第6話 最強で孤独な存在 4/4
その夜、
ベンチに座ってあくびをした赤人は目をつむりながら眠り始めた。新士は彼の隣で頭を上げ、夜空の星を見ていた。暇だった新士は今日起こった事件のことを考え始めた。すると頭に浮かんだ疑問を口にして赤人に聞いてみた。
「なぁ、赤人。能力を持っていても一般人は他人を救助したりしてはいけないの?」
すると赤人は片目を開けてしゃべった。
「まさかそれってリンネのことを言っているのか?えーっと、まぁ、そうだな。特に一般生徒は能力を持っていても救助することは許されていない。」
「でもあの時、携帯も通じなかったし、学校の外に出られなかった皆は一体何をすればよかったの?あのままずっと学校に閉じこもっていればよかったの?」
新士の質問に対し、赤人は肩をすくめた。
「リンネは正しい選択を選んだっと俺は思う。状況を判断して、適切に事件を解決してくれた。けどそんな場合でも、ヒーローズ・アソシエーションがリミッターの許可をおろしていない限り、戦闘は許せない。でも今回は例外だったし、リンネの
赤人はぺらぺらと喋り続ける。すると新士は彼の話よりリンネの
「(どうやったらあんなに超能力を使いこなせるのかな?やっぱり彼女は天才なのか?敵を簡単にかたづけて、誰も怪我をさせなかった。いいな……僕もあのぐらい強い力を持っていたらな……)」
新士が考え込んでいた時、リンネは刑務所から出てきた。いつも通りの平然とした表情をしながら外で座っていた二人に手を振った。
「待たせてごめんね。帰ろう。」
そう言った彼女は二人と合流して、家に向かって歩いた。
******
その次の日、授業はいつも通りに戻っていた。先生たちは疲れた顔をしていたが、学校の授業を続けなくてはならなかった。ところが
あの事件の後、警察から事情を聞かれて、正人先生はいろいろと説明した。特に学生にリミッターを外す許可を出したことについてよーく説教されたらしい。
正人先生はともかく、犯人の
朝の授業は終わり、普段より疲れ切った新士は自分の机に顔を横にさせて目をつぶった。すると教室の反対側のテーブルに男子が五人集まって喋り始めた。その中、生き生きした元気そうな声で話していたのは
「フフフ、わかったぞ。いいか、俺の面影についての推理を聞いてくれ。面影と
すると緑造の話を聞いていた四人の男子のうち、一人が質問した。
「それで?なぜ彼女に恨みが?」
緑造はキョトンとした顔をして少し考えてから答えた。
「え?いや、そこまで考えていなかったから……」
「なーんだよ。だったら、お前の推理なんてあてにならないじゃん。」
男子たちは緑造の推理に疑問を持ち、とうとう彼の元から離れていった。
「おい!お前らどこへ行く!俺の推理が間違っているとでも言いたいのか?だったら続きを考えるから戻ってこーい!!」
緑造のばかばかしい推理を聞いていた新士はそっぽを向き、事件の裏話など聞きたくなかった。それどころかリンネが心配だった。今朝彼女と会った時、彼女は何故か落ち込んでいるように見えた。
昨日の彼女の
「新士、これで分かっただろう?」
赤人は急に教室に現れ、新士の机に手を置いて喋りかけた。
「何がさ?」
興味なさそうに新士は目を
「力があっても、ヒーローになっても、自分を犠牲にしても――周りの人間は他人をみる目をそう簡単に変えてくれないってことさ。いつもテストで最下位のやつがめちゃくちゃ勉強して、百点取ったとしても、いかさまだと思われてしまうみたいな感じだ。」
新士はそっぽを向き、窓を覗いてみた。学校のグラウンドで体育の授業を行っているクラスがあった。生徒たちは三人一組に分かれていたが、一人だけパートナーがいないことに気づいた。その残された女子は背が高く、長くて黒い髪を頭の後ろに束ねて、頭を下げて皆から目をそらす。新士は彼女がすぐにリンネだと分かった。
赤人は新士が見ている窓に近づいて、手をガラスに当てた。彼も外を見て、一人ぼっちのリンネに気づいた。
「可哀そうだが、彼女はああいう奴なんだ。最強で、孤独な存在なのさ。」
新士はようやく理解した。『強さ』とは、いつも『幸せ』とセットでついてくる物ではない。人から認められたければ、強いだけではダメだとやっと分かった感じがした。
「でもやっぱりずるいと思うな。リンネが必死に人を助けようと頑張ったのに、誰も感謝の一言も言ってあげないなんて。」
赤人は新士の肩を手で叩いてから喋り続ける。
「けどな、新士。彼女だっていつまでも孤独のまま高校を過ごしたいと思ってなんかいない。彼女は彼女なりに頑張って必死に他人と接触して友達になろうと努力しているんだ。そしてその結果、彼女には俺とお前、そしてほかにも何人か友達ができたんだ。」
新士はそれを聞いた途端、少し微笑んだ。だが、赤人は口調のトーンを変えて、ため息をしてから寂しそうな声で喋った。
「けど、今になっても彼女は自分の力に自信を持ちすぎている。彼女が元いた学園の所為でもあるが、彼女は力が他人を寄せてくると思っているのさ。実際にそれが本当かは知らないが、彼女の場合それは逆効果だった。俺らが彼女と友達になった理由は彼女の力だけではなく、人として気に入ったからなんだ。それを彼女に伝えたいのだが、それがどうしてもうまく伝わらないんだ。」
赤人はもう一度ため息をつく。しかし、寂しそうだった表情が少し晴れ、微笑みながら喋り続けた。
「でも、そんなことを俺が言ってもだめだ。やっぱりこのことは彼女自身が気づかないと意味ないか。」
新士は頭を縦に振った。
そして二人は再び外を見てみるとリンネはそれぞれの班に喋りかけて、自分に指を刺しながら何か喋った。しかし、みんな頭を横に振り、リンネは別の班に移動する。
っと、その時、体操を
******
放課後、新士は廊下を歩いていた時、職員室の扉が開いていて先生たちの電話会話を聞いてしまった。スピーカーから喋っていた相手は正人先生だった。
「正人先生、警察はなんと?」
『実は警察も彼女の行方がわからないと言っていました。今朝、警察が彼女から事情を聴いていた時、彼女は一瞬にして消えたのです。』
「消えた?」
『はい。そうおっしゃっていました。まるで魂だけを吸い取られたかのように、彼女の体からダイヤモンドみたいな結晶が体内から出てきて身を包み、一気に砕けて散って、光の粒に変化したそうです。残ったのは彼女の服装のみ。』
「っていうことは、面影・夢さんは――」
『はい。彼女は行方不明になりました。』
新士はその情報を耳にしたとき、体中の筋肉が凍ってしまった。
「(え?面影さんが消えた?)」
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