第3話 心をつぶす会話 1/3

「ハッ!」


地面が揺れて新士しんじは目を覚ました。起き上がった新士はあたりを見回して自分の周りを確認した。そこは先程赤人あかとと喋っていた学校の草っ原の上に座っていた。


「(そうだった。思い出したんだ。自分の過去をすべて思い出したんだ。)」


ぼーっとした表情で新士は空を見あげて。


「(ってか地震の振動がここまで伝わってくるってことは、ここも危険なのか?あ、そういってみればあのロボットがここから離れるように指示したことをすっかり忘れてしまった。じゃあ、やっぱり逃げたほうがいいのか?でも赤人は『ここにいろ』と言っていたし……でもやっぱりまず身の安全を保障しないと…………)」


少し考えた後、新士は立ち上がり、もっと安全な場所に移動することを決めた。学校の正面まで歩いて校門を出たところ、道の前で立ち止まった。


「(右か左。どっちに行けば……)」


新士は適当に右の方向を選び、歩き出した。


そこから十分間、都内を歩いた。周りには店や車しかなく、人の気配が全く感じなかった。コンビニの角を曲がり、図書館を通り過ぎ、本屋の前にたどり着いた。新士はきょろきょろ人を探しながら歩いたが、誰も見かけることはなかった。


「おおおいい!誰かいませんか?」


叫んでも誰も返事をしてくれなかった。


それから歩き続けた新士は高層ビルが多い道にたどり着いた。新士は角を曲がって大通りに出たところ、道の反対側に黄色い『立入禁止』と書いてあるテープが張ってあることに気づいた。そしてその向こう側に一人の女性が警官二人に喋っていた姿を見かけた。


やっと人を探せた新士はうれしかったが、何か様子がおかしかった。その女性は警官たちに言い争いながら黄色いテープを超えようとしていた。それに対して警官たちは彼女の腕を強くつかんで、先に行かせないようにしていた。


新士は何が起こっていたのか気になり、こっそり彼らの隣にあったビルに近づき、影に隠れて耳をかたむけた。


「お願いします!私の娘がまだこの先に!」


「奥さん、いけません。お願いしますから、じっとしていてください。今レスキュウ隊たちがそっちに向かっています。彼らが娘さんを必ず助け出してくれるので、おとなしくここで待っていてください。」


「レスキュウ隊が娘の居場所を知るはずがないでしょ!娘は外ではなく、図書館の地下にいるのですよ!あんな暗くて目立たない場所に彼女が隠れていること、わかるわけないでしょ!」


女性は泣きながら叫んだ。しかし、それでも警官たちは彼女を先へ行かせてあげなかった。


「お願いです!誰か!私の娘を……娘を……」


女性は力きて地面にしゃがんだ。


沙美さみ、ごめんね。すべてママの所為なの。沙美を一人にさせなければ……」


彼女を可哀そうに思った新士は、助ける方法を考えてみた。そしてその時、いいアイディアをひらめいた。


「(そうだ、僕がいるじゃないか!僕が図書館に行って娘さんを助ければすべて解決する!そして娘さんを無事に届けたら、あの女性は僕に感謝してくれる!さらに僕が新聞記事の表紙のストーリーに載って、テレビのインタビューにも出られるかも!ってかこのきっかけで本物のヒーローになったりしちゃって!)」


新士は両手をギュッと握り、自分の意志を固めた。


「(僕の能力が自分の記憶を消す呪いだとしても、関係ないさ!そんな小さなことで僕の決意を止めるわけにはいかないんだ!そうだ!人助けさえできれば僕のヒーロー活動を認めてもらえるんだ!)」


体内にためていた勢いを放ち、新士はビルの影から出て大声で叫んだ。


「聞いてください!僕があなたの娘さんを助けに行きます!」


女性はゆっくりと新士の方角に顔を向けた。彼女の涙は頬から転がり落ち、髪をフワッとさせながら新士を見る。新士の言葉を理解した直後、彼女の涙目の顔が一瞬にして消えて、明るい光が照らされた。まるで、一日中曇っていた空が一瞬にして晴れた感じのようだった。


しかし、彼女が返事を返せる前に、警官たちが先を越して叫んだ。


「きみ!そんなところで何やっているんだ!こっちへ来なさい!」


叫んだ警官たちに新士は舌を出し、尻を叩いてやった。すると怒りだした一人の警官は新士を追いかけてきた。


「(来るなら来い!)」


新士はダッシュで目の前のビルの扉を思いっきり押し、中へ逃げ込んだ。


「(確かあの女性は娘さんが図書館にいると言っていた。ちょうどいい。さっき来た道に図書館があったから、まずそこを調べてみよう!)」


ビルの中を駆けまわり、非常口ドアを抜け出し、新士は再び外へ出た。警官はもう追ってこなくなり、自由に外を走り回れた。新士は笑いを止められなく、ニヤニヤした顔で図書館へ向かった。


「(必ず娘さんを助け出し、僕の強さと勇気を世間に認めさせるんだ!そして過去の弱い僕を捨てて、この新たな世界で人生を逆転させるチャンスをつかむんだ!)」

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