第6話 最強で孤独な存在 2/4
「だましてごめんなさい、先生。いや、
さっきまで困っていたリンネの表情はすべて
「さっき下の階にいた時、生徒から聞いたのです。
真菜美先生は何も言い返さず、その場で立ってリンネの話を受け入れた。
「おそらく真菜美先生が職員室を出た後、面影さんと
「……」
「そしてこの階に窓を残した理由は、本当はここは四階だからです。あなた、よほど人をケガさせたいのですか?」
「……」
「私の推理、当たっていますか?」
「…………」
「それで、面影さん。なぜ、こんなことをしたのですか?」
リンネが話し終わった途端、真菜美先生の姿をした面影さんは急に態度を変え、暗い目つきでリンネを
「あなたに何が分かるって言うの?何も知らないくせに。」
そう言ったとたん、真菜美先生の姿は爆発して、光の粒を放ちながら消えた。床に落ちていた丸めた紙も同じように消滅した。そしてその光の粒子は波のように一斉に動き出し、教室の扉の下の透き間へ入っていった。
その場面を廊下の端から見ていた新士は驚いた。
「(っていうことは、リンネは最初から先生が先生じゃないってことを知っていたのか?)」
その途端、誰かが階段の下から声をかけてきた。
「お~い、
「先生、僕は大丈夫です。」
「なら、早く一階へ移動しよう。ほら、ついてきな。」
「でも、リンネが……」
「
新士は教室に指を指す。すると正人先生はリンネの元へ行った。
「紫藤さん!そこで何をやっているのですか?早く逃げましょう……ってあれ?真菜美先生は?」
正人先生はあたりをきょろきょろ見渡した。しかし彼は真菜美先生を探すことより、リンネの身の安全を優先した。彼はリンネを呼び掛けたが、彼女は振り向かずにその場で立ち続けた。
「紫藤さん!何やっているのですか?生徒がこんな場所にいてはいけません。さぁ、早く!」
正人先生は廊下を駆けながらリンネに近づいた。そして彼女の前にたどり着き、ようやくリンネは先生と目を合わせた。
「紫藤さ――」
「――先生。許可をお願いします。」
「きょ……許可?何の?」
「行かせてください。私ならこの状況を直せます。誰かが面影さんを止めないと、学校から永遠と出られません。無能力者の先生たちより私の方が面影さんを助け出せます。携帯も通じないし、警察に連絡できません。だから私にすべて任せてください!」
「事情はすべて東さんから聞いた。けど許可のリクエストを却下する。紫藤さん、あなたは超能力者である前に、生徒です。生徒がそんな無茶なことを教師として許すことができません。」
「でも、警察と連絡が届かない以上、誰が面影さんを止めるのですか?外へ行く扉も開かないのでしょ?」
「私が何とかする。他の教師だってそろそろここに上がってくるはず。」
「教室の中で浅桜さんと真菜美先生が人質になっています。それでも何とかできますか?」
「え?真菜美先生まで?」
「そうです。私の推理ですが……そうとしか考えられません。」
「でもダメだ。ヒーローごっこなんて私が許すわけにはいけない。」
「これはヒーローごっこでなんかありません!本物の事件なんです!私はただ、自分にさずかれた力を皆のために使いたいだけです。信じてください!」
リンネは本気で叫んでいた。彼女は自分の思いを先生に届けさせようと一生懸命喋った。
「いいかい、紫藤さん。もし何かがあったらあなたは死ぬ確率だってあるのですよ!理解していますか?あなたの命に係わるかもしれないのですよ!あなたはまだ若いんだ!未来だってあるんだ!だからここで無駄にするな!」
正人先生の声はだんだん大きくなって、最終的にはリンネに怒り始めた。初めて聞く正人先生の怒り声にリンネは凍り付いてしまい、彼女は頭を下げながら床を見た。
正人先生はため息をついて、リンネの手を取ろうとしたが、彼女は両手を背中の後ろに隠した。
「許可を出してくれないのでしたら、私は無許可で行きます。警察に叱られても、学校を退学させられても構いません。私がリープ・プログラムを止めて、この学校に来た理由は自分の正義を果たしたかったからです。毎日、助けを求めている人がいるのに、何もしないで突っ立っていることなんて絶対に許しません。中にいる人たちは苦しんでいるかもしれないのに、何もして上げないなんて、私は認めません。」
「紫藤さん……」
「面影さんだって好きでこんなことをやっているわけではないと思います。何か彼女なりの理由があるのでしょう。だから私がすべて解決します。学校の生徒とはあまりなじむことが上手くないですが、力と頭の良さだけには自信あります。だから、行かせてください、先生。」
犯人だった『面影さん』まで助けたがったリンネの叫び声は、廊下中響いた。彼女の真剣な声は新士の耳を通して、心の中で響いた。
「(彼女、マジで……)」
本気を示すためにリンネは右手で扉の取っ手に触れた。すると正人先生は彼女を止めようと、手を上げた。しかし、彼が彼女に触れる直前に手から力を抜き、体の横に戻した。正人先生は何か言いたい顔をしながらリンネを見つめた。
「すまない紫藤さん。君に命令する義務は私にはない。今朝、『君の言うことを一つ聞いてあげる』と自分は言った。それがその許可なら、……出してあげます。あなたは立派な生徒です。だから信じます。だから気を付けて行ってきてください。」
正人先生は最後に笑顔を見せた。
「私は強いから大丈夫です。絶対みんなを助けて帰ってきます。」
リンネは少し笑いながら、右手を体の前に出した。
「リミッター解除!そばに超能力者が存在します。」
すると彼女の首につけていた水色に輝くネックレスが喋りだした。
『ヒーローズ・アソシエーションのネットワークに接続不可能でした。ローカル許可を利用しますか?』
「はい。」
『データを保存します。これからあなたのすべての行動が記録されます。』
その途端、リンネは両手を体の横にあげて目をつぶった。すると廊下の両側からサラサラ音を立てて、何か近づいてきた。何百、いや、何千枚の紙飛行機がリンネに向かって飛んできた。廊下を通り、外に通じる窓をカタカタ揺らしながら音を立てる。紙飛行機が教室の扉の前にたどり着いた瞬間、紙が広がり始めて形を変えた。そして元の紙の形に戻った瞬間一枚ずつ扉の下の透き間を通り、教室に入って行った。数秒後、『カチャッ』という音が聞こえ、リンネは見事に扉の鍵を開けることに成功した。
「先生、念のため私が入ったら扉を閉めてください。」
正人先生はこの紙の舞に見惚れて声を奪われ、頭をうなずくしかできなかった。
教室の扉を開けたリンネは、入る前に先生に振りむいて、『ありがとうございます』と静かに呟く。すると彼女は一瞬にして教室の中に吸い込まれた。
彼女の姿が完全になくなってから先生は扉を閉めようと近づく。正人先生は眉を下げて少し寂しい表情を顔に出し、両手を体の前で合わせて神に祈った。
しかし、リンネの事が気になり、首を教室の中に突っ込んだ。するとその次の瞬間、大きな魚の頭が教室の扉から出てきて正人先生を一口で飲み込んでしまった。
あまりの驚きに新士は立ったまま、口を閉じられなかった。
「正人先生!!」
新士は叫んだが、先生の返事はなかった。
「(やばい。正人先生が……でもリンネは彼が入ったことを知らない。っていうことは、僕がいかないと。僕が先生を助けに行かないと。)」
周りを見てみたが、新士以外の人は誰もいなかった。
「(僕しか知らない情報だ。助けに行かないと!)」
床を見続けたまま、新士は廊下を歩き始めた。そして扉の前に来てしまった新士は、先生と同じように魚に飲み込まれた。
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