第218話 魔闘会でショータイム!⑦


 ジャックからの報告によると、矢文を撃ち込んだ一時間後、リッキー家当主ジョン・リッキーはガブル家に駆け込んだそうだ。


 ボブのおやじはさぞ驚いたことだろう。

 ざまぁないな。


 ま、そんな個人の感情はさておき、矢文による宣戦布告による動きが今後出てくる。


 一番の狙いは、リッキー家が取り込んだ用心棒の動向だ。


 リッキー家は例年、用心棒の高得点者を選手登録する。

 その中に毎年選手登録しているにもかかわらず、一度も魔闘会に参加しない選手が二名おり、クラリスとジャックはその二名が闇取引の重要な場所を守っているのでは、と予想していた。


 密売の取引場所は足がつかないよう頻繁に変わるため、特定が難しい。

 現在、取引場所とおぼしき建物を二十五ヶ所まで絞り込み、サウザンド家とコバシガワ商会の人間が張り込みを続けている。


「魔闘会に選手登録している、『ヤギーク・ニレヴァーナ』と『カリオ・ウェーメン』ね……」


 俺がつぶやくと、クラリスとジャックがうなずいた。


「当主ジョン・リッキーとしては出さざるをえないでしょう。『焼肉レバニラ』と『カリカリ梅』はリッキー家の最大戦力と言ってよろしいかと」


 執事服をピシリと着ているジャックが、俺が名付けた二人のあだ名を神妙な面持ちで口にした。


 ヤギーク・ニレヴァーナが『焼肉レバニラ』で、

 カリオ・ウェーメンが『カリカリ梅』だ。


「さようでございます。『焼肉レバニラ』は定期試験902点。『カリカリ梅』は910点という記録が残っております。人物像に関しての情報は一切ございません」


 クラリスがジャックの言葉にかぶせるようにして言った。


 900点台ということは、母アメリアやジェラ冒険者アグナスの強さに匹敵する。

 しかもこの情報は古いため、現在どれほどの強さなのか分からない。

 あだ名は美味そうだが情報がなく不気味だ。


「この二名の顔さえ分かれば、リッキー家の裏取引場所は判明します」


 ジャックが慇懃に一礼した。

 白髪交じりの頭部が見え、元の位置に戻る。


「取引場所の予想地点は二十五ヶ所。そこに出入りしている人間は一ヶ月の調査で約千人。その内の誰かが『焼肉レバニラ』と『カリカリ梅』です」

「ジャックは出入りしている全員の顔を覚えているの?」

「さすがにそれは無理でございます。木魔法中級“精霊の追憶歌シルキーメモリー”を使える人間に逐一記憶させ、似顔絵を作っております」

「上位の木魔法って便利よね」

「補助系ならでは、でございます」

「いずれ木魔法も覚えようかしらね……。それで、作戦はうまくいきそうなの?」


 軽く首をひねると、エリィのツインテールがさらりと揺れた。

 今度はクラリスが口を開いた。


「お嬢様。古来より裏稼業者は重要拠点に強い人間を置きたがるものでございます。魔闘会に出る二人の顔が出入りしている人間の誰かと一致すればリッキー家の重要拠点が分かります」

「場所が絞り込めているなら、二十五ヶ所を同時に襲撃してはどう?」

「裏取引中でないと意味がございません。すべて表向きは健全な店やただの民家でございますので、通常営業中に襲撃してはこちらが犯罪者になってしまいます」

「そうよね。焦っても意味がない……か」

「また、同時襲撃は戦力が分散してしまい、失敗する恐れがございます。良策ではございません」

「二十五ヶ所の中から重要拠点を見つけて、そこに戦力を集結させ、裏取引の現場を押さえる。うん。やはりこの方法しかないようね」

「さようでございます。ですので、話は戻りますが『焼肉レバニラ』と『カリカリ梅』を見つけねばなりません」


 クラリスがにやりと笑った。

 オバハンメイドはあだ名がお気に入りのようだ。


 ちなみに、焼肉レバニラとカリカリ梅はグレイフナー王国に存在する食べ物だ。


 レバニラは双頭の動物で、牛に似ている。

 梅はウンメイボシという果実の漬物だ。


「これまでの情報によれば、二十五ヶ所すべてに出入りしている人間はおりません。せいぜい出入りして三ヶ所。どこを取引場所にしているのかは現段階で分かりません」


 美味そうなあだ名の二人を魔闘会にどうにか引きずり出し、似顔絵と照らし合わせ、出入りしている場所を特定しないと話が進まないようだな。


 これから魔闘会でさらに人が増える。

 王国側も警備で多大な人員を割かれるため、リッキー家は魔闘会開催期間中に何らかの取引を行うだろう。


 連中にとって魔闘会は絶好の取引チャンスといえる。


「エリィお嬢様がこの策を思いついた時点で敵は負けております。あとは我々におまかせくだされば、賊の取引現場を取り押さえます」


 ジャックが丁寧な口調で言った。


「わたくしもジャック殿の意見に同意いたします。お嬢様が『倍返し・10個賭け』を上位貴族に持ちかけ、受諾された時点でリッキー家は最大戦力を出さざるを得ない状況になっております。今頃、リッキー家当主のジョン・リッキーは胃に穴が開く思いをしていることでしょう」


 クラリスが物騒な笑みを浮かべて自分の腹を親指で差した。


 おっさん執事とオバハンメイドはこの状況がたまらなく楽しいらしいな。

 目配せをして、にやりと笑っている。


「魔闘会で『焼肉レバニラ』と『カリカリ梅』の面が割れ、密売の取引先が数個に絞られるのは必定。密売場所への襲撃準備はこちらで行いますので、お嬢様は安心して当日の準備を行ってください」

「ありがとう、ジャック」


 すでに炙り出しの作戦は半ばまで成った、と言っていいだろう。


 あとは魔闘会を待つだけだ。




      ◯




 魔闘会まであと三日。


 魔闘会の中日に開催するファッションショーの段取りをミラーズへ行って確認し、指示出しを終えて学校へと向かう。


「すごい人ね」


 首都グレイフナーには各国から観光客が訪れていた。

 ただでさえ多い人混みが倍加しており、露天販売や飾り付けでグレイフナー大通りは鍋に全人種をぶちこんでぐるぐるかき混ぜたみたいな大騒ぎになっている。


 馬車から見る窓外の景色が五分は変わっていない。

 警邏隊の交通整理が追いついておらず、王国第二騎士団も出動していた。


「エリィ、気づいてる…?」


 一緒に登校するべく馬車に乗り込んだアリアナが狐耳をぴくりを震わせた。


「ええ。視線を感じるわね」

「多分、エリィが狙われてる」


 魔力結晶入り麻袋叩きのおかげか、魔力循環と操作が上達し、他者の魔力を把握する能力も向上した。

 悪意のある視線を感じるのは気のせいではない。

 相手の魔力が微量ながら漏れ、悪意が含まれている。


「どうする?」


 アリアナが両目をぱちぱちと開閉して上目遣いで見てきた。


「そうね……」


 そう言いながら隣にいる彼女に近づき、狐耳を根本からすくい上げるようにしてもふもふと撫でる。


「ん…」

「ああ、落ち着くわね〜」

「エリィ…ちゃんと考えて」

「あら、ごめんなさい」


 アリアナから離れて、先程見ていた反対側の窓へと視線を走らせる。

 これだけの人混みだ。

 さすがに誰が尾行しているのかは分からない。


「少し痛い目に合わないと分からないみたいねぇ。学校の帰りにでも狙ってくるかもしれないわ」

「その前に殺っておこうか…?」

「さらりと怖いわよ、アリアナ」

「そのほうが手っ取り早い」

「放っておきましょう。大した使い手ではないみたいだし」

「そだね…」


 ガタンと音がして車内が揺れ、馬車がやっと動き出した。

 外を見れば王国第二騎士団が交通ルールを守らない者に身体強化で鉄拳を食らわせている。


 それでいいのかグレイフナー、と思ったが、その光景を見て人々が整然と歩き出した。殴り飛ばされた男の飛距離を別の男が計測して「二十八メートルッ!」と叫んでいる。


 すると掛け金らしき銀貨が周囲の店から飛び交った。

 交通整理すらも賭けにして楽しんでるよ……。

 この国、本当に物騒だな。


 尾行に気を使うのはやめ、代わりにアリアナの狐耳を撫でる作業に集中していると馬車が魔法学校に到着した。




     ◯




 アリアナと昇降口で別れ、四年生の教室に入った。

 始業まで十五分あるので席は半分ほど空いている。


「ごきげんよう、エリィさん」

「エリィちゃんおはよう!」


 赤毛ソバージュのジェニピーと、丸顔が可愛いハーベストちゃんが挨拶をしてくる。

 クラスでの何気ない挨拶。

 これこれ。俺とエリィはこれを求めていた。友達とはかくもすばらしきもんだな。


 席につくと、二人が両脇にきて机の上に雑誌『Eimy』を置いた。

 まだまだオシャレについて喋り足りないらしい。若い女子の好奇心はやはり男とは違う。


 挨拶を返して雑誌の内容について三人でおしゃべりをしていると、スカーレットの取巻き連中がわらわらと教室に入ってきた。

 四人はこちらを見ると、小さな声で「ごきげんよう」と挨拶をしてきたので、軽く返してやった。


 しばらくすると、取巻き連中の一人が意を決したようにこちらに近づいてきて、話しかけてきた。


「あの、エリィ……さん」


 彼女はスカーレットに平手打ちをされた背の高い女子生徒だ。

 表情は不安げに曇っている。


「今まで、その……申し訳ありませんでした……」


 がばりと頭が床につくぐらいの勢いで彼女が腰を折った。

 そのままの姿勢で彼女は言葉を続ける。


「あなたにひどいことをしてきて……ごめんなさい……」


 後ろにいた取り巻き連中の三人もこちらにやってきて、一斉に謝罪した。


「申し訳ありません」

「ごめんなさい」

「………ごめん」


 今さらではあったが、彼女達は真摯に自分たちの行動を受け止めてエリィに謝罪をしている。

 エリィならこう言われたらと許してしまうんだろうなぁって簡単に予想できた。

 だってな、また胸が熱くなってるもんな。


 きっと今頃、今まで受けてきた仕打ちやらいじめを思い出して、様々な思いや感情がエリィの中で渦巻いていることだろう。なにせ、彼女は二年間ものあいだ意味のない悪戯をされ続けてきたのだ。


 さて、ここで許してやるのは至極簡単だが、当然そんなことはしない。

 そんな些細な恥で許されるならば世の中の法律はすべて「被告人の罪状は、ごめんと謝る罰!」になっている。


「謝罪して頂いたことは嬉しいわ。でも、私はしばらくあなた達を許せない。ひょっとしたら、一生………かもしれない。今までのことが間違いだったと思うなら、これから卒業まで誰かのために何かしてほしいわ。そのことで他の誰かが救われるなら、私が蔑まれてきた意味が少しは見い出せる気がするから……」

「そう……ですか……」

「それと、あなた達はもう少し人を見る目を養ったほうがいいと思うわ。スカーレットは謝罪すらしていないからね」


 そこまで言うと、ジェニピーとハーベストちゃんが、俺を守るように盾になり、無言で四人に席へ戻れと視線を向けた。

 背の高い女子は頭を下げると、三人と一緒に自分たちが陣取っている教室の左側へと離れっていった。


「エリィさん、無理して強く言わなくてもいいんですわよ。そういう役目はわたくし、ジェニファー・ピーチャンの役目なんですから」

「そうだよエリィちゃん。私は何もできないけど、それくらいならできるよ」


 知らない間に目に涙が溜まっていたらしい。

 エリィの心は繊細だ。

 色々と思うところがあるんだろうな。

 俺の図太さを分けてやりたい。


「おい、エリィ・ゴールデン」


 扉をぞんざいに開け、音を鳴らして入ってきたボブが、突然声をかけてきた。

 彼の後ろには子分三人がくっついている。


「ずいぶんと幅を利かせてるみたいじゃねえか」


 ボブは机に広げた雑誌を一瞥し、ショートモヒカンの髪型を気にしながらじろじろとエリィの胸を見てくる。


 すぐに気持ちを切り替えて、ボブを睨んだ。


 おっぱい見られる女子の気持ちってこんなに不快なんだなぁ。

 つーかボブ郎よ。黄金率を奏でるエリィの顔と身体を視界に入れる資格は、おまえにはない。


「あら、あなたこそかなりお疲れみたいね。目の下に隈ができているわよ。まるで家が一大事になって眠れなかった、という顔をしているわね」

「な……」

「そろそろ魔闘会ですものね。貴族は、“どこの家”に“いくつ賭けて”指名するか頭を悩ませているものね」


 痛烈に皮肉ってやると、ボブは顔をしかめて眉間に皺を寄せた。


「……うるせえぞ! ゴールデン家の分際で!」

「朝から大きな声を出さないでくれる?」

「ドブスが生意気いってんじゃねえぞ」

「ブス……。ブス、ねえ……。じゃあなんで私を誘ってきたのかしら? 家に来いよって?」

「それは……」


 ボブは俺の顔を見て悔しそうに歯噛みした。

 ジェニピーとハーベストちゃんはエリィがブスと言われて不快感を露わにする。


「単なる俺の気まぐれだ! その意気がった口調もあと何日持つかなぁ?! ゴールデン家はリッキー家に負けるんだよ!」

「それは結構ね。わたしはゴールデン家の勝ちに全財産をベットするわ」

「はっ、今のうちに余裕ぶっこいてるがいい。なぁ!」


 ボブが子分三人を見やると、男子三人がげっへっへと卑屈な笑いで追従した。

 エリィが魔闘会に出場するとは露ほども考えていない笑みだ。


「おまえが泣いて許しを乞う姿が早くみたい。せいぜい意気がっているがいいさ」


 完全に三下悪党のセリフ。

 どうせ下校時にエリィを襲わせるんだろ。尾行はこいつの部下で決まりだ。


「一ついいかしら」

「なんだ?」


 ボブボブとうるさいボブ郎を呼び止め、にっこりとエリィスマイルを作った。


 それを見たボブは呆けた顔を作ってわずかながらに顔を赤くした。


「私、あなたのこと好きじゃないの。顔も声も性格も全然タイプじゃないの。だから、もう二度と話しかけてこないでね」


 エリィの補正がかかって最後まで言えないかと思ったが、言い切れた。

 彼女も少なからず同じ気持ちなのだろうか。


 可愛い女子生徒に完全否定されるという、思春期の男子生徒には人格破壊を引き起こす可能性すらある辛辣な言葉を受け、ボブは三秒ほど停止し、そのあと顔面をしわくちゃにして歯をむき出しに吠えた。


「てめぇっ!!!」


 自分が惹かれている相手に否定されるのは精神的にキツい。

 隣にいるジェニピーはボブが恥辱を受けてそれを誤魔化すために叫んだことに気づいて薄っすら笑い、ハーベストちゃんはよく分からず右往左往した。


 胸ぐらをつかもうと右手を伸ばすボブ。


 まさか手を出してくると思わなかったのか、ジェニピーとハーベストちゃんの顔が驚愕に染まる。


 ボブの子分も大げさに驚いた。


「……」


 全身に軽く身体強化をかけ、左手でボブの手を払う。

 か弱い女子が手を払い除けただけに見えるが、身体強化は“下の下”、大男の全力パンチほどの威力だ。


 ボブ郎の右腕が衝撃と反動で大きく時計周りに回転する。

 体勢が崩れて身体の軸がブレたのを見逃さず、机の下から右足を出してボブ郎の左脛を軽く払った。



「いぎっ」



 ボブは無様に右腕を振り回してすっ転び、びたんと教室の床に額をぶつけた。


 子分の三人、ジェニピー、ハーベストちゃんは何が起きたか分からずただ呆然とボブを見下ろし、転んだ本人であるボブは理解ができないのかゆっくりと顔を上げる。



「きゃあ! スカート覗かないでっ!」



 エリィが悲鳴を上げて両腕でスカートを押さえた。



 ふぁっ?!?!



 ちょっとエリィさん?!

 このタイミングでそれ気にしちゃう?!



 ちょうど登校時間が同じになったのか、エリィが叫んだタイミングで一斉に生徒達が教室に入ってきて、ボブと俺の織りなす光景を見て固まった。すでにクラスにいた女子生徒からは「やだ……」などの侮蔑の声が上がる。


 エリィの机の前で這いつくばって顔を上げているボブ。

 この場面だけ見れば完全に覗き魔的犯行にしか見えない。


 エリィよ。

 何だかんだおまえが一番精神ダメージを与えてるな……。


「ちがっ——これはこのブスが!」


 ボブは急いで起き上がり、抗議の声を上げた。

 しかし日頃の行いが悪いからか、クラスメイトはちらりとボブを見て、各々の席へと歩いていく。おおっぴらにボブを批難できないが、全員の顔には、またかよ、と書いてあった。


「エリィ・ゴールデンッッ!!!」


 ボブが感情をむき出しにして杖を引き抜こうとローブをはね上げた。

 そのときだった。


「こらこら、何をしているんだね」


 ハゲ神ことハルシューゲ先生が教室に入ってきた。

 先生はボブが杖を俺に向けている光景を見て、片眉を上げた。


「まさかボブ君は杖を抜いて魔法をクラスメイトに撃とうとしているわけではない……ね」

「……まさか。そんなわけありません」

「それならよろしい。さ、みんな早く席につきなさい。魔闘会で浮かれている君達の浮ついた気持ちを引き締めるとしよう」


 パンパンと両手を鳴らして先生が笑顔で声をかけると、固まって話していたクラスメイトらが席へつく。ジェニピーとハーベストちゃんも自席へと戻り、ボブと子分三人も渋々席へとついた。


「クソが……」


 ボブは吐き捨ててこちらを睨み、右後ろの席へと向かう。

 あの男ほど下品で品性に欠ける男もそうそういないだろう。


 ほどなくして授業が開始された。





      ☆





 ボブ・リッキーは昼休みに弱そうな下級生の男子生徒をつかまえ、袋叩きにした。


 ぼろぼろになった男子生徒を見てお情けに“治癒ヒール”をかけてやり、子分三人に適当な昼飯を買いにいかせる。


 人を殴っていくぶん気持ちがスッキリしたが、エリィに言われた言葉を思い出し、煮えたぎる感情が再度噴出した。


「あの女……完全にナメてやがる」


 ボブは一年生から二年生の終わりにかけてエリィをいじめてきた記憶などすっかり忘れているのか、あたかも自分自身が被害者のような口ぶりでつぶやいた。


「今日、ぜってーに捕まえてやる」


 今、彼がいる場所はグレイフナー魔法学校の隅にある魔法陣研究所倉庫裏だ。

 昼休みは人影がまったくなく、食堂に比べると周囲は静まり返っている。


 ボブはホイッスル型の魔道具“呼び笛”を口にあて、呪文を唱えて勢いよく吹いた。超高音が薄く鳴り響くと、小柄な男とズボンのみを穿いた男が倉庫の屋根から音もなく下りてきた。


 小柄な男は全身を黒装束で覆っており、特徴がない。


 ズボンのみで上半身裸の男は腕が地面につきそうなほど長く、目と鼻が異様なほどに大きい。


 二人はボブを見ると、何の用だと不躾な視線をぶつけた。


「今日の放課後だ」


 ボブはそれだけいって踵を返した。



 黒装束の男はリッキー家が飼っている毒使い。



 そしてもう一人は——




——ヤギーク・ニレヴァーナ




『焼肉レバニラ』と小橋川が命名した獰猛な男であった。



 毒使いと焼肉レバニラはゆっくりとうなずいて跳び上がり、学校から姿を消した。


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