第3話 心をつぶす会話 3/3
地震がやっと止まり、
「大丈夫かい!?」
小さな声で彼女はうなずいた。
「う……うん」
だがその途端、少女の声の方角から光が入ってきた。
「(き……奇跡なのか?やっとこれで助かったのか?)」
新士は目を大きくしながら口を開けて彼女を見続けた。
「お……お兄ちゃん!」
彼女が新士に振り向いた途端、立ち上がろうとした。新士は彼女に向かって両手を前に出し、一気に走り出した。少女は涙目で、髪はぐちゃぐちゃ、鼻水は垂れていて、顔は真っ黒だった。それでも彼女は新士を見た瞬間、心に残っていた不安が解けて、ほっとした笑顔を見せた。
「ちょっと待っていて!危ないからそこに座っていて!今から僕が――」
しかし、その次の瞬間、彼女の真上の天井が崩れ落ちた。瓦礫が地面に向かって加速して、彼女をめがけて
新士は声を出せる前に、少女の下半身は瓦礫の下敷きとなった。
「イタアアアイイ!イタアアアアアイイイ!お母さん!ごめんなさい!助けて!」
新士は他に落ちて来る瓦礫を無視して、彼女の元へダッシュで向かった。手を前に出し、彼女の無邪気な腕をつかもうとしたが距離がありすぎた。新士は本棚を飛び越え、彼女の元へ
数秒後、建物は安定した。天井の穴はさらに大きく開き、空から太陽の光線が部屋を照らして地下全体がはっきりと見えた。
新士は少女のことで夢中だったが、彼の後ろには底が見えないほどの深い穴が開いていた。先ほど新士がテーブルの上に乗って足で床を感じられなかった理由がはっきりした。もし、新士が暗闇の中を進んでいたらこの穴に落ちていたかもしれない。
だが、新士はそんな穴なんか気にしなく、目の前の彼女の姿を見つめた。彼女の両足は新士の身長の3倍ほどの大きさの瓦礫の下敷きとなっていた。彼女は泣きながら叫び続けた。その瓦礫の底から血のたまりがどんどん広がった。
「(嘘……嘘だろ、おい?)」
言葉も出なかった新士は気を取り直し、体全体の筋肉を使って瓦礫を押した。けど、瓦礫はびくともしなかった。
何度も何度も様々な体勢で押したり引いたりしたが、新士は自分の体力を削っていただけだった。彼女の様子を見てみると、すでに呼吸が弱くなっていて、叫ぶ力を失っていた。
新士はさらに
仕方なく、外から助けを求めなければならなかった。
「おい、今から助けを呼ぶから……」
新士はふっと見たら、彼女はもう返事する力を失っていた。
「(僕は何を――!!)」
右手をギュッと握り締め、自分の
「(馬鹿なのか、お前は?!この子をもっと早く助けられたのに、お前はなんでこの場でとどまってお喋りしながら待機していたんだ!見てみろ、お前がしっかりしなかったから、結果はこれだ。)」
「(うるさい!僕に何ができたっていうのだ?どうせ僕はただのガキだ。馬鹿で、あほで、何にもできない、ただのガキだ!)」
「(やめろ!こんな時に心の争いなんてしている場合ではない!)」
「(やめてくれ、もう、やめてくれ。夢ならもうさめろ!)」
「(もう帰りたい。もう忘れたい。もう
「(自分を変えて見せるのではなかったのか?今の自分を不満に思っていたから彼女を助ける依頼を受けたのではないのか?だったらしっかりしろ!)」
「(いやだ。もうだめだ。僕ははじめから何をやっても上手くなくて……何をやっても失敗して……今回もそうなんだ。もう嫌なんだ、こんな自分が。みじめで、最悪で、弱くて、頭悪くて、臆病者で、情けない自分が嫌なんだ。)」
「(僕が僕でなく、ほかの人だったら、この少女を助け出せたのだろうか?)」
するとその時、少女は咳をした。
彼女はまだ生きていた。
それを知った新士は一刻も早く救助を呼ぶべきだった。けど、天井はまた奇妙な音をたてて、今にでも再び瓦礫が落ちてきそうだった。自分の死を想像してしまった新士は完全に固まってしまった。動かさないといけなかったはずの体が今になって言うことを聞かない。鳥肌が立ち、彼女を見続けたまま新士は突っ立った。
「(馬鹿野郎!早く助けを呼ばないと彼女は死んでしまう!)」
新士は彼女の真上を見上げる。
上の階の天井のかけらがまだ残っていた。もしあれが彼女の上に直撃した場合……
「(ダメだ!彼女をやっぱり放っていけない!しかし、彼女を移動させられないし……どうすれば……どうすれば……いいんだ?)」
鳥肌と共に冷汗をかき始めた新士はソワソワしてきた。手が震え始め、喉がかゆく、目が乾燥してきた。この場所から立ち去ろうとしても彼女を放っておけない。しかし、立ち去らないと彼女は確実に生きていられなくなる。
「(何か……何か……一時的でいいから……)」
新士は周りを見て、ひっくり返されたテーブルが目に入った。焦りながらそれを持ち上げ、体中の最後の力を使って運び、盾替わりに彼女の上半身の上に置いた。しかし、これだけでは不安だったが、これ以上時間を無駄にすれば彼女の寿命と引き換えになってしまう。
新士は最後に彼女を見た。彼女は両足をつぶされても最後まで我慢していた。
「(年はいくつも下なのに、この子、僕より立派だな。)」
新士は彼女を守るテーブルを手で叩いた。
「僕は……僕は君を必ず助ける!絶対に戻ってくるからそれまでに生きていてくれ!ヒ……ヒーローの約束だ!」
それから新士はその場を去り、振り返らず階段を上って図書館から出た。テーブルの下から見ていた彼女にとって、新士は小さなヒーローに見えたのかもしれなかったが、そんなことはありえないと新士は思った。
「(僕はヒーローなんかじゃない。ただの弱いガキ。馬鹿な臆病者だ。)」
角を曲がり、真っすぐ走った。
「(自分が憎い。なんでこんなに弱いんだ、僕は?)」
涙を流しながら新士は走り続けた。
するとその時、頭の奥から声が聞こえた。
『あ~あ、よかった。助かってよかった。あの場所にい続けていたら僕まで死んでしまったよ。』
「(これは……悪魔の声?そうだ、きっとそうだ。悪魔の声だ。いや、悪魔でなくてもいい。誰でもいい。ただ僕の声でなければ、誰でもいい。学校の先生でも、歩いている見知らぬ人でも、店で働いている人でも、誰でもいい。)」
新士は歯を食いしばった。
「(ただ、ぼくの声でなければ……よかったのに…………なのに…………のに……………………)」
僕はやっぱり自分が嫌いだ。
新士は空に向かって喉が潰れるほど、強く叫んだ。
「チックショ―――――――――――――!!!!!!!!!!」
「(情けない。自分が情けない。なんでだよ!僕はなんでこんなみじめなんだよ!!!僕だって頑張って、勇気出して助けに行ったのに……なんでだよ……なんでだよ!強くないし、たくましくないし、勇気もない。)」
再び地面が揺れ、急に太陽の光が消えた。新士は上を見上げて目を大きくした。
それは雲の仕業ではなかった。
「(自業自得ってことか?)」
ビルの一部が新士の上に落ちてきた。
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