第6話 最強で孤独な存在 3/4
「うわああああぁぁぁぁ!!!」
だがその時、体が落ちて行く感覚がピタリと止まり、新士はゆっくりと目を開けた。するとそこはごちゃごちゃした色の
肌の色が液体のように溶けて空気中に浮かぶ。着ていた白いシャツからも青い色のジーンズからも色が流れ始め、すべて混ざって一つの色となる。液体化した色は教室の中心に吸い込まれていき、まるで台所の流しのように周りからすべての色が真ん中の渦に吸われていく。
「え!何!なにこれ!」
新士は逃げようとしたが、もうすでに遅かった。自分の足は透明になり、体の感覚を完全に失ってしまった。すると新士は助けを求めようと必死に部屋の周りを見る。その時、教室の反対側にリンネがいた。彼女の体からも少しずつ色が流れ始めていたが、彼女はじっとしたまま目を閉じ、全く動かなかった。すると新士は白い紙が彼女の身を包んでいくのを目撃した。
「リンネ――!」
助けを求めようとしたが新士の口から色はなくなり、全身透明となってしまった。残ったのは自分自身の意識のみだった。
一方、目を閉じていたリンネは急に目を開き、体の周りに浮いていた紙を四方八方に放った。その光景はまるで爆弾が爆発したように見えた。するとその紙は部屋の中心から教室に存在していたすべての物に張り付き始めた。すでに消えていたリンネの足にも張り付き、ようやく彼女は足を動かせるようになった。黒板、机、椅子、何もかも紙が張り付き、物の形が見えてきた。教室は白色に染まり、まるで雪が降ったように見えた。
新士の体にも紙が張り付き始めて、ようやく体の感覚を取り戻した。
「(これはいったい……)」
教室を全体的に眺めた新士は中心に妙な形をしたものが二つ紙に包まれて床の上においてあった。その物は黒板の三分の一ぐらいの長さで、卵の形をしたものだった。するとリンネは自分の体を包んだ紙をはがし、自分の体の色が元通りになっていたことを確認した。次に手を体の前に出し、紙で包んであった二つの物を空中に浮かばせて教室の扉の方向へ移動させた。
すると突然に虹色の魚の頭がニュッと黒板から出てきた。この魚は
その魚を目撃したリンネは両手を前に構えて腰を少し下ろし、足幅を広めた。目を動かし、敵の魚を注意した。だが、いくら待っても魚は襲い掛かってこなかった……っと思っていたリンネの後ろに大きな口を開けた魚が床から現れてリンネを飲み込もうとした。彼女は気づくことが遅く、魚は口を閉じ始めていて、リンネは逃げる余裕がなかった。
紙を顔から取り外した新士は彼女の名前を叫ぼうとした。
「リン――」
けど、新士が叫び終える前に、魚は地面に再び潜ってしまった。リンネの姿はどこにもなく、食べられたとしか思えなかった。
「(リンネが食われた?!どうしよう、どうしよう……)」
だがその時、消えたはずの魚は地面から再び現れて、空中に飛び上がった瞬間、爆発して消えた。体の破片は光の粒に変わり、教室中を飛び散った。その中から出てきたリンネは地面に着地して、何もなかったように平気な顔をしてあたりを見回した。
ところが、敵の魚は一匹だけではなく、彼女を四方八方からもう
彼女は操っていた紙を大量に自分の背中に集め、鳥のように翼を作って一気に飛び上がった。四つの魚の攻撃をよけ、紙の翼から何枚か紙を取り外し、紙飛行機の折り紙に変形させて一気に四匹の魚に放った。
紙飛行機は魚の体を刺したが、何の効果もなかった。けれど紙は再び変形して今度は蝶になった。一枚ずつ魚の外部に取りつき、魚を紙で包み始めた。虹色だった魚が、一瞬にして白く染まった。次にリンネは右手をギュッと握り締め、魚を包む紙を圧縮させ始めた。魚は圧力に耐えられず、光の粒に散ってしまった。
新士はリンネの圧倒的なパワーに見とれてしまった。胸に手を当てた新士は自分の心臓の鼓動の速度を図り、自分がどれだけ興奮していたのか確かめたかった。
リンネは教室の扉に紙で包んであった二つの物を見た。
「そろそろかな?」
彼女は両手を体の前に出し、手をぎゅっと握った。
紙は圧縮され、最初はただの長円形だったが、だんだんと人間の形になり始めた。さらに、部屋の周りから紙を外し始め、元通りの教室の姿を現す。黒板は長方形、窓は正方形に修復され、色も元通りになっていた。
新士の体からも紙が外され、自分の腕と足が元通りになっていたことに気づいた。
「う~……」
唸り声が聞こえ、新士は隣を見てみると気を失っていた正人先生と
リンネは紙に包まれた人間の形をした物を部屋の外に出し、そっと床に置いた。すると朝に咲くような花みたいに、リンネの紙はパーッと真ん中から開き、中にいた人を明らかにさせた。そこには二人の女子生徒が眠っていた。
リンネは彼女たちを紙のベッドの上で寝かせたまま、床にそっと置いてから教室に戻った。リンネは正人先生と真菜美先生たちを運ぼうと思ったとき、初めて新士に気づいた。
「あれ?新士もいたの?」
「いやぁー。何となく巻き込まれて……」
リンネは納得した。続いて彼女は残りの紙を使って寝ていた教師二人を空中に浮かばせ、教室の外へ運ぶ。
「どこへ行くの?」
新士はリンネに尋ねた。
「学校の外。それでいきなりだけど、新士君、警察と救急車を呼んでおいて。一応先生たちと生徒たちを病院へ行かせないと。よかったらあなたもお医者さんに一応見てもらったら?」
彼女は何も起きなかったように、平然とした態度を保ちながら教室を出て行った。新士は部屋の床の上でポカーンとした顔を見せ、その場で立ち続けた。
「(確かに
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