第1話 僕の願 1/3

新士しんじは立ったまま、自分の足を見ていた。そこには新聞紙の一部がひらひら風に乗って踊りながら靴の下に挟まっていた。


右手には双眼鏡、左手には携帯を持っていた。


「(え?何?いったい、ここは何処?ってか、なぜ僕はこんな場所に?)」


足を上げて、新士は右手の双眼鏡と共に新聞紙を手にした。見てみるとその一枚の新聞紙は表紙だった。主見出しには『ヒーローズ・デイ・トーナメント 20周年』と書いてあった。新士はチラッと内容に目を通してみたが、それにはトーナメントの優勝確率の高かった生徒たちの顔写真と彼らのトレーニング・ルチーンしか書かれていなかった。


新士は新聞紙の前後ろを見た後クシャクシャにして、自分が履いていた青いジーンズのポケットにしまった。


それどころか周りを見回しても、周囲にあったのは車ばかりで、何故自分がこの場所にいたかさっぱり分からなかった。


「(駐車場なのか?ここ?)」


左右どちらにも車が5台、コンクリートの柱が一本っとしたパターンが永遠と続く。辺りは暗く、天井からぶら下がっている電気が唯一の明かりだった。近くに窓が一つも見当たらず、外の様子を確認することは不可能だった。


「おおおい!誰かいませんか?」


新士は適当に叫んだが、誰も返事をしてくれなかった。


すると彼は手に持っていた携帯を見た。パスコードは知らなかったが、現在の時刻を確認することができた。


午後12時35分。日曜日、8月31日。


「まるで夏休みの最後の日だな――」


新士は独り言のコメントを言ったとたん、地面が波のように揺れた。


バランスを崩した新士は床に尻もちをついた。周りの車は左右に揺れて、互いにぶつかり合った。車のガラスが割れて、複数のアラームが同時に鳴りだす。


地震は激しく続き、新士は必死に起き上がろうとする。しかし、彼はバランスがうまく取れずに再び転ぶ。その時、右手に持っていた携帯が鳴り始めたけど、新士は全くそれに気づかなかった。


「(やばい!やばい!なんで急に地震が?!)」


ビルの床がうっすら傾き始めた。手元の地面にひびが入り、下の階が崩れていく震動を感じた。激しく揺れる天井にぶら下がっていた電気の明かりが一つずつ消えていき、周囲はだんだん暗くなっていく。それと逆に車のアラームの音はさらにとどろく。次々と車がぶつかり合い、ガシャンっと音を立てて辺りは混乱状態だった。


新士は何処どこにも逃げられずに、一番近くの柱にしがみついた。心臓の心拍数は一気に飛び上がり、呼吸しづらくなってきたことに気づいた。煙が目と口に入り、むせながら視界を失い、力ついた彼はとうとう柱を手放してしまった。


その時、床に大きな穴が開いた。何十階と続く深い穴だった。そして新士はその中に落ちてしまった。


「(僕は死ぬのか?)」


まるで時間が遅くなった感じがした。手を空中にゆっくりと伸ばす新士は閉じた目から涙を放つ。そしてぼやけた視界で天井を見ながら暗闇に沈んでいく。


しかし、その時、何者かが空中から銀色の手を刺し伸ばし、新士の腕をつかんだ。その者は新士を引っ張り上げて一気に飛び上がり、落ちて来る瓦礫をジェット機並みの速さでよけて、穴を無事に脱出した。


新士を抱えていた者は推進力を急に上から右へと変えて、駐車場を飛び回り始めた。何が起きていたのか理解する暇もなかった新士に、銀色の者が酸素マスクを口元につけられた。抵抗する力もなかった新士はおとなしくマスクを受け入れて呼吸をする。そしてゆっくりと目をこすり、視界がもとに戻ったところ、新士は銀色の人型ロボットに抱えられていたことに気づいた。


「(え?だれ?なんで……)」


そのロボットの背中と足にはジェット・エンジンがついていて、両手で新士の体を支えていた。そしてそのロボットの背中から伝わるチューブで新士のマスクに酸素を送っていた。


しかし、空中を飛びながら落ちて来る瓦礫を避けるたびに、左右に動く震動がひどく、新士は冷静に考える暇がなかった。建物の階をどんどん上がっていく銀色のロボットはようやく駐車場の最上階にたどり着いた。しかし、屋上への出口は瓦礫で塞がれていた。だが、ロボットはちっともスピードを落とさず、真っ直ぐ塞がれた出口に向かった。


「うわ!ぶつかる!」


新士は叫ぶ。


ロボットは無視して真っすぐ飛ぶ。


出口から10メートルほど離れた距離で、ロボットは背中から大きな銃を出してきた。そしてその銃の先が輝く夕日のような茜色に染まり、レーザー光線を打った。その威力で出口をふさいでいた瓦礫を完全に溶かしてしまい、抜け道を強引的に作った。


外に出た瞬間、新士は煙に追われて周りが見えなかった。だが、あっという間に煙を抜けて、空高く舞い上がった。パラシュートがなかったロボットが減速するにはただスピードが落ちるまで待つことしか出来なかった。その数分間、ロボットの背中と足のジェット・エンジンを完全に切っても、彼らは空を登っていく。


ようやく新士は、自分がいた場所を確認することができた。目を開けてみると、見えた風景は見知らぬ街だった。新士は下を向き、脱出してきた駐車場を見た。


「(13……14……15階建てか……)」


ほかには高いタワーが三つ近くにあり、様々な高層ビルが東の方にあった。新士は首を前に出して真下をみると、そこには玩具おもちゃの大きさほどの家がたくさん見えた。


新士は酸素マスクを外し、目を輝かせながら景色全体を眺めた。


「スッゲー……」


やっとスピードが落ちたところ、ロボットは再びジェット・エンジンを起動させて、新士を運びながら被害から反対方向へ向かった。ところが新士は後ろを向いた途端、奇妙なものに気づいた。遠くに何か大きな物が動いた。それは建物ではなく、ミニチュアセットによく飾られているウルOラマンの怪獣みたいなものだった。うっすらと見える緑色の皮膚ひふとギザギザした背中。怪獣は暴れて大きな尻尾を振り回し、辺りのビルを破壊はかいした。


「(か……怪獣?なんでそんなものがいるんだ?これ、夢なのか?それとも僕の目の錯覚?っていうか、あの怪獣の周りに飛んでいる物は何?)」

目を細くして見た新士は怪獣の周りにオレンジ色の光を放つハエみたいな何かを見かけた。その物はオレンジ色の光線を放ち、怪獣に当たった。怪獣は反応して、体を左右に揺らす。


「なんだ、あれ?あの……ロボットさん、あれは一体?」


新士は指をさして銀色のロボットに尋ねてみた。しかし、そのロボットは何も答えず、ただ飛び続けた。


「あ!ビルがまた一つ崩れた!」


ロボットは新士を無視して、目標を目指して飛び続けた。

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