第5話 彼女はとにかく強い 3/3

(現在、20✕✕年)


「ただいまー。」


新士しんじは扉を開けながら声を出した。すると家の中から誰かが返事を返してくれた。


「新士!お帰り!大丈夫だった?何も悪いことなかった?」


ダッシュで玄関へすっ飛ぶ女性は新士の母親だった。実際にその女性は新士の実の母ではなく、この世界の新士の母親だった。その真実を知った上で彼女は新士を受け入れてくれた。


一週間前、病院から退院した新士はこの女性と出会い、それ以来この家に住んでいた。


玄関先で靴を脱いだ新士は丁寧に整えてから家に上がり、二階に向かって階段を上っていった。すると母は階段の下から新士に声をかけた。


「お腹すいている?おやつ食べる?」


新士は母の声を聞いて返事をした。


「そうだね。何となく腹がすいているから手を洗ってから何か食べます。」


「わかったよ。なら今すぐ用意してあげるね。」


「あ、そんな派手はでな物はいりません。せんべいとかカップ麺で十分です。」


「は~い!」


新士の母は嬉しそうにキッチンへ戻る。


「ハァ~」


逆に新士はため息をついて疲れた顔をする。かばんを部屋に置き、手を洗ってから一階のキッチンに向かった。けどその途端、猛烈な匂いに包まれた。


「あ……あの……?」


「何、新士?」


「そのラーメン、一体どうしたのですか?」


「あ、これ?特性北海道、スーパー味噌ラーメンだよ。一から作った麺だから何の防腐剤も入っていなくて、すっっっごくヘルシーなの。あ、もうすぐ出来上がるからテーブルで待っていて。後、この間もらったせんべいがもう時期焼き終わるから。実はこれ近所のおばさんからもらったのよ。そして調べてみたらなんと今はやっている世界一おいしいせんべいだったの。絶対においしいから新士もぜひ食べてみて!」


新士は苦笑いで母にうなずいた。


「それで夕食は何にする?新士の大好物のグラタン?それとも焼肉?フィレミニオン?」


「あ……任せます。」


「そうなの?じゃあ、このままビュッフェにしちゃおうかな?」


******


「で、どうなんだ?新しい暮らしは?」


次の朝、赤人あかとが登校中新士とばったり会い、新士と話し始めた。


「学校はともかく、家は全く馴れないよ。母さんのそばにいるとなぜか気まずくて……優しくていろいろ甘やかされているんだけど、彼女が僕の本物の母さんではないと思ってしまうと何となく……その……気まずいんだ。確かに僕は自分の実の母親の顔を思い出せないけど、あの人は本当の母さんじゃないってことだけは知っている。」


「はぁ、そう来たか。お前のその記憶喪失。本当に厄介やっかいだな。」


「だから、ただの記憶喪失じゃないんだって。僕は違う世界から来たんだ!」


「わかった、わかった。でも、元の世界の記憶をところどころ思い出せないんだろ?ならやっぱり記憶喪失じゃん。」


「う……うぅ……」


「でもみんなお前が別世界から来たことを信じるわけがないし、これ以上お前の母さんに心配かけると、彼女の健康にかかわるかもしれない。だからさ、新士の母さんのために、実の母親だと思ってあげなよ。」


「そんな簡単に言われても……」


「第一、お前の本当の母さんの顔を忘れたくせに、よく今の母さんは別人だと言えるな。」


「いや、だって。その……勘だよ。」


「勘か……」


二人はそれから学校につくまで何もしゃべらなかった。

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