余地がねーな。マカレイは、侵入しただけで、何もしていないので、大丈夫だろう。
「桜。謁見の間まで案内してくれ。場所がわからん。」
「承知しました。」
桜について行くんだが、尻を撫でたくて堪らんのな、右手がピクピクしちゃって禁断症状かよ!みたいな。これで、和服なんか着てたら絶対に触る自信あるぜ。
良い女なんだよなぁ、だからこそ傍には置けないな。
謁見の間は、準備が大急ぎで進められていた。2人以外の在都貴族も、全員呼ばれた様だ。俺は何処に居たら良いかなぁと考えていたら、セレスが呼びに来た。
「マサキ様。こちらへどうぞ。」
良く分からんので、取り敢えずセレスについて行く事にした。
セレスに案内された所は、謁見の間の正面大扉ではなく、王族が出入りする玉座の横の扉付近だった。
「おい、俺は冒険者だぞ?こんな所に居て良い訳がないだろ?」
セレスが自信満々に言った。
「大丈夫です。」
「大丈夫じゃねーよ。何企んでるんだよ。」
セレスはニッコリ笑うと、大丈夫だと言った。
「何も企んでいません。お父様の命令です。治療した時も、さっきも自分が大事な所を確認すると、礼を言う前に消えてしまうから、捕まえておけと。」
マサキは、額に手を当てた。見るべきを見ている王様の様だ。放置プレイで良かったんだがなぁ……と独りごちた。
そうしていると、王女3人と王妃5人が集まって来た。どうしようもなく場違い感が拭えない。3歳の王子と1歳位の王子が王妃に抱っこされている。
これで王族が勢揃いしたようだ。
王女3人の中だと、セレスが1番可愛いんだな。妹はちょっと影が差した感じのちょっと暗そうなイメージだ。引き篭もりな感じだな。シルティーヌが社交的な事を考えると、セレスが1番バランスが取れているのかも知れん。
まあ、どれも美女ではあるのだけどね。なんで、セレスばっかり狙われていたのか、これで理解出来た気がする。ドレスを着て、きちっとしているセレスは超絶美人だった。これは、狙われるね。俺はいらんけど。
王妃は、5人とも超美人なんだよなぁ、王様め!羨ま怪しからん!!しかも1人ずつ産ませるとか狙ってるとかしか思えんぜ。
そういや、この世界って一夫多妻なんだろうか。だったら良いなぁ、ロマンだなぁ。3人位いたら良いよね!8人で日替わり定食ってのも有りかなぁ。
なんて馬鹿な事を考えていたら、謁見の間の両サイドに貴族が出揃った様だ。
俺は、先に入って、ドアの横の壁に寄り掛かっている事にした。一応、魔力感知はずっと寝ている時も展開しっ放しなので、警戒は問題ないだろう。近衛騎士に変な顔されたけど、気にしなくて良いよね。
騎士団長が大きな声で、王様の入場を告げると、王族が揃って壇上へ上がって行った。王様はそのまま玉座へと座り、その後ろに王族全員が並んだ。
最初にローレル辺境伯とコーラル公爵が呼ばれる様だ。ローレル辺境伯は、領地からどうやってか、即行で戻って来た様だ。辺境だから馬車だと片道10~14日位掛かる筈なんだけどなぁ。
王様が2人に労いの言葉を掛け、感謝の意を伝えた。2人が列に戻るところで、魔力感知に反応があった。天井だが……。真っ直ぐ、王族の方へ向かっている様だ。
これは、動いた方が良いかな?ん?奴が止まった。やべー暗殺か。
マサキは、走って玉座の前に出ると、腰からミスリルナイフを抜き取り、天井に向かって投擲した。そのまま【
左手を異空間に突っ込み、太刀を引っ張り出すと、走りながら鯉口を切った。ナイフは、左腿に刺さっていた。
マサキは、忍者の口に鐺を突っ込み、自裁を防止した。
「近衛!!拘束しろ!口の中に毒が仕込んである。死なせるなよ!」
近衛騎士達が一斉に拘束しに掛かった。忍者の得物は吹き矢だったみたいだ。
マサキは、ナイフを抜いて回収すると、刀を異空間に仕舞い、ナイフを腰に戻した。
やれやれ、あの忍者が宰相の手の者と思えないんだがなぁ……。と考えながら、歩いて元の場所に帰ろうとしたら、沢山の人間が謁見の間に向かって来る事がわかった。これは……。
「桜!!セレスを守れ!!」
「承知!!」
「弥助!!」
「王族の護衛を!!」
「承知!!」
マサキは、異空間に手を突っ込み、大小を取り出すと、剣帯に手挟んだ。
「宰相とティーダ以外の貴族連中は、玉座の前に集まれ!急げ!!」
貴族がワラワラと玉座の前に集まって来た。
玉座から、大扉の中程で鯉口を切って、待ち受ける。
「騎士は、宰相とティーダを拘束してくれ。邪魔。」
「承知した。」
近衛騎士は動きが良く、すぐさま対応してくれた。
大扉が開いたと同時に特大の【
吹っ飛んだ、兵士の後ろから入って来た兵士を、太刀を抜いて、優雅に舞踊る様に、流麗な清水の流れの様に、切って行く。決して速く見えないのだが、いつの間にか、兵士が倒れて行く。
100名程いた兵士は、全員無力化した。そこで残心の構えを取っていた。
一応、殺してはいない。
「で、この茶番の責任は誰が取るんだ、カルバロ!!」
残心の構えを解くと、血振りをして納刀しながら、ウンザリした顔でマサキが叫んだ。
「後は、王様に任せるよ。」
そう言って、マサキは元居た場所に戻って行った。大小を異空間に仕舞い、壁に背中を預けて、腕を組み、成り行きを見守っていた。
倒れていた兵士は、騎士団が縛って連れて行った。
「あ、王様ぁ~。扉壊しちゃった!ごめんね!!」
と叫んでおいた。
桜が近くに寄って来た。
「素晴らしい剣技でした。流派をお聞きしても?」
「そうだなぁ、こっちに何が伝わっているか知らないが、新陰流の流れを汲む、鹿島神傳直心陰流と言う流派だよ。まあ。元は陰流だと思うけど。」
「新陰流とは上泉信綱公の?」
「お、良く知ってるじゃん。」
「こちらでは、新陰流の剣術家は多いですよ。」
「ほぅ。その内会うかもな。」
「立花様は、魔法も刀も自在に遣われますね。素敵でした。」
「あんまり褒めるな、流石に照れる。」
マサキは、苦笑いを浮かべた。
天井から落ちて来た物や、散乱した武器などを、片付け終わったようで、続きをする様だ。中止にはならないんだな。
王様気合入ってんのかなぁ。
王様が声を上げる。
「此度の襲撃や、王女達を襲撃し、余に毒を盛った者も判明しておる。首謀者は、カルバロ侯爵、共犯は、ティーダ男爵。カルバロ侯爵は、家名断絶、城地財産没収の上、死罪。ティーダ男爵は、家名断絶の上、死罪。尚、カルバロ侯爵の死罪については、一族郎党も免れぬものとする。
此度の事件、完全に王家に対する謀反である。カルバロ、ティーダ、両名は釈明の機会を与えるがどうか?」
カルバロ、ティーダの両名は青い顔をしているが、それでも釈明はする様だ。
「私は、宰相として国益を考え、これまで勤めて参りました。いきなり呼び出されて、謀反と言われましても困惑するばかりで御座います。」
「私も、宰相閣下と同じであります。」
どっかの時代劇を見てるみたいだな。
「タチバナ殿、証拠はあるか?」
王様がマサキに話を振った。
「弥助!!」
「承知!」
弥助が、ハリソンとマカレイを連れて来た。マサキは前に出ると、2人に話しかけた。
「マカレイは、自分のした事を包み隠さず、申し上げろ。誰の指示で何をしたか。」
「ハリソンは、さっきのやり取りをそのまま話せ。」
マカレイは、宰相の指示の元、男爵に雇われて城内で隠密活動をしていたが、俺達に捕まってしまい、何も出来なかった事。
ハリソンは、御用達の看板の件で、宰相に脅されて、薬に毒を混ぜた事を告白した。
マカレイは、男爵家お抱えの冒険者で、断れなかった事と、何もしていない事を考慮され、不問とされた。但し、次は死罪になると言い聞かせられていた。
一方、ハリソンは理由がアホなのと、王家出入りの薬師が薬に毒を入れる等、薬師全体の信用を失墜させた事が、言語道断と言う事で死罪となった。
王様は更に続ける。
「カルバロ、ティーダの両名は申し開きはあるか?」
「「恐れ入りまして御座います。」」
「騎士団長、両名を連行せよ!」
「はっ!」
「続いて、褒賞に移ろうと思うが、此度の王女襲撃事件の王女救出及び解決、余の病状の看破、また死の一歩手前であった余の全快治療、先程の襲撃の誰一人怪我人を出すことなく、撃退せしめたその武勇と手腕。また、これらをたった1日で解決した、その頭脳。王家が救われたのは元より、王国全体が救われたと言っても過言ではない。マサキ・タチバナ殿、前へ。」
知らん顔をしていたら、セレスに引っ張り出されてしまった。
サラビス王は優しい顔で、ありがとうと小声で言った。マサキにはそれで充分だった。が、王は続けた。
「正直、ここまでの功績に報いる褒賞を思い付かなかったので、少し時間をもらいたい。よろしいか?」
「いやぁ、これにサインくれれば良いよ。依頼完了証明書ね。」
「どれどれ、駄目だ!この依頼はセレスティーナの護衛だけではないか。」
「物のついでだっただけだよ。」
「物のついでで出来る事ではない、王家の面子もある。少し待ってくれ、頼む。」
「んまぁ、元々ローレル辺境伯が雇った忍びの2人も、勝手に使ってたし、別に良いんだけどなぁ、まあ、王様の面子もあるか、では、お言葉に甘えて待つ事にします。」
「うむ、そうしてくれ。此度の働きに心より感謝する。」
「俺はその言葉だけで良いんだけどな。」
「欲の無い奴だな。」
「あるぞ!性欲だけだけどな!」
「はっはっは!」
「では、これにて本日の謁見の儀は終了とする。解散!」
「タチバナ殿、少し話を聞かせてくれないか?」
「うん、問題ないよ。」
そのまま、サラビス王と王の執務室へ移動した。王だと執務室も広いんだな。まあ、いっぱい来るもんな人間が。
ソファを勧められて座ったんだが、フカフカだよ。執務室に来た人間は、サラビス王、ローレル辺境伯、コーラル公爵、騎士団長、セレス、シルティーヌ、王妃3人、俺と俺の後ろに何故か、桜と弥助。
サラビス王が口を開いた。
「まあ、楽にしてくれ。正に激動の1日だったんだな。」
「王様は半分寝てたけどな!」
「それよ、魔法を使ったと聞いているが、何を使ったんだ?」
「んと、全部で5つだな。【
「ほぼ無属性か……、剣技も凄かったが、魔法も地味に天才じゃないか。さっき重力魔法も使っていたよな?」
「流石に王様だな、俺は一切詠唱しないからバレ難いんだけどなぁ。」
「いや、俺もな、無属性魔法は研究したんだよ。使えたら恰好良いだろ?」
「まあ、便利だよな。転移も出来るし。1度は行かないとダメだけどね。」
「マジか!転移はエルフでも難しいと聞いたが……。」
「こんなのもあるぞ。」
マサキは、【
「セレス、入ってみな。」
「え?この中にですか?」
「そうそう、行先は、セレスの部屋だから。頭を突っ込むだけでも見えるぞ。」
セレスは恐る恐る揺らぎの中へ、入ってみた。そして帰って来た。
「本当でした。私の部屋でした。」
「魔力的には、転移よりこっちの方が楽だな。」
サラビスが額を押えた。
「宮廷魔法師も真っ青だな……。兵士が100人いても剣技だけで勝てちゃうし、無敵なんじゃ……。1人で国と戦えるレベルだな。」
「戦わねーよ、面倒臭い。俺は基本ロクデナシなんでね、働きたくないのさ。あ、そうだ、さっきの天井にいた忍者なんだけどさ、あいつは多分、宰相の手下ではないと思うぞ。完全に暗殺に来てた。ちゃんと調べた方が良いと思う。」
「どうしてそう思うんだ?」
「かなり凄腕の暗殺者だったからね。あんなの宰相には扱えないと思う。弥助、そう思わない?」
「そうですね。あれだけの忍だと相当金も掛かりますし、無理でしょうね。」
「あの暗殺者と兵士の襲撃に気が付いた者はいるか?騎士団長。」
「大変申し訳ありません。全然気が付きませんでした。誰も気が付いていないと思います。近衛が素直に従っていましたから、間違いないと思います。」
「あれはね、魔力を薄く薄く広範囲に広げておくんだよ、そうすると、慣れれば、魔物だったり敵意を持っている者は判別出来るようになるよ。その前に制御出来る魔力量を増やさないといけないけどね。」
「なるほどなぁ、タチバナ殿、貴族になる気はないか?」
「ない。働きたくないんだってば。」
サラビスは、困った顔をしていた。マサキは知らん顔で通せるかなぁと考えていただけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます