第4話 ヒーローの約束 2/3
新士は窓のそばにより、ガラスに手を当てながら窓
『自分を責めるな。』
新士は足を床に軽く置き、ようやく立ち上がった。角を曲がり、先生の部屋がある廊下にたどり着いた。105号室を探しながら扉を一つずつ眺めるたび、新士は勇気を徐々になくしていく。するとようやく扉の下から明かりが漏れている部屋を見かけた。部屋番号を確認するとそれは105号室だった。
ノックを三回した新士は
「こんばんは、先生。先ほど僕を訪ねて――」
「――お、新士君かい?座ってくれ。本当は君の部屋に行きたいところなんだが、ちょっと見せたい物があってね。だから君の方から来てもらったんだ。気分はどう?」
「大丈夫です。おかげさまで。」
「そうか、よかった。ではどうぞ、席を。」
先生は白衣にハーフリムの眼鏡をしていた。茶色くて短い髪を七三分けにして、ちょっぴりイケメンな医者だった。新士は席に座ったが先生のことを直接見るのが恥ずかしく、視線を部屋の周りにあっちこっち動かした。同時に部屋を見ながら会話を進める話題を考えた。すると先生の後ろの棚に家族のような写真が飾ざされていたことに気づき、新士はこれを会話のきっかけに決めた。
「い……いい部屋ですね、先生。ご家族の方もここに来たりしますか?」
新士は何となく気楽な空気で先生と喋り始める。緊張しながらできるだけ
家族写真には三人写っていた。背の高かった先生は右側に立ち、彼の奥さんらしい人物が左に立ち、二人の真ん中に小さな女の子が歯を見せながら笑った顔をして立っていた。
「気づいたかい、新士君?」
先生は椅子を回し、後ろの棚に飾ってあった家族写真を取って新士に渡した。
「せ……先生。まさかと思いますが、この写真の女の子って……」
そのとたん、一気に状況が変わった。
家族写真を手の中で見つめた新士はじっくり眺めた。
この写真の女の子は間違いなく、新士が昨日助け出そうとした女の子だった。さらに、写真に載っていた先生の奥さんは、警官たちに押さえられて、新士が約束を交わした女性だった。
急に部屋の空気が重く感じて、新士は呼吸しづらくなった。まさかこんな衝撃的な真実を迎えていたとは全く思っていなかった。心の準備が足りなく、目を大きくして写真を見つめたまま頭の中が真っ白に染まっていく。
「せ……先生、僕は大変……とんでもないことを……」
手から汗が出て、喉は一瞬にしてカラカラになった。体はまるでしびれたかのようにそのまま椅子から離れられず、びくとも動けなくなってしまった。新士は写真を手に取ったまま、先生の前で恐怖にとらわれた。
新士はゆっくりと顔を上げて先生を見てみた。しかし、先生は怒ってなく、むしろ、微笑みながら新士に喋った。
「新士君、なぜ君が謝る?むしろ、私の方から礼を言わせていただきたい。ありがとう。本当にありがとう。」
何が何だかさっぱり分からなかった新士は、魂を吸い取られたかのように無表情で先生を見つめた。そして徐々に体にこもっていた緊張感は溶け、やがて動けるようになった。
「君は私の家族にとって『ヒーロー』です。この恩は一生忘れません。」
先生は席から立ち上がり、新士の前で頭を下げた。
「せ……先生。やめてください。僕は……僕は……あなたの娘さんを助けられなかったのです。図書館の地下にいた時、僕はあなたの娘さんを助けられる方法をいくらでも考えられたはずなのに、状況に巻き込まれて頭があまり回らなく、最後は彼女を……」
新士は最後の一言を終える前に赤人の言葉を思い出した。
『自分を責めるな』
「(そうだ。僕は赤人と約束したんだ。このまま自分を責め続けても、ただ自分を苦しめるだけ。今後、強くなるために、もうこれ以上自分を責めるわけにはいかない!いつまでもズルズル暗い感情を引きずっていても誰のためにもならない…………)」
新士は堂々と先生に喋った。
「先生!本当にすみませんでした!僕はあなたの娘さんを助けてやれなくて、本当にすみませんでした。罰でも何でも覚悟していますから、どんな処分でも受けます。」
新士は先生に頭を下げて誤った。自分を責めてはいなかったが、新士はようやく自分なりに自分を解放させる方法を見つけた。
しかし、いくら先生の答えを待っていても何も返事してくれなかったから新士は顔をチラリと上げてみた。すると一ノ瀬先生は新士を不思議に見ていた。
「新士君、まさかと思うが……いや、それより自分で見た方が早い。ちょっと来てくれ。」
一ノ瀬先生は机に置いてあったキーカードを白衣のポケットにしまい、部屋の扉を開けて出て行った。新士は彼の後をついて、何を見せてくれるのかどきどきした。
ビルからビルへと移り、次々と扉をくぐり続ける。二人は無言で歩いた、先生はキーカードを何度も使い、病院の奥へと移動した。先生の後をついていく新士は、何が何だか分からなかった。
病院の奥は意外と
「実は昨日の事件に巻き込まれた人たちがこの病院へ来て……思った以上に負傷者が多くて、すごく
新士は頭をかしげて答えた。
「病院の先生たちや看護師が頑張って働いたから?」
「まぁ、そうとも言える。けど本当に頑張ってくれた人たちは、あの現場にいた一般人の方たちなのさ。怪我をしていなかった人たちは負傷者を救急車まで運んだり、治療知識を持っていた方は自ら他人を助けだした。結果、多くの人達が助かった。本当、ヒーローってのは超能力や特殊な力を持った方々だけではなく、ごく一般人にだってなれるってことを彼らは証明したのさ。」
一ノ瀬先生は足を急に止めた。そしてゆっくりと左手を上げ、目の前の病室の窓に指を指した。
「覗いてごらん。」
窓に近づいた新士はその部屋の中を覗いた。その部屋は小さくていろんな機械が設置してあった。真ん中にはベッドが一つ置いてあり、一人の患者が寝ていた。
新士は目を大きくしながら一ノ瀬先生に振り向いて喋った。
「か……彼女って……」
「そう。私の娘、沙美だ。」
口を開けたまま新士はそのまま突っ立って、もう一度窓を覗いた。ほんのわずかだったが、彼女の胸は動いていて、モニターに映る心拍数は通常だった。
「え?で……でもなんで?なんで彼女は生きているの?僕は……僕は……」
ほんのわずかな涙が目から零れ落ち、新士の頬をなぞる。
「でも、彼女の足が……」
娘さんの下半身にはベッド・シーツが被せてあったが、新士は気づいてしまった。左の足首から先と、右足の膝から先はなくなっていた。
それでも一ノ瀬先生はわずかな微笑みを見せ、新士にすべて説明した。
******
レスキュウ隊が図書館の地下にたどり着いたころ、もうすでに沙美の意識はなかった。彼女の失血はひどく、すぐに手術が必要だった。だが、もし新士があのテーブルを彼女の体の上に置いていなかった場合、崩れ落ちてきた瓦礫が彼女の頭を打ち、命はなかったと推測されていた。そして赤人が新士を道端で見つけた後、先生の奥さんが新士を目撃して、新士が娘を助けに行ったことを警察に伝えた。
結果として、新士のわずかな行動が彼女の命を救った。
「改めてもう一度言わせてほしい。本当にありがとう、新士君。」
一ノ瀬先生は頭を下げて言った。
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